ザ・コミュニスト

連載論文&時評ブログ 

アメリカ憲法瞥見(連載第4回)

2014-08-22 | 〆アメリカ憲法瞥見

第一条(立法府)

第八項

1 連邦議会は、つぎの権限を有する。合衆国の債務を弁済し、共同の防衛および一般の福祉に備えるために、租税、関税、輸入税および消費税を賦課し、徴収する権限。但し、すべての関税、輸入税および消費税は、合衆国全土で均一でなければならない。

2 合衆国の信用において金銭を借り入れる権限。

3 諸外国との通商、各州間の通商およびインディアン部族との通商を規制する権限。

4 統一的な帰化に関する規則、および合衆国全土に適用される統一的な破産に関する法律を制定する権限。

5 貨幣を鋳造し、その価格および外国貨幣の価格を規制する権限、ならびに度量衝の基準を定める権限。

6 合衆国の証券および通貨の偽造に対する罰則を定める権限。

7 郵便局を設置し、郵便道路を建設する権限。

8 著作者および発明者に対し、一定期間その著作および発明に関する独占的権利を保障することにより、学術および有益な技芸の進歩を促進する権限。

9 最高裁判所の下に下位裁判所を組織する権限。

10 公海上で犯された海賊行為および重罪行為ならびに国際法に違反する犯罪を定義し、これを処罰する権限。

11 戦争を宣言し、船舶捕獲免許状を授与し、陸上および海上における捕獲に関する規則を設ける権限。

12 陸軍を編成し、これを維持する権限。但し、この目的のためにする歳出の承認は、二年を超える期間にわたってはならない。

13 海軍を創設し、これを維持する権限。

14 陸海軍の統帥および規律に関する規則を定める権限。

15 連邦の法律を執行し、反乱を鎮圧し、侵略を撃退するために、民兵団を召集する規定を設ける権限。

16 民兵団の編制、武装および規律に関する定めを設ける権限、ならびに合衆国の軍務に服する民兵団の統帥に関する定めを設ける権限。但し、民兵団の将校の任命および連邦議会の定める軍律に従って民兵団を訓練する権限は、各州に留保される。

17 特定の州から割譲され、かつ、連邦議会が受領することにより合衆国政府の所在地となる地区(但し、一〇マイル平方を超えてはならない)に対して、いかなる事項についても専属的な立法権を行使する権限、および要塞、武器庫、造兵廠、造船所その他必要な建造物を建設するために、それが所在する州の立法府の同意を得て購入した土地のすべてに対し、同様の権利を行使する権限。

18 上記の権限およびこの憲法により合衆国政府またはその部門もしくは官吏に付与された他のすべての権限を行使するために、必要かつ適切なすべての法律を制定する権限。

 本項から先の三か条は、連邦と州の権限関係に関する規定であるが、いずれも連邦と州それぞれの行政府でなく、立法府(議会)の権限という形で規定されているのは、議会中心主義の現れである。
 連邦議会の権限について列挙した本項は一見無味乾燥な羅列であるが、アメリカのような連邦国家にあっては、連邦と州の権限を明確に線引きしなければ、ある事柄が連邦と州のどちらの権限なのかをめぐって紛争・混乱が生じるため、本項のようにまず連邦議会の権限をリスト化し、ここに定めのない権限は原則として州に属するという趣旨で(修正第一〇条参照)、予め明示しておく必要がある。
 本項で定められた連邦議会の主要な権限を大別すれば、財政・経済に関する権限(第一号乃至第八号)、司法・警察に関する権限(第九号及び第一〇号)、国防に関する権限(第一一号乃至第一六号)となる。連邦には国全体にわたる根幹的な権限だけ留保し、残余は州の権限とする分権性の強い連邦制のあり方が示されている。
 ちなみに、第八号は著作権・特許権という個人の権利保障規定を兼ねているが、国の憲法に知的財産権の明文が置かれるのは当時としては斬新であった。また、こうした個人の知的財産権の保障を通じて「学術および有益な技芸の進歩を促進する」という政策も、国家が主導して学芸の振興を図る社会主義的な構想とは対照的なアメリカ流個人主義に立脚した学芸政策の宣言と読める。
 なお、国防に関する第一一号で、合衆国が民間船舶に海賊行為の権限を付与する船舶捕獲免許状という古典的制度は私掠船の廃止をうたった1856年パリ宣言(国際条約)をもって放棄されている。


コメント    この記事についてブログを書く
« リベラリストとの対話―「自由... | トップ | アメリカ憲法瞥見(連載第5回) »

コメントを投稿