【前回の続きです。】
人気のお菓子屋さん、『タンテ・アニー』のイメージカラーは、濃い緑らしい。
看板から庇から包装用の袋までもが、その色で統一されている。
道で擦違った修学旅行生は、大抵この店の緑色した袋を提げていた。
ハウステンボスの土産店の中では知名度が随一、その理由は美味しいからっつうのも勿論だろうけど、営業の熱心さにも有るんじゃないかなァと思えた。
店の前で配ってるだけでなく、店内に陳列されてる殆どの菓子が、試食出来る様になっている。
ルフィは大喜びだ、端から端まで食って食って食い捲り…それでも店員さんはスマイル振り撒き、食べてる菓子の説明を熱心にしている。
カウンターを奥まで長く設けて、その下に商品を並べる、というのは上手いやり方だなと感心してしまった。
これならお客は手に取り悩む間も無く、目の前に居る店員さんに渡してしまい易い。
事実、ルフィもセールス・トークに乗せられ、既に4つも買わされていた。
「あんたね…人に借金してるってのに、よくそんなに買う余裕有るわね。」
「だってよォ~!どれもメチャ美味ェんだぜェ~!!このチョコバナナケーキなんか、バナナとチョコがぜつみょーにまっちんぐしてて最高に美味ェって!!」
「『ショコラーデ・バナーネン』です、お客様v」
「この…フェー…フェー…フェー??っつう、レアチーズケーキも、あんまチーズくさくなくてクリーミィでうっめェんだァ!!」
「『フェーセ・カースタート』です、お客様v」
「チョコ味のマドレーヌも美味かった!!1ヶづつ包んであっから、切り分ける手間が無ェのも良いよな!!」
「『ショコラーデ・ケイク』です、お客様v」
「そういやな!外でもらったあのチーズケーキは、カスケーキっつう名前らしいぞ!!あれも実に美味かったよな!!」
「『カース・ケイク』です、お客様v」
「……つまり、その4つを買わされた訳ね、あんた。」
私も姉のノジコと、ロビン先生に頼まれてた分、『カース・ケイク』を2ヶ買った。
それとウソップやサンジ君にあげる用に、個別包装されてる『ショコラーデ・ケイク(5ヶ入り)』も買う。
営業の為でも何でも、こうして試食が多く出来る様になってるのは有難いなァと思った。
店内の奥には狭いながら喫茶コーナーも設けられてて、種類は豊富でないけど生ケーキも食べられる様になっていた。
タンテ・アニーの隣も同じく土産食品を売る店で、と言うより、タンテ・アニーから左へ続く4店舗共全てそうみたいで。
どうやらこの通りの横並びは、『食』をテーマに配置されたらしい。
タンテ・アニー左隣の建物の壁に、大っきくチーズやワインの絵看板が掛かってるのには度肝を抜かれた。
それを見た途端、ルフィは嬉々としてまた中へ入ってく。
…目立つけど、正直、景観は悪くしてる気がするなァ。
チーズ専門店『フロマージュ・ダンジュ』で、ルフィはまた試食を重ねて行っていた。
その左隣には輸入食品や、オリジナルのハムやソーセージ等を売るグルメショップ、『タブリエ・ド・ロア』。
そこでもルフィは試食を重ねて行く。
その左隣にはワイン専門店『ディオニソス』。
そこでもルフィは試飲を……
少し間を挟んで左隣には、総合お菓子屋『ハンスブリンカー』。
そこでもルフィは…以下略。
兎に角横並んだ5店舗全てが飲食品を売っていて、しかも何処も試食もしくは試飲を充実させてるんじゃあ、ルフィにとってはパラダイス・ロード、抑えるのにえらく苦心した。
時間が無いからと何とか宥め、停めた自転車の前まで引き摺り戻す。
ハンドル前の篭は、ルフィの買い込んだ土産で、ぎっしりと埋まった。
「あんたこんな買って…漕いでくのに重くて大変になるでしょ!?私が漕ぐ訳じゃないけどさ!」
「俺だけじゃなく、ナミも買ってたじゃねェか。」
「私はお菓子3つしか買ってないもん!あんた、菓子だけじゃなく、ハムやウィンナーやチーズやキャンディーまで買ってたでしょ!」
「ナミだって、ワインまで買ってただろ?」
――ギクリとした……しっかり見られてたのね。
ワイン専門店『ディオニソス』で試飲してたオリジナル甘口ワイン。
爽やかなマスカットジュースみたいで、やや甘党の自分の好みに非常に合っていた。
量り売りもしてるって事だったけど……結局1瓶丸ごと買ってしまったのだ。
「………いいじゃない。もう送っちゃって、此処には無いんだから。」
既に送ってしまったのは、ルフィの荒っぽい運転で割られちゃ困ると考えたのと、ゾロに「高校生らしい健全な旅を目指す」と禁酒を強いた手前、知られて皮肉言われんのも嫌だなと思ったからっつか…。
「……ワイン買った事、ゾロには言わないでよね。」
「言わねェ言わねェ♪ぜっっってェ、言わねェ♪」
「その軽い言い方、すっごく当てにならないんだけど!!!」
「…所でこの建物は何なんだろうな?結構でっけェけど、ここも店か??」
停めてた壁の向うから、賑やかな音が漏れて来たのが気になったのか、尋ねて来る。
「『キッズファクトリー』よ。お子様用の小さな屋内遊園地みたいなものね。」
「よし!!!寄ってこう!!!」
「寄るなァァァーーーー!!!!!」
勇んで入口駆け込もうとするルフィの腕に縋り付いて止める。
「お子様用つったでしょ!?後15分位しか無いんだから!!そろそろ戻んなきゃ延滞金加算されちゃう!!!」
「え!?後15分なのか!?…大変だ!!早くお菓子の家行かねェと!!」
「って未だ行く気か!??」
……っつか初日に見たあの店の事、しっかり覚えてやがったのね、こいつ。
「心配すんな!!まだ15分も有んなら大丈夫だって!!」
「…もし延滞金付いたら、あんたに払って貰うからね!!」
「おう!!そんときゃ代りに払っといてくれ!!後でまとめて払う!!」
「3倍返しだかんね!?そんな借金重ねて、何時払ってくれる気よ!?」
「出世払いだ!!いつか必ず払う!!!」
「信用出来るかァァーーーー!!!!」
お土産いっぱい前に乗せ、自転車は走り出す。
落ちない様に車体に土産袋縛り付けてるとは言え、進む度にガタゴト揺れて、外へ飛び出して行きそうで怖かった。
ワインを送っておいて正解だったなと思った。
アチコチにクリスマスツリーが飾られた華やかな区画『ビネンスタッド』から、海に面して開けた区画『スパーケンブルグ』へと入ってく。
波は相変らず荒そうだけど、天気は大分回復してて、晴れ間も覗く様になっていた。
此処からブルーケレンに在るレンタサイクル屋に戻す事を考えると……3時間で場内をほぼ2周したって事になるのね。
やっぱり自転車は機動力が有って良いなァ。
オレンジ広場を突っ切り、デ・リーフデ号も横切り、自転車は一直線にお菓子の家『ヘクセンハウス』へと向った。
『ヘクセンハウス』は、グリム童話のお菓子の家をイメージした内装になってる、お菓子屋さんだった。
柱が林檎の生った木の様になってたり、ヘンゼルとグレーテルの像が在ったりで、メルヘンチックで結構可愛い。
…もっともルフィは、自分がイメージしてた程にはお菓子っぽくなくて、ちょっと落胆してた風ではあったけど。
ただ此処も、試食がかなり充実していた。
バウムクーヘンとクッキーの専門店で、殆どの商品が試食出来る様になっている。
風車や木靴の形したのや花の絵の描かれたクッキーは味も色々。
バターにチーズにアールグレイにチョコにローズマリーにレモンにミント、どれもサクサク、香りも良くて、とても美味しかった。
「うん!ふめェ!!…ひひょふなのに大きく割ってあって、ケチケチしてねェのも良いよな♪」
また出されてる全ての物をパクつき頬張りながら、ルフィは御機嫌で喋る。
「…ルフィ、せめてもうちょっと控え目に頂いたら?試食なんだから。」
もう1つの売物、バウムクーヘンも、種類色々置いてあった。
特に丸ごと蜜煮した林檎をバウムクーヘンに包んである『魔法のりんごバウムクーヘン』は、包装に赤いセロハンと白い発泡スチロールネットを使ってい、本当の林檎みたいに包んであってとっても可愛い。
この包装だけでも買いたくなるかも…ビビにあげたら喜ぶかな。
「ナミ!ナミ!こっちも見てみろ!お菓子の家も有るぞ!」
ルフィが手で招く、近寄って見ると、クッキーで可愛く細工された、とんがり屋根の小さなお菓子の家が並べられていた。
「あ!可ー愛ーいーvv買って行きたァーーい!!」
「な!?買って行きたくなんだろ!?…俺も買ってこうかなァ~~。」
「…でも止めた方が良いかもね。耐震性に問題有で送れないみたいだし、長時間持ったまま帰るにも難しそうだわ。」
「んあ?そ、そうかァ~~。んじゃ、このリンゴのバウムクーヘン買ってくかな。」
言うなりさっさとキャッシャーの方に持って行く。
「…ってちょっと待て!!あんただから買い過ぎだってば!!大体、そんな買ってく程、渡したい人間多いっつうの!?」
「何言ってんだ!?ほとんど自分のために買ってるに決まってるじゃねェか!!」
「それじゃお土産の意味無いでしょう!??」
「ナミは違うのか?」
「お土産ってのは主に、人様にあげる為に買うの!」
……そうね……やっぱ私も買ってっちゃおうかな。
ビビに林檎のバウムクーヘン、ノジコに木靴のクッキー、ロビン先生には風車のクッキーを買ってったげよか。
ウソップとサンジ君の分は、もう買ってあるから良いわよね。
暫くアレコレ手に取り考え込み、油断して目を離してしまったのがいけなかった。
気が付けば、ルフィの姿が店に無い。
焦って外に飛び出し前後左右見回す――自転車は未だ店の横に停めてあった。
……って事は、直ぐ側に居る筈!!
「ルゥゥゥフィ~~~~~!!!!!」
「おーー!!呼んだかァ~~~!!?」
「って直ぐそこかい!!!!?」
直ぐ隣の店ん中から声がして、かくんと拍子抜けしてしまった。
パイプを咥えた船長さんの人形が、入口前にシンボルとして立ってる店、『キャプテンショップ』。
ミュージアムスタッドに在った輸入雑貨屋『フィギュアヘッド』同様、店の周りには真鍮の鐘や舵輪と言った船装器具が雑然と置かれている。
ルフィが店奥から笑いながら、入口前の人形が被ってるのと似た様な、白地に黒い鍔帽被って出て来た。
「ルフィ!!!急に居なくなったら心配するじゃない!!!…って何よ、その偉そうな帽子は??」
「キャプテンハットだ!!カッコ良いだろ♪♪」
「またそんな無駄遣いしてっっ!!!」
「世界廻って芸観せた時に、お代入れてもらう用のぼうし買っとこうと思ってな♪本当は麦わらぼうしが有りゃ良かったんだけど……似合うかー?」
「似合うかじゃないっっ!!!いい年してそんな帽子買ってどうすん――」
――ぽすっと頭に、それを被せられた。
「うん!おめェも良く似合ってるぞ♪」
「…………は…?」
ぽんぽんと帽子ごと頭はたかれ、愉快そうに微笑まれて……あの……こゆ場合、どう反応したら良いの…?
ってゆうか、こいつは一体全体、何を考えてる訳??
……解んない、ゾロ以上に解んない。
「店ん中沢山面白ェもん有ったぞ!!俺が剣買ったトコと似たようなふんいきだ!!ちょっと入って観てこうぜ!!」
「駄目!!!あんたがそんな店入ったら、また1時間近く篭りっきりになっちゃうじゃない!!!」
ぐいっと引張られる腕を、逆に引張り返す。
冗談じゃない、フィギュアヘッドの時の二の舞は御免だわ。
「時間が無いって言ったでしょ!?見てよ!!もう5分しか無いって――えええええっっ!!!!??」
ルフィに指し示した腕時計の時刻を確認して、一気に心臓が凍り付く。
「どどどうしよどうしよルフィ!!!延滞金が!!延滞金が付いちゃうっっ!!!もう駄目…!!5分って…ま、間に合わない~~~~!!!!」
「……5分も有りゃ、余裕で着けると思うけどな。」
飄々とルフィは答える、落ち着き払った態度だ。
「…ほ…本当…!?本当に間に合う!?5分しか無いのに!?」
「おう!!大丈夫だ!!」
自信たっぷりに断言されて、根拠は無くても心強く感じてしまった。
笑顔の後ろに後光まで射して見えるのは気のせいか??
調子良いとは思うけど……こいつが居てくれて、本当に助かったと思った。
「フルスロットルで行くから、しっかり摑まってろよ!!」
「わ…解った!!」
サドルに跨り、言う通りに手を回して背中にしがみ付く。
飛ばされないよう、ルフィが買った帽子は、私が握り締めてく事にした。
篭に入ってる土産袋も全て、車体にしっかり結び付けてある。
漕ぐのに邪魔にならない様、自分の両足は後ろ側に曲げた。
――良し!!発進準備完了!!
「最短コース教えるから、宜しく頼むわよ!!キャプテン!!」
「任せろ!!!そいじゃあ……飛ばすぞォォ!!!!」
ペダルが大きく踏み込まれる、車輪が回転し、一気に加速してった。
オレンジ広場をばびゅん!!!と爆走し、ハーフェン橋を越え、あっという間にビネンスタッドに到達する――その瞬間、車体がフワリと浮き上がった。
「次!!右か!?左か!?」
「…ひ、左!!運河に沿って良いって言うまで真直ぐ!!!」
――ガクン!!!と左に曲がった、シンゲル運河に沿って、並木道をどんどん直進してく。
道行く人達が驚いて振り返ってく、前から来る人は皆避けてく。
石畳の道をルフィはひたすらジャコジャコ音出し、物凄いスピードで立ち漕ぎしてく。
ガクンガクンガクンガクンと行きの高速船並に揺れた。
…か…風が顔に当って寒い…ってより痛いっっ。
ゴォォォ…!!!とか耳に聞えて怖いっっ。
もう、前だけしか、向いてる余裕無いし。
運河の十字路まで差し掛かった。
またルフィが方向尋ねて来る。
左のジョーカー橋を渡る様指示した。
越える瞬間、またフワリと車体が浮く。
篭の中のお土産も浮く…ってか既に外に飛び出しぶら下がってるんですけどっっ。
前からバスが来た――身が縮んだ!!
ルフィは全くスピード緩めず、左に横っ飛びして避ける。
避けたと同時に、自分の体が左へ投げ出されそうになって、必死でしがみ付いた。
あ…だ…駄目……車酔いしそう……
こいつひょっとして80キロ超位軽く出してない!?
ビッグ○ンダー○ウンテンもびっくり!?
アムステル運河に沿ってまた直進、そして爆走!
バスチオン橋を越えて――自転車は無事5分前に、レンタサイクル屋『フィッツ』に到着する事が出来た。
迎えてくれた店の小母さんが、すっかりオールバックに決まってしまった私とルフィの髪型を見て、声にならない程に爆笑してくれた…。
【その35に続】
写真の説明~、ホテル・アムステルダム横の海沿いの道。
海の側まで下りられ、見渡せるv
人気のお菓子屋さん、『タンテ・アニー』のイメージカラーは、濃い緑らしい。
看板から庇から包装用の袋までもが、その色で統一されている。
道で擦違った修学旅行生は、大抵この店の緑色した袋を提げていた。
ハウステンボスの土産店の中では知名度が随一、その理由は美味しいからっつうのも勿論だろうけど、営業の熱心さにも有るんじゃないかなァと思えた。
店の前で配ってるだけでなく、店内に陳列されてる殆どの菓子が、試食出来る様になっている。
ルフィは大喜びだ、端から端まで食って食って食い捲り…それでも店員さんはスマイル振り撒き、食べてる菓子の説明を熱心にしている。
カウンターを奥まで長く設けて、その下に商品を並べる、というのは上手いやり方だなと感心してしまった。
これならお客は手に取り悩む間も無く、目の前に居る店員さんに渡してしまい易い。
事実、ルフィもセールス・トークに乗せられ、既に4つも買わされていた。
「あんたね…人に借金してるってのに、よくそんなに買う余裕有るわね。」
「だってよォ~!どれもメチャ美味ェんだぜェ~!!このチョコバナナケーキなんか、バナナとチョコがぜつみょーにまっちんぐしてて最高に美味ェって!!」
「『ショコラーデ・バナーネン』です、お客様v」
「この…フェー…フェー…フェー??っつう、レアチーズケーキも、あんまチーズくさくなくてクリーミィでうっめェんだァ!!」
「『フェーセ・カースタート』です、お客様v」
「チョコ味のマドレーヌも美味かった!!1ヶづつ包んであっから、切り分ける手間が無ェのも良いよな!!」
「『ショコラーデ・ケイク』です、お客様v」
「そういやな!外でもらったあのチーズケーキは、カスケーキっつう名前らしいぞ!!あれも実に美味かったよな!!」
「『カース・ケイク』です、お客様v」
「……つまり、その4つを買わされた訳ね、あんた。」
私も姉のノジコと、ロビン先生に頼まれてた分、『カース・ケイク』を2ヶ買った。
それとウソップやサンジ君にあげる用に、個別包装されてる『ショコラーデ・ケイク(5ヶ入り)』も買う。
営業の為でも何でも、こうして試食が多く出来る様になってるのは有難いなァと思った。
店内の奥には狭いながら喫茶コーナーも設けられてて、種類は豊富でないけど生ケーキも食べられる様になっていた。
タンテ・アニーの隣も同じく土産食品を売る店で、と言うより、タンテ・アニーから左へ続く4店舗共全てそうみたいで。
どうやらこの通りの横並びは、『食』をテーマに配置されたらしい。
タンテ・アニー左隣の建物の壁に、大っきくチーズやワインの絵看板が掛かってるのには度肝を抜かれた。
それを見た途端、ルフィは嬉々としてまた中へ入ってく。
…目立つけど、正直、景観は悪くしてる気がするなァ。
チーズ専門店『フロマージュ・ダンジュ』で、ルフィはまた試食を重ねて行っていた。
その左隣には輸入食品や、オリジナルのハムやソーセージ等を売るグルメショップ、『タブリエ・ド・ロア』。
そこでもルフィは試食を重ねて行く。
その左隣にはワイン専門店『ディオニソス』。
そこでもルフィは試飲を……
少し間を挟んで左隣には、総合お菓子屋『ハンスブリンカー』。
そこでもルフィは…以下略。
兎に角横並んだ5店舗全てが飲食品を売っていて、しかも何処も試食もしくは試飲を充実させてるんじゃあ、ルフィにとってはパラダイス・ロード、抑えるのにえらく苦心した。
時間が無いからと何とか宥め、停めた自転車の前まで引き摺り戻す。
ハンドル前の篭は、ルフィの買い込んだ土産で、ぎっしりと埋まった。
「あんたこんな買って…漕いでくのに重くて大変になるでしょ!?私が漕ぐ訳じゃないけどさ!」
「俺だけじゃなく、ナミも買ってたじゃねェか。」
「私はお菓子3つしか買ってないもん!あんた、菓子だけじゃなく、ハムやウィンナーやチーズやキャンディーまで買ってたでしょ!」
「ナミだって、ワインまで買ってただろ?」
――ギクリとした……しっかり見られてたのね。
ワイン専門店『ディオニソス』で試飲してたオリジナル甘口ワイン。
爽やかなマスカットジュースみたいで、やや甘党の自分の好みに非常に合っていた。
量り売りもしてるって事だったけど……結局1瓶丸ごと買ってしまったのだ。
「………いいじゃない。もう送っちゃって、此処には無いんだから。」
既に送ってしまったのは、ルフィの荒っぽい運転で割られちゃ困ると考えたのと、ゾロに「高校生らしい健全な旅を目指す」と禁酒を強いた手前、知られて皮肉言われんのも嫌だなと思ったからっつか…。
「……ワイン買った事、ゾロには言わないでよね。」
「言わねェ言わねェ♪ぜっっってェ、言わねェ♪」
「その軽い言い方、すっごく当てにならないんだけど!!!」
「…所でこの建物は何なんだろうな?結構でっけェけど、ここも店か??」
停めてた壁の向うから、賑やかな音が漏れて来たのが気になったのか、尋ねて来る。
「『キッズファクトリー』よ。お子様用の小さな屋内遊園地みたいなものね。」
「よし!!!寄ってこう!!!」
「寄るなァァァーーーー!!!!!」
勇んで入口駆け込もうとするルフィの腕に縋り付いて止める。
「お子様用つったでしょ!?後15分位しか無いんだから!!そろそろ戻んなきゃ延滞金加算されちゃう!!!」
「え!?後15分なのか!?…大変だ!!早くお菓子の家行かねェと!!」
「って未だ行く気か!??」
……っつか初日に見たあの店の事、しっかり覚えてやがったのね、こいつ。
「心配すんな!!まだ15分も有んなら大丈夫だって!!」
「…もし延滞金付いたら、あんたに払って貰うからね!!」
「おう!!そんときゃ代りに払っといてくれ!!後でまとめて払う!!」
「3倍返しだかんね!?そんな借金重ねて、何時払ってくれる気よ!?」
「出世払いだ!!いつか必ず払う!!!」
「信用出来るかァァーーーー!!!!」
お土産いっぱい前に乗せ、自転車は走り出す。
落ちない様に車体に土産袋縛り付けてるとは言え、進む度にガタゴト揺れて、外へ飛び出して行きそうで怖かった。
ワインを送っておいて正解だったなと思った。
アチコチにクリスマスツリーが飾られた華やかな区画『ビネンスタッド』から、海に面して開けた区画『スパーケンブルグ』へと入ってく。
波は相変らず荒そうだけど、天気は大分回復してて、晴れ間も覗く様になっていた。
此処からブルーケレンに在るレンタサイクル屋に戻す事を考えると……3時間で場内をほぼ2周したって事になるのね。
やっぱり自転車は機動力が有って良いなァ。
オレンジ広場を突っ切り、デ・リーフデ号も横切り、自転車は一直線にお菓子の家『ヘクセンハウス』へと向った。
『ヘクセンハウス』は、グリム童話のお菓子の家をイメージした内装になってる、お菓子屋さんだった。
柱が林檎の生った木の様になってたり、ヘンゼルとグレーテルの像が在ったりで、メルヘンチックで結構可愛い。
…もっともルフィは、自分がイメージしてた程にはお菓子っぽくなくて、ちょっと落胆してた風ではあったけど。
ただ此処も、試食がかなり充実していた。
バウムクーヘンとクッキーの専門店で、殆どの商品が試食出来る様になっている。
風車や木靴の形したのや花の絵の描かれたクッキーは味も色々。
バターにチーズにアールグレイにチョコにローズマリーにレモンにミント、どれもサクサク、香りも良くて、とても美味しかった。
「うん!ふめェ!!…ひひょふなのに大きく割ってあって、ケチケチしてねェのも良いよな♪」
また出されてる全ての物をパクつき頬張りながら、ルフィは御機嫌で喋る。
「…ルフィ、せめてもうちょっと控え目に頂いたら?試食なんだから。」
もう1つの売物、バウムクーヘンも、種類色々置いてあった。
特に丸ごと蜜煮した林檎をバウムクーヘンに包んである『魔法のりんごバウムクーヘン』は、包装に赤いセロハンと白い発泡スチロールネットを使ってい、本当の林檎みたいに包んであってとっても可愛い。
この包装だけでも買いたくなるかも…ビビにあげたら喜ぶかな。
「ナミ!ナミ!こっちも見てみろ!お菓子の家も有るぞ!」
ルフィが手で招く、近寄って見ると、クッキーで可愛く細工された、とんがり屋根の小さなお菓子の家が並べられていた。
「あ!可ー愛ーいーvv買って行きたァーーい!!」
「な!?買って行きたくなんだろ!?…俺も買ってこうかなァ~~。」
「…でも止めた方が良いかもね。耐震性に問題有で送れないみたいだし、長時間持ったまま帰るにも難しそうだわ。」
「んあ?そ、そうかァ~~。んじゃ、このリンゴのバウムクーヘン買ってくかな。」
言うなりさっさとキャッシャーの方に持って行く。
「…ってちょっと待て!!あんただから買い過ぎだってば!!大体、そんな買ってく程、渡したい人間多いっつうの!?」
「何言ってんだ!?ほとんど自分のために買ってるに決まってるじゃねェか!!」
「それじゃお土産の意味無いでしょう!??」
「ナミは違うのか?」
「お土産ってのは主に、人様にあげる為に買うの!」
……そうね……やっぱ私も買ってっちゃおうかな。
ビビに林檎のバウムクーヘン、ノジコに木靴のクッキー、ロビン先生には風車のクッキーを買ってったげよか。
ウソップとサンジ君の分は、もう買ってあるから良いわよね。
暫くアレコレ手に取り考え込み、油断して目を離してしまったのがいけなかった。
気が付けば、ルフィの姿が店に無い。
焦って外に飛び出し前後左右見回す――自転車は未だ店の横に停めてあった。
……って事は、直ぐ側に居る筈!!
「ルゥゥゥフィ~~~~~!!!!!」
「おーー!!呼んだかァ~~~!!?」
「って直ぐそこかい!!!!?」
直ぐ隣の店ん中から声がして、かくんと拍子抜けしてしまった。
パイプを咥えた船長さんの人形が、入口前にシンボルとして立ってる店、『キャプテンショップ』。
ミュージアムスタッドに在った輸入雑貨屋『フィギュアヘッド』同様、店の周りには真鍮の鐘や舵輪と言った船装器具が雑然と置かれている。
ルフィが店奥から笑いながら、入口前の人形が被ってるのと似た様な、白地に黒い鍔帽被って出て来た。
「ルフィ!!!急に居なくなったら心配するじゃない!!!…って何よ、その偉そうな帽子は??」
「キャプテンハットだ!!カッコ良いだろ♪♪」
「またそんな無駄遣いしてっっ!!!」
「世界廻って芸観せた時に、お代入れてもらう用のぼうし買っとこうと思ってな♪本当は麦わらぼうしが有りゃ良かったんだけど……似合うかー?」
「似合うかじゃないっっ!!!いい年してそんな帽子買ってどうすん――」
――ぽすっと頭に、それを被せられた。
「うん!おめェも良く似合ってるぞ♪」
「…………は…?」
ぽんぽんと帽子ごと頭はたかれ、愉快そうに微笑まれて……あの……こゆ場合、どう反応したら良いの…?
ってゆうか、こいつは一体全体、何を考えてる訳??
……解んない、ゾロ以上に解んない。
「店ん中沢山面白ェもん有ったぞ!!俺が剣買ったトコと似たようなふんいきだ!!ちょっと入って観てこうぜ!!」
「駄目!!!あんたがそんな店入ったら、また1時間近く篭りっきりになっちゃうじゃない!!!」
ぐいっと引張られる腕を、逆に引張り返す。
冗談じゃない、フィギュアヘッドの時の二の舞は御免だわ。
「時間が無いって言ったでしょ!?見てよ!!もう5分しか無いって――えええええっっ!!!!??」
ルフィに指し示した腕時計の時刻を確認して、一気に心臓が凍り付く。
「どどどうしよどうしよルフィ!!!延滞金が!!延滞金が付いちゃうっっ!!!もう駄目…!!5分って…ま、間に合わない~~~~!!!!」
「……5分も有りゃ、余裕で着けると思うけどな。」
飄々とルフィは答える、落ち着き払った態度だ。
「…ほ…本当…!?本当に間に合う!?5分しか無いのに!?」
「おう!!大丈夫だ!!」
自信たっぷりに断言されて、根拠は無くても心強く感じてしまった。
笑顔の後ろに後光まで射して見えるのは気のせいか??
調子良いとは思うけど……こいつが居てくれて、本当に助かったと思った。
「フルスロットルで行くから、しっかり摑まってろよ!!」
「わ…解った!!」
サドルに跨り、言う通りに手を回して背中にしがみ付く。
飛ばされないよう、ルフィが買った帽子は、私が握り締めてく事にした。
篭に入ってる土産袋も全て、車体にしっかり結び付けてある。
漕ぐのに邪魔にならない様、自分の両足は後ろ側に曲げた。
――良し!!発進準備完了!!
「最短コース教えるから、宜しく頼むわよ!!キャプテン!!」
「任せろ!!!そいじゃあ……飛ばすぞォォ!!!!」
ペダルが大きく踏み込まれる、車輪が回転し、一気に加速してった。
オレンジ広場をばびゅん!!!と爆走し、ハーフェン橋を越え、あっという間にビネンスタッドに到達する――その瞬間、車体がフワリと浮き上がった。
「次!!右か!?左か!?」
「…ひ、左!!運河に沿って良いって言うまで真直ぐ!!!」
――ガクン!!!と左に曲がった、シンゲル運河に沿って、並木道をどんどん直進してく。
道行く人達が驚いて振り返ってく、前から来る人は皆避けてく。
石畳の道をルフィはひたすらジャコジャコ音出し、物凄いスピードで立ち漕ぎしてく。
ガクンガクンガクンガクンと行きの高速船並に揺れた。
…か…風が顔に当って寒い…ってより痛いっっ。
ゴォォォ…!!!とか耳に聞えて怖いっっ。
もう、前だけしか、向いてる余裕無いし。
運河の十字路まで差し掛かった。
またルフィが方向尋ねて来る。
左のジョーカー橋を渡る様指示した。
越える瞬間、またフワリと車体が浮く。
篭の中のお土産も浮く…ってか既に外に飛び出しぶら下がってるんですけどっっ。
前からバスが来た――身が縮んだ!!
ルフィは全くスピード緩めず、左に横っ飛びして避ける。
避けたと同時に、自分の体が左へ投げ出されそうになって、必死でしがみ付いた。
あ…だ…駄目……車酔いしそう……
こいつひょっとして80キロ超位軽く出してない!?
ビッグ○ンダー○ウンテンもびっくり!?
アムステル運河に沿ってまた直進、そして爆走!
バスチオン橋を越えて――自転車は無事5分前に、レンタサイクル屋『フィッツ』に到着する事が出来た。
迎えてくれた店の小母さんが、すっかりオールバックに決まってしまった私とルフィの髪型を見て、声にならない程に爆笑してくれた…。
【その35に続】
写真の説明~、ホテル・アムステルダム横の海沿いの道。
海の側まで下りられ、見渡せるv