570)抗がん剤治療中の漢方治療(その1):黄芩湯と半夏瀉心湯

図:紀元200年頃にまとめられた中国伝統医学の古典の一つの「傷寒論(しょうかんろん)」には、急性感染症に対する治療法が記載されている。この傷寒論に急性胃腸炎に伴う発熱、下痢、腹痛、嘔吐を目標に使用される処方として黄芩湯(黄芩、大棗、甘草、芍薬)と半夏瀉心湯(黄芩、大棗、甘草、人参、半夏、黄連、乾姜)が記載されている。下痢や腹痛や嘔吐の症状は抗がん剤治療の副作用と似ているので、抗がん剤の副作用軽減の目的でこれらの処方が使用され、その有効性が臨床試験で示されている。抗がん剤の副作用軽減作用に黄芩(おうごん)の効果が注目されている。

570)抗がん剤治療中の漢方治療(その1):黄芩湯と半夏瀉心湯

【がんの統合医療とは】
体の防御力は20歳代をピークにして加齢とともに低下します。ストレスやダメージを受けても回復力で元の状態に戻すことができます。しかし、がん治療に伴う手術や抗がん剤や感染症や栄養不全は生体防御力を低下させ、死を早めます(下図)。
 

図:生体防御能は20歳台をピークにして、老化に伴って生理的に低下する(①)。身体的侵襲や精神的ストレスにより防御力は低下するが、復元力(回復力)により回復する(②)。生体防御力への配慮なく手術や抗がん剤などによりがんの攻撃ばかり行っていると、防御力のレベルの低下によりがんの急速な進展や日和見感染や栄養不全などが原因となって死亡する(③)。漢方治療や栄養補助など適切な対処により生体防御力を高めることもできる(④)。がん患者の延命を計る目的で栄養状態と体力と生体防御力を高めることは重要である。 

漢方治療は体の抵抗力や治癒力を高めることにより、抗がん剤の副作用を軽減します。がんを攻撃する西洋医学のがん治療と体の治癒力を高める漢方治療を併用する治療を「がんの統合医療」と言います。漢方治療を併用することによって副作用を軽減し抗腫瘍効果を高めることができます(下図)。

図:漢方治療は、体の抵抗力や治癒力を高めることにより、抗がん剤治療の欠点を補うことを目標とする。がん細胞を攻撃する抗がん剤と、体の抗がん力を高める漢方治療を併用することによってがん治療の効果を高めることができる。

【がん治療における漢方治療の目的】
がん細胞を攻撃することを目的とする手術や放射線や抗がん剤は、がん細胞だけでなく正常な細胞や組織も傷つけてしまうため、耐えがたい副作用により死期を早めたり、がんの再発を促進することもあります。

残念ながら、西洋医学には、 抗がん力(がんに対する抵抗力や治癒力)を高めるという考え方や有効な手段はありません。
体の栄養状態や体力を増強して、免疫力や抗酸化力など体の抵抗力を高めることは、攻撃的治療の副作用を軽くするだけでなく、治療効果を高めることができます。

がんが進行して西洋医学で治療法がないと言われた場合でも、体に備わった抗がん力を引き出すことのできる漢方治療を活用すればがんの進行を抑えて延命することもできます。抗がん作用のある生薬を多く用いることにより、がんを縮小させることも可能です。

このように、体に備わった抗がん力と天然薬物が持つ抗がん活性を活用して、生活の質を良好に保ちながらがんの克服を図ることが「漢方がん治療 」の目標です(下図)。

 

【米国で臨床試験が行われている黄芩湯(おうごんとう)】

米国で臨床試験が行われているがんの治験薬にPHY906という薬があります。PHY906は治験薬としての名称ですが、これは黄芩湯(オウゴントウ)という漢方処方に基づいた薬です。

黄芩湯は、黄芩(オウゴン)芍薬(シャクヤク)大棗(タイソウ)甘草(カンゾウ)の4種の生薬を組み合わせて作成された漢方薬で、約1800年前に著された医学書「傷寒論(しょうかんろん)」の中に記載され、細菌性腸炎などで発熱、下痢、腹痛、吐き気がある場合の治療薬として用いられてきました。

黄芩(オウゴン)はシソ科のコガネバナの根で、漢方薬の代表的な清熱薬(解熱・抗炎症作用をもつ生薬)です。含有するフラボノイド成分(バイカレインオーゴニンなど)は抗炎症作用、抗酸化作用、がん細胞のNF-kB阻害作用、アポトーシス誘導作用、抗菌・抗ウイルス作用、抗がん剤による下痢の緩和作用など多彩な作用を持ち、抗がん剤の副作用を軽減し、抗腫瘍効果(奏功率や生存率)を高める効果が報告されています。
芍薬(シャクヤク)はボタン科のシャクヤクの根で、主成分のペオニフロリンには、腸管平滑筋の痙攣を緩和し、過剰になった腸の蠕動運動を鎮める効果があります。鎮痛作用と鎮痙作用によって筋肉の痙攣や腹痛を軽減します。
大棗(タイソウ)はクロウメモドキ科のナツメの果実です。胃腸虚弱な人の食欲不振・元気がない・疲れやすいなどの症状に用います。
甘草(カンゾウ)はマメ科のウラルカンゾウの根です。グリチルリチンを含み強い甘味を持ち、他の薬の薬性を調和させ、薬効が過剰にならないように緩和させ、副作用の軽減を図る目的や、味をよくする矯味薬としても使用されます。

図:黄芩湯は、オウゴン、シャクヤク、タイソウ、カンゾウの4種の生薬から作られ、細菌性腸炎などの治療に使用されている。動物実験で抗がん剤の副作用を軽減し、奏功率を高める効果が報告され、PHY906の治験名で臨床試験が米国で行われている。  

下痢腹痛吐き気といった症状が抗がん剤の副作用と似ており、抗がん剤の副作用の症状緩和に効果が期待されて動物実験や臨床試験が行われて、その有効性が報告されています。

がん細胞を移植したマウスを使った実験では、PHY906は単独では抗腫瘍効果を示しませんでしたが、抗がん剤との併用で、抗がん剤の腫瘍縮小効果を増強し、副作用を軽減する効果が認められました。

例えば、人間の肝臓がんを移植したマウスに、抗がん剤のカペシタビン(商品名:ゼローダ)やイリノテカン(商品名:カンプト、トポテシン)で治療する実験モデルで、PHY906を投与すると腫瘍縮小効果が増強しました。

マウスに膵臓がんを移植した実験モデルでは、PHY906はゲムシタビン(商品名:ジェムザール)の抗腫瘍効果を増強し、マウスに大腸がんを移植した実験モデルでは、PHY906はイリノテカンの抗腫瘍効果を増強しました。
これらの動物実験において、PHY906は単独では抗腫瘍効果は認められませんでしたが、抗がん剤との併用で抗がん剤の腫瘍縮小効果を増強しました。

このような基礎研究をもとにして、米国の食品医薬品局(FDA)は臨床試験を行うことを許可し、現在、米国で臨床試験が行われています。
進行した膵臓がん患者に対するカペシタビンによる治療にPHY906の第1/2相試験の結果が報告されていますが、抗がん剤の副作用緩和と抗腫瘍効果の増強において有効性が報告されています。
以下のような報告があります。

First-in-human phase II trial of the botanical formulation PHY906 with capecitabine as second-line therapy in patients with advanced pancreatic cancer.(進行した膵臓がんの患者における第2選択療法としてのカペシタビンと植物製剤PHY906の併用療法に関する世界初の第II相臨床試験)Cancer Chemother Pharmacol. 2014 Feb;73(2):373-80.

「First in human」というのは、被験薬を動物ではなくヒトに対して世界で初めて投与することを意味します。漢方薬の黄芩湯を元に作成されたPHY906のカペシタビンとの併用に関する最初の第II相臨床試験の結果です。

【要旨】
研究の背景:前臨床試験では、中国伝統医学の薬草処方薬のPHY906が、カペシタビンとの併用で相乗的な抗腫瘍活性を有することが示された。私たちの第Ⅰ相試験では、2週間ごとにカペシタビンを1,500 mg / m 2(1日2回服用 day 1〜7)とPHY 906は1回800 mgを1日2回(day 1〜4)の投与を最大耐容用量と決定した。 今回の試験では、ゲムシタビン療法で治療された進行膵がん患者を対象にして、カペシタビンとPHY906の併用療法の有効性を検討するための第II相試験を実施した。
方法:パフォーマンスステータスが0〜2の膵臓がん患者は、PHY906とカペシタビンの併用療法を受けた。毒性はNCI-CTCAE v3.0を用いて評価し、腫瘍の縮小率の測定は6週ごとに行った。サイトカインとケモカインと成長因子の測定を行った。 エドモントン症状評価システムを利用して生活の質(QOL)を評価した。 主要なエンドポイントは全生存期間であった。
結果:この研究では25人の患者が登録された。 無増悪生存期間の中央値は10.1週(0.4〜54.1週)であり、全生存期間の中央値は21.6週(0.4~84.1週)であった。 18人の患者が少なくとも2サイクルの治療を受け、無増悪生存期間の中央値は12.3週で、全生存期間は28週であった。 6ヶ月後の生存率は44%(11/25)であった。サイトカインのIL-6のみが生存期間の短縮と有意に相関することが示された(p <.001)。
結論:ゲムシタビンで効果が無くなった進行膵臓がん患者に対して、カペシタビン+ PHY906は安全かつ実施可能な治療法になることが明らかになった。 膵臓がんの進行と悪液質におけるIL-6の関与が示唆されたので、膵臓がんの病態生理学と抗IL-6治療薬関連についても検討する必要がある。

膵臓がんの他にも大腸がんや肝臓がんを対象にした臨床試験でも、黄芩湯(PHY906)は抗がん剤の副作用を軽減し、抗腫瘍効果(奏功率や生存率)を高める効果が認められています。

以下のような報告があります。

Phase I/II study of PHY906/capecitabine in advanced hepatocellular carcinoma.(進行肝臓がんにおけるPHY906/カペシタビン治療の第I/II相臨床試験)Anticancer Res. 2009 Oct;29(10):4083-92.

切除不能の進行肝臓がんに対する治療法として、カペシタビンとPHY906の併用療法の効果が第I/II相臨床試験として検討されています。
2サイクルの治療で60%以上の患者が病状安定以上の有効性を認めたと報告されています。全生存期間の中央値はアジア人では16.5ヶ月で、非アジア人では6.2ヶ月と有意差を認めたと報告しています。
その他、多くの基礎研究や臨床試験が報告されています。
黄芩湯という漢方処方に基づいて作成した治験薬のPHY906は、抗がん剤の薬物動態に影響せず、副作用を軽減し、抗腫瘍効果を高める結果が報告され、抗がん剤治療の補完療法として有用性が示唆されています。

その作用機序としては、抗炎症作用(NF-κB活性やシクロオキシゲナーゼ-2活性の阻害作用)や抗がん剤でダメージを受けた粘膜上皮細胞の再生を促進する作用などが示唆されています。

この4つの生薬の中で、特にオウゴンは強い抗炎症作用を持っています。オウゴンに含まれるバイカレインオーゴニンといったフラボノイドには、核内転写因子のNF-κBの活性やシクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)活性を阻害する作用や抗酸化作用や抗菌作用が報告されています。

このような抗炎症作用は抗がん剤による粘膜のダメージを緩和する効果の理由と考えられます。さらにNF-κBやCOX-2活性を阻害する作用はがん細胞の抗がん剤感受性を高める効果があります。
芍薬甘草大棗は、胃腸の働きを良くし食欲を高める効果や、免疫増強作用、造血作用、肝臓保護作用などが知られています。
したがって、黄芩、芍薬、大棗、甘草の4つの組合せは、抗がん剤の副作用を軽減し、さらに抗腫瘍効果を高めることができると考えられます。


【がん治療に伝統的な治療法が役立つ可能性がある】
Yale Scientific Magazineという米国の科学雑誌があります。エール大学(Yale University)の学生が中心になって年に4回発行されています。この雑誌の2015年11月4日発行の記事にPHY906の開発の中心であるチェン教授(Dr. Yung-Chi Cheng)のインタビュー記事があります。以下はその記事の日本語訳の抜粋です。(原文はこちら

East Meets West in Cancer Treatment: Ancient herbal remedies prove their worth in modern clinical trials(がん治療における東洋と西洋の合流:古代の薬草療法は現代の臨床試験でその価値を証明する)
By Milana Bochkur Dratver, November 4, 2015 20:46

おばあちゃんが作るチキンスープは本当に風邪を治すことができるのだろうか? 唐辛子とレモンは本当に喉の痛みを治してくれるのだろうか? 医師や科学者の中には、このような民間療法に懐疑的な人もいるし、この懐疑主義の中には正当なものがある。
しかし、チェン教授(Yung-Chi Cheng)は医療へのオープンなアプローチを提唱している。最終的な目標は患者に可能な限り最高のケアを提供することであり、それは、潜在的に有用な治療法を見過ごすべきではないことを意味する。
チェン教授は東洋医学に精通していたが、もし中国伝統医学の処方を無視していたら、がん治療のための素晴らしい可能性を持つ新薬を見つけることはなかっただろう。
PHY906は4種類の生薬から構成される漢方処方で、下痢や悪心や嘔吐の治療に2,000年間も利用されてきた。チェン教授はこのPHY906でがん治療のパラダイムを変えようとしている。
がんは比較的近代的な疾病であるが、がん治療に伝統的な治療法が役立つ可能性がある
チェン氏は、エール大学医学部の薬理学の教授である。 彼の研究室のメンバーは、伝統的なハーブ療法の研究に対する批判を回避するため、製造過程を改良してPHY906の組成を標準化した。
2003年には、147の機関と18の産業企業を結ぶ中国医学の共同事業体を設立した。 チェン氏は、「伝統医学を推進する上で偏見や差別を伴わない非政治的非営利団体の中で最大のものだ」と述べている。
PHY906は現在FDAの承認を待っているが、全国の複数の研究機関の研究者がその有効性を裏付けるデータを得ている。これまでの結果は有望であり、この薬草療法はがん治療の厄介な副作用を軽減するだけでなく、治療の効率も向上させる結果が得られている。

見事にテストに合格する:
PHY906は、歴史的な漢方処方の黄芩湯(Huang Qin Tang)を基にしている。黄芩(オウゴン)、芍薬(シャクヤク)、大棗(タイソウ)、甘草(カンゾウ)の4種の生薬を組み合わせて作成されている。 PHY906が最大限に効果を発揮するためには、これら4つの成分がすべて必要であることを示す実験結果が報告されている。すなわち、いずれかの成分が除かれると、肝臓がんのマウスを治療するのに成功しなかった。
現代の科学研究の道具がなくても、古代中国の治療者は病気を治療する適切な方法を考案した。科学の進歩にもかかわらず、研究者は今でも過去から学ぶことができる。
それでも科学者は、歴史と文化に根ざした興味深いアイデア以上のものを求めている。彼らは、再現可能で定量可能な結果を求めている。 PHY906はこれまでのところ、現代科学の厳しい基準に従って検討されている。 マウスの実験では、肝臓がんの治療薬としてFDAが唯一承認したソラフェニブと組み合わせてPHY906が使用された。 PHY906の併用はソラフェニブの望ましくない副作用を減少させただけでなく、ソラフェニブの有効性を増強した
PHY906が他のがんの治療および異なる治療の組み合わせで同様の結果を生み出すかどうかを評価する研究が進行中である。 この薬は人間が使用するためにFDAの承認を得ているため、いくつかのレベルの臨床試験が進められている。放射線治療のような他の従来のがん療法と組み合わせた試験も行われている。
究極の目標は、その恐ろしい副作用で有名な抗がん剤治療を補う処方薬としてPHY906を米国に持ち込むことである。

初期のインスピレーション:
チェン氏は長い間、副作用に関心を持ち、それらを排除する方法に関心を持ってきた。 彼の研究者としての経歴は、ウイルス特異的な複製システムを研究した1974年にはじまった。
当時、特定の化合物を使ってウイルスを選択的に標的にする方法があると思う人はほとんどいなかったが、すぐに現実となった。 チェン氏は、ヘルペスウイルスをモデル系として用いて、ウイルス特異的タンパク質がある治癒薬に感受性がある可能性を発見した。 つまり、ウイルスを標的とする化合物を、他の細胞を傷つけることなく使用することができる。
10年足らずで、チェン氏は乳児死亡の主要原因であるサイトメガロウイルスを治療する化合物を発見した。 同じ化合物は、1980年代にHIVに感染した人々を治療するために使われた。
ウイルス性疾患の治療におけるこの画期的な進歩により、多くの科学者はがんを含む様々な病気の薬物治療を探索した。
新薬化合物は病気の治療に効果的であったが、同時に有害な副作用を引き起こした。
その後の問題は、薬物の有益な効果を低下させることなく負の副作用を排除する方法であった。 チェン氏はこれらの薬物の作用機序を調べることに決めた。
彼は、副作用がミトコンドリアの毒性に起因していることを発見した。ミトコンドリアはエネルギー産生の細胞内小器官であり、ミトコンドリアはダメージを受けて数が減少していた。
チェン氏の発見は、医薬品開発の次のステップを非常に明確にした。病気を治療するには、病気の原因を選択的に攻撃し、細胞のすべての部分を正常に保つような標的アプローチが必要である。
彼ががんに焦点を当てたとき、単一の化学物質で十分であるとは思っていなかった。 がん組織は不均一であり、これは、ある化合物ががん細胞の全集団に影響を及ぼす可能性が低いことを意味する。
「がん治療に根本的にどのように取り組むべきかについて新しいパラダイムを開発する必要があることは明らかだった」とチェン氏は語った。
彼の解決策は、人体の免疫系をターゲットにすることであった。これは、がんの治療治療において、身体に備わった治癒系と防御系のメカニズムを利用することであった。
このように全人的に考えると、チェン氏は、複数の治療薬が併用される必要があると考えた。なぜなら、不均一ながん組織において、1つの化合物ががん細胞の全てを死滅させるのに成功することはできないからである
同じ治療法が異なる患者において様々な程度の有効性を有することが多く、より良い治療法を示唆する手がかりを、古典の記載に頼ることになった。
チェン氏は今日もまだ使用されている伝統医学の処方について読んでいるうちに、中国医学は何世代にも渡って複数の治療アプローチを使用していることを発見した。
この洞察を得て、彼は古代から使用され、現在も使用されている約20の漢方処方(薬草の組み合わせ)を調査した。これらの漢方処方は、下痢や吐き気などの症状に対処するために使用されており、化学療法の重要な効果を妨げることなくがん効果、治療の副作用を軽減するのに役立つと確信した。

 魔法の背後にあるメカニズム:
チェン教授の研究室では、PHY906の生薬の組み合わせがなぜ効果的であるかを理解するメカニズムを検討している。 現在のデータは、2つの主なメカニズムを示唆している。
1つのメカニズムは、この薬が炎症抑制剤として働くことを示唆している。
体内の3つの主要な炎症経路は全てPHY906によって阻害され、この漢方薬が体内に複数の作用部位を有することを示唆している。 3つの炎症経路全てに作用することで、PHY906の抗炎症作用は他の西洋薬の抗炎症薬より優れている
興味深いことに、古代中国の病気の1つのクラスに 「」という考えがある。この「熱」は炎症と関連している。 「熱」を呈する疾患を治療するために使われている伝統的な生薬が、6つのよく特徴付けられた炎症経路に対してスクリーニングされたとき、この治療カテゴリーの生薬の80%以上が少なくとも1つの経路に対して抑制活性を示した。 異なるクラス(熱以外)の生薬を炎症経路に対して試験したところ、20%のみが何らかの関連を示した。伝統医療は科学的結果と強い相関するようである。
PHY906の他の作用機序は、組織の幹細胞および前駆細胞の増殖を亢進させることによって、ダメージを受けた組織の回復を促進することである。
幹細胞と前駆細胞は、必要とされる状況に応じて異なる標的細胞型に分化することができる。 幹細胞および前駆細胞を制御する遺伝子の発現を活性化することにより、PHY906は損傷した組織を修復するための新しい細胞の増殖を亢進することができる
PHY906の作用メカニズムに関するこれらの科学的根拠は、がん以外の他の病気を治療するためにこの薬物をいつか適用できる可能性を示唆している。 例えば、炎症を抑制するために使われて来た古代の薬草療法は、炎症性大腸疾患の症状を緩和するのに有用である可能性がある。

東西ギャップの橋渡し:
チェン教授がPHY906の研究で期待しているのは、現代医学と伝統医学の統合における役割である。 治療への統合的アプローチはすべての選択肢を考慮し、新旧の薬の可能性を探ることである。 チェン教授の仕事は現代医学の限界を克服するための視点の転換の一例かもしれない。
伝統的な治療薬を無視することはできない。 それらは、有効性が証明されずに何世代も生き延びてきたわけでは無い。 医学は、神経変性から糖尿病、メタボリックシンドロームに至るまで益々複雑な疾患に直面するため、医療従事者はすでに存在しているすべての手段を検討する必要がある。
「これらの複雑な症候群や病気の病因は単純なものではない。 これらは多くの異なる遺伝的および環境的要因によって引き起こされる」とチェン氏は語った。 したがって「解決法を追求する際には、一つのターゲットだけに焦点を当てることは実用的ではない。
伝統医療の研究に西洋医学的な研究手法を適用することには様々な懸念もあるが、チェン氏の研究室ではすべての研究を厳格な科学的基準に保つよう努力している。
この研究チームでは、PHY906製品が常に同じ化学的性質を維持することを確実にするために、適正製造基準(good manufacturing practice)に準じて製造している。
天然薬の重要な問題の1つは成分の偏りである。各薬草は実験室ではなく土から生育する。つまり、使用するたびに化学組成がわずかに異なる可能性がある。適正製造基準(good manufacturing practice)とは、医薬品製造の各段階における正確な時間、濃度、温度を特定する正確なプロセスである。
チェン教授の製品を特別なものにしているのは、他の薬理学の施設では、伝統的医学の治療薬の製造のためのそのような厳格な規則と規制を作成していないことである。
そして、それはチェン氏が真に信じている薬である。「問題を解決するための正しい組み合わせを見つけ出すことが私たちの仕事です」とチェン氏は言っている。
PHY906はがん治療において飛躍的な進歩を遂げる可能性があり、それはオープンな研究方針によって達成できる。
中国医学のグローバル化のためのチェン氏の共同事業体(コンソーシアム)は、総合的な医療研究を最大限に活用することも目的としている。 共同事業体のメンバーは伝統的な治療法や品質管理規制や生薬原料の確保などの課題に協力して取り組んでいる。
チェン氏はPHY906に専念し、東洋医学の治療法の研究に西洋医学の手法を取り入れている。 彼は次のように述べている。「前進しなければならない。科学者たちは、母なる自然が私たちに提供してくれている天然の化学物質をもっと活用する必要がある」とチェン氏は言っている。

【塩酸イリノテカンの下痢に対する半夏瀉心湯の予防効果】
傷寒論は急性感染症の治療法を主体に記述しています。
黄芩湯は、黄芩(オウゴン)、芍薬(シャクヤク)、大棗(タイソウ)、甘草(カンゾウ)の4種の生薬を組み合わせた処方です。
傷寒論には黄芩加半夏生姜湯(オウゴンカハンゲショウキョウトウ)という処方もあります。これは黄芩湯(黄芩+芍薬+大棗+甘草)に半夏(ハンゲ)乾姜(カンキョウ)を加えた処方で、下痢、嘔吐、発熱、腹痛の症状を目標にして急性腸炎の治療に用います。
半夏(ハンゲ)はサトイモ科カルスビシャクの塊茎を乾燥したものです。塊茎には鎮吐作用去痰作用があります。
乾姜(カンキョウ)はショウガ科のショウガの根茎(肥大した地下茎)を蒸して加熱処理して乾燥したものです。ショウキョウ(生姜)は食欲を増進し、消化機能を高め、吐き気を止め、体を温めるなどの効果があります。解毒の効能があり半夏(ハンゲ)など他の生薬の刺激性や毒性を緩和します。このような作用により多くの漢方薬に配合されています。カンキョウ(乾姜)は体を温める効果が高くなり、体の冷えによる症状の治療に用いられます。辛み成分(ジンゲオールやショウガオールなど)には抗炎症作用やがん予防効果が報告されています。
この黄芩加半夏生姜湯から芍薬を省いて人参と黄連を加えた処方が半夏瀉心湯(ハンゲシャシントウ)です。
人参(ニンジン)はオタネニンジンの根で、消化吸収機能を賦活化し、体力を高め、種々のストレスに対する生体の非特異的抵抗性を強くする効果があります。虚弱体質の胃腸疾患に用いられる漢方処方の多くに人参が配合されています。
黄連(オウレン)はキンポウゲ科の常緑多年草のオウレン(Coptis japonica)のひげ根を除いた根茎です。黄連の活性成分としては、ベルベリン、パルマチン、コプチジンなどのアルカロイドが主体です。ベルベリンなどのアルカロイド成分は、大腸菌や黄色ブドウ球菌や赤痢菌など多くの病原菌に対して、殺菌作用や抗菌作用を示します。さらに、健胃作用・止瀉作用・抗炎症作用・肝障害改善作用・中枢抑制作用(鎮静作用)・鎮痙作用・血圧降下作用・動脈硬化予防作用などの薬理作用が報告されています。

表:黄芩湯(おうごんとう)と黄芩加半夏生姜湯(おうごんかはんげしょうきょうとう)と半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)の構成生薬

半夏瀉心湯半夏・黄芩・乾姜・人参・甘草・大棗・黄連の7種の生薬から構成され、下痢や悪心・嘔吐などの治療に用いられる漢方薬です。補益作用のある人参・甘草・大棗に、抗炎症作用を持つ黄芩・黄連と消化管機能改善作用のある半夏・乾姜を組み合わせることにより、胃腸粘膜の炎症を緩和し、粘膜のダメージの回復を早めます。
塩酸イリノテカンCPT-11、商品名;トポテシンまたはカンプト)は大腸がん、胃がん、肺がん、卵巣がんなどの治療に使われている抗がん剤です。CPT-11はプロドラッグで、体内で活性型(SN-38)に代謝され、I型DNAトポイソメラーゼを阻害することで抗がん作用を発現します。
副作用として重篤な下痢があります。
塩酸イリノテカンの活性体(SN-38)が肝臓でグルクロン酸抱合を受けて胆汁経由で腸管に排泄された後、腸内細菌のβ-グルクロニダーゼによって脱抱合される結果、活性型代謝産物(SN-38)が再生成され、これが腸管粘膜を損傷して下痢が引き起こされると考えられています(下図)。

図:イリノテカン(CPT-11)は体内でカルボキシルエステラーゼによって7-エチル-10-ヒドロキシカンプトテシン(SN-38)に代謝され、I型DNAトポイソメラーゼを阻害することで抗がん作用を発現する。SN-38は肝臓においてUDP-グルクロン酸転移酵素(UDP-glucuronyltransferase; UGT)の分子種の一つであるUGT1A1によってグルクロン酸抱合体(SN-38-Glu)として胆汁中に排泄される。SN-38が肝臓でグルクロン酸抱合を受けて胆汁経由で腸管に排泄された後、腸内細菌のβ-グルクロニダーゼによって脱抱合される結果、活性型代謝産物(SN-38)が再生成され、これが腸管粘膜を損傷して遅発性下痢が引き起こされる。

黄芩(シソ科のコガネバナの根)に含まれるフラボノイド配糖体のバイカリンには、β-グルクロニダーゼを阻害する活性があるため、活性型の腸管での再生成を抑え、塩酸イリノテカンの下痢を抑制する可能性が推測され、黄芩を含んでいてしかも下痢に使用される漢方薬である半夏瀉心湯が試されました。
その結果、塩酸イリノテカンの投与2〜3日前から半夏瀉心湯エキス剤を投与したところ、下痢の予防あるいは軽減効果があることが動物実験やヒトの臨床試験で示されました。
単にフラボノイド配糖体によるβ-グルクロニダーゼ阻害が唯一の作用機序であるなら、漢方方剤でなく、黄芩やフラボノイド配糖体の単独投与でも効果がありそうです。しかし、半夏瀉心湯に含まれる他の生薬の総合的な作用がより効果を高めているのです。
つまり、半夏瀉心湯には腸管内プロスタグランジンE2の増加を抑制し、障害された腸管粘膜の修復を促進し、さらに腸管の水分吸収能を改善する効果も報告されています。単一の成分より複数の生薬の相乗効果を利用して効果を高める点が漢方薬の特徴なのです。
抗がん剤による口内炎に半夏瀉心湯 の含嗽が有効という報告があります。半夏瀉心湯には抗菌・抗炎症作用と口腔粘膜の修復を促進する作用があるので、口内炎の痛みを軽減し、治りを促進します。

 

図:塩酸イリノテカン(CPT11)はプロドラッグであり、まず体内で肝臓に存在するカルボキシルエステラーゼによって強力な抗がん作用をもったSN-38に代謝されて全身に運ばれる(①)。肝臓内で生成したSN-38は同じく肝臓に存在するグルクロン酸抱合酵素(UDP-グルクロン酸転移酵素)によってグルクロン酸抱合され(②)、胆汁を経て腸管に排泄される(③)。この時点でSN-38は不活化されていて障害作用は有さない。しかし、胆汁から腸管内に移行したSN-38のグルクロン酸抱合体は腸内細菌のβ-グルクロニダーゼによって分解され(④)、再び活性型のSN-38が大腸内で生成される(⑤)。この大腸内で生成されたSN-38が大腸の粘膜上皮細胞を障害して下痢を発症する。
半夏瀉心湯に含まれる黄芩(オウゴン)のフラボノイド配糖体は腸内細菌のβ-グルコロニダーゼ活性を阻害する(⑥)。その結果、大腸内における活性型SN-38の生成が抑制され、薬剤の効果を弱めることなく下痢が予防される。 

【黄芩の抗がん作用】

黄芩湯(おうごんとう)は黄芩・芍薬・大棗・甘草の4つの生薬が組み合わさっています。
半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)は半夏・黄芩・乾姜・人参・甘草・大棗・黄連の7種の生薬から構成されています。両者に共通するのは、黄芩・大棗・甘草の3つです。大棗と甘草は胃腸粘膜を保護し、食欲を高める作用はありますが、副作用軽減と抗腫瘍効果増強の観点から最も重要なのが黄芩だと言えます。

黄芩(オウゴン)はシソ科のコガネバナの周皮を除いた根で、漢方薬の代表的な清熱薬(解熱・抗炎症作用)の一つです。
呼吸器、消化器、泌尿器などの炎症や熱性疾患に幅広く使用されており、特に、肺炎や慢性気管支炎などの呼吸器感染症、感染性腸炎などによる下痢、ウイルス性肝炎などの慢性肝疾患、胆嚢炎、膀胱炎、にきびなどの皮膚化膿症などに使用されてきました。

オウゴンはフラボノイド類(バイカリン・バイカレイン・オーゴニンなど)を多く含みます。オウゴンに含まれるフラボノイドには、抗炎症作用・抗アレルギー作用・プロスタグランジン生合成阻害作用・抗腫瘍作用・毛細血管強化作用・脂質代謝改善作用・肝障害予防作用などの多彩な薬理作用が報告されています。

図:黄芩(オウゴン)はシソ科のコガネバナの周皮を除いた根で、漢方薬の代表的な清熱薬(解熱・抗炎症作用をもつ生薬)の一つ。含有するフラボノイド成分(バイカレインやオーゴニンなど)は抗炎症作用、抗酸化作用、がん細胞のNF-kB阻害作用、アポトーシス誘導作用、抗菌・抗ウイルス作用、抗がん剤による下痢の緩和作用など多彩な作用を持ち、抗がん剤の副作用を軽減し、抗腫瘍効果(奏功率や生存率)を高める効果が報告されている。 

黄芩(オウゴン)のフラボノイドによる、抗菌、抗ウイルス、抗炎症、抗がん作用といった薬効は、がん治療における有用性を示唆しています。

オウゴンはがん細胞を死ににくくしているNF-κBという転写因子の活性を阻害することによって、抗がん剤感受性を高める可能性が報告されています。


ヌードマウスを使った実験で、熱水抽出液を経口摂取で75mg/kgの投与で腫瘍の縮小が認められた実験結果が報告されています。この量は体重換算で人間では1日4~5gに相当するので、人間でも煎じ薬の経口摂取で、抗腫瘍効果が期待できることが示唆されます。(体表面積で換算すると人間では1g以下でも効果がある計算になります。)

オウゴンのフラボノイドにはシクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)活性阻害作用などの抗炎症作用が報告されています。このような抗炎症作用により、がんの再発や進展を抑える効果が期待できます。
さらに抗菌作用抗ウイルス作用によって、感染症を予防・治療します。
抗がん剤治療などで抵抗力が低下すると、日和見感染症など、通常では発症しないような弱毒の細菌やウイルスによっても感染症が起こります。免疫力を高める人参、黄耆、霊芝などの生薬と併用することによって、感染症の予防や治療に効果が期待できます
数多くの薬草類や栄養補助食品やサプリメントが、化学療法や放射線治療に影響する可能性を疑われており、多くの医師はがん治療を受けている患者にこれらの製品を摂取しないようアドバイスするのが普通です。その一方で、一部の薬草や食品やサプリメントががん治療に有用な作用を持つことに注目する研究者も多く、標準治療にそれらを併用することによって副作用の軽減や抗腫瘍効果の増強の効果を検討する基礎研究や臨床試験が行われています。
臨床試験の結果に基づいて、目的に応じた適切な漢方治療を行えば、抗がん剤治療の副作用を軽減し、抗腫瘍効果を高めることができると言えます。

黄芩(オウゴン)は2000年以上前から漢方治療に使用されており、その薬効や安全性は経験的に確かめられており、現在ではその抗がん作用が注目されて多くの研究が発表されています。抗炎症作用、抗酸化作用、がん細胞のNF-κB阻害作用、アポトーシス誘導作用、抗菌・抗ウイルス作用、抗がん剤による下痢の緩和作用などから、オウゴンをベースにした漢方薬は抗がん剤治療の補完療法と有用性が高いと言えます。
半夏瀉心湯と黄芩湯を一緒にしたような処方(半夏瀉心湯+芍薬)は抗がん剤の副作用予防効果が期待できるように思います。

【下痢に使われる生薬と漢方薬】
下痢はがん治療中にしばしばみられます。
抗がん剤治療では消化管粘膜のダメージによって消化吸収が障害され、消化管手術の後では消化管の切除や再建による消化管運動の異常が下痢の原因となります。抵抗力が低下していると病原菌による胃腸炎が起こりやすくなり、抗生物質を使うと腸内細菌の変化によって下痢が起こることがあります。
下痢の治療では西洋薬の治療に加えて漢方薬を併用すると効果が高まることがあります。昔から胃腸虚弱による下痢や感染性下痢には漢方薬が使われており、西洋薬にない効果もあるからです。
胃腸内に水分が停滞して水様性下痢を起こしているときには、白朮(びゃくじゅつ:オケラやオオバナオケラの根茎)・蒼朮(そうじゅつ:ホソバオケラやシナオケラの根茎)・茯苓(ぶくりょう:マツホドの菌核)・猪苓(ちょれい:チョレイマイタケの菌核)・沢瀉(たくしゃ:サジオモダカの塊茎)などの健脾利水薬(胃腸の働きを高めて余分な水分を排出する薬)が使われます。
胃腸の働きが弱っている慢性下痢には、大棗(たいそう:ナツメの果実)・山薬(さんやく:ナガイモの根茎)・蓮肉(れんにく:ハスの果実)のような食品としても利用されている健脾薬を併用します。 
体力や抵抗力の低下が強いときには高麗人参(こうらいにんじん)黄耆(おうぎ)のような補気薬(生命エネルギーである気の量を増す生薬)を併用し、冷えが下痢を悪化させている場合には附子(ぶし)乾姜(かんきょう)など体を温める補陽薬を使用します。
感染性の下痢や出血を伴うときにはベルベリンを含む黄連(おうれん)黄柏(おうばく)を用い、消化管運動が亢進して腹痛が強いときには芍薬(しゃくやく)を配合します。芍薬はボタン科のシャクヤクの根で、主成分のペオニフロリンには、腸管平滑筋の痙攣を緩和し、過剰になった腸の蠕動運動を鎮める効果があります。
急性の水様性下痢で、胃腸内に過剰な水分が存在する場合(水滞)には利水剤の五苓散(ごれいさん)を用います。五苓散は利水薬の白朮(または蒼朮)・茯苓・猪苓・沢瀉に桂皮(クスノキ科のニッケイ類の樹皮)の5つから構成される漢方薬です。桂皮は血行促進作用によって利水の効果を高める目的があります。
慢性的な下痢の場合には消化吸収機能自体の低下があるため、胃腸の虚弱状態を改善することが大切です。六君子湯(りっくんしとう:人参・白朮または蒼朮・茯苓・甘草・生姜・大棗・半夏・陳皮)、啓脾湯(けいひとう:白朮または蒼朮・茯苓・人参・甘草・沢瀉・陳皮・山査子・山薬・蓮肉)、補中益気湯(ほちゅうえっきとう:人参・黄耆・白朮または蒼朮・甘草・大棗・陳皮・生姜・柴胡・升麻・当帰)のように、補気薬、健脾薬、利水薬をバランスよく組み合わせた漢方薬が使用されます。
胃腸虚弱と体の冷えが強い場合は、人参湯(にんじんとう:人参・白朮または蒼朮・甘草・乾姜)や真武湯(しんぶとう:附子・生姜・白朮または蒼朮・茯苓・芍薬)のように補陽作用(体を温める)を持つ乾姜や附子を併用した処方を使います。
腹がゴロゴロ鳴り、下痢と嘔吐があって上腹部の圧痛がある場合には半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)が使われます。前述のように、半夏瀉心湯は抗がん剤の塩酸イリノテカンによる下痢を緩和する効果が報告されています。
漢方薬は同じ下痢でも原因や病状に応じて処方を使い分けることができる点が、西洋薬にない特徴であり、西洋薬と併用することがメリットになる理由です。 

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