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瀬戸際の暇人

今年も休みがちな予定(汗)

魔女の瞳はにゃんこの目・1―その8―

2010年07月18日 14時54分16秒 | 魔女にゃん(ワンピ長編)






崩れた床と共に…どのくらい深くまで落ちたでしょうか?
気付けば3人は、漏れる光すら見えない真の闇に包まれていました。
自分が今、何処にどういう体勢で居るのかすら判りません。


「……おい…大丈夫か、お前ら…?全員無事かァ…?」
「ここ…どこだァ~?なァ~~んも見えねーよ……ひょっとして地獄かァ~?」
「痛っっ!!!誰よ今手ェ踏ん付けた奴はっっ!!?」
「おー悪ィ、俺だ!…なんだナミ、そんなトコに倒れてやがったのかァ~♪」
「ルフィ!?…まったく、あんたって人は何時も何時も…!!こうなったのも皆あんたのせいだかんね!!!」
「俺が全部悪いみたいに言うなよなァ~!!ナミが怪力出して床に穴開けろっつったからこうなったんじゃねーか!!」
「床崩れるまで怪力発揮しろとは言ってないでしょ!!?…っとにもォ~!!あんたのお陰で今日何度落ちた事か…!!」
「まだ2度しか落ちてねーじゃん。」
「もしかして運勢落ち目なのかもな、俺達。」
「くだらない洒落かましてんじゃないわよゾロ!!!」
「そんな事よりナミ、ランプはどうした?状況が知りてェ。早く照らせ。」
「ちょっと待って!…行方不明になっちゃったのよ…埋っちゃったのかな?……駄目だわ、全く見えない……ああもう、しょうがない!」


圧迫されそうな程黒一色な世界に、小さな金色の光が2つ、ポッ…と灯りました。
続いて底をガサゴソと探る気配がします。


「…有った!!視付けたわ!!やっぱり底に埋ってたんだ!!」


ナミの歓喜の声と同時に、蒼く眩い光がくっきりと、砂埃に塗れた3人の顔を照らし出しました。


「…茶色になったり金色になったり…本当、猫の目そっくりに忙しねェ目だよなァ。」
「けど暗い夜道にゃ便利で良さ気だよな!赤鼻のトナカイみてェ♪」
「誰が『何時も皆の笑い者』よ!!?」
「兎も角、ランプで辺り照らして現状知ろうぜ。」


ゾロに促されて、ナミは座ったまま、ランプで四方八方を照らして行きました。

乾いた茶褐色の岩肌が露出する、枯れ井戸の様に狭い空間。
見上げても夜という事も有り、光は全く見えず、深さがどれ位なのか見当も付きません。
背後に冷気を感じて振り向けば……大人1人が立って歩ける位の幅したトンネルが、暗く果て無く続いて見えました。


「すっげェ~!!!地下トンネルだ!!!」


途端に、ルフィの目が光度を増します。


「謎の地下トンネル…地底への探険…幻の地底王国へと続く道!?おんもしろくなって来た♪♪早く先行ってみよーぜ!!!」

「…随分長く続いてそうだな…一体誰が何の目的で、こんな本格的なトンネル拵えたのか…宝隠す為ったって御苦労さんと言いたくなるが…。」

「………宝なんて隠されてないわ。」


無言でトンネルを凝視していたナミが、ポツリと呟きました。


「何!?無いィィ!!?」
「ウソ吐け!!まだ行って見てもいねーのに、何で解るんだよ!!?」


愕然とし、声高に詰め寄る2人を前に、ナミは嘆息漏らして説明し出しました。


「…今、金の瞳になってるでしょ?…だから視ちゃったのよ…つい。ちらっと視ではあるけど…此処から約1㎞続くトンネルの中、何処にも宝は見当らなかった…単なるトラップ目的で掘られた物かも…悔しいけど、一旦戻って仕切り直――」


話してる途中でルフィはナミの手からランプを奪い、そのままトンネル向って駆け出しました。


「――ちょっっ…!!?いきなり何すんのルフィ!!?」
「ここまで来て探険もしねーで戻るなんて、もったいねーじゃんか!!」


答えながら駆け足は止めず、どんどん奥へと進んできます。
トンネル内を照らすランプの光が、足音に合せて高速で移動して行きました。


「馬鹿!!!人の話聞いてなかったの!!?宝は此処に無いんだってば!!!トラップだとしたら無闇に行っても危険なだけ…コラァ!!!人の話を聞けェェ~~~!!!!!」

「実際に行ってみねーと解んねーだろォ~~…!?先に行って偵察してやっから、後からついて来いよォ~~~~………」


声が離れてくと共に、光もあっという間に見えなくなり…残された2人の上、闇が再び重たく覆い被さって来ました。


「……あんの自己中坊主…!!1個しか無いランプ勝手に持っててんじゃないわよ!!!返せ泥棒ォ~~~~!!!!!」


トンネル内に木霊するナミの絶叫。

…しかし、待てども返事は聞えて来ませんでした。


「……ランプくらい、てめェの魔法なら、パパっと出せんじゃねェの?」


傍に立って状況を見守っていたゾロが聞いて来ます。


「………出せるわよ……はい。」


力無く答える声。
何処からとも無く取り出された蒼い光が、再び辺りの闇を眩しく照らしました。
ルフィに奪われたのと同じ、瓢箪型したランプです。


「……はァァ……これでまた、暫く金の瞳で居なくちゃだわ…。」


崩れた石の上に俯き座る姿勢で、ナミが零します。
顔を伏せて喋る声は、くぐもって聞えました。


「……その目で居る時は、見たくなくとも、全て見えちまうのか?」

「………視ようとしなければ見えないわ。…でもね、この『視ようとしない』ってのが……案外、難しいのよ…。」

「…ふぅぅん…。」


喧しい存在が居なくなったお陰で、地下は水を打った様な静けさでした。

小さく縮こまり黙ったままのナミに、どう声掛けたものか頭掻き毟って悩んでいたゾロでしたが…意を決したように口を開きました。


「あ~~…何だ、此処で2人してじっとしてても退屈なだけだし…俺達もトンネルん中入ってみようぜ。」

「…入ってどうすんのよ?宝なんて無いって言ったでしょ!」


いじけた声でナミが素気無く突っ返します。


「あいつじゃねェけど……実際に行って、見てみねェと解らねェだろ?」

「…解るもん!」

「宝だけじゃねェ。シャンクスの件も有るんだ。」

「………。」

「些細な手懸りでも良いんだ。見付け出したい。…あいつもその積りだろう。」

「……『袖すり合うも他生の縁』って言うしね……解った!こうなりゃ最後まで付き合ったげる…!」


顔を上げて、ナミが応えます。

その瞳は闇に輝く金の色。

崩れた石の上に立ち上り――しかし悲鳴を上げ、直ぐにまたペタリと座り込んでしまいました。


「おい!!どうした!?」

「痛っっ!!…痛たっっ!!……あーあー…落ちた時、足捻っちゃったみたい…。」


痛みに呻きながら、ナミは左足首を摩ります。
ランプの光の下見れば、内出血までしてるのか、赤黒く腫上っていました。
良く見れば右足の脛にも細かい切り傷が有ります。


「……しょうがねェなァ……ほれ!おぶされ!」


頭をガリガリ掻き毟って溜息吐くと、ゾロはナミの前に後ろ向きでしゃがみ込み、おぶさる様に言って来ました。


「お、おぶされって…!!いい、いいわよ!!こんな傷、5分もすれば自然に治――ひゃっっ!!?」


顔を赤くし、両手をバタつかせてナミが拒みます。
しかしその両手をゾロは強引に自分の肩に掛けさせ、そのまま無造作にヒョイッとおぶってしまいました。


「バババ馬鹿馬鹿降ろせ!!!降ろせェ~~!!!ガキが生意気に年上の女を気安くおぶってんじゃないわよ!!!降~ろ~せェ~!!!!」


ナミは何とか背中から降りようと必死でもがきます。
自由の利く両手とランプを使い、ゾロの頭から背中まで、ひっきり無くポカスカ殴り付けました。


「うっせェなァ~!!年寄りは大人しく若者に背負われてろ!!確かそういう諺が有っ――」


――ガンッッ!!!!!


「痛ェェェ!!!…お前な!!!じゃああそこに置いてけぼりにして欲しかったのかよ!!?俺だって好きでおぶってる訳じゃねェぞ!!!こんなんじゃいざ何か有った時刀も抜けやしねェ!!!お前が魔法使いたくねェっつうから親切におぶってやってんだ!!!解ったら大人しく感謝してろ!!!」
「何よ!!!こっちだってあんたのプライバシー気遣って降ろせっつったげてんだからね!!!力の出てる状態の私に触れたらどうなるか解って…」

「俺のプライバシー!?…どういう意味だよ?」


ふと、ナミが抵抗を止めました。
不審に思い振返れば、冷たく微笑を浮べるナミと目が合います。
金色の瞳が益々明るく輝いたと思った刹那…ナミは朗読でもするかの様に、ゆっくりと囁いて来ました。


「…ロロノア・ゾロ。年齢13歳。親友モンキー・D・ルフィより2つ年上。育ての親でもある剣術師範の名前は『コウシロウ』。2つ年上で義理の姉の名前は『くいな』。日常でも剣術でも彼女には頭が上らず、剣の勝敗目下0勝2千敗…」

「…お前…!」

「だから何度も言ったでしょう?金色の瞳をしてる時の私は、何でも視えるし聴こえるんだって。触れたりしたら筒抜けになるんだから…解ったら早く降ろして。」


肩にしがみ付き、ナミは耳元で静かに囁きます。
冷やかに、嘲笑を含んだ様な声でした。


「……箒で空飛んでる時、ルフィに触れさせないよう、ムキになって怒ったのは、それが理由か?」

「………単に触れられるのも我慢ならないくらい嫌いだってだけよ!」

「そりゃあいつ気の毒に。お前の事、結構気に入ったみてェなのにな。」
「私は嫌いよ!!大っ嫌い!!あんな奴!!馬鹿で我儘で自己中で意地汚くて人の話聞かずにやりたい放題!!初対面だってのに馴れ馴れしくして来て!!………私の事、何にも知らないクセに…!!!」

「一々真実過ぎて否定しようも無ェが……敢えてフォローしてやると、裏表無く人に向う奴ではあるっつか…まァ、唯の馬鹿でも無ェさ。見ちまったんなら、解っただろ?」
「解ったから尚更嫌いになったの!!」
「へェへェ、そうかよ!」


怒鳴り散らすナミに適当に相槌打ちつつ、ゾロは歩き出します。
此処まで言っても自分を降ろさず、トンネルに入って行こうとするのを見て、ナミは焦りました。


「ちょ…ちょっと!!早く降ろしてよ!!筒抜けになるっつったでしょ!?」
「あ~もう面倒臭ェ女だなァァ!!見られて困るもんなんて何も無ェよ!!!いいからじっとしてろ!!!」
「何も無いって……私が視たくないっつってんのよ馬鹿ァ~~!!!」


喚き暴れるナミに構わず、ゾロは早足でトンネルの中へと進みます。
ギザギザした岩肌を、ランプの灯りが進む度に露にして行きました。


「…お前は…自分の持ってる力が嫌いなのか?」


正面向いたまま、ゾロが聞いて来ます。


「……あんただって…同じ力持ってたとしたら、持て余すわよ…!」


その背中に、ナミが不貞腐れた調子で言葉を投げました。


「確かに煩わしそうではあるが…だからって全く塞いじまったら、自分にとって好ましいものまで見えず聞えず過しちまう事になるんじゃねェの?世の中そんなに悪か無ェと思うけどな。」

「……高々10年そこらしか生きてない分際で解ったような口聞いてんじゃないわよ!!!…言っとくけど私、ルフィだけでなく、あんたも大っっ嫌いなんだかんね!!ガキのクセして大人ぶってニヒルぶって格好付けてて何でも理解してるよな顔しててさ、その実ルフィとタメ張る方向感覚0の大馬鹿者じゃない!!自慢の剣の腕だって義理の姉にいっちども勝てず2千敗!!国1番の少年剣士だっつう評判が聞いて呆れるわァ~!!!」

「…煩ェ、耳元で怒鳴るな、チビ婆ァ。」


――ゴインッッ!!!!!


「痛ェェ!!!お気軽に人の頭叩いてんじゃねェよ!!!あんま図に乗ってると姥捨て山に捨てるぞ!!!」
「今『チビで煩ェガキだが意外と胸はデケェな』って考えたでしょ!!?ムッツリスケベー!!!」
「な!!?…そ…!!…人の心勝手に覗くそっちのが助平だろうがバカヤロウ!!!」
「何さ!!!『視られて困るもんなんて何も無い』んじゃなかったの!!?男なら自分の言動に責任持ちなさいよハリセンボン頭!!!」
「おめェこそ『見たくない』っつっといてしっかり見てんじゃねェよデバガメ女!!!」




トンネル内で仲良く喚き合う2人の先を行く事約1㎞。

スタートこそ勢い良かったルフィでしたが、行けども行けども平坦で枝分れ無く続く一本道に、些か拍子抜けせずには居られませんでした。

ランプで照らしてみても、見える物と言ったら味も素っ気も無い茶色い岩ばかり。
上下左右から圧迫する様囲まれては居れど、特に目立って幅も変りません。

何も仕掛けられていない砂利道。
何も仕掛けられていない天井、壁。

…退屈極まりない道でした。


「あ~~あ~~……つまんねーのォ~~~・・・…」


さっきから欠伸が止りません。
襲い来る睡魔に、いっそ道の途中で寝てしまおうかと思いました。


「普通地下トンネルっつったらさァ~、迷路とかつり天井とか、転がって来る大岩とか、振り子刀とか、踏むとスイッチ作動して落し穴が現れるとか、大水が流れて来るとか、ネズミゴキブリ吸血コウモリの大群が襲って来るとかさァ~~…サービス足んねーよなァ~~。」


最早駆け足も止め、頭の後ろで腕組みのらくら進んでいたルフィの耳に……何かを齧る様な音が聞えて来ました。


――ガリリッ…!


――ガリリッ…!ガリリッ…!


――ガリリッ…!ガリリッ…!ガリリッ…!


不気味な音は、奥へ進めば進む程、はっきりと響いて来ます。

穴の中を吹き抜ける冷たい風が、次第に強まりました。

ランプを前に掲げ、目を凝らして歩いて行きます。


……奥に、何かが居る気配を感じました。


――ガリリッ…!ガリガリッ…!ガリリリッ…!


「…ようやっと、面白くなって来た…!」


眠た気だったルフィの黒い瞳の中に、好奇心の光が宿ります。

行く手に待ち受けるは如何なる怪物か、はたまた亡霊か。(←決定事項らしい)

唾をゴクリと呑み込み、逸る気持ちを抑えて、ルフィは気配のする方へゆっくりと近付いて行きました。




その9へ続】
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魔女の瞳はにゃんこの目・1―その7―

2010年07月18日 14時53分16秒 | 魔女にゃん(ワンピ長編)






「幽霊やしきィィ!?ここって幽霊出んのかァァ!?おんもしろそォォ~♪…で?どんな幽霊出んだ!?」
「教会って…さっきは教会じゃねェって言ったじゃねェか。それに『魔女が建てた』っつうのはどういう意味だよ??」
「何ィ!?ここ、お前が建てた教会なのかァ!?」
「違うわよ!!こんなもん建てる程信心深く生きてやしないわ!!」
「じゃ、誰が建てたんだァ~?」
「結局教会なのか、そうじゃねェのか、どっちなんだよ?」
「どんな幽霊出んだ!?早く教えてくれよ!なァ~~!!」
「だああ~もう~うっさァァい!!!質問が有るなら1人1個づつ、挙手してから言え!!」


矢継ぎ早に2人から質問攻めされ、ナミは堪らず声を荒げました。
その剣幕に圧され黙りこくった2人でしたが、暫くしてルフィが言いつけ通り「はい!」と声出して、ナミに向い手を挙げました。


「はい、ルフィ君どうぞ!」


教鞭代りに箒を差向け、ナミが発言を許可します。
そのままルフィの目前でクルクル回転させると、箒は忽ち消え去ってしまいました。


「うおぅっっ!?すっげェ!!!ほうきが消えちまったァァ!!!」
「し・つ・も・ん・は!?」

「…あ!そか!…え~と、ここはナミが建てた教会なのかー?」
「だから違うって!!…言伝えによると、私が産れる以前に生きてた魔女が建てたらしいわ。その魔女の名前が『アン・ヴォーレイ』。」
「へー、だから『アン・ヴォーレイの館』って呼ばれてんのかァ~!」

「…その言伝えが真実なら、少なくとも千年は前に建てられた物って訳か?…どうりで古めかしい筈だな。で、教会なのに『教会でない』ってェのは?」
「質問は手を挙げて致しましょう!」
「んだよ、偉そうに…へェい!」


舌打ちし、渋々ながら、ゾロも手を挙げました。


「はい、ゾロ君どうぞ!」

「…何で『教会でない』んですかァ?」
「教会側の定めてる教義に反した造りになってるから。」
「教義に反した造り?どういう意味だ??」
「質問は1人1個づつ!再度質問したい場合は、改めて挙手するように!」

「…っったく何様だっつのっっ!!!……はい!何処が教義に反してんだよ!?」

「今は夜だから人間の目じゃ視認出来ないだろうけど、先ず屋根天辺の十字架が逆様に取り付けられてる。それに…」


ゾロが呟く悪態を聞き流しながら、建物にランプをかざして、ナミは説明して行きます。
月と星とランプの明りしか無い深夜でありながら、その禍々しい漆黒のシルエットははっきりと感じ取れました。


「…ルフィ、正面扉への階段、何段有るか数えてみてくれる?」
「おう!良いぞ!」


ナミに命令され、ルフィは正面扉へと続く階段を、1段1段数え上げながら登って行きました。


「…10!…11!…12!…13!!13段有ったぞー!!!」


最上段から見下ろし大声で回答するルフィ。
それを聞いてナミは頷くと、隣に立つゾロに「納得行けたか」と、目配せして尋ねました。


「階段だけでなく窓も、シャンデリアの燭台も、禁忌の数である『13』。そして礼拝堂に祀られてるのは、この国の教会にとって異端の女神。」

「確かに……教会が唱える教義からは、著しく外れてるな。」

「ま、そいった外観から異端者が建てた教会=『魔女が建てた教会』だっつう噂が立てられた訳。」

「お~~~~い、ナミィ~~~~!!この扉開けて中入っても良いかァ~~~~!?」


先に扉前まで来たルフィが、階下に居るナミに伺って来ました。
中から漏れる冒険の匂いを嗅ぎ付け、体が疼いて仕方ないといった声色です。


「良いわよォ!!但し、極力慎重に、ゆっくり押して開いて!!また馬鹿力出して崩壊寸前の建物に止めを刺さないでよね!!」


ナミに釘を刺され、ルフィは錆びた青銅の扉を、両手でゆっくりと押して行きました。

ギィ…ギィ…ギギギィィ……!!と、耳障りな音を響かせて、重厚な扉が左右に少しづつ開いて行きます。
次第に広がっていく隙間から、長く閉じ込められすっかり重たく淀んだ空気が、一気に溢れ出て来ました。

まるで冷たい死人の手で撫で回される様な感触を全身に浴びて…3人は思わず戦慄しました。




礼拝堂の中は、外より一層深い闇色に塗り込められていました。
扉を閉めて中に入れば、目の前居る筈の仲間の顔が全く見えません。
明り無くして1歩も進めない中、3人はナミの持ってるランプを中心に、一塊になって立ち竦んでいました。


「…ってか、どうして人数分ランプ用意して来なかったんだよ!?不便じゃねーか!!」


ルフィがナミに不満を零します。


「人数分用意したら、あんた達勝手に行動してバラバラになっちゃうかもと危惧したからよ。」
「へェ、中々鋭い読みじゃねェか。」


既に自分達の行動を読み切ってるナミに、ゾロは妙に感心してしまいました。
ランプを掲げて、ナミが周囲をぐるりと照らして行きます。

簡素な白い石造りの、古めかしい小さな礼拝堂。
天井には13の燭台が拵えてある鉄製のシャンデリアが、蜘蛛の巣塗れになってぶら下がっています。
正面には大理石の祭壇、後ろの壁には一際目立つ大きなステンドグラスの窓。
赤青黄緑紫五色の硝子を嵌め込んであるそれは、麗しい女神の姿をしていました。

女神は手に何かを持つ様な仕草をして立っています。
しかしその持った箇所には、ただぽっかりと丸い穴が開いてるだけで、外の月明りが薄く一筋射し込んでいました。

女神の描かれた窓の周りには、12枚の小さなステンドグラスの窓が取り付けられています。
女神の窓同様、五色の硝子を嵌め込み表されているのは十二月の花。

…ランプの光がステンドグラスに反射して五色に変り、礼拝堂の暗闇に幻想的な花が幾つも浮びました。


「……綺麗な絵だなーー……真ん中の…あれ、誰だー?」

「…多分、『月の女神』だわ。…だとすれば、謎は全て解ける!…ルフィ、あんたの持ってる鏡を貸して!」


ナミに言われて、ルフィは自分の被ってる麦藁帽子の中から、件の魔鏡を取り出しました。

鏡を渡されるとナミは裏にランプをかざして、刻まれてる文字をゆっくりと朗読して行きます。




昼は貞淑
夕は憂鬱
夜は魔女


…この3つの文章は、全て『月の女神』を表してる。
月の女神は朝・昼・夜と、3つの顔を持つと言われてるの。

昼は貞淑な処女神、『アルテミス』。
夕は手に入らぬ愛を哀しむ憂鬱な女神、『セレーネー』。
夜は冥府を統べる恐怖の魔女、『ヘカテー』。


…つまり、鏡に隠された答えは『月』…そして月は夜に浮かぶ物…夜に月の女神が居わす場所は地下の冥府。

窓に開いた丸い穴から、月光が漏れて床を照らしてるでしょ?恐らく宝は地下に…




説明しながらナミは、薄ぼんやりと蒼白い光に照らされてる石の床を窺いました。
雪の様に堆く積った埃を木靴で払い除け、そのままコンコン!!と堅い爪先で思い切り叩いてみます。

舞上った埃が黴臭い嫌な匂いを撒き散らしました。


「…考えた通りね。床下に大きな空洞が在るみたい。宝はきっとこの下に隠されてるんだわ!」


跳ね返った音を聞き、にんまりと笑うナミ。
静寂に支配された礼拝堂に、彼女を褒め称える拍手と歓声が木霊しました。


「すんげェすんげェ!!!誰も解けなかった謎をあ~っという間に解いちまうなんて、おめェ、本っっ当~にあったま良いんだなァ~~!!!」
「まったく脱帽するぜ!流石は自称世界一賢く物知りな魔女、大したもんだ!」

「ま、ざっとこんなもんよv」


2人に褒めちぎられ、ナミはすっかり気を良くしました。


「やァ~~っぱ魔女って良いよなァ~!魔法使って何でもパパパのパッ!で解っちまうんだからよォ~!」

「聞き捨てならない言い方するわねェ、ルフィ…事有る毎にあんた達、魔女だ魔法だって……言っとくけど、今の推理は魔法使わずにしたんだからね!」


ルフィの言い様にすっかり気を悪くしたナミが、不機嫌を隠さず2人に食って掛かりました。


「その証拠に…見てよ!私の瞳、今は茶色になってるでしょ!?この色になってる時は魔法は使って居らず、言わば普通の人間同様の能力しか無いんだから!」


ランプの灯りを自分の瞳に当て、ナミが指し示して来ます。
言葉通りその瞳の色は、また元の茶色に変っていました。


「あ、本当だ!…点いたり消えたり、まるでロウソクの火みてーだな!」
「燃え尽きる瞬間が1番明るいってか?」
「おちょくってんのかあんたらァ!!?」
「けどよ、最初から魔法使やあ良いじゃねェか。そうすりゃ見ただけで全部解っちまうんだろ?」


然も不思議そうにゾロが尋ねます。


「…視ただけで解っちゃうからこそ、なるべく使いたくないの!特に、こんな曰因縁有りそな古い建物の中では!!悲惨陰惨極まれり歴史まで全て視えて知ってしまうなんて冗談じゃないわ!!」


御免こうむるとばかりに、顔を顰めてナミが答えました。


「そんな事言ってて、突然幽霊に襲われちまったらどーすんだよ!?戦えねーぞ!!」
「どうして私が幽霊と戦わなきゃいけないのよ!!?」
「そういや此処、幽霊屋敷だったんだよな…で、どんな幽霊が出るんだったか?」
「そうだナミ!!幽霊はいつ出て来んだよ!??」
「何よその登場を期待するよな口振りは!??……残念だけど、500年前死んだ人間の亡霊らしいから…今でも出るかは保証出来ないわ。」
「えええーー!!?もう出ねーのかァーー!!?」


心底残念そうなルフィの叫び声が、礼拝堂内に反響しました。


「…500年前迄この館を所有してた『ヘンリー・メイヤーズ』って男が居てね…当時或る美女と婚約中だったけど、式を目前にして、その美女から一方的に婚約を破棄されちゃったんだって。
 ヘンリーは捨てられたショックで気が触れて、その後館に独り閉籠り切りになってしまったの。
 …そして何時しか此処は幽霊屋敷と呼ばれ…噂によると夜中、ヘンリーの彷徨い歩く足音やすすり泣く声が、館中に響き渡るんだって。
 けど、もう500年も経ってんだし…いいかげん成仏してると思うわよ?
 事実未だに出て来る気配すら無いし…。」

「確かに…そんな理由で500年も彷徨ってるとしたら、ちょっと女々し過ぎるよな。」
「出て来てもすんげェ~~弱そうだよなァ~。ちぇ~、つまんねーのォ~!」

「…そんな訳だから、お宝一本に目的絞りましょ!…ルフィ!あんたの怪力で、この床に穴を開けて!」


落胆したムードを吹き飛ばすよう、ナミの明るい声が礼拝堂に響き渡りました。

「よし、任せろ!」と指令を快諾したルフィが、指示された床に跪き、固めた左拳にハァーッと息を吹き掛けます。


「はぁぁぁぁぁぁ…………」

「……ちょ…ちょっとルフィ!?…念の為言っとくけど、くれぐれも力は加減してお願――」

「――破ァァ!!!!!」


ナミの忠告を綺麗に無視し、ルフィは気合諸共渾身の突きを床に叩き付けました。

ドォォン…!!!!!と物凄い衝撃音が地を震わし、床全体にピシピシピシーッと蜘蛛の巣状に亀裂が走って行きます。


――ボゴォォオン…!!!!!!


「馬鹿ァァァァ~~!!!!!だから加減しろって…あんたには学習能力ってもんが無いのォォ~~!!!!?」
「いやァ~~悪ィ悪ィ♪ついノリで本気出しちまった♪」
「てめェもいいかげん、こいつを人類扱いしてんじゃねェよナミ!!!猿だぞこいつ!!同じ事2度3度4度5度と、兎に角飽きず懲りずに繰り返す奴なんだからな!!!!」


凄まじい勢いで崩落する床。

ギャアギャアと喚き罵り合いながら、3人は今宵再び真っ逆様に落下して行くのでした。




その8へ続】
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魔女の瞳はにゃんこの目・1―その6―

2010年07月18日 14時52分13秒 | 魔女にゃん(ワンピ長編)






再度簡単に夕飯を作り直して自分とゾロの空腹を埋めた後、ナミはルフィとゾロを家の外に連れ出しました。


「…ひょっとして、今から山道下って海に出る積りか?」
「あんたらじゃあるまいし…そんな無謀な手段で行きゃしないわよ。」
「じゃ、どうやって行くんだー??」
「これに乗って、飛んで行くの!」


不思議がる2人を前に、ナミは呪文を唱えました。

その瞳は再び闇夜に輝く金色へと変っています。

つるりと宙を撫でたと思った瞬間、身の丈の3倍は有る大きな箒が、ナミの手に握られていました。


「ほ、ほうきに乗って飛んで行くのか!?すっげー!!」
「ちょ、ちょっと何そんなに興奮してんのよルフィ!?」
「昔こいつのお気に入りだった絵本に、箒に乗って空飛ぶ魔女ってのが出て来てな。」
「あんな風に空飛んでみてーって、ずっと憧れてたんだよなー♪♪」

「絵本ねェ…。」


何を見てもしても、心から楽しんでる様子なルフィ。
無邪気に笑うその顔を、ナミは複雑な気持ちで眺め…しかし直ぐに箒に跨ると、続いて2人にも跨る様言いました。

ナミの後ろにはルフィ、ルフィの後ろにはゾロ。


「一気に上空まで飛ぶから、2人ともしっかり箒に掴まっててよ!」

「おう!解った!!」


振り向き、直列に跨る2人にナミは注意します。
その注意を聞き、ルフィはナミの腰に手を回して、しっかりと掴まりました。

「…って何処掴まってんのよスケベ!!!」


――パコーン!!!


「い痛ェェ~!!!お前がしっかり掴まってろっつったのに、何で頭殴んだよー!??」
「私は『箒に掴まれ』っつったの!!!気安く人の体触ってんじゃないわよ馬鹿ガキ!!!」
「何だとクソババァ~!!!」
「クソババァですって!!?私の何処見てクソババァだっつうのよ!!?」
「別に胸に掴まるとかじゃなけりゃ良いじゃねェか。腰に掴まった方が安定するし。俺もそうしたい。」
「あんたはルフィの胸でも首でも好きなトコ掴まってれば良いわ!けど!!ルフィは私の体に触れないで!!…今度触れたら1万m上空から突落すわよ!!」
「何だよそれェ~!?わっかんねーなァ~!!」
「潔癖症なんだろ、きっと。」
「うっさい!!!早く行きたいんだから、黙って箒にしがみ付いてろ!!!」


ナミに怒鳴られ、2人は即座に箒にしがみ付きました。
それを確認してから、ナミはまたブツブツ呪文を唱え出し…地面から足が離れてフワフワ浮き上がったと思った直後――箒は一気に森の上まで飛んでいたのでした。

見上げれば雲は晴れ、覗ける満月、星空。
見下ろせば真っ黒な森、草原、糸の様に細い川。


「……す…す…すっげーなー……本っっ当に空飛んじまってる…すっげー…。」

「……ああ……見晴らし最高だな…。」

「うふふんv恐れ入ったかクソガキども!」


感極まり言葉少なに見惚れている2人。
ナミはそれを見て、然も得意気に胸を反らしました。


「な!な!もっと高く飛べねーの!?雲より高くまで飛んでみてくれよォ~!!」


上空ぽっかりと漂う雲を指しながらルフィが言います。


「飛べるけどねェ…あんまし高くまで飛ぶと空気薄くなるし、寒くなるから止めておいた方が良いわよ。下手すりゃ凍死しちゃうわ。」

「……そういや、急に寒くなって来たな。」


上着を合せ、なるたけ身を縮込ませながらゾロが言いました。
冷たい追い風の中、滑る様に飛んで行く箒。
手や顔はかじかみ、冷気は容赦無く服の隙間に入り込んで来ます。


「森の外に出たからよ。あのオレンジの森は、私の魔法で通年初夏だけど、外界は今、冬だもの。しかも地表から300m上空を飛んでて…おまけに、あんた達、そんな穴ボコだらけの服着てるし。」


後ろに居るルフィとゾロをちらりと見て、ナミは言いました。


「…そういやあ俺達の服、何でこんなボロボロになってんだろな??」
「あ!俺もさっきからゾロにそれ聞こうと思ってた!!知らない内に穴だらけなっちまってんだもんなー!」
「あんた達、川岸で倒れてた時、烏に散々突かれ捲ってたじゃない!!…記憶に無いの!?」


首を傾げて不審がる2人に、ナミは心底呆れて言いました。


「えええ!!?俺達カラスに突かれてたのかァ~!!?ちっとも気が付かなかったぜ!!!」
「そうか、これは烏に突かれた跡だったのか。…てっきり虫にでも喰われたのかと。」
「後1日でも私の発見が遅れてたら、あんた達今頃『鳥葬』なってたわよ。まったく人んちの庭で傍迷惑な…。」
「さっみィ~~!!マジ凍えて鼻水出る…!!」
「我慢なさい!…後4時間もすれば到着するから!」
「げっっ!!?まだ4時間も掛かるのか!!?もっと早くすっ飛ばせねーのかよ!??」
「そんな事したら本当に死んじゃうわよ。あんた達の身を考えて、速度抑えてやってんだから、感謝しなさいよね!」


ナミに突っぱねられ不満気に口を尖らすも、渋々引下るルフィ…彼の目に、彼女の羽織る暖かそうな黒のフード付毛織マントが、風を受けてバタバタはためいてる様が入って来ました。


「……そーいやナミ…お前はあんま寒そうじゃねーよなー……。」
「私?…うん、マント着てるからね。」


ルフィの問いに、ナミは素直に答えます。


「…良いなー…あったかそうだよなー…。」
「良いでしょーvも、すんごいあったかいわよォ~v」
「なー…ちょっと背中に手ェ突っ込んでも良いかァ~?」
「良い訳無いでしょこのボケガキ!!!」
「ちょっとだけ!ちょっとだけだって!!マジ凍えそうなんだもんよ!!良いじゃんか、なァ~~!!」
「やっっ!…ちょっっ!止めっっ!!本気で止めてったらっっ!!…私に触れるなっつったでしょうがセクハラ小僧~!!!」
「いいかげんにしろお前ら!!!高所で暴れてんじゃねェよ!!!箒がグラグラ揺れて危ねェだろが!!!」


拒絶されても尚、背中に手を突っ込もうと粘るルフィ。
その手を必死で払い避けるナミ。
飛行中すったもんだと揉める2人を、ゾロが叱責しました。




何時の間にか、細長い糸の様に見えてた川は、大河に変っていました。
下流に広がる港町の上を飛び海まで出ると、箒は高度を下げ、低空飛行で進んで行きました。
満月に照らされた夜の海は、波だけが反射して白く光っています。
更に海面近くまで下りると、波の上、バシャバシャと跳ねて銀色に輝く群れが見えました。


「魚だ!!魚の群れだ!!すっげェ~!!魚が飛んでるトコ、俺、初めて見た!!」
「俺もだ…どうやらこの海域には、魚がうじゃうじゃ居るみたいだな。」
「網持ってくりゃ良かったなァ~、したら大漁だったのに!」
「満月の夜には、魚が海面まで出て跳ねるの。魚だけでなく生物全てに、月は不思議な活力をくれるのよ。」


煌々と照る月の下、3人の乗った箒は、夜の海を越えて行きました。

陸地に入ると、箒は再び高度を上げ、海岸から続く丘陵地帯を見下ろしながら飛んで行きます。


「…そろそろね。私の記憶通りだと、後数十分ってトコかしら。」
「そう願いてェな…5時間近くも箒に乗ってて、いいかげんケツが痛くって仕方ねェ。」
「でも良いよなァ~魔女って!魔法でパパッと何でも出来る!ほうきに乗って何処までだって行ける!…俺も魔法使えたらなァ~。きっと毎日楽しくって仕方ねーだろうなァ~。」

「……そんな大して楽しくもないわよ。」


羨ましくって仕方ないといったルフィの言葉に、ナミは冷めた調子で呟きました。


「な!今までどんだけの国廻ったんだ!?っつか行ってねー所なんて無いんだろ!?何処が1番楽しかったか!?最近行ったのは何処なんだよ!?」

「…確かに…殆どの国廻ってはいるけど…最近は何処も廻ってないわ…500年くらい前から、閉籠りっきりだったから…。」
「500年もォ!!?あそこにかァァ!!?何で!?どうして!?独りで閉籠ってたってさびしーし、つまんねーじゃん!!」
「別に外出ても楽しい事無いって気付いたからよ!森の中で大体の用事は済むし、生きてくのにも困んないし、特に寂しくもつまんなくも思った事なんて無いわ!」
「何言ってんだお前!?何時までもおんなじトコ居たってあきるだけだろ!?外出りゃ知らねーもん見たり聞いたりしたり出来るんだ!楽しい事だらけじゃねーか!!」
「見たり聞いたりなんて家の中居たって出来るわよ!!言ったでしょ!?私に知らない事なんて何も無いって!!居ながらにして視る目と聴く耳が有るなら、外に出る必要なんて無いじゃない!!」
「お前なァ~~~~!知ってるか?そーゆーの…モチ…モチ…モチ…?――おいゾロ、こーゆー時、モチ何て言うんだっけか??」


クルンと首を回して、ルフィは背後のゾロに聞きました。


「『宝の持ち腐れ』って言いたいのか?」
「そう!それだ!!宝にとっといたモチくさらせちまうんだ!!つまりすっげーもったいねー事してるバカだっつうんだよお前は!!」

「……言わせておけば言いたい放題このガキャァァ~~~…何も知らない解んないクセして偉そうに説教垂れてんじゃないわよ!!!!閉籠って目や耳塞いでても見えたり聞えたりしちゃうのよ!?そんな力持ってホイホイ外出たらどうなるか…あんたに私の気持ちが解るか馬鹿ァァ~~!!!!」

「…取り込み中済まねェけど、一言良いか?」
「何よゾロ!!!?」

「さっきから俺達落下中なんだが…この上なく。」

「「え??」」


ゾロの言葉に、ルフィの襟首絞め付け怒鳴っていたナミが恐る恐る下を見ると――自分達を残して真っ逆様に落ちて行く箒の姿が在りました。


「いぃやあぁぁ~~~~~~~~~!!!!!!」
「ぎぃやあぁぁ~~~~~~~~~!!!!!!」
「うぅわあぁぁ~~~~~~~~~!!!!!!」


箒の後を追って悲鳴と共に垂直落下して行く3人――森に激突する寸でで、ナミは箒を呼び戻し、2人を宙で拾って、何とか体勢を立て直しました。


「あーーーーー………危なかった…!!」


安堵の溜息吐いて、ナミが言いました。


「………死ぬかと思ったぜ。」


冷や汗拭いつつ、ゾロが言いました。


「いや~~~~、スリル有ったよなァ~~~!!」


ナミの腰にしがみ付いて、ルフィが言いました。


――スカーン!!!!


「い痛ェェ~~!!!…お前さっきから何べん人の頭殴りゃあ気が済むんだよ!!?」
「あんたこそ人の体に触れるなって何遍言えば解るのよ!!?セクハラチビ!!!」
「俺よりおめェの方がチビじゃねーか!!良いだろ腰くれェ!!!ケチケチすんなドケチババァ!!!」
「誰がチビでドケチ婆ァだ!!?あんま図に乗ってるとほんっっとに1万m上空から突落すわよチビクロ頭!!!」
「だからいいかげんにしろっての2人とも!!!また落下してェのかよ!!?ったく!!!」


ギャアギャア喚く3人を乗せ、箒は森の上を過ぎ、崖っぷちに寂しく建つ廃墟の前までやって来ました。

風が周囲の草原を吹き抜けて、ザワザワと不気味な音を立てています。

闇の中ぽつんと建つ、うらぶれた教会の様な建物。

箒から降り、ランプを当てて壁を見れば……それは石造りで、表面はすっかりひび割れ、所々崩れ落ちてすらいました。


「……何か…幽霊屋敷みてーだな。」
「…ちょっと不気味だな。」
「みたいじゃなくて、幽霊屋敷として名を馳せてる所なの。」


闇より暗い影を草原に落す建物。

その異様さを見上げて呟くルフィとゾロに、ナミは厳しい顔して答えました。


「此処がお探しの『アン・ヴォーレィの館』…魔女が建てた教会と伝えられてる場所よ。」




その7へ続】
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魔女の瞳はにゃんこの目・1―その5―

2010年07月18日 14時51分09秒 | 魔女にゃん(ワンピ長編)






一見お菓子の家だけど、その実体は蜜蝋細工のイミテーション。
夢が有るよで無いよな建物の中味は、これまた見るだけならメルヘン調で、大変可愛らしい物でした。

チョコレートでコーティングされた様な天井、柱は紅白2色の捩りキャンディー。
真っ白クリーム掛けの壁には、形様々なクッキーがタイルの様に貼り付いています。
窓際に置かれたテーブルと椅子は、バームクーヘンで出来てる様でした。


「…でも全部、ロウや木で出来た偽物なんだよなァ~。」


テーブルに突っ伏したルフィがぼやきます。


「正真正銘『絵に描いた餅』…腹減らしてる人間にとっちゃ、拷問部屋だぜ。」


同じく突っ伏したゾロがぼやきます。
並んだ2人の腹の虫が、ひっきり無くデュエットを奏でていました。


「ちょっとした遊び心よ。可愛いでしょv」


家に案内されてから1時間と半分後、ナミは漸く焼き上がったオレンジタルトと、それにオムレツオレンジソース掛け、オレンジサラダにオレンジスープといった、オレンジフルコース料理をお盆に満載して持って来ました。


「はい、お待たせ~!どれも出来たて熱々だから、舌火傷しないよう気を付けてよ!」
「うっは!!!やったやった!!!ようやっと食えるゥ~~♪♪」


待ちくたびれ死人の様にぐったりしていたルフィでしたが、目の前にホカホカと湯気の立つ料理が運ばれて来ると途端に跳ね起き、嬉々とした顔でテーブルに並べられてく様を目で追いました。
タルト表面を覆ってる、オレンジスライスの甘く芳ばしい匂いを嗅ぐと、もういてもたっても居られません。
すかさず手で掴み、口いっぱいに頬張りました。


「ぶわぢィィ~~!!!!あひィ!!あひィ!!…ひ、ひは、ひゃへほひは…!!」
「馬鹿!!!だから言ったでしょ!!熱々だから気を付けろって!!!ほんっと人の話聞かない大馬鹿者だわね!!!」
「はっへほォ~!ひっはひはんははほっへほはふふはふはっはんはへェ~!」


舌を火傷し涙目になりつつも、それでもへこたれずにルフィはタルトを食べ続けます。
いっそ呑み込む様な速さで平らげると、今度はオムレツに手を伸ばしました。


「おまけに蜂蜜の匂いプンプンさしてる部屋に通され、待たされる事1時間半だしな。」
「さっき人んちのオレンジ、山程食ってたじゃないのさ、あんた達!」
「ふっほひはふっへへーほ!へんへんはんへェ!」
「俺なんか3個だ。悲惨なもんだろ?」
「はいはいほー!ほはへはひょはほ!?はほーへははっほはんはんひはひはひへひへーほはほ!?」
「ルフィの言う通りだ。魔法使ってちゃちゃっと調理出来なかったのか?」
「出来たけど、やらなかったの。」
「何でだよ!!?」
「あんまり魔法使いたくないから。」
「何だそりゃ!??」
「ポリシーよ!放っといて!!……そんな事より、私に解いて欲しい謎って何?」


オレンジサラダを突きつつ、ナミは正面座る2人に話を向けます。


「ほう!!ひふはほへほはふっへふふひははほうひひはふはへへははほはんはへほは!!…ほほほうひ、はんふふっへはふひほはっはんはへほ、ふはひへんはははひははひっへ…」
「…ってあんたねェ!!!喋るか食べるかどっちかにしなさいよォ!!!っつか真面目に相談する気有る訳ェ!!?」
「ほーはへーはほ!ははへっへんははは!!」


ナミの苦情を馬耳東風と聞き流し、ルフィは喋りながら大きなオムレツをも平らげてしまいました。


「仕方ねェ、俺が代って話す。…ルフィ、その帽子借りるぞ。」


オレンジスープをジュルジュルと啜るルフィの首から帽子を外すと、ゾロは裏側を探りました。
そして編込んである中から、顔が隠れるくらいの大きさした丸い金属板を取り出し、ナミの眼前に突き出したのです。


「ほら、これ…この銅鏡についてなんだけどな。」


――スカーン!!!


「痛ェェ!!!!…な、何でいきなり人の頭ゲンコで殴りやがんだよ!!?」
「魔女に鏡向けるな!!!!!下手すりゃ消滅しちゃうんだからね!!!!!」


グーで殴られ憤慨するゾロを、ナミはそれを上回る烈火の如き怒りの形相で睨み返しました。


「へェ~!はほっへははひははふへんはっはほはァ~!」
「そういや爺さん言ってたなァ…魔女は鏡に映ると、姿吸われて閉じ込められちまうって…。」
「知ってたんなら向けるな!!!!ボケ芝生頭!!!!」
「…わ、悪ィ!うっかり忘れちまってた!!…しかし弱ったな…鏡が見られないんじゃ、宝の在り処を調べて貰いようが無ェ…。」

「…宝の在り処!?」


ゾロの呟きに、ナミの瞳がキラリと光りました。


「ちょっとその鏡見せて!」
「鏡見たら消滅しちまうんじゃなかったのか?」
「大丈夫!合せ鏡じゃなけりゃ消滅しないから!」
「…だったら殴るまで神経尖らす必要無ェだろが。」
「消滅しなくても鏡は嫌いなの!!姿が映んないから!!」
「へー!はほっへははひひふははふふんへーほは!?ほんほひへー!」
「けどそれじゃ、自分の顔とか見る時どうすんだ?困んじゃねェの?」
「毎日水鏡で見てるわよ。人間の造った物でなけりゃ映るもの。…そんな事より、その鏡についてもっと話を聞かせて!出所は!?帽子の中から取り出してたけど、元からそこに入ってた物なの!?」
「何だよ??急に乗り気になりやがって……まァ、いいか。」


豹変したナミの態度を訝りながらも、ゾロは鏡について由来を話し出しました。




俺とルフィは所謂『孤児』でな。
物心つく前から親が居なくて、孤児院に入れられてた。
そんで俺が5歳、ルフィが3歳の時…俺は今居る村で剣道の師範をしている人に、ルフィも同じ村の『シャンクス』って人に引き取られて育てて貰ったんだ。

所が1年前、そのシャンクスが行方不明になっちまった。
職業柄以前から家を空けてる事が多かった人だが、1年間もルフィに何も言って来ないなんてのは今迄無かった。

探すとして手懸りはただ1つ…消息を絶つ直前、ルフィに「これは宝の在り処を示す物だ」と言い残し渡した、麦藁帽子のみだ。

そして帽子の中には、その鏡が入れられていた。




「…成る程……あの、トレジャーハンター、シャンクスの残した『宝』、か…。」
「ほはへ、はんふふひっへんほは!?」
「世界的に有名なトレジャーハンターだもん。子供だって知ってるわ。」


ゾロから渡された銅鏡を、ナミはためつすがめつ眺めました。
表面は丹念に磨かれていて、普通の鏡と何ら変る所無く見えます。
そこに自分の顔は映らなくとも、テーブルや背後の椅子は映っていました。

裏面には3つの文が掘られています。


昼は貞淑
夕は憂鬱
夜は魔女


…それ以外の細工は見当たりませんでした。


「成る程……魔鏡ね。」

「見ただけで解るとは、流石だな。」

「『鏡に隠されてる』と聞けば、大抵は察せられるわよ。恐らく裏面が二重構造になっていて、そこに何か掘られているわね。」


話しながらナミは、テーブルに置いてた瓢箪ランプを持って席を立ち、リビングと寝室を仕切る白いカーテンの前まで行きました。

ランプの中には火ではなく、不思議な蒼い光を放つ石が入れられています。
その光を鏡の裏面に当てると――白いカーテンに教会の様な建物の映像が、薄ぼんやりと映りました。


「爺さんが解けたのはそこまで。裏面有る文の意味も謎だ。その教会が何なのか?何処に在るのか?…オレンジの森に居る魔女なら知ってるだろうってな。」

「……ええ、確かに知ってるわ……『アン・ヴォーレィの館』、教会の様に見えるだろうけど、教会じゃない。…そのお爺さんが知らなくて当然ね。この国には無い…隣国とはいえ、海1つ越えて行かなきゃならない所に在るんだもの。」


応答しつつナミは、窓から外の様子を伺います。

窓から漏れる光に照らされ、周囲に植わるオレンジの枝葉が、風で穏やかに靡く様子が見えました。


「へェ、教会じゃねェのか?…屋根の上に十字架が取り付けてある様見えたんで、てっきりそうだと思ったんだがな。」


――風向良好、風力良好、加えて満月……飛んで行くには絶好だわね。


「それにしても海1つ越えてかなきゃならねェとは……船用意しねェとなァァ…。」
「ねェ!宝を見付けたとして、当然山分けよね!?」

「んあ?」

「1/3の取分約束してくれんなら、館の在る場所まで連れてってあげるv」


そう言うと、ナミはにっこり笑って、ゾロに向いウィンクしました。


「…まァ、協力してくれるっつうなら山分けすんのが当然だよな……ルフィもそれで良いか?」


ゾロは隣で鍋に顔を突込みスープを啜ってるルフィに話を向けました。


「………っっおう!!ひいぞ!!…宝も勿論だけど、第一に俺はシャンクスの居所を知りてェ!!そこに行けばきっと何かヒントが掴めんじゃねーかと思うんだ!!だから……頼む!連れてってくれ!!」


鍋を抱えたままルフィはカーテンの映像をじっと見据え、そしてナミに向い真剣な顔で頼んで来ました。


「…OK!じゃ、交渉も済んだ事だし、さっさと食事済ましてって――私の分が無ァァい!!!!?」
「俺の分も無ェ!!!!――てめっっ!!ルフィ!!!道理でさっきから大人しいと思えばっっ!!!」


テーブルの上には空っぽの器のみ。
中味は全てルフィによって、綺麗に平らげてありました。


「ルゥゥフィィィィ!!!あんた、どうしてそんな意地汚いのよっっ!!?人の食い物に手を出してはいけませんって教わって来なかったのォ~~!!?」
「しょーがねーだろ、腹減ってたんだから。」
「しょうがなくない!!!まったく、親の顔が見たいわよ!!!」
「そりゃ無理だって!こいつ親居ねェし!」
「そうゆう事言ってんじゃない!!!…ああもう切れた!!マジ切れだわ!!あんた達の取分無!!オール私!!これで決まり!!!」
「どうしてそうなんだよ!!?取るんならルフィの分までにしとけよな!!!」
「ううっっ!!?ゾロひっでェ!!!それでも親友かよ!!?薄情だなー!!!」
「煩ェ!!!親友のメシぶん取るような奴に薄情呼ばわりされる筋合いは無ェ!!!」
「そうよ!!!お腹空かしてるトコ助けた恩人の飯まで奪うなんて人として最っっ低!!!」
「何で一致団結して責めるんだよー!!?俺そんな悪い事したかァー!!?」

「「したわ!!!!」」


気に恐ろしきは食い物の恨み。

ゾロとナミは奇妙に意気投合し、ルフィを非難したのでした。




その6へ続】
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魔女の瞳はにゃんこの目・1―その4―

2010年07月18日 14時50分00秒 | 魔女にゃん(ワンピ長編)






「……お前が…俺達の探してた魔女ォォ~~!!?」

「全てを見通し、全てを聞き知ってるって、噂のかァ!?」

「ええ、そうよ!」


2人の質問に、ナミは背中を反らして、得意気に答えます。


「「ウソでェ~~!!!」」

「嘘とは何よ!?失礼ねェ!!!」

「だってよォ!俺達が聞いてた魔女の特ちょうと、お前、全っ然違うんだもんなァ!

 じいさん言ってたんだ!!


 魔女の瞳はにゃんこの目

 闇夜に輝く金の色
  
 空の彼方を
 海の底を
 地の果てを

 心の奥をも見通す力


 …お前の目、何の面白味も無ェ、ただの茶色じゃねーか!!」

「何の面白味も無い色で悪かったわねェ!!!!」

「それに、千年も生きてると聞いた。…おめェ、どう見たってガキじゃねェか。」

「るっさい!!ガキにガキ呼ばわりされる筋合い無いわよ!!」


ルフィの言う通り、ナミの瞳は明るい茶色をしていました。
そしてゾロの言う通り、2人と同い年…精々12歳くらいにしか見えませんでした。

艶々オレンジ色したショート・ヘアー。
明るい茶色の円らな瞳。
飾り気の無い黒の半袖ワンピース。
オレンジ色の胸当て付エプロン。
しなやかに伸びた、健康そうな手足。

何処から見回しても、極々普通の人間…可愛らしい少女でした。


「…いいわ!言っても信じられないなら、証拠を見せたげる!」


そう言うとナミは、傍に立ってる木に触れ、二言三言呪文を唱えました。

すると木に生ってるオレンジ全てが、クルクルと一斉に回り始め、枝から離れてフワリと浮きました。
そうしてナミが提げてる篭の中へ、吸寄せられる様にして入って行きます。
不思議な事に、幾ら入ってっても、零れ落ちたりしませんでした。

1本目が終るとその隣の木に触れ、また同様にして収穫して行きます。

2本目が終ると3本目、3本目が終ると4本目…声も出ない程驚いてる2人を他所に、ナミは快調にオレンジを収穫して行きました。

1時間も経たずに森中全てのオレンジを収穫し終えると、ナミは得意満面で2人の前に戻って来ました。
少し前までオレンジが鈴生りだった枝々は、今では青々とした葉っぱが残るのみです。


「どう?信じられた?」


2人の前にオレンジで満杯の篭を突き出し、ナミはにっこりと笑いました。
その篭をルフィとゾロは、口をポカンと開け見詰ます。

森中のオレンジが入ってった筈なのに、零れるどころか破れもせず。
入ったオレンジは何処に仕舞われてるのか?
一体中はどんな仕組になっているのか?
…不思議で仕方有りませんでした。

「ああ、勿論この篭にも魔法を掛けてあるわ!だから底無しで、幾らでも詰め込める様になってるの!」


2人の視線から疑問の色を感じ、問われるよりも早くナミが答えます。


「………す……す…すっげェェ~~!!!!お前、本当にすっげェェ~~魔女だったんだなァァ~~~!!!!」


瞳真ん丸キラキラに輝かせ、興奮した面持ちでルフィが叫びました。


「お前じゃなくて『ナミ』だってば、ルフィ!!」

「…おい…ナミ……お前、目が…!!」


何度言っても名前を覚えようとしないルフィに苛立ち、目を剥いて怒るナミ。
その目を見たゾロが、驚いて声を上げました。

さっきまで茶色だったナミの瞳が、何時の間にやら金色に変っていたのです。

薄闇に包まれた森の中でそれは、噂通り猫の目の様に輝いて見えました。


「…ああ、これ?私、魔法を使う時は、瞳が金色に変るのよ。」

「……だ、大丈夫なのか…?」

「大丈夫よ。力使わなきゃ、5分もしない内に元に戻るから。」


心配して様子を伺うゾロ。
そんなゾロに、然も大した事じゃないといった風にナミは応えます。

話してる間に、ナミの言った通り、瞳は元の茶色に戻りました。


「すっげー!!!すげすげすっげーなーお前…じゃなくってナミの目!!色がコロコロ変っちまうなんて、おんもしれェ~~♪♪」


瞳の変化を興味津々と見詰ていたルフィは、心底愉快そうに屈託無く笑いました。
その笑顔を横目で睨みながらナミは、「だから人前で使いたくなかったのよ」と、ボソリと呟きました。


「兎に角…これで私が、あんた達の探してた魔女だって…信じてくれたでしょ?」

「おう!!信じた!!メチャクチャ信じたぞ!!」
「…しかしまァ…正体知って拍子抜けっつうか…。」

「それ、どうゆう意味よ、ゾロ?」


ゾロの言葉にそこはかとない落胆を感じ、ナミは口調険しく訊ねました。


「千年も生きてるって聞いて、さぞや海千山千の婆さんだろうと期待して来てみれば…実際には人生経験十年そこらのチビなガキ。頼り甲斐無さそうっつか…。」
「頼り甲斐無さそうとは何よ!?私これでも数えで千歳になるんだからね!!!」

「「げげェェ!!?すっげェェババァァ!!!」」

「何だとォォーーー!!!!?」
「人は見掛けによんねーなー!!」
「まったく…若作りにも程が有るよな。」
「魔女だもの。人間みたく年取ったり、死んだりしないのよ!」

「「へーー。」」


すっかり感心し切った眼差しを向ける2人。
2人の眼差しを心地良く感じながらナミは、一層自信たっぷりに言葉を続けました。


「ま、人生経験千年分持ってる訳だからして、森羅万象津々浦々まで、知らない事は何1つ無いと言っても過言じゃないでしょうねェェ!」
「え!?それじゃ俺とゾロのチンコ、どっちがデカイかまで知ってるのか!?」
「そんなん知るか馬鹿ァァーーー!!!!」
「何だ!知らねー事有んじゃん!」
「失礼な事聞いてんじゃねェよルフィ。千年生きてる婆ァと言えど一応女だぜ。恥らいくらい察してやれって。」
「……あんたも負けず劣らず失礼な奴だわねゾロ……まァいいわ、全く役立たずだったけど、手伝ってくれた御礼に、約束通り家に案内したげるから、付いて来なさいよ2人とも。」
「謎解きしてくれんのか!!?」
「言っとくが金は払えねェぞ?」

「貸しにしといたげるわ。…『破魔の拳を持つ者』に、『魔族の血を吸う妖剣使い』…敵に回すと厄介だものね。」


溜息を吐いて独りごちると、ナミは2人を先導する様、森の奥へと歩き出しました。




夜の帳が降り、すっかり闇に包まれた森の中を、ナミは迷う事無くスイスイと進んで行きます。
風に吹かれる度、ザワザワと鳴るオレンジの枝葉。
程無くして、闇夜にピカピカ光り輝く小さな家が、前方に見えました。

オレンジの森に守られる様にして建つ、1軒の家。

壁は卵色したスポンジケーキ。
屋根の瓦は色取り取りのマーブルチョコ。
煙突は生クリームの掛かったウエハース。
窓は薄く伸ばした氷砂糖。
扉は四角い大きなビスケット。

側まで寄ると、蜂蜜の甘い香りが漂って来ます。

それは、お菓子で出来てる家でした。


「あれが私の家よ!」

「…う…う…美味ほォォ~~~♪♪♪」


一目見た途端、ルフィは滝の如く涎垂らして大喜び。
猛突進して壁に跳び付くと、口を大きく開けて齧ろうとしました。


「いっただっきまァァ~~~す♪♪♪」

「あ!!こら馬鹿っっ!!」


――ガチン!!!!!


「……いってェェ~~!!!!!…ぶえぇっっ!!!ペッ!!ペッッ!!…な、何らこれェ!!?お菓子じゃねェぞ!!?硬くてマジィ!!!ロウ細工のにせもんだっっ!!!」

「…当り前でしょう!?本物のお菓子で作ったら、腐って直ぐ駄目になっちゃうじゃない!あんた、ちょっと夢見過ぎよ、ルフィ!」

「おめェは夢が有んのか無いのか、どっちなんだよナミ!!!?」


変に現実を説くナミに、ゾロのツッコミが掛かりました。




その5へ続】
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魔女の瞳はにゃんこの目・1―その3―

2010年07月18日 14時48分51秒 | 魔女にゃん(ワンピ長編)






その森に植わっているのは、全てオレンジの木でした。

幹の高さは大人の身長の倍。
葉っぱは瑞々しい新緑色。
たわわに実ったオレンジの実が、枝を重たげにしならせています。
陽光受けて艶々と橙に輝くそれは、掌に丁度良く収まりそうな大きさで、とても美味しそうでした。


「美味ほーーvv食いてェ~~~!!!」
「…ちょっと待てよ。今、冬だぜ?何でこんなに葉は青々として、オレンジは鈴生りなんだ??」
「この森には魔法が掛けられてて、1年中初夏の陽気に包まれオレンジが実を付けてる。もいでも1晩でまた新しい実を付けるわ。」
「それも魔女の力か?噂通り凄ェ魔力持ったヤツなんだな。」
「ふふんv大した魔法じゃないわよォv」
「だから何でてめェが得意がるんだよ?」
「この森のオレンジ全部食や良いのか!?お安い御用だぞ♪♪」
「どうしてそんなサービスあんたらにしなきゃなんないのよ!!?頼みたいのはオレンジの収穫!…魔法が掛かってるお陰で、1晩で元通りの鈴生りだから、毎日実をもいでやる必要が有るんだけど…恥しい話、今朝寝坊したせいで仕事が遅れちゃったの。未だ1/8ももげてないわ。丁度良いからあんた達、手伝ってくれない?」
「何で俺達がそんな畑仕事に付合わなきゃいけねェんだよ…?」


魔女の頼み事に、緑頭の少年は渋い顔して見せました。
見回せば未だ沢山のオレンジが木に生っています。
小さな森でも、端から端まで地道にもいでったら、恐らく夜更けまでかかってしまうでしょう。


「せっかく私がもいだオレンジをあんた達、1つしか残さず全部食べちゃったんじゃないのさ!日々の糧を稼ぐ為の大事な出荷物に手を付けたんだから、弁償するのは当り前でしょ!?」
「わ…悪かったよ!腹減ってて見境無くしちまってたんで…!」
「男が言い訳すんな!!みっともない!!」


たじろぐ緑頭少年の面を、魔女はじろりと睨み付け、その広いおでこをペンと叩きました。


「ちゃんと最後まで手伝ってくれたら、お探しの魔女の家まで案内したげるわ!それと、お腹を空かしてる様だから、勿体無くもオレンジパイを焼いて御馳走したげる!」
「オレンジパイィィ!!?ほ、本当かァァ~~!!?――おぅし!!俺1人でいっぺんに終らしてやるから見てろ!!!」
「1人でって…1人でもいで廻ってたら、とても1日で終りゃしないでしょうが!」


鼻息荒く勇まし気に宣言する麦藁少年に、魔女は苦笑いながら応えます。
しかし少年は気に懸けず、傍在る木の幹に両手広げて抱き付くと、渾身の力で揺さ振り出しました。


「ふん…!!!ぬ…ぐおおおおおおああああああああああぁぁ~~~!!!!!」


雄叫びを上げ、真っ赤な顔して揺さ振る少年の頭上から、雨粒みたく大量に葉っぱとオレンジが降って来ました。
太い幹がさながら祭の大団扇の如く、ユッサユッサと揺さ振られています。


「木を揺さ振って実を落とすなんて…なんて怪力なの…!!」
「何せ村1番、いや、国1番てな呼声高いからな!」


落下物を避け、離れた場所で会話する、魔女と緑頭の少年。
常人技とは到底思えぬ様を、魔女は呆気に取られて見詰ました。
ボコボコと頭に当る落下物に構わず、麦藁少年は尚も獣染みた唸り声を上げ、木を揺さ振り続けます。


「ぐああああああああおおおおおおおあああああああぁぁ~~!!!!!」


――スポン!!!!


「――あ。」

「「あ。」」


何とびっくり、あまりの怪力に、木は遂に根っ子から、すっぽりと抜けてしまいました。


「……この……馬鹿ァァーーー!!!!人んちの庭木引っこ抜くなんてどう弁償してくれるっつうのよォォ~~~!!!!?」


引っこ抜いてしまった木を抱え、放心して立ち竦む麦藁少年。
その頭を、魔女は泣きながら、ボカボカ殴り付けました。


「痛っっ!!痛ェ!!!…わ、悪ィ悪ィ♪つい調子に乗っちまって…痛ェェ!!!」
「…まったく不様だぜ、ルフィ。まァ見てな…俺が首尾良くやってやっからよ。」


そう言ってニヒルに笑うと、緑頭の少年は傍に立つ木を前に、身の丈近くも有る2本の刀を、背中から器用に引き抜きました。

右手には黒い柄の刀。
左手には赤い柄の刀。


「…何、あいつ!?ガキのクセして真剣使い!?しかも二刀流!?…上手く振り回せんの!?」
「大丈夫さ!ゾロは村1番、いや、国1番の少年剣士だって呼名が高いしな!」


両手に2本の真剣携え、無言で木と対峙する緑頭の少年。

辺りに異様な緊迫感が満ちて行きました。


「――はァァ…!!!」


気合の叫びと共に飛び上がって一閃二閃…スパパパパン!!!と、耳に心地良い斬撃音が辺りに響いて行きます。

少年が格好良くポーズを決めて着地、カチリと刀を鞘に戻したのを合図に……大量のオレンジがバラバラバラバラ枝ごと落下し、後には根幹だけ残した木が佇んでおりました。


「ふっっ…我ながら見事な剣捌きだぜっっ…!!」

「…って、何格好付けてんのよボケェーーー!!!!」


――スカーン!!!!


「痛ェェ!!!!」


少年の緑頭に、魔女の見事な真空飛び膝蹴りが決まりました。


「枝ごと斬って坊主にしちゃってどうすんのよ!!!?もう台無しじゃない!!!!馬鹿!!!!馬鹿剣士っっ!!!!」
「す…済まねェ!!!考え及んでなかったっっ…!!!」


暫く殴る蹴るを繰返していた魔女でしたが、その内疲れて来たのか、諦め付ける様ふぅっと溜息を吐くと、矛を収めて少年を解放しました。

そして何時の間にか暮れた空を、葉の隙間から覗き見ながら…背後の2人に言葉を投げました。


「…モンキー・D・ルフィ、『破魔の拳を持つ者』…あんた、左掌に『魔を破る方陣』が描かれてるでしょ?」

「いいィィ!!?お前、何で俺の事知ってんだァァ~~~!!!?」


魔女の言葉に麦藁少年は、飛び上らんばかりに驚きました。


「…そして、少年の分際で二刀流の剣士、ロロノア・ゾロ。左手に握る赤い柄の刀は、魔族の血を吸う妖刀『鬼徹』。」

「…お、お前…!!何で…俺や…刀の事まで…!?」


今度は緑頭の少年剣士が、目を剥いて驚きました。


「……何でも何も……あんたら、『力』で視る必要無く、評判高いし…。」

「……なァ、お前…会った時から気になってたんだが……何者なんだ?」
「そうだお前!!ひょっとして俺達の探してる魔女の弟子か何かなんじゃねーのか!?」

「お前じゃないわ。『ナミ』って名前が有んのよ。」


日暮れて森の中は、次第に闇の色が深まって来ました。
どんどん不明瞭になって行く物の輪郭。
吹く風だけは変らずに、オレンジの良い香りを運んで来ます。


「…出来れば力使わずに済ませたかったんだけど…特に人前では…でもこのままじゃ、朝になっても作業終りそうもないし…あんた達はちっとも使えないし…しょうがない、魔法使ってパパッと終らせちゃうか!」


振り返らず、独り言の様に、魔女は喋り続けます。

風に靡く髪はオレンジと同じ、艶々とした橙色で、肩に届くまで伸ばしてありました。


「魔法使うって……お前、魔法使えんのかァーーー!!?」
「マジでお前…その魔女の縁者か何かなのか…!?」

「だからお前じゃなくて『ナミ』だってば!!…まだ気付かないの!?私が、あんた達の探してる、世界一物知りで賢くて可愛い魔女だって事に!」


振り返れば目を見開いて驚く、2人の少年の顔。

自分をまじまじ見詰るルフィとゾロに、ナミはにっこり微笑みました。




その4へ続】
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魔女の瞳はにゃんこの目・1―その2―

2010年07月18日 14時47分28秒 | 魔女にゃん(ワンピ長編)






「村の外れに、何でも見えて何でも知ってる魔女が居るって聞いた!俺達はその魔女を探しに来たんだ!」
「所がどうした訳か道に迷っちまってな…ちゃんと書いて貰った地図通りに道を行ったんだが。」


目を覚ましたゾンビ、もとい少年2人は、川岸に繁る草むらに胡坐を掻き、どうして此処で倒れていたのか、その理由を話し出しました。
話を聞こうと魔女も、2人と向合う様して、前に転がる平たい石の上に腰掛けました。


「あんた達、麓の村の子供?」

「おう!そうだ!」


魔女の質問に、麦藁帽子を被った少年が、元気良く答えます。
襟足まで伸ばした黒髪は、生れてこの方櫛も通した事無さそな程、バサバサのボサボサ。
好奇心の強そうな真ん丸の瞳は、髪と同じ真っ黒々。
左目の下には、下瞼に並行に付いた傷跡。


「なら、村に流れる川を辿って上って行けば、難無く着けた筈でしょうに…ちょっとその地図見せてくれる?」

「おお、これだ。」


今度はその隣の、緑色したイガ栗頭の少年が答え、ズボンのポケットから、小さく折畳んである地図を出して、魔女に渡しました。
広いおでこを露にし、黒髪の少年と比較すると、少しつりがちな茶色の瞳。
真一文字に引き結ばれた唇からは、強靭な意志が見て取れます。
背負った2本の刀は少年の身の丈近くも有り、果して上手く振回せるものなのかと疑問に思えました。


「……別に間違っちゃいないわね。とても丁寧に判り易く書いてある。…これなら猿が見たって着けるだろうに…おかしいわ。」


地図を広げつぶさに確認した魔女は、首を傾げました。
そもそも村からかなり外れてるとはいえ、ただ川を辿って上って行けば良いのですから、地図さえ必要無く着ける筈なのです。


「確かに地図通り、川をたどって行ったんだけどなー。」
「そうそう。したら何故か海みてェに巨大な湖に出ちまって驚いたぜ。見渡す限り水しか見えねェんだもんな。」
「…『海みたい』じゃなくて、ズバリ『海』だったんじゃないの?ひょっとして下ってったんでしょ、あんた達。」
「そうなんだよなー。何時の間にか下っちまってたらしいんだ。んで、あせって道戻ったんだ!」
「『迷ったら振り出し戻れ』って言うしな。…ったら、今度は何故か地図に無い滝に出ちまってな。」
「……通り過ぎてない?それってもしかして通り過ぎてたんじゃない?」
「俺もそう思ったんだ!だから…どうせ川伝いに行けるトコだってんなら、飛び込んで川の流れに乗って行きゃ早いんじゃねーかって考えてな!」
「馬鹿なんだよこいつ!自分がカナヅチだって事、忘れちまってんだから!止める間も無く滝壺飛び込みやがって…しょうがねェから後追い駆けてって、溺れてんの助けて…岸に上った時には、すっかり途方に暮れちまってなァ…。」

「………。」

「村から北に行った所だっつうから、寒い方行きゃ良いんじゃねーかっつったのに、こいつ、右ばっかに進んで、ひたすらグルグル回っちまうし。草原を3日3晩さまよって腹減ったのなんの。…その内、意識がもーろーとした中で…美味そうなにおいが風に乗ってやって来てなァ~。」
「匂いに吸い寄せられる様にして歩いてった所で、力尽きて倒れちまってたらしい…で、今此処にこうして居る訳だ。」

「「おかしいな。本当にどうして道に迷っちまったんだろう??」」

「おかしいのはあんた達の方向感覚だ、馬鹿者共!!」


2人の少年の常軌を逸した行動に、魔女はすっかり呆れてしまいました。


「…で?そんな過酷な冒険してまで、魔女に何を聞きたかった訳?」

「んん?…そういや、おめェ、誰だー?」
「この近所に住んでるヤツか?なら、その魔女の住む家、知らねェか?」


自分に向い質問して来る少年達を前にして、魔女はそこはかとなく威張った風に、腕組んで立上りました。


「知ってるわ!けど、只では教えたげない!」

「…んだよ?まさか…金取る気か?」
「えええー!?金払わないと教えてくんねーのかー!?」
「当ったり前でしょ!!今の時代、情報は『金』よ!!」
「つってもなー…金なんて俺、1ベリーも持って来てねーし…。」
「俺も手持ち金、0だ。」
「呆れた!2人揃って無一文なんて!…話になんないわ。とっとと此処から立ち去って、お家に帰るのね!」
「ちょっっ!!ちょっっ!!ちょっと待てよ!!!金は今度必ず持って来っから教えてくれよ!!!絶対に聞かなきゃなんねー事なんだ!!」
「帰りたくったって、道判んねェんだから帰れる訳無ェじゃねェか!!!」


くるりんと回れ右をしてその場から離れようとする魔女を、2人の少年は慌てて引き止めました。
しかし魔女は全く無視して、草むらに1つだけ残されてたオレンジを拾い篭に入れると、岸から離れてスタスタと森に戻ろうとします。

戻る途中でふと足を止め…ちらりと振返りこう言いました。


「言っとくけど…その魔女に聞くのにだって、お金必要なんだからね!」
「ええええ~~!!?その魔女もお前と同じケチなのかァ~~~!!?」
「そういや爺さん話してたな…世界一物知りで賢い魔女だが、世界一がめつくって守銭奴な魔女でもあるって。」
「誰がケチでがめつくって守銭奴なのよっっ!!!!?」
「何でてめェが怒んだよ?」
「なァ~~頼むよォ~~!!村1番の物知りじいさんでも解けなかった謎なんだ!!もうその魔女だけが頼りなんだって!!家知ってんなら教えてくれよォォ~~~!!」


足を止めた魔女の周りを回りながら、麦藁被った少年はひたすら懇願して来ます。
腕を引張ったり、髪を引張ったり、スカートの裾を引張ったり…あまりにも鬱陶しく纏わり付かれ、遂に魔女は根負けしてしまいました。


「解ったわよ!教えてあげる!!……ただし、金が払えないなら、その分労働力提供して貰うわよ!」

「「労働力??」」


訝しがる2人の少年を連れて、魔女は森の中へと入って行きました。




その3へ続】
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魔女の瞳はにゃんこの目・1―その1―

2010年07月18日 14時45分41秒 | 魔女にゃん(ワンピ長編)
魔女の瞳はにゃんこの目

空の彼方を
海の底を
地の果てを

心の奥をも見通す力




【魔女の瞳はにゃんこの目】




或る小さな国に、1人の偉大な魔女が居りました。
世界中の何もかも知り、世界中の誰よりも愛らしい魔女でした。(←自己申告)


小さな国の外れの小さな村の、そのまた外れの小さなオレンジの森の奥。
魔女はそこに千年もの長い間、たった独りで住んでいました。




或る日の昼下がり、魔女が森を見廻りながら、オレンジをもいでいた時の事です。
森の外れから、烏達の喧しく鳴く声が聞えて来ました。

何事かと声のする方へ駆け寄ってみると、森外れに流れる小川の岸辺に、黒く蠢く小山が2つ見えます。
薄気味悪くも目を凝らして見れば、黒く蠢く2つの小山は烏の群れでした。
ギャアギャア騒ぎながら烏達は、鋭く黒い嘴でもって、我先にと何かを突いています。


突かれてるそれは……どうやら、2体の死体の様でありました。


『まあ!行き倒れの死体だわ!!…可哀想に、早く埋めてあげなきゃ!!』


物知りで愛らしいだけでなく、その魔女は大層優しかったので(←自己申告)、死体に集っていた烏達を、落ちていた枝でしっしっと追い払いました。
追い払われた烏達は、上空を暫く口惜し気に飛び回っていましたが、リーダーと思しき1羽が「カァ!」と鳴いたのを合図に、一斉に空高く飛び去って行きました。


静寂の戻った岸辺に、穏やかな空気が流れました。

雲間から零れた光が、残された2体の死体を照らし出します。

草むらにうつ伏せで倒れてる2体は、どちらも自分と同じくらいの背格好…恐らく年齢12歳程。
散々烏に突かれたお陰で服はボロボロ、一層哀れさを醸していました。

1人は赤チョッキに赤ズボン、麦藁帽子を被った、黒髪バサボサの少年。
もう1人は緑チョッキに緑ズボン、短髪イガ栗頭まで緑色の、大きな刀を2本も背負った少年。

ゴロリと転がるそれらを見詰めて魔女は、途方に暮れた様に溜息を吐きました。


『…よりによって2体も行き倒れてるなんて運が悪いわ。せめて1体だけならまだマシだったのに…そもそもコイツら、何でこんなトコまで来てゴロンと行き倒れてる訳?恐らく近所の村の人間だろうけど…傍迷惑な!…どうしよう?村まで引き摺ってって、家探して渡すのも面倒だし…かといって放っぽっておくのも体裁悪いわ……やっぱりオレンジの森に埋めて、肥料にしちゃうのが1番よね。』


思いあぐねた末、心優しい魔女は(←自己申告)、森に埋めて葬ってあげる事に決めました。


『決めたからには早く埋めてしまおう…でないと腐って気持ち悪くなっちゃうし。』


長閑な岸辺に無残に転がった2体の死体。
その横でさらさらと流れる小川は、陽光受けてキラキラと輝いています。
初夏の様に心地良い風が吹き、森からオレンジの甘酸っぱい香りを運んで来ました。


その瞬間――なんと、2体の死体がピクリと動きました。


「ひっっ…!!?」


驚き戦く魔女の前で、2体の死体はむくりと起上がり、胡乱な眼差しを魔女に向けました。


「…美味そうなにおいがする…!」

「……食いもんの匂いだ…!」


ギラリと目を血走らせ、じりじりと傍へ寄って来る2体の死体、いや2体のゾンビ。
あまりの恐ろしさに魔女は、篭に入れたオレンジを抱締め、その場で腰を抜かしてしまいました。


「…メシ…く、食いもん…美味そうな食いもんだ…!!」

「……ああ…凄ェ美味そうだ…!!」


じりじり…
じりじりじり…
じりじりじりじり…


「…ひっ…あ…や…!!来ないで…!!来ちゃ嫌ァ…!!」


餓鬼の形相でにじり寄って来る、恐怖のゾンビ達。
逃げたくとも足まで竦んで動けなくなった魔女は、涙目で来ないでくれとひたすら哀願するばかり。
しかしゾンビ達は無情にも全く耳を貸さず、魔女を追詰め傍まで来ると――唸りを上げて一気に飛び掛りました。


「メ~~シ~~!!!食わせろォ~~~!!!!」
「大人しく食わせやがれェェ~~~!!!!」
「い~~やァ~~~!!!!誰か助けてェェ~~~!!!!食べられちゃう~~~!!!!」


腕で頭を抱えて小さく縮こまるいたいけな魔女。
万事休すと目を瞑り………しかし何の痛痒も感じない。
不審に思い、薄っすら瞼を開くと――


――目の前には2体のゾンビが、魔女の持ってた篭のオレンジを、奪い合いながら食らう姿が在ったのでした。


「ふんめェェ!!!ふんめェェほほのオヘンヒ!!!ふんげェェフーヒー!!!!」
「てめェルフィ!!!1人で全部抱え込んでんじゃねェよ!!!こっちにも寄越せ!!!!」
「ほめェこそ残り1個を持ってくんじゃねェよゾロ!!!!ちゃんとフェアに半分こしろよな!!!!」
「何がフェアだ!!!!いきなり5個も纏めて食いやがって!!!!もうてめェの取分は無ェよ!!!この最後の1個は俺のもんだ!!!!」
「ううぅ!!?ズッリィィぞゾロ!!!!最後の1個は公平にジャンケンで決めるルールだろォが!!!!」
「ズリィのはどっちだよ!!!?俺まだ3つしか食ってねェんだぞ!!!!おめェその間何個食った!!!?」
「ジャンケンジャンケン!!!!公平にジャンケーン!!!!」
「ちっっ!!!たくっっ…!!!よぉぉし!!!だったら今度こそ駄々捏ねんじゃねェぞ!!!?――ジャーンケーン…!!!!」
「ジャーンケーン…!!!!」


――ゴゴンッッ……!!!!!!


ジャンケン体勢で睨み合う2体のゾンビの頭上に、魔女のクリティカルヒットが炸裂しました。

攻撃を受けたゾンビ2体は忽ち白目を剥き、崩れる様にしてまたうつ伏せに倒れたのでした。


「……何なのよ、あんたら…?」





その2に続】
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