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アメリカ憲法瞥見(連載第11回)

2014-10-17 | 〆アメリカ憲法瞥見

修正条項

 米憲法は厳格な硬性憲法であり、改正は容易でなく、全面改正は事実上不可能であることから、必要に応じて原条項を追加または修正する条項を後から増補することで実質的な改憲を積み重ねるという便宜的な方法を採ってきた。そうした増補は1791年から始まり、最新は1992年まで計27の修正条項が積み重ねられている。
 本稿では、体系性を欠く27条項を順番に見ていくのではなく、権利条項、公民権条項、選挙/議会関係、大統領、財政の関連項目ごとに分けて、順不同に見ていくこととしたい。

修正第一条

連邦議会は、国教を定めまたは自由な宗教活動を禁止する法律、言論または出版の自由を制限する法律、ならびに国民が平穏に集会する権利および苦痛の救済を求めて政府に請願する権利を制限する法律は、これを制定してはならない。

 修正条項のうち、最も早い1791年に増補された最初の10か条は特に「権利条項」と呼ばれ、立法・行政・司法の統治機構の規定が中心となる憲法本文ではほぼ除外されていた基本的人権に関わる条項を増補したものである。言わば、アメリカ版人権宣言である。
 その筆頭になる本条は、信教の自由、表現の自由、集会の自由、請願権をまとめて保障する条項である。信教の自由は政教分離を含んでいる。請願権を自由権と結び付けてとらえている点に独自性がある。

修正第二条

規律ある民兵団は、自由な国家の安全にとって必要であるから、国民が武器を保有し携行する権利は、侵してはならない。

 権利条項にこうした武器所持の権利が規定されているのは、「自助/自救社会」アメリカならではのことである。ただ、本条は文字どおりにとれば、民兵組織の権利を規定しており、個人の武器所持の権利とは異なるようにも読めるが、連邦最高裁判所は本条をもって個人の武器所持の権利を保障するものと解釈しているため、銃器の厳格な規制を阻む要因となっている。

修正第三条

平時においては、所有者の承諾なしに、何人の家屋にも兵士を宿営させてはならない。戦時においても、法律の定める方法による場合を除き、同様とする。

 軍隊の民家強制宿営を禁止する本条は、軍隊の基地と兵舎の制度が整備されていなかった18世紀ならではの規定である。

修正第四条

国民が、不合理な捜索および押収または抑留から身体、家屋、書類および所持品の安全を保障される権利は、これを侵してはならない。いかなる令状も、宣誓または宣誓に代る確約にもとづいて、相当な理由が示され、かつ、捜索する場所および抑留する人または押収する物品が個別に明示されていない限り、これを発給してはならない。

 本条から修正第八条までは広い意味でのデュー・プロセスに関わる規定が続く。権利条項が最も力点を置いている箇所であり、米憲法の真髄ともなっている。日本国憲法にも影響を与え、類似の条項がある。
 筆頭の本条は、デュー・プロセスの中でも最も重要な捜索押収と身柄拘束を令状規制下に置くいわゆる令状主義の原則を定めている。 

修正第五条

何人も、大陪審による告発または正式起訴によるのでなければ、死刑を科しうる罪その他の破廉恥罪につき公訴を提起されることはない。但し、陸海軍内で発生した事件、または、戦争もしくは公共の危機に際し現に軍務に従事する民兵団の中で発生した事件については、この限りでない。何人も、同一の犯罪について、重ねて生命または身体の危険にさらされることはない。何人も、刑事事件において、自己に不利な証人となることを強制されない。何人も、法の適正な過程によらずに、生命、自由または財産を奪われることはない。何人も、正当な補償なしに、私有財産を公共の用のために収用されることはない。

 本条がデュー・プロセス条項の中核である。具体的な内容は、重大犯罪における大陪審による訴追、二重の危険の禁止、自己負罪拒否、適正手続保障、公共収用における補償である。

修正第六条

すべての刑事上の訴追において、被告人は、犯罪が行われた州の陪審であって、あらかじめ法律で定めた地区の公平な陪審による迅速かつ公開の裁判を受ける権利を有する。被告人は、訴追の性質と理由について告知を受け、自己に不利な証人との対質を求め、自己に有利な証人を得るために強制的手続きを利用し、かつ、自己の防禦のために弁護人の援助を受ける権利を有する。

 本条は、刑事裁判における被告人の権利を保障している。具体的な内容は、陪審裁判を受ける権利、迅速な公開裁判を受ける権利、訴追内容に関して告知を受ける権利、証人の対質・喚問権、弁護権である。

修正第七条

コモン・ロー上の訴訟において、訴額が二〇ドルを超えるときは、陪審による裁判を受ける権利は維持される。陪審が認定した事実は、コモン・ロー上の準則による場合を除き、合衆国のいかなる裁判所もこれを再び審議してはならない。

 本条は一定以上の訴額の民事訴訟についても、陪審裁判を受ける権利を保障し、陪審の認定に原則的な拘束力を与えている。

修正第八条

過大な額の保釈金を要求し、過大な罰金を科し、または残酷で異常な刑罰を科してはならない。

 過大な保釈金、罰金、残酷異常な刑罰を禁ずる本条は、要するに行き過ぎた正義を防止する条項で、これも広い意味でデュー・プロセスに関わる規定である。

修正第九条

この憲法の中に特定の権利を列挙したことをもって、国民の保有する他の権利を否定し、または軽視したものと解釈してはならない。

 本条は、増補された権利条項でも代表的な権利を簡単に列挙したのみであるので、憲法に規定のない権利は憲法上保障されないという狭い解釈を排除する注意条項である。

修正第一〇条

この憲法が合衆国に委任していない権限または州に対して禁止していない権限は、各々の州または国民に留保される。

 本条は州の権限留保についても併せて規定しているため、純粋の権利条項ではないが、合衆国が明確に持たない権限は州ないし国民に留保されるという広い意味での権利条項であり、「小さな政府」を基調とするアメリカ型連邦制のあり方を反映している。

修正第一一条

合衆国の司法権は、合衆国の一州に対して、他州の市民または外国の市民もしくは臣民が提起したコモン・ロー上またはエクイティ上のいかなる訴訟にも及ぶものと解釈されてはならない。

 本条は合衆国司法権の及ぶ対象から「合衆国の一州に対して、他州の市民または外国の市民もしくは臣民が提起したコモン・ロー上またはエクイティ上のいかなる訴訟」をも排除するものであり、直接には憲法第三条第二項を修正する規定である。
 通常本条は権利条項に含めないが、州の権限を尊重し、連邦の権限を限定する点では、前条の趣旨ともつながる規定である。なお、1795年に制定された本条までが18世紀中に成立した修正条項である。


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