ノベラーエクスプレス関東

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“大魔道師の弟子” 「稲生家の夜」

2016-11-12 21:24:28 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[11月4日20:00.天候:晴 埼玉県さいたま市 稲生家]

 稲生宗一郎の役員車とタクシーが1台、稲生家の前に止まる。

 イリーナ:「どうも、今日は御馳走様でした」
 宗一郎:「ご満足頂けて、光栄です。あと、占いの方もありがとうございます」
 イリーナ:「あくまで確率の問題ですので、過信されませんことを」
 宗一郎:「先生の占いはほぼ100%当たると伺っております。そんな先生にうちの息子が弟子入りするなんて、鼻が高いです」
 イリーナ:「勇太君は多大な素質があります。是非私の所で、何年も修行を重ねればその素質は開花しますわ」

 イリーナはあえて、魔道師とは言わなかった。
 世界各国の要人の行く末を占うイリーナであるが、それはほんの副業に過ぎない。
 魔道師を魔女とイコールで括ってしまう国もある為、表向きは占い師ということにしているのだ。

 イリーナ:「この調子で行けば、専務は新たに設立される関連会社を任されるという結果が出ています。先ほど私が占った内容、そこで申し上げた注意点などを是非とも心肝に染めてください。そうすれば、上手くいきます」
 宗一郎:「はい。しかと肝に銘じます」

 稲生達は家の中に入った。

 宗一郎:「勇太、すぐにお風呂を沸かしなさい。先生方に入ってもらうんだ」
 稲生:「分かったよ」

 といっても、ボタン1つ押せばお湯が出てきて勝手に湯張りをしてくれるのだが。

 稲生:「温泉の素も入れておくか」

 それからしばらくして……。

 稲生:「先生、マリアさん。お風呂の準備ができましたので、どうぞ」
 イリーナ:「ああ、すまないねぇ……。ほら、マリア。行くよ」
 マリア:「はい……」
 稲生:「マリアさん、大丈夫ですか?」
 イリーナ:「大丈夫さ。久しぶりの会食で、ついつい酒を飲み過ぎただけだよね?」
 マリア:「はい……」

 マリアは顔を赤くしており、それだけでなく、白人として肌が元々白かったせいか、服から覗く手足も赤くなっていた。
 その点、イリーナは見た目には酔っていないようだった。
 マリアはイリーナに支えられながら、浴室に向かった。

 稲生:「大丈夫かな……?」

[同日21:00.天候:晴 稲生家]

 マリアは体を洗って温泉の素の入った風呂に浸かると、すぐに上がって客間に向かった。
 酔いが回って、ゆっくり浸かるほどではなかったらしい。
 家でいつも着ているワンピース型の夜着は裾が短い為に、さすがにこの時期は寒い。
 バスローブの方がまだ温かいと見え、そちらに着替えて、来客用のベッドに潜り込んでしまった。
 折り畳み式のものと空気を入れて膨らませるマットレスタイプと、カウチソファタイプがある。
 マリアは折り畳み式のベッドに入った。
 イリーナは寝る前に、ダイニングで稲生の両親と面談している。

 イリーナ:「本当に勇太君は真面目に修行に取り組んでおりまして、とても有望なコですよ」
 宗一郎:「そうですか。その……噂で聞いたのですが、危険な目に遭うこともあるということですが……」
 イリーナ:「確かに、私達の活動を快く思わない者がいるのは事実です。特に、キリスト系とかイスラム系ですね。どうしても恰好や活動内容などで、『魔女』と誤解される節がありますので、嫌がらせとかはありますよ」

 と答えたイリーナは心の中で、

 イリーナ:(ま、悪魔と契約して魔法使ったりしてるから当たり前っちゃあ当たり前だけど……)

 と、自嘲気味に笑った。

 イリーナ:「でもそこは、師匠の私が責任を持って守りますので、御心配なさらず」
 宗一郎:「そうですか。勇太は他の占い師さんとは仲良くやれてますか?」
 イリーナ:「それはもっと御心配要りませんわ。私達の組織、男女比率が偏っていまして、女が多い所なんですけど、どうしても女同士のイザコザというのがあったりするんですが、実は結構勇太君がそれを取り成してくれたりするんです」
 母親:「へえ……あのコがねぇ……」
 イリーナ:「本当ですわよ。実際にダンテ門流の創始者より、感状が出ているくらいなんです」
 宗一郎:「それは凄い!」
 母親:「あ、あの……私も占って頂きたいのですが……」
 イリーナ:「よろしいことですわ。お母様には……タロットを使いましょう」

 イリーナはタロットカードを取り出した。

 イリーナ:「勇太君は私の1番弟子のマリアのことが好きみたいです。そしてマリアも、人生で初めて優しくしてくれた勇太君が好きみたいですわ」
 宗一郎:「すいません、修行中だというのに、そんなことで……」
 イリーナ:「いいえ。ダンテ門流は門内での恋愛・結婚は自由となっておりますし、私も禁止するつもりは毛頭ありませんので。……はい、タロットの用意ができました。では、何から占いましょうか?」
 母親:「そうですねぇ……。それでは……」

 いつもは頼りげなく寝てばっかりいるイリーナも、ちゃんと対外的なことはやる。
 つまり、ポイントはちゃんと押さえているということだ。
 人材の育成も師範クラスの仕事のうちなれど、その人材の提供元に対するフォローもまた師範クラスの腕の見せ所とされている。
 アナスタシアはかなり盛大にやるそうだが、果たして何をどう盛大にやるのかは【お察しください】。
 多くの師範クラスの魔道師はそれを面倒臭がって、エレーナのようなストリートチルドレンや、マリアのように勘当同然の者を勧誘することが多いという。
 実家も両親も共に健在だという魔道師は、ダンテ一門ではかなり珍しい。

 イリーナ:「……というわけで、今度は……に気をつければ、大概のことは上手く行くと出ておりますわ」
 母親:「ありがとうございます」
 イリーナ:「それでは私も、そろそろ休ませて頂きますね」

 イリーナは椅子から立ち上がって、先にマリアが寝ている客間に向かった。

 イリーナ:(他愛も無いことよ……)

 イリーナが客間に入ると、マリアは入口を背にして眠っていた。

 イリーナ:「さて、と……」

 イリーナはマリアの隣の、エアで膨らませたマットレスの上に敷いた布団に潜り込んだ。

 マリア:「師匠、勇太の御両親と交渉したんですか……?」
 イリーナ:「マリア、起きてたの?」
 マリア:「師匠の体から、魔力が漏れています。それで目が覚めました。また占いをしたんですね?」
 イリーナ:「実際に魔法ではなく、占いで簡単に交渉できちゃうんだから、勇太君の御両親は素直でいいね」
 マリア:「……ロシア人は腹が黒い。師匠もアナスタシア師もアンナも……」
 イリーナ:「あなたの残虐性には負けるわよ。さ、もう寝るよ。アタシも疲れたしね」

 稲生家の夜は更けて行く。
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