報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「帰りの旅」

2016-11-14 20:35:04 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[11月5日07:00.天候:晴 埼玉県さいたま市 稲生家]

 イリーナ:「そう。2人ともそんな夢を見たのね」

 起床して朝食を取っている間、稲生とマリアは夢の内容を報告した。

 稲生:「先生は見なかったんですか?」
 イリーナ:「いや、私は見てないねぇ……」
 マリア:「“魔の者”からのメッセージか何かでしょうか?」
 イリーナ:「まだ分からないわ。ただ、2人とも似たような夢を見たってことで、ただの偶然で片付けられるものでもないわね」
 稲生:「ですよねぇ……」

 稲生はズズズと味噌汁を啜った。
 マリアの屋敷ではどうしても食事は洋食になりがちなので(食事を作るメイド人形達がイリーナやマリアの好みに合わせる為。稲生専属メイド人形と化したダニエラが唯一、夜食にお握りを作ってくれるくらい)、こういう時に日本食を食べる稲生だった。

 イリーナ:「ところで2人とも、今日は今朝ここで初めて会ったのに、どうして同じ夢を見たって知ってるの?」
 稲生:「ええっ!?」
 マリア:「!!!(しまった!ヤブヘビ……!)」
 イリーナ:「今の話だと、2人で廃屋を探索したっていう感じには聞こえなかったけどォ……」
 稲生:「え、えっとぉ……」
 マリア:「…………」
 イリーナ:「マリア、あなたがお姉さんなんだから、あなたが答えなさい」
 マリア:「は、はい。実は……」

 マリアは仕方なく、昨夜の出来事を話した。
 齢1000年強の大魔道師に、ヘタな誤魔化しは聞かない。
 マリアは正直に話した。

 イリーナ:「(・_・D フムフム。それでシャワーの後は稲生君の部屋に同衾したわけか」
 稲生:「し、してません!」
 マリア:「閲覧者が誤解するからやめてください!」
 イリーナ:「なーんだ。つまんないの。そのままベッドインすれば良かったのに……。ほら、日本の諺で『旅の恥は掻き捨て』って言うでしょお?」
 稲生:「せ、先生、多分それ、意味違うと思います」
 イリーナ:「そーお?」
 マリア:「師匠、そこは指導者として、私達を咎めるべきじゃ?」
 イリーナ:「えっ、何で?ダンテ一門の綱領を忘れたの?『仲良きことは美しき哉』『君は君、我は我なり。されど仲良き』でしょ?」
 稲生:(きっと大師匠様、武者小路実篤とも親交があったんだろうなぁ……)
 マリア:「それに、避妊具も無いのに、その……ソレはマズいですよ」
 稲生:「そう、それ!僕達はちゃんと弟子の本分として、節度ある行動を……」

 するとイリーナ、椅子に掛けてあるローブの中からある物を取り出した。

 イリーナ:「取りい出したるコンドーム」
 マリア:「あるんかい!」
 稲生:「あったんですかい!」
 イリーナ:「ゴメーン。渡すの忘れてたお♪」
 稲生:「渡す気あったんですか……」
 マリア:(てか絶対、今どこかから魔法で持ってきただろ。ったく……!)

[同日08:15.天候:曇 JR大宮駅]

 大宮駅西口のタクシー乗り場に、1台のタクシーが到着する。

 運転手:「はい、ありがとうございます。ちょうど1000円です」
 稲生:「おー、本当にちょうどだ」

 稲生は財布から1000円札を取り出した。
 これは今朝、家を出る時に母親からもらったもの。
 元はと言えば父親の宗一郎が、これで駅までタクシーに乗って行けと置いて行ったものである。
 その宗一郎は会社役員よろしく、早朝から他の役員と共にゴルフに行ってしまっている。
 イリーナの占いで、今日ゴルフに行くと良いことがあるらしい。
 助手席に座っていた稲生は、すぐに1000円札を渡した。
 あとはトランクに積んでいる荷物を降ろすだけである。

 イリーナ:「荷物運び、大変だね。少し、送った方が良かったかねぇ……」
 稲生:「いえ、弟子として当然です」
 イリーナ:「まあ、頼もしい……」

 稲生はキャリーケースをゴロゴロと引いた。

 稲生:(それにしても、先生の荷物の中って何なんだろう?)

 そう思ったが、それは詮索しないのもまた弟子の本分である。
 おおかた、着替えなどの旅行道具の他、魔道書や魔法具などが入っていることは想像できたが……。

 タクシー乗り場のすぐ前にはエレベーターやエスカレーターがある。
 稲生は慣れた感じで、エスカレーターに乗り込んだ。
 ついついそのまま改札口へ行ってしまう勢いだったが、

 マリア:「勇太、チケットは?」
 稲生:「おっと!失礼しました!」

 乗車券はこの大宮駅からとなっている。
 思わずSuicaで乗ろうとした稲生だった。

 稲生:「新宿まで埼京線で行きます。大宮始発なので、確実に座れます」
 イリーナ:「それはありがたいね。日本の電車は安心して寝れるからねぇ」
 マリア:「勇太、池袋駅を出たらすぐに師匠を起こすんだよ?」
 稲生:「もちろんです」

 新宿止まりの電車なら、折り返しでしばらく停車するので、イリーナを起こすのに手こずっても降り遅れの心配は無い。
 改札口を通ると、再び下りエスカレーターで地下ホームを目指す。

〔まもなく19番線に、当駅止まりの電車が参ります。危ないですから、黄色い線までお下がりください。この電車は折り返し、8時29分発、各駅停車、新宿行きとなります〕

 まるで地下鉄のように轟音と強風を起こして、電車がゆっくりと入線してきた。
 緑色の帯がよく目立つE233系である。

〔おおみや、大宮。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました。お忘れ物の無いよう、ご注意ください〕

 3打点チャイムのドアが開くと、ここまで乗って来た乗客達がぞろぞろ降りてくる。

 稲生:「よいしょっと」

 稲生達は先頭車に乗り込んだ。
 平日の朝方は女性専用車となる車両だが、土曜日のこの日は対象外である。
 稲生は進行方向左側の座席横にキャリーバッグを置いた。

 稲生:「じゃあ、先生はここに」
 イリーナ:「悪いねぇ。じゃ、着いたらまた起こしてもらおうかねぇ……」

 イリーナはそう言うと、白い仕切り板にもたれ掛ってローブのフードを被った。

 マリア:「池袋駅の時点で私が起こす」
 稲生:「お願いします」

 イリーナの隣にマリアが座っているので。

〔この電車は埼京線、各駅停車、新宿行きです〕
〔This is the Saikyo line train for Shinjyuku.〕

 マリアは赤い縁の眼鏡を掛けると、自分のバッグの中から魔道書を取り出した。
 魔道書に文庫本サイズのものは無く、小さくてもA4サイズである。

 マリア:「乗り換えは1回だけなんでしょ?そこは上手く考えたって感じ?」
 稲生:「いや、大したこと無いですよ。やっぱり、アルカディアメトロよりは乗りやすいんで」

 このE233系も、いずれは魔界高速電鉄の線路の上を走ることになるのだろうか。
コメント
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