【岩崎俊夫BLOG】社会統計学論文ARCHIVES

社会統計学分野の旧い論文の要約が日課です。

時々、読書、旅、散策、映画・音楽等の鑑賞、料理とお酒で一息つきます。

一葉文学の真髄に迫る

2009-08-22 11:18:39 | 評論/評伝/自伝
澤田章子『一葉伝』新日本出版社、2005年

              
          


 一葉の小説を完読したことはありませんが、触れたことはあります。あの若さで擬古文の雅文体をどのようにして身につけたのか、それが謎でした。その疑問が少し解けました。

 萩の舎に入塾し、早くから古典文学、歌に関心をもち(大変な読書家だったと推測します)、また小説を書き始めてからは庶民の生活をリアルに描いた井原西鶴に学んだことが大きかったのではないでしょうか。

 一葉(夏子)の生きた時代は、明治に入ってから顕著になった女性蔑視の空気が蔓延していました。そして、日清戦争。彼女の生活は、困窮を極めていました。

 人間関係では、比較的恵まれていましたが、それは一葉の生き方の姿勢によるものでした。

 まず萩の舎の師匠で歌人の中島歌子、田辺花穂、伊東夏子ら、そして小説作法を学び、恋心も一時抱いのですが、絶交状態となった半井桃水との交流。

 文学関係者では藤村、馬場胡蝶、北村透谷などの影響も受けました。自ら住んだ下谷区龍泉寺町界隈の吉原遊郭の女たち、本郷区丸山福山町の銘酒屋街の人々の生活に接したことは、彼女の小説のモチーフのバックグラウンドとなりました。

 そして、晩年の奇跡(14ヶ月に「たけくらべ」「にごりえ」「大つごもり」「十三夜」「わかれ道」の5作品)。

 著者の澤田さんは、最後に述べています、「絶対主義的天皇制下に、下層庶民の立場からの国の根本の変革をもとめる人たちによって、一葉文学は大きな刺激となり励ましとなって、日本の社会主義思想の組織化や文学の社会性の発揚をうながす力となった」と(pp.212-213)。

 一葉の日記を使った平易な評伝です。

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