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アメリカ憲法瞥見(連載第7回)

2014-09-06 | 〆アメリカ憲法瞥見

第二条(行政府)

第二項

1 大統領は、合衆国の陸軍および海軍ならびに現に合衆国の軍務に就くため召集された各州の民兵団の最高司令官である。大統領は、行政各部門の長官に対し、それぞれの職務に関するいかなる事項についても、文書によって意見を述べることを要求することができる。大統領は、弾劾の場合を除き、合衆国に対する犯罪について、刑の執行停止または恩赦をする権限を有する。

2 大統領は、元老院の助言と承認を得て、条約を締結する権限を有する。但し、この場合には 元老院の出席議員の三分の二の賛成を要する。大統領は、大使その他の外交使節および領事、最高裁判所の裁判官、ならびに、この憲法にその任命に関して特段の規定のない官吏であって、法律によって設置される他のすべての合衆国官吏を指名し、元老院の助言と承認を得て、これを任命する。但し、連邦議会は、適当と認める場合には、法律によって下級官吏の任命権を大統領のみに付与し、または、司法裁判所もしくは各部門の長官に付与することができる。

3 大統領は、元老院の閉会中に生じるいっさいの欠員を補充する権限を有する。但し、その任命は、つぎの会期の終りに効力を失う。

 本項は、合衆国大統領の権限に関する規定である。これによると、大統領の主要な権限は軍事と外交―筆頭は軍事―であることがわかる。一見強大に見える大統領であるが、間接選挙で選ばれる大統領の権限は意外なほど限られており、米国の国政は議会中心主義に基づき、連邦議会が主導している。

第三項

大統領は、随時、連邦議会に対し、連邦の状況に関する情報を提供し、自ら必要かつ適切と考える施策について審議するよう勧告するものとする。大統領は、非常の場合には、両議院またはいずれかの一院を召集することができる。大統領は、閉会の時期に関し両議院の間で意見が一致しないときは、自ら適当と考える時期まで休会させることができる。大統領は、大使その他の外交使節を接受する。大統領は、法律が忠実に執行されることに留意し、かつ、合衆国のすべての官吏を任命する。

 本項は、大統領と連邦議会の関係性に関する規定である。ここでも、大統領は自らの施策について審議するよう議会に勧告できるにとどまり、直接に法案を提出することはできない。また議会の召集・解散権もなく、ただ非常時の召集権と閉会時期について両議院の合意がない場合の休会の権限しか持たない。結局、合衆国大統領とは最高行政官にすぎず、国政全般を統括する「大統領」ではない。日本語における「President=大統領」という定訳は、実態と合致していない。

第四項

大統領、副大統領および合衆国のすべての文官は、反逆罪、収賄罪またはその他の大罪及び非違行為につき 弾劾の訴追を受け、有罪の判決を受けたときは、その職を解かれる。

 正副大統領をはじめとする合衆国文官に対する連邦議会の弾劾裁判権に関する規定である。これも議会中心主義の現れであり、特に大統領に対しては、議会の持つ究極的な牽制権である。実際に本項に基づいて弾劾・解職された大統領は現時点では存在しない。


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