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アメリカ憲法瞥見(連載第2回)

2014-08-07 | 〆アメリカ憲法瞥見

第一条(立法府)

 米憲法前半の三つの条文は順に立法・行政・司法に充てられており、米憲法が古典的な三権分立イデオロギーに立脚していることを物語っている。わけても筆頭の第一条は立法府に関する詳細な規定であり、そこに含まれる条項数も10個と最多である。単刀直入に議会条項から始まる構成の憲法は珍しいが、ここには米憲法が議会中心の議会制民主主義を採用していることが示されている。

第一項

この憲法によって付与されるすべての立法権は、元老院と代議院で構成される合衆国連邦議会に属する。

 簡単な一文の中で、代議制民主主義及び二院制という二つの原則を提示している。元老院・代議院は通常上院・下院と訳されるが、憲法原文では上・下の語は使われていないので、あえてこのように古典的な逐語訳を充てる。

第二項

1 代議院は、各州の州民が二年ごとに選出する議員でこれを組織する。各州の選挙権者は、州の立法府のうち議員数の多い院の選挙権者となるのに必要な資格を備えていなければならない。

2 年齢二十五歳に達していない者、合衆国市民となって七年に満たない者、および選挙された時にその選出された州の住民でない者は、代議院議員たることはできない。

3 代議院議員と直接税は、連邦に加わる各州の人口に比例して各州間に配分される。各州の人口は、年期を定めて労務に服する者を含み、かつ、納税義務のないインディアンを除いた自由人の総数に、自由人以外のすべての者の数の五分の三を加えたものとする。実際の人口の算定は、合衆国連邦議会の最初の集会から三年以内に、それ以後は十年ごとに、議会が法律で定める方法に従って行うものとする。代議院議員の定数は、人口三万人に対し一人の割合を超えてはならない。但し、各々の州は少なくとも一人の代議院議員を選出するものとする。・・・後略 

4 州の選出代議院議員に欠員が生じたときは、その州の行政府は、欠員を補充するための選挙実施の命令を発しなければならない。

5 代議院は、議長その他の役員を選任する。弾劾の訴追権限は代議院に専属する。

 本条項は、代議院の選挙方法と構成、さらに弾劾裁判の訴追権について定めた規定である。代議院条項が元老院条項に先行するのは、下院に相当する代議院を優先することの現れである。また代議院の選挙権・被選挙権が州のそれと連動しているのは、州を基盤とした連邦制ゆえの規定である。
 第三号はいわゆる議員定数均衡の原則であり、これが憲法に明定されているのも、各州間の代表不均衡を生じさせないようにする配慮からであり、一般的・抽象的な投票価値の平等からのものではない。この点で、連邦制を採らない日本にこのアメリカ的な定数均衡原則を直接に持ち込むことは適切と言い難い面がある。
 なお、同号が自由人以外の奴隷を五分の三の端数として算定する差別的な規定は合衆国が人種差別的な白人国家として出発したことを示しているが、今日では平等な市民権を保障する修正第一四条によって修正されている。ちなみに、同号が定める連邦直接税の人口比例原則も、修正第一六条により個人単位の平等な課税原則に修正されている。

第三項

1 合衆国元老院は、各州から二名ずつ選出される元老院議員でこれを組織する。元老院議員は、各州の立法府によって、六年を任期として選出されるものとする。元老院議員は、それぞれ一票の投票権を有する。

2 第一回選挙の結果にもとづいて元老院議員が集会したときは、直ちにこれをできるだけ等しい人数の三組に分ける。議員の三分の一が二年ごとに改選されるために、第一組の議員の任期は二年目の終わりに、第二組の議員の任期は四年目の終わりに、第三組の議員の任期は六年目の終わりに終了するものとする。州の立法府が閉会中に、辞職その他の理由で元老院議員に欠員が生じたときは、州の行政府は、州の立法府がつぎの開会時に欠員を補充するまでの間、臨時の任命を行うことができる。

3 年齢三十歳に達していない者、合衆国市民となって九年に満たない者、および選挙された時にその選出された州の住民でない者は、元老院議員たることはできない。

4 合衆国の副大統領は、元老院の議長となる。但し、可否同数のときを除き、表決には加わらない。

5 元老院は、議長を除く他の役員を選任する。副大統領が欠けた場合、または副大統領が合衆国大統領の職務を行う場合には、臨時議長を選任する。

6 すべての弾劾を裁判する権限は、元老院に専属する。この目的のために集会するときには、議員は、宣誓または宣誓に代る確約をしなければならない。合衆国大統領が弾劾裁判を受ける場合には、最高裁判所長官が裁判長となる。何人も、出席議員の三分の二の同意がなければ、有罪の判決を受けることはない。

7 弾劾事件の判決は、職務からの罷免、および名誉、信任または報酬を伴う合衆国の官職に就任し在職する資格の剥奪以上に及んではならない。但し、弾劾につき有罪判決を受けた者が、法にもとづいて、起訴、公判、判決、または処罰の対象となることを妨げない。

 本項は元老院の選挙方法と構成、弾劾裁判における審理・判決について定めた条文である。元老院は各州から平等に二名ずつ選出される州代表院でもあり、ここにも州を基盤とする連邦制の特質が示されている。ただし、選挙方法に関しては、第二号で定める州議会による複選制が修正第一七条により直接選挙制に改正されており、その限りで州代表院としての性格は希釈されている。
 貴族制度が禁止されるアメリカで、元老院議員が元老たるゆえんは、州代表であること、及び第二号にあるように年齢と市民としての居住年数の長さだけである。
 行政府ナンバー2の副大統領が当然に元老院議長を兼務し、可否同数の際の決裁権を持つ構制は、その限りで行政府と立法府を結合させ、議院内閣制に接近するが、副大統領が元老院議員自体を兼務することは認められない。

第四項

1 元老院議員および代議院議員の選挙を行う日時、場所、方法は、各々の州においてその立法府が定める。但し、連邦議会は何時でも、元老院議員を選出する場所に関する事項を除き、法律によりかかる規則を制定し、または変更することができる。

2 連邦議会は、毎年少なくとも一回集会するものとする。会期の開始時期は、法律で別の日が指定されない限り、十二月の第一月曜日とする。

 連邦議会の選挙及び選挙後の集会について定めた統一規定である。連邦議会選挙の日時、場所、方法の決定権が第一次的に州議会に与えられているのも、州を基盤とする連邦制の現れである。なお、第二号の連邦議会会期の開始日は、修正第二〇条により、一月三日正午に改正されている。


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