659)重曹とクエン酸と「がんのアルカリ療法」

図:がん細胞はグルコースの取込みと解糖系によるグルコース代謝が亢進して、乳酸産生が増えている(①)。乳酸がイオン化して水素イオン(プロトン、H+)の量が増えるので細胞内のpHは低下する(酸性になる)。細胞内の酸性化は細胞にとって障害になるので、細胞はV型ATPアーゼ(vacuolar ATPase:液胞型ATPアーゼ)やMonocarboxylate transporter(MCT)などの仕組みを使って、細胞内の乳酸や水素イオン(プロトン)を細胞外に排出する(②)。その結果がん細胞の周囲はpHが低下してがん組織は酸性化している(③)。組織が酸性化すると、周囲の正常細胞がダメージを受け、タンパク分解酵素が活性化してがん細胞の浸潤や転移が促進される。腫瘍を養う血管の新生も誘導される。塩基性の抗がん剤は酸性の組織に到達しにくくなり、抗がん剤が効かなくなる。さらに、細胞傷害性T細胞やナチュラルキラー細胞のようながん細胞を攻撃する免疫細胞の働きが阻害される(④)。胃酸分泌阻害剤として使われているプロトンポンプ阻害剤はV-ATPaseを阻害する(⑤)。重炭酸ナトリウム(重曹)は水素イオンを中和する(⑥)。ケトン食はがん細胞のグルコース(ブドウ糖)の利用を低下し(⑦)、2-デオキシーD―グルコース(2-DG)とクエン酸は解糖系を阻害する(⑧)。ジクロロ酢酸ナトリウムはピルビン酸脱水素酵素キナーゼを阻害してピルビン酸脱水素酵素を活性化し、乳酸産生を低下させる(⑨)。これらの方法を組み合わせてがん組織の酸性化を軽減すると、がん細胞の浸潤や転移を抑制し、抗がん剤や免疫療法が効きやすくする効果が報告されている。

659)重曹とクエン酸と「がんのアルカリ療法」

【酸塩基平衡と重炭酸緩衝系】
水素イオン指数(pH:potential of hydrogen)は水素イオンの濃度を表す物理量です。pHの読みは「ピーエイチ」(英語読み)、または「ペーハー」(ドイツ語読み)です。
pHは水素イオンのモル濃度を mol/Lで表した数値の逆数の常用対数で示したもので、数値が低いほど酸性(プロトン量が多い)、数値が高いほどアルカリ性(プロトン量が少ない)になります。
体内のpHは非常に狭い範囲で厳密に制御されています。
正常な動脈血のpHは7.35〜7.45という非常に狭い範囲で調節されています。
このpHの調節は酸と塩基のバランスで行われます。
」というのは水素イオン(H+)を放出する物質で、「塩基」というのは水素イオン(H+)を受け取る物質です(下図)。

図:酸は水素イオンを放出し、塩基は水素イオンを受け取る

酸塩基のバランスを一定に保つ働きは体のいろいろなところで行なわれていますが、その中でも代表的な部位は、血液・体液、肺、腎臓です。
血液・体液における酸塩基平衡の調節で最も重要なのが重炭酸緩衝系です。
この系は、重炭酸イオン(HCO3-が塩基となってプロトン(水素イオン)を受けとって中和してpHを一定に維持します。体内で産生される水素イオンを重炭酸イオンが中和して、二酸化炭素は肺から排出されて血液・体液のpHが一定に維持されます。

【がん細胞は大量のプロトン(水素イオン)を産生している】
がん細胞では、酸素が十分に利用できる状況でもミトコンドリアでの酸素呼吸が抑制され、グルコース(ブドウ糖)の取込みと解糖系が亢進し、乳酸の生成が増えているという物質代謝の特徴を持っています。これを好気性解糖(Aerobic glycolysis)あるいはワールブルグ効果(Warburg effect)と言います。
ミトコンドリアでの酸素呼吸は解糖系に比べると相対的には抑制されていますが、正常の細胞レベルには起こっています(下図)。

図:がん細胞ではグルコースの取り込みと解糖系が亢進し、ミトコンドリアでの酸素呼吸(酸化的リン酸化)は抑制されている。そのレベルはがん細胞によって異なるが、一つの平均的な数値として、正常細胞のグルコースの取込み量を1とした相対値を記載している。正常細胞では取り込まれたグルコースの8割くらいがミトコンドリアでの代謝に使われている(上図)。がん細胞でもミトコンドリアでの代謝は正常細胞と同程度に起こっているが、グルコースの取込みは10倍程度に亢進し、その多く(80〜90%)は解糖系で代謝され、乳酸の産生が顕著に増えている(下図)。(参考:Free Radic Biol Med 2015 Feb; 0: 253-263)

がん細胞は解糖系が亢進し、乳酸とプロトン(水素イオン)の産生が増えています。グルコース1分子が解糖で2分子の乳酸になるときに2分子のプロトン(H+)が産生されます(下図)。

図:解糖系ではグルコースからピルビン酸、ATP、NADH + H+が作られる。嫌気性解糖系や乳酸発酵では、NADH + H+を還元剤として用いてピルビン酸を還元して乳酸にする。乳酸に変換する反応によってNAD+を再生することによって解糖系での代謝が続けられる。したがって、解糖系が亢進すると、細胞内で乳酸とプロトン(H+)が増える。

水素イオン(H+)が蓄積して細胞内のpHが低下して酸性になると細胞内のタンパク質の活性や働きは阻害され、pH低下が顕著になれば細胞は死滅します。そこで、がん細胞は乳酸や水素イオン(プロトン)を細胞外に積極的に排出しています。
乳酸はモノカルボン酸トランスポーター(monocarboxylate transporter :MCT)という輸送担体で細胞外に排出されます。水素イオンは液胞型プロトンATPアーゼ(vacuolar H+-ATPases)モノカルボン酸トランスポーターNa+-H+ 交換輸送体1(Na+-H+ exchanger 1:NHE1)などによって細胞外に放出されます。
がん組織の酸性化した微小環境は、がん細胞の生存にとって様々なメリットを与えます。
組織が酸性化すると正常な細胞が弱り、結合組織を分解する酵素の活性が高まるため、がん細胞が周囲に広がりやすくなり、さらに血管新生が誘導されるので、がん細胞の浸潤や転移が促進されます。
組織が酸性になるとがん細胞を攻撃しにきた免疫細胞の働きが弱ります。
さらに乳酸には、がん細胞を攻撃する細胞傷害性T細胞の増殖や、免疫細胞の働きを高めるサイトカインの産生を抑制する作用があり、がんに対する免疫応答を低下させる作用もあります。
抗がん剤の多くは塩基性なので、酸性の組織には抗がん剤が到達しにくくなり、活性が低下するということも指摘されています。
したがって、がん組織の酸性化を改善できれば、抗がん剤治療や免疫療法の効き目を高めることができることになります

図:がん細胞は解糖系によるグルコース代謝が亢進して乳酸と水素イオン(プロトン、H+)の産生量が増える。細胞内の酸性化は細胞にとって障害になるので、細胞はV型ATPアーゼ(vacuolar ATPase:液胞型ATPアーゼ)やモノカルボン酸トランスポーター(MCT)やNa+-H+ 交換輸送体1(Na+-H+ exchanger 1:NHE1)などの仕組みを使って、細胞内の乳酸や水素イオン(プロトン)を細胞外に排出する。その結果、がん細胞の周囲はpHが低下してがん組織は酸性化している。組織が酸性化すると、免疫細胞の働きが抑制され、血管新生が促進し、がん細胞の浸潤や転移も促進される。 

【がん組織は免疫細胞の働きを抑制する微小環境を作っている】
オプジーボヤーボイなどの免疫チェックポイント阻害剤を用いた免疫療法はがん細胞に特異的なT細胞の働きを活性化してがん細胞を死滅させる効果を増強します。しかし、全ての症例に効くわけでは無く、むしろ効くのは一部です。
その理由としてもっとも重要なのが、免疫抑制性の微小環境の存在です。がん組織の微小環境がT細胞の働きを弱めているのです。
まず、がん細胞はブドウ糖やアミノ酸の取り込みが亢進し、エネルギー産生と細胞分裂の材料に使っています。これらの栄養素は、リンパ球が増殖し、がん細胞を排除する働きを実行する上でも必要です。従って、がん組織では、T細胞が働くために必要な栄養素が枯渇しているのです。
さらに、がん細胞では解糖系でのグルコース(ブドウ糖)代謝の亢進で、乳酸の産生が亢進しています。がん細胞内に乳酸が蓄積すると細胞毒になるので、がん細胞は乳酸を細胞外に排出しています。従って、がん組織には乳酸が増え、その結果、がん細胞の周囲は酸性になっています
正常な細胞はpHが7.4というややアルカリ側でないと働くことができません。実際に、がん組織ではがん細胞外のpHが6.2〜6.9と酸性になっています。このような酸性の状態では、リンパ球は正常な働きができません。

 

図:正常細胞では細胞内pH(pHi)は6.99〜7.05とほぼ中性で、細胞外pH(pHe)は7.3〜7.4とアルカリ性になっていて、pHeがpHiより高い。一方、がん細胞では細胞内pHは7.12〜7.7とアルカリ性になって、細胞外pHは6.2〜6.9と酸性になって、pHiがpHeより高い。

組織が酸性になるとがん細胞を攻撃しにきた免疫細胞の働きが弱ります。
さらに乳酸には、がん細胞を攻撃する細胞傷害性T細胞の増殖や、免疫細胞の働きを高めるサイトカインの産生を抑制する作用があり、がんに対する免疫応答を低下させる作用もあります。
がん組織にはマクロファージなどの炎症細胞からプロスタグランジンE2(PGE2)の産生が増えています。PGE2は、免疫担当細胞(樹状細胞、リンパ球、NK細胞など)の働きを抑制します
一方、PGE2は骨髄由来抑制細胞を動員しがん組織内で増やします。
骨髄由来抑制細胞(Myeloid-derived suppressor cells: MDSCs)は顆粒球のマーカーと単球/マクロファージのマーカーとを同時に発現している未熟な段階の骨髄由来細胞で、免疫反応を強力に抑制する働きを持っています。


骨髄由来抑制細胞はアルギナーゼや活性酸素、一酸化窒素、IL-10、TGF-βなどの産生を介して免疫担当細胞の活性を阻害したり、制御性T細胞(Treg)の誘導をきたすことによって免疫抑制作用を発揮します。制御性T細胞は免疫応答を抑制的に制御しているT細胞の一種です。

このように、がん組織は免疫細胞の働きを抑制するような微小環境を自ら作り出しており、がん細胞を攻撃する目的で免疫担当細胞ががん組織に入っていっても十分な働きができないようになっているのです。(下図)

左図:がん組織内ではシクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)の発現と活性が亢進している(①)。COX-2はプロスタグランジンE2(PGE2)の産生を増やし、PGE2は免疫担当細胞(樹状細胞、リンパ球、NK細胞など)の働きを抑制する(②)。一方、PGE2は骨髄由来抑制細胞を動員しがん組織内で増える(③)。この骨髄由来抑制細胞は免疫担当細胞の働きを抑制する(④)。がん細胞は解糖系が亢進し、乳酸や水素イオンの産生が増え、がん組織は酸性化している(⑤)。組織の酸性化は、免疫担当細胞の働きを抑制するが、骨髄由来抑制細胞の働きは活性化する。したがって、PGE2の産生やがん組織の酸性化や骨髄由来抑制細胞の動員を阻止すれば、がん細胞を攻撃・排除する免疫担当細胞の働きを高めることができる。
右図:がん細胞はグルコースの取込みと解糖系が亢進し(⑥)、乳酸と水素イオン(プロトン)の産生が増え、細胞外に排出される(⑦)。細胞外に排出された乳酸と水素イオンはがん組織を酸性化し、Tリンパ球やNK細胞や樹状細胞などの免疫担当細胞の働きを阻害する(⑧)。一方、乳酸やプロトン(H+)の産生増加によってpHが低下し酸性になると骨髄由来抑制細胞が動員され活性が亢進する(⑨)。骨髄由来抑制細胞は制御性T細胞を誘導して免疫担当細胞の働きを阻害する(⑩)。このような複数のメカニズムでがん組織内ではエフェクター細胞の働きは抑制され、がん細胞を排除できない環境になっている。

【重炭酸ナトリウムによるがん組織のアルカリ化は免疫療法の効き目を高める】
免疫療法として注目されているオプジーボやヤーボイや養子免疫療法のときに、重曹(重炭酸ナトリウム)治療を併用する価値はありそうです。以下のような報告があります。

Neutralization of Tumor Acidity Improves Antitumor Responses to Immunotherapy.(腫瘍組織の酸性度の中性化は免疫療法の抗腫瘍応答を改善する)Cancer Res. 2016 Mar 15;76(6):1381-90.

【要旨】
免疫チェックポイント阻害剤や養子T細胞療法のようながんの免疫療法は、臨床効果を発揮する場合もあるが、まだ解明されていない抑制メカニズムの存在によって、その有効性は低い。固形がんの微小環境は高度に酸性化している特徴があり、この環境が抗腫瘍免疫の効果を妨げている可能性がある。
この研究においては、免疫療法における腫瘍組織の酸性化の影響を検討した。
培養細胞を使った実験で、pHが酸性の条件では、T細胞の活性化が阻害され、解糖によるグルコース代謝が抑制された。
酸性pHによるインターフェロン-γの産生阻害は、mRNA転写のレベルではなく、たんぱく質の翻訳後の阻害であることが示された。
がん組織の酸性化は細胞内pHには影響しない。これは、細胞膜に発現している特殊なpH感受性受容体が細胞外の酸性化を感知して細胞内にシグナルを送ることを示唆している。T細胞にはこのようなpH感受性受容体が4種類発現している。
注目すべきことに、マウスにがん細胞を移植した実験系で、重炭酸ナトリウム治療で腫瘍の酸性度を中和すると、移植腫瘍の増殖が抑制され、この腫瘍組織内でTリンパ球の浸潤の増加が認められた。
さらに、抗CTLA-4抗体や抗PD1抗体による治療や養子T細胞療法に重炭酸治療を併用すると、多くの実験モデルにおいて抗腫瘍応答を増強し、いくつかの実験系ではがんが治癒した。
以上の結果から、pHをアルカリ化する緩衝剤を経口摂取することによって腫瘍組織内のpHを高めることは、免疫療法の効果を高めることができる。速やかに臨床で使用する価値がある。

重炭酸ナトリウム(sodium bicarbonate)重炭酸ソーダ(略して重曹)や炭酸水素ナトリウム(sodium hydrogen carbonate)とも呼ばれます。
日本語では、炭酸水素ナトリウムや重曹の呼び名が多いようですが、英文の論文ではほとんどがsodium bicarbonateとなっていますので、ここでは「重炭酸ナトリウム(sodium bicarbonate)」や重曹を使っています。
化学式は NaHCO3で表わされます。ナトリウムの炭酸水素塩です。
重炭酸ナトリウムは加熱によって二酸化炭素を発生する性質を利用してベーキングパウダーとして調理に使用されます。口中で炭酸ガスを発生させるソーダ飴などには粉末で封入されます。
水に重炭酸ナトリウムとクエン酸を混ぜると炭酸ガスが発生し炭酸水となるので、飲料の材料としても用いられちます。砂糖を加え「サイダー」にしたり、レモンを加え「レモンソーダ」にするということもできます。
医薬品としては、胃酸過多に対して制酸剤として使われたり、酸性血症(アシドーシス)の治療に使われています。過剰に摂取するとナトリウムの過剰摂取が問題になりますが、適切な量であれば、安全性の高い化合物です。
重炭酸ナトリウムは水素イオン(プロトン)と反応して、二酸化炭素(CO2)と水(H2O)になります。この反応を利用して、がん組織に多く蓄積している水素イオンを除去してがん組織の酸性化を阻止することができます。
このような重炭酸ナトリウム(重曹)を摂取するがん治療の有効性を示す報告が増えています。

 

図:重炭酸ナトリウムを経口摂取すると、血中に入った重炭酸イオン(HCO3-)ががん組織に蓄積している水素イオン(プロトン)と反応して二酸化炭素(CO2)と水(H2O)になり、二酸化炭素は呼気に排出され、水は血液に拡散する。この反応によってがん組織の酸性化を抑制できる。 

【重炭酸ナトリウムはがん細胞の転移を抑制する】
がん組織の酸性化はがん細胞の浸潤や転移を促進します。重炭酸ナトリウム(重曹)を経口摂取するとがん細胞の浸潤や転移を抑制できることが動物実験で報告されています。以下のような報告があります。

Bicarbonate Increases Tumor pH and Inhibits Spontaneous Metastases.(重炭酸ナトリウムは腫瘍のpHを高めて転移を阻止する)Cancer Res. 2009 Mar 15; 69(6): 2260–2268.

【要旨の抜粋】
がん細胞における解糖によるグルコース代謝の亢進と、がん組織では血液やリンパ液の循環が悪いので、がん細胞の外側に水素イオンが蓄積し、その結果、固形がんの周囲は酸性になっている。培養細胞や動物実験で、組織の酸性化は、がん細胞の浸潤や転移を促進することが明らかになっている。
本研究では、マウスの動物実験モデルを用いて、腫瘍組織の酸性化の阻止ががん細胞の転移を抑制できるかどうかを明らかにする目的で行った。
転移性乳がんのマウスの実験モデルを用いて、重炭酸ナトリウム(NaHCO3)を担がんマウスに経口で投与すると、腫瘍組織のpHは上昇し(アルカリ化し)、自然発生的な転移の形成が減少した。
この治療法はがん細胞外のpHを有意に上昇させ、細胞内pHは上昇させなかった。
重炭酸ナトリウム治療は、血中を循環するがん細胞の数を減らすことはなかった。
一方、がん細胞を脾臓内に注入して肝臓転移を起こす実験系で、肝臓転移が有意に減少した。これは、がん細胞の血管外遊出と着床の段階を阻止していることを示唆している。

この実験では、重炭酸ナトリウムの摂取が血中のpHを上げることはなく、また原発腫瘍の増殖を抑制することは認めませんでした。ただし、転移の発生を有意に抑制しました
がん組織の酸性化はカテプシンBなどの細胞外マトリックスを分解するタンパク分解酵素を活性化する作用があるので、転移の過程を促進すると考えられています。
経口で重炭酸ナトリウムを摂取すると、酸性化したがん組織がアルカリ性になるので、転移が抑制されるという機序です。
この実験では、コントロールのがん組織のpHは7.0 ± 0.11で、重炭酸ナトリウムを投与したマウスのがん組織のpHは7.4 ± 0.06でした。
細胞内pH(pHi)はコントロール群が7.1 ± 0.09で、重炭酸ナトリウムを投与したマウスのがん細胞では7.0 ± 0.06で有意な差は認めていません。
同じマウスの正常組織(後脚の筋肉組織)の細胞内pHは7.22 ± 0.04、細胞外pHは7.40 ± 0.08で、重炭酸ナトリウムの投与で影響を受けませんでした。
このマウスを使った実験では、200 mmol/Lの濃度の重炭酸ナトリウム(NaHCO3)が入った飲料水を自由摂取で与えています。
重炭酸ナトリウムの分子量は84ですので、200mmol/Lは16.8g/Lを自由摂取しています。
マウスは人間に比べて体重当たりの飲水摂取量が5〜10倍くらいあります。エサも体重当たりで換算すると5〜10倍くらいです。
この実験では1日の飲水摂取量は4.2 ± 0.2 mLでした。マウスの体重は20g程度ですので、体重の5分の1程度の水を1日に飲みます。60kgの人間で12リットルに換算されます。
ネズミと人間は体重当たりの代謝率が異なり、小さい動物ほど体重当たりの飲水やエサの摂取量は多くなります。
標準代謝量は体重の3/4乗(正確には0.751乗)に比例するという法則があり、一般にマウスの体重当たりのエネルギー消費量や薬物の代謝速度は人間の約7倍と言われています。体表面積ではほぼ同じになります。これについては293話で解説しています。
このような計算では、この実験でマウスが摂取した重炭酸ナトリウムは体表1m2当たり、1日に9.4gになります。9.4 g/m2/日は70kgの人間で1日12.5gになるとこの論文の考察に記述されています。
(ただし、このような面倒な計算をしなくても、16.8g/Lの濃度の重曹を自由摂取しているので、人間が1日に1Lの水を飲むと計算すると1日16.8g程度になるという換算をすれば、マウスと人間の代謝速度や飲水の摂取量を計算する必要はなくなります。)

【重炭酸ナトリウムはpH緩衝剤として安全に利用できる】
上記の論文と同じCancer Researchの同じ号に以下のような論文も掲載されています。

The Potential Role of Systemic Buffers in Reducing Intratumoral Extracellular pH and Acid-Mediated Invasion.(腫瘍組織内の細胞外酸性化と酸誘導性の浸潤の軽減における全身性緩衝剤の可能性)Cancer Res. 2009 Mar 15; 69(6): 2677–2684.

【要旨】
正常組織に比べてがん組織の細胞外pHは低下(酸性化)しており、この細胞外pH(pHe)の酸性化ががんの原発巣や転移巣において増殖や浸潤を促進していることは多くの研究によって示されている。
この研究は、pH緩衝剤を全身性に投与することによってがん組織内およびがん組織周囲の酸性化を軽減し、がん細胞の増殖と悪性進展を阻止できるという仮説を検証するために行った。
生体内において全身性のpH緩衝剤によって腫瘍組織の細胞外pH(pHe)を高めるために必要な投与量を決めるのにコンピューターシュミレーションを利用し、この目的に適する化合物を探索した。
重炭酸ナトリウム(NaHCO3)が通常の臨床試験で使用されている量の摂取によって、この目的に利用できることを明らかにした。
さらに、腫瘍組織の酸性化の軽減が、血液や正常組織のpHに影響することなく、腫瘍の増大と浸潤を有意に抑制することを認めた
ある物質のpHの緩衝作用の有効性を決める重要な要素はそのpKa(酸解離定数)である。
重炭酸ナトリウム(NaHCO3)のpKaが6.1であり、これは細胞外のpH緩衝剤としては理想とは言えない。細胞外pH(pHe)を高めるためには、pKaが7に近いものがより有効である。
がん組織のpHe(細胞外pH)を高め、がん細胞の増殖・浸潤を阻害する目的で全身性のpH緩衝剤を利用することは有用である。 

正常細胞の細胞外のpHは7.2〜7.4で、がん細胞の細胞外pHは6.6〜7.0と酸性化しています。このがん組織の酸性化を中和して酸性度を低下させる全身性のpH緩衝剤の服用はがん治療に有効に作用することが明らかになっています。
理想的なpH緩衝剤はpKa(酸解離定数)が7に近いものが良く、重炭酸ナトリウム(NaHCO3のpKaが6.1であるため、まだより有効性の高いものがないか探索しています。しかし、他のバッファー(pH緩衝剤)では、副作用などの観点から、現時点では重炭酸ナトリウム(重曹)が最も使いやすいという考察です。
重炭酸イオンは水素イオンと反応して二酸化炭素(呼気から排出)と水(血液に拡散)になるので、副作用は起こりにくいという理由のようです。
重炭酸イオンは体内で生理的はpH緩衝剤として働いており、人工的なpH緩衝剤は長期間の服用には安全性が問題があるということです。
重曹は食品や医薬品として利用され、1日10〜20グラム程度でがん組織の酸性化の軽減に有効に作用し、この程度の量であれば、長期に使用しても安全性に問題がないことが知られているからです。
この論文では、血中の重炭酸イオン(HCO3-)の上昇は、血液のpHには影響せずに、がん組織とがん組織周辺の酸性血症(アシドーシス)を正常化することを確認しています
重炭酸ナトリウムは血液のような正常なpH(7.35–7.45)をアルカリ化することはせずに、酸性化したがん組織(pHが6.6〜6.9)は正常なpHに向けて緩衝作用を示すことが示されています。
この論文では、70kgの人間換算で1日37gの重炭酸ナトリウムの摂取で行っています。
この論文の考察では、重炭酸ナトリウムの1日の摂取量は25から50グラム程度を推奨しています。
この程度の投与量は、尿細管性アシドーシスや鎌状赤血球症などの治療で、長期間(1年以上)使用されており、安全性には問題ないと記述されています。
さらに、この論文では、79歳の全身転移のある腎臓がんの患者の例を記載しています。
最初の抗がん剤治療が無効だったために、その患者さんは標準治療を中止し、ビタミンやサプリメントと一緒に60gの重炭酸ナトリウムを摂取する代替医療を自分で開始しました。そして、この論文を投稿するまでの10ヶ月間、がんの進行は止まって、病状が安定しているという症例を紹介しています。

【がん組織の酸性化に関与するV型ATPアーゼ(V-ATPase)】
がん細胞の水素イオンの排出に大きな役割を果たしているのがV型ATPアーゼ(vacuolar ATPase:液胞型ATPアーゼ)です。
がん細胞ではこのV型ATPアーゼの発現が亢進しており、がん組織の酸性化に関与しています。V型ATPアーゼの発現量が多いほど、がん治療に抵抗し、再発しやすく生存期間が短いという報告もあります。
V型ATPアーゼの阻害薬ががんの治療薬として開発が行われていますが、胃酸分泌阻害剤として使用されているプロトンポンプ阻害剤がV型ATPアーゼを阻害する作用があることが知られています。実際に、動物の移植腫瘍を使った実験などで、プロトンポンプ阻害剤が腫瘍組織の酸性化を改善して抗がん剤や免疫療法の効果を高める作用が報告されています。
細胞膜を隔てた物質の輸送には、濃度の高い方から低い方に向かって行われる受動拡散と、濃度勾配に逆らって物質の輸送を行う能動輸送の2種類があります。
受動拡散の場合の膜を通るルートの膜貫通タンパク質はチャネル(channel)と言い、能動輸送に関与する膜貫通タンパク質はポンプ(pump)と言います。濃度勾配に逆らって物質を輸送するためにはATPによるエネルギーが必要です。
ATPのエネルギーを使って、水素イオンを能動的に輸送するトランスポーターとしてがん細胞における水素イオンの細胞外への排出に関与しているのがV型ATPアーゼ(vacuolar ATPase, V-ATPase)です。つまり、ATP依存性のプロトンポンプです。
V-ATPase は、細胞のゴルジ体、液胞、リソソーム、細胞膜等の膜系に存在し、10数個の異なるサブユニットから構成される複合体です。ATP の加水分解反応と共役した回転触媒機構により水素イオン(プロトン)を輸送し、空胞内部を酸性化します。
例えばリソソームは細胞内に蓄積された不要物を分解したり、細胞外から取り込んだ物質を分解する小胞で、リソソームの内部は酸性条件下で活性化される加水分解酵素が含まれています。このリソソームの空胞内部に水素イオンを輸送して内部を酸性にするのがV-ATPaseです。
細胞内では、外部の物質を取り込んで消化するエンドサイトーシスや、細胞内の古くなった小器官などを消化するオートファジーなど、細胞内での物質の分解は膜で囲まれた小胞内で行われ、この内部の加水分解酵素の活性化に必要なpHに下げる役割がV-ATPaseです。
そして、がん細胞では、細胞内で大量に生成した水素イオンを細胞の外に排出する役割も担っています。

図:V-ATPaseの構造。V-ATPase(vacuolar ATPase)は液胞型ATPアーゼ, V型ATPアーゼ, 液胞型プロトンポンプなどと訳されている。ATPアーゼとはATP(アデノシン三リン酸)の末端高エネルギーリン酸結合を加水分解する酵素群の総称で、ATPを使って生物活動に行うタンパク質の多くがこの活性を持っている。V型ATPアーゼは液胞のプロトン(水素イオン)の能動輸送を行うATPアーゼ活性をもったタンパク質で、ATPのエネルギーを使ってプロトン(水素イオン)を能動的に細胞膜を通して輸送する。V-ATPase は、10数個の異なるサブユニットから構成される分子量約 800 KDaの分子複合体で、ATP の加水分解反応と共役した回転触媒機構により水素イオン(プロトン)を輸送し、空胞内部を酸性化する。

【V-ATPaseを阻害するとがん細胞の増殖・転移は抑制される】
Vacuolar ATPaseはATP依存性のプロトンポンプで、プロトン(H+:水素イオン)を細胞膜を通して外に排出します。正常細胞では細胞内pHの調節に重要な役割を果たしています。
がん細胞では、さらに重要な役割を役割を担っています。それはがん細胞では、解糖系の亢進によって乳酸と水素イオンの産生が増えて、細胞内が酸性になりやすい状況になり、細胞内の酸性化を防がないと細胞死を起こすからです。
したがって、がん細胞ではこのV-ATPaseの発現量が顕著に増えています。V-ATPaseの発現量増加ががん細胞の浸潤や転移や抗がん剤抵抗性と関連していることが明らかになっています。
がん細胞の周囲が酸性になると、正常細胞(特に免疫細胞)がダメージを受けて働きが抑制され、結合組織を分解する酵素が活性化されて、転移や浸潤や血管新生が促進されます。
さらに、がん細胞の周囲が酸性だと、多くの抗がん剤は塩基性であるため、がん細胞内に集まりにくくなります。
そのため、がん細胞におけるプロトンポンプの働きを阻害すると、がん細胞の浸潤や転移や抗がん剤抵抗性を抑制できると考えられています
V-ATPaseそのものの阻害を目的にした抗がん剤の開発も行われていますが、まだ臨床で使えるものはありません。しかし、胃潰瘍の治療に使用されるプロトンポンプ阻害剤が、このV type ATPaseを阻害することが報告されています。

プロトンポンプ阻害剤(Proton Pump Inhibitor: PPI)は胃の壁細胞のプロトンポンプに作用し、胃酸の分泌を抑制する薬です。医薬品としては、オメプラゾール(オメプラール・オメプラゾン)、ランソプラゾール(タケプロン)、ラベプラゾールナトリウム(パリエット)、エソメプラゾール(ネキシウム)など多数の薬が販売されています。
動物実験のレベルでは、これらのプロトンポンプ阻害剤ががん細胞の抗がん剤感受性を高める効果、がん細胞に対する免疫細胞の働きを高める効果、がん細胞内の水素イオン濃度を高めてがん細胞を死滅させる効果などが報告されています。
また、線維肉腫細胞(HT1080)を移植したヌードマウスの実験モデルで、ジクロロ酢酸(50mg/kg)とオメプラゾール(2mg/kg)は相乗的に増殖を抑制するという報告があります。(Oncol Lett. 3(3): 726–728. 2012)
臨床試験での有効性も報告されています。以下のような報告があります。

Effects of omeprazole in improving concurrent chemoradiotherapy efficacy in rectal cancer.(直腸がんの同時化学放射線療法の有効性改善におけるオメプラゾールの効果)World J Gastroenterol. 2017 Apr 14;23(14):2575-2584.

この研究では、同じ術前化学放射線療法とその後の手術を受けた125人の直腸がん患者を対象に、オメプラゾールを併用した場合の効果を検討しています。術前化学放射線療法中に、オメプラゾールを20mgの用量で少なくとも1日1回6日間、および/または1日40mgで静脈内投与された患者をオメプラゾール併用群としています。
術前化学放射線療法の奏功率は、オメプラゾール併用群が50.8%で、非併用群の30.6%と比較して有意に増加しました(P = 0.02)。
再発率はオメプラゾール併用群で10.3%であり、非併用群の31.3%と比較して有意に減少していました(P = 0.025)。
つまり、オメプラゾールは術前化学放射線療法の有効性を改善し直腸癌の再発を減少させるという相乗効果があります。
さらに、プロトンポンプ阻害剤は抗がん剤治療による胃粘膜障害による副作用や消化器症状を緩和するという臨床試験の結果も報告されています。
したがって、抗がん剤治療中や免疫療法を受けているときに、がん組織の酸性化を軽減し、胃腸症状を緩和する目的でプロトンポンプ阻害剤を併用することは有益と言えます

【クエン酸は代謝を活性化し、体液をアルカリにする】
私たちの体の細胞外液(血液やリンパ液)のpHは7.4とややアルカリ性に維持されており、しかも、7.40 ± 0.05 と非常に狭い範囲で調節されています。この体液のpHの調節は肺と腎臓で行われています。
強い運動をして体内で乳酸が増えると、血液は酸性に傾きます。がん細胞はブドウ糖を多く取り込み、酸素を使わない解糖系での代謝が亢進して乳酸の産生が増えています。そのため、進行がんの患者さんでは血液が酸性化しています。
乳酸が蓄積し、血液が酸性化すると、疲労や倦怠感を感じるようになります。体は腎臓から乳酸などの酸性物質の排泄を促進して血液のpHを正常に保とうとします。つまり、尿のpHを測定すると体内の酸性度を知ることができます。
クエン酸の健康作用に関しては、東大教授の秋谷七郎博士の研究が有名です。クエン酸を多く摂取すると尿がアルカリになること、さらに体調を良くし体力を高めることを科学的に明らかにしています
秋谷教授は、第2次世界大戦中に、潜水艦で使用する味噌のカビを防止するためクエン酸の添加を試みたところ、カビ防止の効果以外に乗組員の疲労度が目立って低くなり、健康状態が著しく向上して長時間の潜行に耐えられるようになったことを知りました。そこで、自分でもクエン酸を飲用し、尿中の乳酸量が減少する事実を突き止めました。以下の論文に報告しています。

有機酸摂取による尿成分の変化について (第1報):有機酸摂取が尿pH値及び乳酸量に及ぼす影響について 薬学雑誌 1956 年 76 巻 2 号 p. 111-115

クエン酸が代謝を促進して疲労の原因である乳酸の生成を減少させ、体液をアルカリに維持し、疲労回復や持久力の向上に有効であることを明らかにしたのです。現在では、クエン酸は健康増進や病気の予防だけでなく、様々な病気に対して治療効果を発揮する万能薬という意見もあります。

【クエン酸療法の実施法】
クエン酸飲用でがん患者を多数治療しているメキシコのハラベ・ブケイ医師の最初のプロトコールは、1日3回、毎食後に10~15gのクエン酸を水やジュースなどの飲料に溶かして摂取するという方法でした。1日の服用量の目安は、体重1kg当たり0.5gです。胃腸に刺激になって下痢になるときは服用量を減らします。しかし、この量は多くの人にとって長く継続するのは困難です。酸っぱい味と胃腸粘膜への刺激症状が問題になります。
その後、ハラベ・ブケイ医師は1日に5から10グラム程度の投与を行って、有効例を多数報告しています。
ハーバード大学医学部のヴィカス・スカトメ(Vikas P. Sukhatme)博士らの研究グループのマウスの実験では1日体重1kg当たり4gを投与しています。マウスと人間のように体重が大きく異なる時は、体重でなく体表面積で比較します。標準代謝量は体重の3/4乗(正確には0.751乗)に比例するという法則があり、一般にマウスの体重当たりのエネルギー消費量や薬物の代謝速度は人間の約7倍と言われています。したがって、マウスの4g/kgは人間に換算すると1日に体重1kg当たり約0.5gになります。これはハラベ・ブケイ医師が最初の実施した服用量に類似します。
日本でも「クエン酸健康法」を提唱した書籍などもあり、そのような書籍の内容では1日15g程度を推奨しています。
クエン酸の服用量は多いほど良いのですが、多く摂取すると副作用もでます。その兼ね合いから、1日に10から15g程度が妥当と言えます。実際に15gを500ccの水に溶かしてペットボトルに入れ、毎食後に飲む方法だと、それほど苦痛になりません。500ccの水に10〜15gであれば、酸っぱさもそれほど強くありません。
クエン酸ナトリウムなどの塩ではなく、純粋なクエン酸を使用します。クエン酸ナトリウムだと分子量の約4分の1がナトリウムなので、クエン酸を多く摂取する場合にナトリウムの摂取量が過剰になるためです。
また、ハラベ・ブケイ医師はレモンジュースに含まれるクエン酸は他の成分と結合しているので、吸収が悪いので、純粋なクエン酸を使うべきだと言っています。
クエン酸の結晶粉末は白色、無臭で純度が高く、水に簡単に溶けます。医薬品用や食品用が販売されています。医療では、緩衝・矯味・発泡の目的で調剤に用いています。また,リモナーデ剤の調剤にも用います。
食品添加物としては、清涼飲料水やアルコールに加えたり、PH調整剤や酸味料として様々な食品に使用されています。食品を適切なpH領域に保つことによって微生物の増殖を防いで食品の保存性を高めることができます。
牛乳やヨーグルトなどに混ぜても問題ありません。クエン酸が胃に刺激になるときは、胃酸の分泌を抑えるプロトンポンプ阻害剤、胃痛や胃部不快感があるときはさらにスクラルファート(アルサルミン)を服用すると良いとハベラ・ブケイ医師は言っています。
前述のようにプロトンポンプ阻害剤はがん組織のアルカリ化にも効果があるので、がん治療に積極的に利用して良いと言えます
クエン酸はカルシウムを溶かすので、濃い濃度のクエン酸を長く摂取すると歯を溶かす可能性があります。ストローを使って歯につかないように摂取するか、歯につく場合には、服用後に水で口をすすぐのが良いと思います。
クエン酸が酸っぱいのは酸性だからです。味覚の基本は甘味・塩味・酸味・旨味・苦味の5種類で、舌の舌乳頭という小さな突起部に存在する味蕾(みらい)という味を検出するセンサー(化学受容体)でこれらの味覚を感じています。クエン酸は弱酸性で、酸味を検出する受容体を刺激するので、酸っぱい味を感じます。クエン酸を重曹(炭酸水素ナトリウム)で中和すると酸味は感じなくなります。酸味が強くて飲みにくいときはアルカリ性の飲料に混ぜると飲みやすくなります。
クエン酸と重曹を混ぜると、クエン酸はクエン酸ソーダ(クエン酸ナトリウム)になって、体内でのクエン酸としての働きは残ります。しかし、重曹は二酸化炭素と水に分解されます。つまり、クエン酸と重曹を混ぜると、クエン酸ナトリウムと二酸化炭素と水になります。二酸化炭素は泡となって放散します。
クエン酸の作用だけが目的の時は、重曹で中和して飲みやすくするのは問題ありません。ただ、重曹をがん組織の酸性化を中和する目的で飲用する場合は、クエン酸と混ぜると効果が無くなります。

図:クエン酸と重炭酸ナトリウム(重曹)を混ぜると、クエン酸ナトリウム(クエン酸ソーダ)と炭酸水(二酸化炭素と水)になる。二酸化炭素は泡となって放散する。クエン酸の効能は残るが、重炭酸ナトリウムによるがん組織の酸性化を中和する効果は無くなる。

上記のように炭酸水素ナトリウム(重炭酸ナトリウム、重曹)はがん組織内の水素イオンを中和して酸性化を抑制します。2-デオキシグルコースジクロロ酢酸ナトリウムクエン酸ケトン食は解糖系を抑制し、乳酸産生を抑制します。これらを組み合わせると、がん組織の免疫抑制性の微小環境を改善し、免疫チェックポイント阻害剤を使った免疫療法の効き目を高めることができます(トップの図)。また、重炭酸ナトリウムの点滴(メイロン点滴)もがんの代替療法として有効であることを経験しています。

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