13) 漢方薬は新陳代謝を高めて病気の治りを速める

図:体の新陳代謝は、細胞内の物質代謝と組織内の細胞回転が基礎となる。

13) 漢方薬は新陳代謝を高めて病気の治りを速める

【新陳代謝は治癒力の基礎】
 体を構成する組織や細胞は絶えず栄養を取り入れて老廃物を排泄し、古い細胞は死んで新しい細胞が置き換わっています。体全体の新陳代謝が良好に行われることが体の自然治癒力を高める重要な条件の一つです。
 新陳代謝という言葉は辞書(広辞苑)には「ふるいものが次第に去って、新しいものがこれに代ること」と説明されています。医学用語としても使われていますが、あいまいな言葉であるので西洋医学の教科書にはあまり使われていません。西洋医学では物質代謝あるいは代謝(metabolism)という用語に相当します。個々の細胞は外部から取り入れた栄養素を素材にして、タンパク質や脂質や核酸など細胞の構成成分を合成すると同時に不要なものは処分し、炭水化物や脂肪酸を酸化してエネルギーを作り出しています。この仕組みが物質代謝です。
 細胞を構成する分子は不変ではなく絶えず入れ替わっています。すなわち、細胞や組織の分子成分は一定の速度で合成され、それと同じ速度で分解を受けて新しい分子と入れ替わっています。例えば、肝臓内のタンパク質の総量は不変ですが、約5日の半減期で入れ替わっています。このような動的平衡状態を代謝回転といっています。
 漢方薬の効果で「新陳代謝を促進する」というときには、単に物質代謝(metabolism)の促進だけでなく、組織の細胞回転(古い細胞がアポトーシスで死んで細胞分裂で新しい細胞が入れ替わること)も含む広い概念で用いられています(図)。
新陳代謝は、生体の恒常性維持機能や修復・再生機構の基礎であり、新陳代謝が悪い状態では自然治癒力は十分働きません。

【歳をとると新陳代謝が低下する】
 体の物質代謝を行い、恒常性維持機能や細胞回転によって組織を絶えず正常な状態に保つためにはエネルギーが必要です。体の体温を保つためには熱を産生しなければなりません。このようにたとえじっとしていても生きて行く為に必要な最低限の代謝を基礎代謝といいます。
 基礎代謝は甲状腺ホルモンや成長ホルモンなど内分泌系のホルモンが主に調節しています。このような代謝を活性化する甲状腺ホルモンや成長ホルモンなどの分泌が老化とともに減少することが、歳をとると新陳代謝が低下する原因の一つです。例えば、血液中の成長ホルモンのおおよその濃度は、5~20歳で6ng/ml、20~40歳で3ng/ml、40~70歳で1.6ng/mlというように、加齢とともに減少し、それに伴って基礎代謝量も低下することになります。
 さらに老化現象として、心臓の機能が次第に衰えたり動脈硬化が進行すると、組織の血液循環が低下して栄養運搬物質の供給がうまくいかなくなります。肝臓や腎臓の機能が衰えてくると、タンパク質の合成や解毒機能や老廃物の排泄が低下していきます。このような諸臓器の機能の老化性低下が悪循環を生んで、次第に体の物質代謝や新陳代謝が低下していきます
 熱産生は基本的に代謝の産物ですから、歳をとって代謝が低下して熱産生が減少したり血液循環が悪くなると体の冷えを感じるようになります。

【漢方薬は代謝を活性化する】
 老化の結果として次第に新陳代謝が低下していく場合も、また体質的傾向として新陳代謝が低下している場合も、その状態を改善するためには、体の自律神経・血液循環・内分泌機能・栄養状態を良好にすることが必要条件となります。
 これは、漢方的な考えでは、気・血・水の量を過不足ない状態に調節し、それぞれの巡り(循環)を良好な状態と保つことです。気血水のバランスと循環が良好であれば、栄養物質の供給や老廃物の排出やエネルギーの産生がスムーズに行なわれ、新陳代謝が高まって、体の恒常性維持や自然治癒力が十分働く状態になると考えます。
 漢方治療が新陳代謝を高めることができる理由の一つは、気血水の異常を改善するための薬を用いて、体の血液循環や栄養状態や諸臓器の機能を高めることができるからです。

 漢方薬が細胞の物質代謝を活性化できる理由は次のようにいくつかあります。 
1)成分の類似性;代謝を活性化する薬剤は、生体の物質代謝に関与して機能を賦活するような作用を持つことが条件となります。植物成分中には人体における成分と類似の物質が多く、それらは人の生理機能を調整しているホルモンや伝達物質の働きを真似て効果を現したり、逆に拮抗作用によって働きを阻害したりします。これが漢方薬が諸臓器の機能に作用する理由のひとつですが、ホルモンや伝達物質の類似作用をする物質は代謝を促進することにつながります。
2)細胞毒の存在;多くの植物はカビや細菌や昆虫などの外敵から自分を守るための毒を持っています。そのような物質は生体にとって毒となるのですが、毒も少量使えば代謝を賦活することができます。つまり、適度な細胞毒は細胞を活性化するということです。これは精神的あるいは肉体的なストレスは、過度になると生理機能の異常を引き起こす原因となりますが、適度なストレスは生体機能を活性化する刺激となり、治癒力を高めることになることと似ています。
3)交感神経刺激麻黄(まおう)という生薬はエフェドリンという物質を含み、このエフェドリンは神経終末からノルエピネフリンを放出させて交感神経刺激効果を示します。交感神経の刺激は代謝速度を促進し、熱産生量を増加させ、体温を上昇させる効果があります。また中枢神経興奮作用もあり、総合的な作用として代謝を活性化する効果があります。過剰な交感神経の刺激はストレスとなって体力を疲弊させますが、適度な刺激は治癒力を高めることが知られています。

(文責:福田一典)

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