48)牛蒡子に含まれるアルクチゲニンはがんの温熱療法の効果を高める

図:牛蒡(ゴボウ)はキク科の植物で根は食用に供される。果実(種子)は牛蒡子(ゴボウシ)と呼ばれ、抗炎症作用や解毒作用が利用される。その活性成分はアルクチイン(arctiin)やアルクチゲニン(arctigenin)などのリグナン誘導体と考えられている。
48)牛蒡子に含まれるアルクチゲニンはがんの温熱療法の効果を高める
 
牛蒡子(ゴボウシ)はキク科(Compositae)のゴボウArctium lappa L. の果実(種子)です。牛蒡(ゴボウ)の根は食用に供されますが、種子は牛蒡子という生薬名で薬用に用いられます。
 牛蒡子には
解毒、解熱、消炎、排膿の作用があり、咽の痛い風邪、扁桃腺炎、化膿性の腫れ物、湿疹、麻疹、歯茎の腫れなどに応用されています。牛蒡子の配合される漢方処方には柴胡清肝湯(さいこせいかんとう)、消風散(しょうふうさん)、銀翹散(ぎんぎょうさん)などがありますが、これらは風邪や湿疹や慢性炎症やアトピー体質の治療に使われます。
 牛蒡子には抗炎症作用や抗菌作用、抗腫瘍作用が報告されており、
清熱解毒薬に分類されます。牛蒡子の抗炎症作用抗腫瘍作用は、それに含まれるアルクチイン(arctiin)アルクチゲニン(arctigenin)などのリグナン誘導体によるものと考えられています。アルクチゲニンに糖がついたものがアルクチインです。
リグナンとは水溶性食物繊維の一種で、顕花植物の茎や根、種子などに配糖体や遊離の状態で存在します。例えば、ごまに含まれるセサミンやセサミノールもリグナン類で、抗酸化作用や抗腫瘍効果が知られています。
最近、牛蒡子に含まれるアルクチゲニンの抗腫瘍効果が注目されています。2つの論文を紹介します。


文献1:Arctigenin from Fructus Arctii is a novel suppressor of heat shock response in mammalian cells(ゴボウの果実に含まれるアルクチゲニンは動物細胞における熱ショック蛋白応答の新しい抑制剤である)Cell Stress Chaperones. 11(2): 154-161.2006
牛蒡子に含まれるアルクチゲニンががんの温熱治療の効果を高める可能性を報告しています
がん細胞は熱に弱いので、がん組織を41~43℃に温めるとがん細胞が死にやすくなります。この原理を利用したがん治療法が
温熱療法です。温熱療法を抗がん剤や放射線治療と併用すると、抗腫瘍効果が高まることが知られています。しかし、がん細胞は熱に対して耐性を獲得することがあります。つまり、熱を加えても死ににくくなる機序が存在します。この仕組みに関連しているのが熱ショック蛋白(Heat Shock Protein、頭文字をとって「HSP」と呼ばれる)です。
熱ショック蛋白は文字通り熱というストレスによってつくられるタンパク質ですが、熱ショックばかりでなく他の様々な物理化学的ストレスによっても誘導されることから、
ストレス蛋白質とも呼ばれています。熱ショック蛋白は傷ついた細胞を修復し、細胞をストレスから防御する作用をもっています。
さて、この論文では、
がん細胞を温熱処理したときに産生が高まってくる熱ショック蛋白の発現過程を、アルクチゲニンが抑制することを報告しています。つまり、がん細胞を温熱療法で治療するときに、牛蒡子に含まれるアルクチゲニンは熱ショック蛋白の発現を抑えることによって、がん細胞が熱に対して耐性を獲得する過程を抑え、がん細胞の温熱療法に対する感受性を高め、死にやすくする効果があることを報告しています。
文献2:Identification of arctigenin as an antitumor agent having the ability to eliminate the tolerance of cancer cells to nutrient starvation.(がん細胞の栄養飢餓に対する耐性を取り除く能力を持つ抗がん成分としてのアルクチゲニンの同定)Cancer Res. 66(3):1751-1757. 2006
がん細胞は急速に増殖するため、酸素や栄養素の需要は高くなるのですが、血液の供給が追いつかない場合は、がん細胞は酸素や栄養素が不足しがちになります。しかし、がん細胞にこのような栄養飢餓の状態に対して、エネンルギー代謝を変え、栄養や酸素が不足した状態でも死なないで増殖を続けようとします。このような栄養飢餓に対する耐性のメカニズムを阻害してやれば、がん細胞は死にやすくなります。
この研究では、
牛蒡の種子(生薬名は牛蒡子)に含まれるアルクチゲニン(arctigenin)が、がん細胞がグルコース不足の状態に耐えるために活性化されるAktという酵素を阻害することによって、栄養飢餓に対する耐性の獲得を阻止する効果があることを報告しています。さらに、アルクチゲニンが様々ながんの増殖を抑制する効果があることを報告しています。

考察】
牛蒡子のアルクチゲニンが熱ショック蛋白の発現を抑える効果は、がん組織に直接温熱を加えて治療する場合には、併用するメリットがあると考えられます。しかし、熱ショック蛋白は、正常の細胞をストレスから守る作用もあります。
熱ショック蛋白は感染・傷害・疲労などで傷ついた細胞を修復し、生体をストレスから防御してくれます。それは、熱ショック蛋白が生体内で生じた障害された不良蛋白を修理してもとの元気な細胞に戻すというレスキュウ隊のような役割を果たしているからです。熱ショック蛋白はストレス環境下で増加してきますが、ストレスのない平常時でも蛋白の合成、運搬、分解に関与していることが知られており、このような平常時の熱ショック蛋白の作用を「
分子シャペロン」と呼んでいます。シャペロンとはフランス語で介添人のことで、社交界にデビューする若い婦人に付き添い、世話監督する人のことです。このように生体内の蛋白に対して重要な働きをしている蛋白が熱ショック蛋白なのです。
最近、熱ショック蛋白が、がんや病原菌を見つけだして殺傷するNK(ナチュラルキラー)細胞の活性を高めたり、抗原提示によりがん細胞を免疫細胞が攻撃しやすくする事がわかってきました。熱ショック蛋白の発現を高める生薬成分として芍薬のペオニフロリンが報告されています。
以上のことから、
牛蒡子およびその成分のアルクチゲニンは、がん組織に熱を加える温熱療法の効果を高める効果が期待できますが、体全体の抵抗力や免疫力を高める目的では合わないかもしれません。このように、がんの治療の状況に合わせて、生薬の使用を考慮することが大切です。
文献2では、
サリドマイドなどの血管新生剤によってがん組織を兵糧攻めにしようという戦略において、牛蒡子を含む漢方薬を併用すると、がん細胞を殺す効果が高まる可能性を示唆しています。
また、がんの中には動脈が乏しいのに、増殖し続けるがんもあります。たとえば、膵臓がんや胆管細胞がんなどは血管が乏しいのに、着実に増殖していきます。これは、これらのがん細胞が、栄養や酸素が不足した状態でも生存し、増殖を続けることができる性質をもっているからだと考えられます。したがって、
栄養飢餓に対するがん細胞の耐性のメカニズムを阻害するアルクチゲニンやそれを含む牛蒡子は、このような血管に乏しいがんの増殖を抑える可能性も示唆されます
以上の最近の基礎研究の報告から、
温熱療法や血管新生阻害剤や抗がん剤を使うがん治療において、牛蒡子を含む漢方治療は試してみるみる価値はあるかもしれません。


(文責:福田一典)
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« 47)がん性悪液... 49)五臓六腑と... »