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アメリカ憲法瞥見(連載最終回)

2014-11-08 | 〆アメリカ憲法瞥見

修正第一六条】  

連邦議会は、各州に比例配分することなく、および人口調査または算定によることなく、いかなる源泉から生ずるものであっても、所得に対して税を賦課し徴収する権限を有する。

 本条を含む修正三か条は、財政に関わる規定である。本条は、連邦議会の直接税の課税権に関して、憲法第一条第二項第三号及び同条第九項第四号で人口調査に基づく州間比例配分によるという制約が付けられていたのに対し、まさに直接に個人の所得源泉に対して課税できる所得税の制度を可能とした修正である。
 元来、個人財産を偏重するアメリカのブルジョワ思想では、個人の財布に政府が手を突っ込むかのような直接税は忌避されており、直接税として許容できるのは、人頭税と財産税のみと考えられていたが、20世紀に入り、アメリカでも社会主義的な思潮が生まれ、富の一部集中への批判が強まると、収入を含む個人の所得源泉に課税すべしとする租税思想が高まったことを背景に、1913年に制定されたのが本修正条項であった。そうした意味では、本条はアメリカ憲法中、唯一社会(民主)主義的な傾斜を示す規定とも言える。

修正第一八条

1 この修正条項の承認から一年を経た後は、合衆国とその管轄に服するすべての領有地において、飲用の目的で酒類を製造し、販売しもしくは輸送し、またはこれらの地に輸入し、もしくはこれらの地から輸出することは、これを禁止する。

2 連邦議会および各州は、適切な立法により、この修正条項を実施する権限を競合的に有するも のとする。

3 この修正条項は、連邦議会がこれを各州に提議した日から七年以内に、この憲法の規定に従って各州の立法府により憲法修正として承認されない場合には、その効力を生じない。

修正第二一条

1 合衆国憲法修正第一八条は、本修正条項により廃止する。

2 合衆国のいかなる州、準州、または領有地であれ、その地の法に違反して、酒類を引渡または使用の目的でその地に輸送しまたは輸入することは、この修正条項により禁止される。

3 この修正条項は、連邦議会がこれを各州に提議した日から七年以内に、憲法の規定に従って各州の憲法会議によりこの憲法の修正として承認されない場合には、その効力を生じない。

 修正第一八条は、いわゆる禁酒条項である。憲法に禁酒が謳われたのは、植民地時代の伝統を引くピューリタン的な戒律ならではのことであったが、現実には、密造酒の横行と密売利権を握ったマフィアの跋扈などのマイナス面が大きく、わずか14年後の修正第二一条で禁酒条項は廃止となった。
 ただし、同条第二項では、州レベルで酒類の輸出入を規制することは認められており、実際、現在でも酒類の販売規制を敷いている州や禁酒条例を持つ郡などが存在している。


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