報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「魔界の不思議な旅 〜サウスエンド地区(南端村)〜」 4

2016-11-01 21:05:03 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[10月24日07:00.天候:晴 サウスエンド地区(南端村)・白麗神社]

 稲生:「う……」

 稲生は訳の分からない夢を見て目が覚めた。
 枕が変わると抵抗無く起きられるとはいうものの、そもそもの就寝時間が【お察しください】。
 稲生は起き上がると、顔を洗う為に洗面所に向かった。

 バシャバシャとお湯で顔を洗っていると、外から妖気が漂ってくるのが分かった。
 窓から外を見ると、裏庭で上半身裸の坂吹が木刀で素振りをしていた。
 強くなりたいという思いは真剣であるようだ。
 実は変な夢を見たというのは、威吹と坂吹が捕食者の目で稲生を見ていたというものだ。

 稲生:「まあ、気のせいだろう……」

 稲生は顔を洗ったり、歯を磨いたりした後で着替えると、威吹達の所へ向かった。

 威吹:「ああ、ユタ。おはよう。もう少し寝てても良かったのに……」
 稲生:「いや、そんな、厚かましいことはね……」
 威吹:「昨夜は悪かったねぇ。坂吹のヤツ、夜中過ぎまでキミに昔話をねだってたんだって?後で言っておくからね」
 稲生:「いや、いいよ。何だか楽しそうだったし」
 威吹:「因みにボクのことは、どれだけ話した?」
 稲生:「大丈夫。恥ずかしい話は黙ってておいたから」
 威吹:「そ、そうか。まあ、失敗談くらいならいいんだけど……」
 稲生:「目を輝かせてるだけでなくて、尻尾まで振ってたからね」
 威吹:「そうかい」

 妖狐には妖力に応じて複数の尻尾が生えている。
 但しそれは通常、人間の目には見えない。
 稲生でさえ、透明の尻尾が生えているくらいにしか見えない。
 威吹も坂吹も袴をはいているが、別に尻尾を通す為の穴が開いているということは無い。
 尻尾の存在そのものが、妖狐の妖力の強さを誇示する為のものであるだけに。
 九尾の狐という伝説があるが、それは今は魔界にいて、アルカディア王国の外にいるという。
 というか、稲生的には妖狐の里の統治者ではないかと思っている。
 威吹も坂吹も否定はしないし、肯定もしない。
 ダンテの化身で妖狐の若者に化けていたカンジは、『統治者ではありませんが、大きな影響力は持っています』と言っていた。

 稲生:「むしろ坂吹君の方が、妖狐の秘密を喋っちゃったみたいで、大丈夫かなと思ったよ」
 威吹:「秘密だって?どんなことを喋ったんだ、あいつ?」
 稲生:「天海僧正の元へ駆け付けようとしたお医者さんの箱根越えを手伝ったのが、威吹の身内じゃないかって噂があるってこと」
 威吹:「里の者達はそんなことを話しているのか……」
 稲生:「威吹は何か知ってるの?」
 威吹:「……何も知らない。オレには身内などいない……」

 威吹は独り言のような答え方をしたが、それが却って疑いを持たせてしまった。

 稲生:「僕が本当に天海僧正の生まれ変わりなのかは知らないけど、こうして妖狐と関わっているんだから、何となく運命だよね」
 威吹:「そうだな。ま、坂吹の相手をしてくれてありがとう。ボクは身重のさくらの面倒を見なきゃいけないから、あいつの修行を見てやるヒマが無くてね。元々弟子を取るつもりすら無かったんだが……」
 稲生:「でも、受け入れたんだね」
 威吹:「里長(さとおさ)の推薦状付きとあればね。里を追い出された身としては、何を今さらこの野郎って感じで突っぱねても良かったんだけど……」

 威吹はそこで息を吐いた。

 威吹:「坂吹を見ていると、何だか大昔の自分と重なってね、何だか他人とは思えないんだよ」
 稲生:「坂吹君も人喰いをするの?」
 威吹:「まだ本物の人間の肉を喰らったことは無いだろう。坂吹に限らず、最近の若い者は人食をしたことが無いらしい。だが妖狐として、人喰いの衝動に駆られることはあるはずだ。ボクもそうして、人間の血肉の味を覚えたんだよ」

 一瞬、威吹の目が捕食者の目のようになった。

 威吹:「もっとも、人肉を喰らわなくても生きることはできる。そこは魔王と違う」

 吸血鬼はある程度の量の人の生き血を啜らないと、永遠の命が保てないとされる。
 ルーシーの場合は1日に200〜400ml。
 なので、人間の国民の中から献血者を募るだけで良い。
 税制優遇や地域振興券交付などの特典を付けて。

 威吹:「体の構造が違うんだと思うね。でも、手っ取り早く強い妖力を付けるには、やっぱり霊力の強い人間の血肉を喰らうことではあるんだけど……」
 稲生:「なるほど……」
 坂吹:「おはようございます。先生、稲生さん。食事の用意ができましたので……」
 威吹:「おい、待て!今、何と言った!?」
 坂吹:「えっ!?」

 坂吹、威吹の言葉にビクッとなる。

 威吹:「お前こそ、ユタを『稲生さん』などと馴れ馴れしい!」
 稲生:「あ、いや、威吹!昨夜、僕がそれで呼んでくれと言ったんだ。どうも様付けで呼ばれることに、違和感があって……」
 威吹:「ふむ……。しかし、ユタを『先生』と呼ぶのもまた不適切かな?」
 稲生:「そうだねぇ……。僕だってまだ見習の身だし……。様付けで呼ばれるほど偉いわけではないと思っているよ」
 さくら:「あらまあ……。坂吹君からして見れば、稲生さんも威吹と同等の格で、十分偉い方であると思いますよ」
 坂吹:「そうです!」
 威吹:「では『ユタ様』とお呼びしろ。それでいいかい?」
 稲生:「う、うん……」
 さくら:「じゃあ、こちらへどうぞ」

 稲生達は隣の部屋に移動した。
 来客用なのか、それとも普段からなのか、旅館のような御膳式の朝食である。

 稲生:「ところで威吹」
 威吹:「何だい?」
 稲生:「どうして僕のことを『ユタ』と呼ぶの?」
 威吹:「はははは!どうしてそんなこと聞くんだい?」
 稲生:「いや、理由を聞いていなかったような気がするからさ」

 威吹の笑みが一瞬消えて無表情になったかと思うと、また笑顔になる。

 威吹:「キミの下の名前を縮めて呼んでいるだけさ。もしかして、ずっと嫌だったかい?」
 稲生:「いや、そんなことは無いけど……」

 しかし稲生は、威吹が一瞬見せた顔を見逃さなかった。

 稲生:(多分、威吹はこれ以上聞いても教えてくれないだろう。坂吹君も本当に何も知らないみたいだし。イリーナ先生辺りなら意外と知っていたりして)

 稲生はそう思って膳の上に乗っているお椀を手に取ると、油揚げの味噌汁を口にした。
 妖狐の住む神社なだけに、朝食は油揚げを使用したものが多かった。
 名前からしてとても稲荷神社には見えないが、意外と村人達からは稲荷参拝の時にそうするように、油揚げの奉納が多々あるのかもしれない。
 日本人村なだけに、ちゃんと豆腐屋も存在しているからだ。

 稲生:(朝食を御馳走になったら、魔王城へ戻ろう)

 朝食は至って普通の和食で、鮭の切り身もあった。
 だが、少し辛味があるところをみると、もしかしたら魔界に生息する鮭とよく似た別の魚なのかもしれない。
 魔界に生息する魚は毒を持った物が多いと聞くが、毒抜きをしたり、上手いこと交配させて毒の無い種類の魚を作り出し、それを養殖する産業も出ているとのことである。
コメント (2)
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