相性

　確定申告が佳境に差し掛かった。

　このシーズン、一年に一回しか会わないお客様が多い。

　お客様の業種・業態・年齢・性別・性格は様々だ。

　遠隔地にある不動産物件について、福山の自宅の電気代や固定資産税の一部を必要経費だと
　
　主張するお爺さんがいる。

　「その賃貸収入について、そうした経費は直接必要な経費とは言えないでしょう」

　と言うと

　「以前、税務署では認めてもらえた」

　と言われるので

　「それなら税務署で申告しなさい」と言い返しそうになった。

　もし、これが妙齢の未亡人とかなら

　「この経費も入れてあげましょう。えーい、大サービスじゃ。

　これもいいや、持ってけドロボー」ってな応対をするんじゃけどな。

　

　

無料相談

　税理士は確定申告の時期、無料相談の当番がある。

　昔は今と違って電子申告ではなかったので、すべて手書きだった。

　無料相談に来た納税者に書き方を教えたり、場合によっては代筆する。

　尾道にいた頃は5人の税理士で担当していた。

　5人が長机に並んで、順番にこなしていく。

　面前に納税者が並んでいて、次の人はこの人だというのが分かるようになっていた。

　だいたい年金や農業の爺さん婆さんが多く、たまに若い女性がいた。

　その女性がワシのところに来るための方法に頭を巡らせる。

　この爺さんをワシがこなしたあと、次の婆さんは隣の税理士、

　あの兄ちゃんは隣の隣の税理士。

　爺さんをゆっくりたいらげたら、女性がワシのところに来る。

　こんなことを考えながら対応していると、思いのほか隣の税理士が

　早い対応をして順番がずれる。

　で、結局、婆さんの相手をするようになる。

　なんてこった。

　一日中、こんなことを考えながら仕事をしているわけだ。
　
　税理士って固いイメージだが、中身はみんなエロ親父なのだ。
　

壁

　「乗り越えられない壁はない」

　白血病を告白した池江選手の言葉だ。


　「私は負けません。力いっぱい戦って必ず戻ってきます」

　舌癌を告白した堀ちえみさんの言葉だ。


　いずれも、このままあきらめるわけにはいかない理由がある。

　大きな目標や夢、生きたいと思う家族の存在だ。

　「もういいかな」と思うのと「まだまだ頑張る」の違いは大きい。

　
　人生を60年以上生きた、ある税理士が若人に贈る言葉を披露しよう。

　「君たちの人生には、あちこちにいくつもの壁が待っているだろう。

　その時は、壁のない道を行け。乗り越えたってしんどいだけだ」。

　

ハンコ

日本はまだまだハンコの文化だ。

会社では、ハンコの押し方にも礼儀があるという。

社長、専務、常務、部長、課長、係長と、上の役職から押印する決済文書があるとする。

一番左の社長のハンコに向けて、お辞儀しているように、専務から少しずつ角度を傾けて

押印するのがお約束だというのだ。

ほんまかいな。

うちではハンコを押すような決済文書はない。

便宜上、一番役職が上だと思われるのが、所長の私だ。

しかし、何かしてもらう時、すごく気を使って頼まなければならない。

「えー！ 私がするんすか？」

「無理！」

というリアクションが来ないよう、出来るだけ機嫌がいい時を見計らって

「あのう、コレお願いしてもいいかなぁ」と頼む。

コレはもう職人技と言ってもいい。

間違い電話

　私に「間違い電話」という言葉はない。

　何故なら、たとえ間違って電話しても、はじめから用件があったように、

　何とか話をつなげるからだ。

　これはもう「特技」とも言ってよい。

　藤井さんと間違えて、髙橋さんにかけても「藤井さんですよね」と念押しし
　
　「いつから髙橋さんになりました?」と訳の分からないことを言い

　挙句の果ては「なんで藤井さんにかけたのに、出間違えて、髙橋さんが出るの」

　と言いたいのだが、さすがにこればかりは素直に謝る。