293)キサントンの服用量の目安

図:マンゴスチンの果皮に含まれるキサントン(α-mangostinなど)と呼ばれる成分の抗炎症作用や抗がん作用が注目され、サプリメントとして数多くの製品が販売されている。現時点では人間におけるキサントンの投与量に関する研究は無いので、動物実験の結果から類推しなければならない。移植腫瘍を用いたマウスの実験では体重1kg当たり100~200mgの経口投与で抗腫瘍効果が認められている。標準代謝量は体重の3/4乗(正確には0.751乗)に比例するという法則があり、一般にマウスの体重当たりのエネルギー消費量や薬物の代謝速度は人間の約7倍と言われている。したがって、100~200mg/kgの7分の1の用量(14~28mg/kg)が一つの目安となる。

293)キサントンの服用量の目安

【in vitroの実験とin vivoの実験とバイオアベイラビリティ】
薬草や生薬などから抗がん剤作用をもった成分が探索され、その作用機序が研究されています。このような基礎研究においては、まず培養したがん細胞を用いた実験系で研究されます。がん細胞を培養した培養液に薬効成分を添加して、その効果をみるという実験です。このような培養細胞を使った実験をin vitro(イン・ビトロ)の実験と言います。In vitroとは「試験管内で(の)」という意味です。
一方、動物や人体を使った研究を in vivo(イン・ビボ)の研究と言います。in vivoとは、「生体内で(の)」という意味で、マウスなどの実験動物を用い、生体内に直接被験物質を投与し、生体内や細胞内での薬物の反応を検出する試験のことです。
培養がん細胞を使ったin vitroの実験で、ある物質ががん細胞の増殖を抑えたりアポトーシスを誘導するような薬効が認められても、それが動物や人間で効果が出るという保証はありません。消化管からほとんど吸収されなかったり、生体内ですぐに分解されてしまう場合もあるからです。
例えば、培養がん細胞を用いた実験で10μg/mlの濃度でがん細胞の増殖を抑える効果が認められても、それを人間が服用して血中濃度が10ng/ml(10μg/mlの1000分の1)程度しかならないのであれば、効果は全く期待できません。実際に、抗がん作用が示唆されている天然成分には、in vitroで有効性が報告されていても、人体では全く効果が出ないものも多いのです。
例えば、抗がん作用が報告され抗がんサプリメントとして人気の高いウコンのクルクミンや赤ブドウのレスベラトロールでも、消化管からの吸収率が極めて低いことが知られています。クルクミンもレスベラトロールも培養細胞を使った実験では数10μg/ml程度の濃度で抗がん作用を示しますが、人間がクルクミンやレスベラトロールを大量に服用しても血中濃度はその有効濃度(数10μg/ml)の100分の1~1000分の1くらいという状況です。したがって、消化管粘膜からの吸収率を高めるような製剤の開発が重要な課題になっています。
投与された薬物の何パーセントが血中に入って体に作用するかを表す指標を薬学の分野では「生物学的利用能(バイオアベイラビリティ:bioavailability)」と言います。薬を静脈内に投与すると、投与された薬物はほぼ完全に生体で利用されるので、バイオアベイラビリティは100%ということになります。一方、口から摂取(経口投与)した場合は、薬剤の消化管からの吸収の程度によってバイオアベイラビリティは影響を受けます。腸管からの吸収が悪いとバイオアベイラビリティの数値は極端に低くなります。一般的に、水に溶けにくい成分(高脂溶性の化合物)は消化管粘膜からの吸収性が悪いことが知られています。

【キサントンの抗がん作用と投与量】
キサントンはマンゴスチン果皮に含まれる成分で、ポリフェノールの一種です。東南アジア地域(インドネシア、タイ、マレーシア、フィリピンなど)では古くからマンゴスチンの果皮が民間薬として、感染症(赤痢やマラリアや寄生虫など)、皮膚疾患(湿疹や傷の化膿など)、消化器疾患(下痢や消化不良など)、炎症性疾患など多くの病気の治療に利用されていました。それは、マンゴスチン果皮には、殺菌作用・解熱作用・抗炎症作用・抗酸化作用・滋養強壮作用などの薬効があるからです。これらの効果は、マンゴスチン果皮に多く含まれるキサントン(Xanthones)と言う成分の薬理作用によります。
キサントンは他に類をみないほど強力な抗酸化作用を持っており、さらに、抗菌・殺菌作用、抗ウイルス作用、抗炎症作用、シクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)阻害作用、がん予防作用、抗腫瘍作用などが報告されています。
米国ではキサントンを多く含むマンゴスチン果皮エキスがサプリメントとして販売され、がんや動脈硬化、アルツハイマー病、アレルギー疾患、関節痛など多くの疾患の予防や治療に利用されています。(キサントンについては83話286話参照)
近年、キサントンの抗炎症作用や抗がん作用が注目されています。がん細胞の増殖を抑制する効果やアポトーシスを誘導する効果、動物発がん実験で発がんを予防する効果などが報告されています。
マンゴスチン果皮が古くから民間療法に利用されているので、人体で効果が十分に期待できると思われますが、キサントン自体はバイオアベイラビリティがあまり良くないのと、臨床試験での薬効に関する検討がほとんど行われていないので、がんの予防や治療に本当に有効なのか、どの程度の服用量が必要なのかなど多くの点が不明です。
マンゴスチンジュースを飲用した場合の人間での検討が報告されています。(J Nutr 142(4): 675-80, 2012)
健常な成人のボランティアに100%マンゴスチンジュースを服用させてα-マンゴスチンなどのキサントンの血中の濃度や尿中の排泄量を測定しています。60mlのマンゴスチンジュースを服用して3~4時間後に血中濃度は113 ± 107 nmol/Lに達し、摂取したキサントンの2%程度が尿中に排泄されたと報告されています。キサントンは脂溶性なので、消化管からの吸収率はあまり高くはないようです。また、脂肪の多い食事と一緒に(食後)に摂取する方が吸収率は高まるようです。
ここで100nmol/Lというのは、キサントンの分子量が約200程度なので、20ng/mlということになります。培養がん細胞を使った実験では、抗がん作用や抗炎症作用を示す濃度は数100nモルから数μモル程度ですので、ギリギリなんとか薬効を示す血中濃度が得られているようです。
がん細胞を移植したマウスにキサントンを経口投与して、抗腫瘍効果を検討した実験がいくつか報告されています。これらの実験では、体重1kg当たり100 ~200mgのα-マンゴスチンの投与で移植腫瘍の縮小効果が認められています。そして、1000mg/kg以上になると毒性が認められています。
キサントンのサプリメントは多く販売されていますが、どの程度を服用したらよいかは、現時点では上記のような動物実験などから類推するしかありません。マウスの実験結果から人間の服用量を計算するとき、標準代謝量が体重の0.751乗に比例するという法則を知っておく必要があります。

【マウスと人間の標準代謝量や薬物代謝速度の違い】
マウスは人よりも代謝が早いので、体重あたりで換算するとマウスの方がより大量の薬が必要です。例えば、マウスの食餌や飲水の摂取量は体重換算で計算すると人間の5~10倍くらいになります。
体重当たりのエネルギー消費量はサイズの大きい動物ほど少なく、標準代謝量は体重の0.751乗に比例するという法則があります。
安静にしているときのエネルギー消費量を標準代謝量と呼び、これは個体が生命を維持していくのに必要な基本的なエネルギーで維持代謝量とも言います。
標準代謝量は、通常、単位時間当たりにして、どれだけ酸素を消費したか、つまり代謝の速度(代謝率)として現します。
標準代謝量は体重の0.751乗に比例することが知られています。0.751はほぼ3/4なので、簡単には3/4乗で計算できます。例えば、1000の3/4乗は、1000 x 1000 x 1000=109の平方根の平方根なので卓上計算機で×と√で計算でき、答えは178です。
つまり、体重が1000倍ならエネルギー消費は178倍で、体重1kgで比較すると、体重が少ない方が約5.6倍エネルギー消費が多いということになります。
逆に、体重当たりのエネルギー消費はマイナス1/4乗に比例する(あるいは1/4乗に反比例する)といえます。1000の1/4乗(平方根の平方根)で計算すると5.6という数字がでます。
さて、人間(体重60kg)とマウス(体重25g)を比較すると体重は2400倍ですが、エネルギー消費量は2400の3/4乗で、約343倍になります。これは体重1kg当たりでは、エネルギー消費量はマウスの方が人間の7.0倍多いことを示します。(あるいは、2400の1/4乗[平方根の平方根]で計算すると単位体重当たりの7.0倍という数字が出ます。(逆に7の4乗は74=7 x 7 x 7 x 7 =2401)
いろんな計算法がありますが、いずれにしても、体重当たりで計算すると、マウスの酸素消費量は人間の約7倍ということです。これは食餌摂取量も約7倍となり、薬物の代謝も7倍と考えるのが妥当で、マウスは人間に比べて、体重当たりでは7倍の投与量が必要という計算になります。ちなみに、人間の心拍数は1分間に60~80程度、ねずみは1分間に300~400、つまり心拍数も5~7倍です。(詳しくは:『ゾウの時間 ネズミの時間』本川達雄 著、中央公論新社刊)
したがって、マウスで体重1kg当たり100mg~200mgのキサントンというのは、人間の場合1kg当たり14mg~28mgとなり、60kgの人で840mg~1680mgになります。
マウスに乳がん細胞を移植する実験モデルでは、食餌中に2500か5000ppmのパナキサントン(αマンゴスチンを約80%、γマンゴスチンを約20%含有する)を混ぜて摂取させると、通常の食餌を摂取させたマウスと比べて、パナキサントンを投与したマウスでは、腫瘍の体積が小さく、肺の転移の数も少なかったという報告があります。(Anticancer Res. 29: 2485-95, 2009)
また、ラットを用いた大腸発がん実験では、えさの中に0.02%と0.05%のアルファ-マンゴスチンを加えて、発がんが抑制されることが報告されています。
人間の場合、2000キロカロリーの食事を摂取する場合、乾燥重量として約500gの食事になります(1グラムが4キロカロリーとして)。食事中の5000ppmというのは、人間の場合、1日に2500mg、食事中の0.05%は1日に250mgになります。
培養がん細胞を使った実験で、α-マンゴスチンの抗がん活性(50%増殖抑制濃度)は5-FU(フルオロウラシル)と同じレベルであることが報告されています。内服の5-FUの通常の投与量は1日200~300mgです。キサントンのバイオアベイラビリティを考慮すると1日1000mg以上は必要かもしれません。
実際のところ、マウスと人間では、単純に基礎代謝量での換算だけでは薬効量を計算できません。また、製剤によって吸収率に差があります。したがって、単純には決められませんが、動物実験などから類推すると人間でキサントンの抗腫瘍効果を期待するには、がん予防や再発予防の場合で、1日に500~1000mg、進行がんの治療目的では1日1000mg~2000mg程度が一つの目安になるかもしれません。
つまり、キサントンのサプリメントを利用する場合、これくらいの摂取量でないと効果は期待できないと思います。
キサントンのサプリメントを選ぶときは、含有量を見て、1日の摂取量が効果を発揮する量に十分か確認することが大切です。


 

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