【岩崎俊夫BLOG】社会統計学論文ARCHIVES

社会統計学分野の旧い論文の要約が日課です。

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佐々木隆治『マルクスの物象化論-資本主義批判としての素材の思想-』社会評論社、2009年

2012-10-02 00:29:34 | 経済/経営

              

   この本はマルクスの物象化論の理論的核心とその意義を解明するために書かれた。著者はマルクスの物象化はしばしば人間の認識が歪められ、事態が隠蔽されることだとされるが(「物象の社会的属性を物じしんの属性として錯覚する」)、この規定は事柄の一面であり、マルクスが問題の焦点としたのは、そのように現象するところの「本質」のあり方であり、それがいかなる人間のふるまい、より正確には人間相互の関わりによって成立するかであった、とする。


   この視点に立って、著者は物象化を認識論的錯視ととる見解(廣松渉)、所有論を基礎として物象化理解、市民社会論的マルクス理解(平田清明)を批判する。著者の立場はマルクスが課題とした経済学批判、哲学批判の精神を継承し、イデオロギーや現象形態の成立を諸個人の関わりによって形成された実践的諸関係から明らかにする「新しい唯物論」(観念論と対置される唯物論ではない)である。

   この観点から著者は、価値形態論「商品語」の解釈、3つの次元からなる物象化の構造、疎外と物象化の概念的相異、全面的商品交換社会のもとで私的労働が物象化を生み出す客観的契機、物象化こそが商品の物神的性格の秘密であること、価値が主体化し、過程の主体となる経緯、資本が素材的世界(全般的開発の体系、有用性の体系)を編成するプロセス、資本のもとへの労働の形態的包摂と素材的編成および資本のもとへの労働の実質的包摂と素材的論理の変容の解明(協業、マニュファクチュア、大工業)、資本が素材的世界を編成し価値の論理と素材の論理との軋轢を引き出す事態、などを順次論理展開していく。

   論理展開では、抽象的人間労働の理解がキー概念になっている。著者によれば、抽象的人間労働概念の議論は物象化を前提とし(抽象的人間労働という労働の一契機が独自の社会的意義を獲得するのは物象化された社会においてのみである)、素材的契機を含み、価値と素材との連関の結び目である。当該分野では従来、多くの錯綜した内外の議論、論争があるが、著者はそれらを手際よく裁きつつ、MEGAも有効に活用して、自説を展開している。