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アメリカ憲法瞥見(連載第5回)

2014-08-23 | 〆アメリカ憲法瞥見

第一条(立法府)

第九項

1 連邦議会は 1808年より前においては、現に存する州のいずれかがその州に受け入れることを適当と認める人びとの移住または輸入を禁止することはできない。但し、その輸入に対して、一人につき一〇ドルを超えない租税または関税を課すことができる。

2 人身保護令状の特権は、反乱または侵略に際し公共の安全上必要とされる場合を除いて、停止されてはならない。

3 私権剥奪法または事後法を制定してはならない。

4 人頭税その他の直接税は、この憲法に規定した人口調査または算定にもとづく割合によらなければ、これを賦課してはならない。

5 各州から輸出される物品に対して、租税または関税を賦課してはならない。

6 通商または徴税に関するいかなる規制によっても、一州の港湾に対して他州の港湾よりも有利な地位を与えてはならない。一州に入港またはこれより出港する船舶に対して、他州に入港すること、または他州において出入港手続きをすることもしくは関税の支払いをすることを強制してはならない。

7 国庫からの支出は、法律で定める歳出予算によってのみ、これを行わなければならない。いっさいの公金の収支に関する正式の決算は、随時公表しなければならない。

8 合衆国は、貴族の称号を授与してはならない。合衆国から報酬または信任を受けて官職にある者は、連邦議会の同意なしに、国王、公侯または他の国から、いかなる種類の贈与、俸給、官職または称号をも受けてはならない。

 本項は、連邦議会の権限を列挙した前項に対し、連邦議会の権限に関する制限事項を列挙している。このうち、第二号及び第三号は実質上人権保障に関する規定であるが、人権に関しては修正条項によって増補されている。
 本項各号のうち、第一号で人間の「輸入」に言及しているのは明らかに、モノとして扱われた黒人奴隷の「輸入」を念頭に置いた規定であるが、この部分は奴隷制を禁じた修正第一三条により実質上削除されている。また第四号も、人口基準によらない連邦所得税を規定した修正第一六条により、実質上削除されている。
 第五号及び第六号は、州の権益を保護するため連邦の課税権を制限するもので、州を基盤とした連邦制の特質を示すものである。国庫支出が歳出予算法律によってのみなされるべきことを規定する第七号は、連邦議会の権限に対する制限という形を取りながら、実質上は行政府(大統領)に対する議会の優越性を示す規定と言える。
 第八号第一文は貴族制度を認めない徹底した共和体制の表現であり、第二文は付随的に合衆国公務員の原則的な合衆国専属義務を定めたものである。

第一〇項

1 州は、条約を締結し、同盟もしくは連合を形成し、船舶捕獲免許状を付与し、貨幣を鋳造し、 信用証券を発行し、金貨および銀貨以外のものを債務弁済の法定手段とし、私権剥奪法、事後法もしくは 契約上の債権債務関係を害する法律を制定し、または貴族の称号を授与してはならない。

2 州は、その検査法を執行するために絶対に必要な場合を除き、連邦議会の同意なしに、輸入品または輸出品に対し輸入税または関税を賦課してはならない。州によって輸入品または輸出品に賦課された関税または輸入税の純収入は、合衆国国庫の用に供される。かかる法律はすべて、連邦議会の修正または規制に服する。

3 州は、連邦議会の同意なしに、トン税を課し、平時に軍隊または軍艦を保持し、他州もしくは外国と協定もしくは契約を締結し、または、現に侵略を受けもしくは一刻の猶予も許さないほど危険が切迫しているときを除き、戦争行為をしてはならない。

 憲法上連邦議会の権限として規定のない権限は原則として州(議会)に属するが、本項では州の権限に関する例外的な制限事項を規定している。全体として、州は独自に外交・国防に関与しないこと、通貨・関税高権を持たないことが規定されている。これらは合衆国としての統合性を維持するうえで最低限度の制限である。


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