報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Cindy” 「忌日」

2016-11-27 22:51:08 | アンドロイドマスターシリーズ
[11月23日11:00.天候:曇 宮城県仙台市青葉区・葛岡霊園]

 南里の墓石に手を合わせる敷島達。

 シンディ:「プロフェッサー南里、7年前は大変申し訳ありませんでした。……ウィリアム博士の命令とはいえ、許されないことをしてしまったと……反省しています」
 敷島:「所長、産業スパイやっててすいませんでした。しっかり天罰は受けましたんで、何卒どうか1つ……化けて出てこないでください」
 エミリー:「御遺言に・背き・未だに・稼働して・います。大変・申し訳・ございません」
 アリス:「じー様がとんでもないことしちゃって、ごめんなさい。でも、じー様の方が壮絶な死だったのよ」
 平賀:「…………。(自分以外、何かしら南里先生に負い目のある連中ばっかりか!)」
 二海:「1分経過しました。黙祷を終了します」

 二海は敷島夫妻に息子が誕生したお祝いにと、平賀から送られたメイドロイドで、今回はトニーも連れて来た為、一緒に来ている。

 平賀:「皆さん、しっかり反省してくださいね!」
 シンディ:「はい」
 敷島:「すいません」
 アリス:「アタシが1番関係無いんだからね、本当は」
 エミリー:「……私、自爆して反省します。御命令ください」

 エミリー、舌を出して言った。
 ロイドの舌は、噛み千切れば自爆装置の作動に繋がる。

 平賀:「お前はいい!」
 敷島:「そうだよ。考えようによっては、今のお前は遺言チャラかもしれんよ?」
 エミリー:「チャラ?」
 敷島:「そうだ。いいか?所長が亡くなった時、お前は前期型だったんだぞ?それはつまり、所長が造ったボディだ。しかし今のお前は後期型。そのボディを誰が造ったか、忘れたわけじゃないだろう?」
 エミリー:「プロフェッサー平賀・です」
 敷島:「つまり名実共に、今のお前のマスターは平賀先生でいいの。その先生がお前に対して、元気に稼働しろって命令出してるんだから、それでいいじゃないか」
 平賀:「なるほど。エミリーに対する遺言は、前期型のエミリーに対してであって、後期型の今ではないと仰るのですね?」
 敷島:「そうです。きっと所長は、平賀先生がご自分で後期型のエミリーを造ることを想定していたのかもしれませんね」
 平賀:「でも今のエミリーをご覧になって、南里先生は何と仰るかどうか……?」
 敷島:「『さすがは平賀君!ワシが見込んだ通りの男じゃ!エミリーが造れるようになるとはあっぱれ!これでもうワシが教えることは何も無い!』と、手を叩いて喜んでくれますよ」
 平賀:「敷島さんの所には夢枕に立つんですよね?自分の所には全く来てくれないんです」
 敷島:「や、やっぱし、産業スパイやってたこと、恨まれてるかなぁ……?平賀先生は、それだけ所長に信用されてるってことですよ」
 アリス:「じー様の責任、孫のアタシが取れって言うの?……いや、まあ、立場上の責任を取るに吝かではないけどさぁ……」
 平賀:「敷島さん、もし今度、南里先生が夢枕に立ったら、『平賀の所にも来てください』と頼んでくださいよ。自分、まだ先生に教わりたいことがあるんです」
 敷島:「分かりましたよ。今や、『若き天才科学者』『ロボット工学の権威』『南里志郎博士唯一の直弟子』の名を欲しいままにする平賀先生なら、もう逆に教える側じゃないですか」
 平賀:「自分はまだ足りないんですよ。まだね……」
 敷島:「平賀先生が研究・開発したメイドロイドが量産化されるなど、成功しているのにまだ足りないんですか」
 平賀:「そうなんです」

 アリスは二海に預けていた息子のトニーを受け取った。

 アリス:「とにかく、そろそろ帰りましょう。トニーがお腹空かせてるわよ」
 敷島:「ああ。ちょっと車取ってくるよ」

 敷島が駐車場の方に行く。

 シンディ:「今日は奈津子博士とお子様方は来られなかったんですか?」
 平賀:「幼稚園でやってる芋煮会のイベントに出てる」
 シンディ:「芋煮会!?ヘタしたら、今日雪が降るかもしれませんのに……」
 平賀:「今年最後の芋煮会になるだろうさ」

 宮城県では11月初旬がピークで、初雪が降る頃に終了するのがベタな芋煮会シーズンの法則だ。
 敷島はレンタカーでワンボックスカーを借りており、これを持ってきた。

 敷島:「それじゃ、行きましょう」

 敷島が運転しているので、助手席にはアリスが乗った。

 二海:「マスター、トニー様をお預かりします」
 アリス:「よろしくね」
 シンディ:「お坊ちゃま、よく寝ておられますわ」
 平賀:「寝る子は育つと言うからな。静かにしておいてやれ」
 二海:「かしこまりました」
 シンディ:「……?」

 シンディは二海の隣に座っているのだが、二海の横顔を見て何かに気づいた。

 シンディ:「あんた、ヘッドセットにアンテナって付いてなかったっけ?」
 二海:「付いてますよ?」
 シンディ:「あの偽メイドは、アンテナが付いていなかった……」
 平賀:「量産型はアンテナは付いてないぞ。二海みたいな試作機と量産先行機は付いているけど」
 シンディ:「そうですか……」
 敷島:「お前が見たっていうメイドロイドらしき者のことか?」
 シンディ:「アンテナが無かったので、量産機だと思ったんです。そしたら、違う反応が出たもので……」
 敷島:「マルチタイプによく似たヤツか……」
 平賀:「今のところ何も起きてないからな。鷲田警視からも何も連絡は無いし、いいんじゃないか。まだ様子見で」
 敷島:「まあ、そうですね」

 敷島は車を市街地に向けて走らせた。
 ラジオから流れてくる天気予報は、もしかしたら仙台でも今夜雪になるかもしれないということだ。
 それほどまでに、今は寒いのだ。
 もっとも、暑さに弱く、寒さに強いロイド達には良い気候であるが。

 敷島:(シンディの話が本当だとして、どうも周りで嫌なことが起きそうだな……)

 ハンドルを握りながらそう考えつつ、

 敷島:「平賀先生、今夜一杯行きますか?」

 という楽しみも忘れていない敷島だった。
コメント (2)
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