469)医療大麻を考える(その5):「マリファナに薬効がある」は医学の常識

図:アメリカ画合衆国を構成する50州と首都ワシントンD.C.のうち、現時点で23の州とワシントンD.C.で医療大麻の使用が許可になっている。11の州ではカンビジオール(CBD)のみが許可になっている。医療大麻もCBDも使用できない残りの16の州でも、今後医療大麻の使用が認められる州が増えることが予想されている。

469)医療大麻を考える(その5):「マリファナに薬効がある」は医学の常識

【米国では医療大麻が多くの疾患に使用されている】
大麻(=マリファア)に医療効果があることは、すでに医学の常識になっています。それは、大麻成分が結合する幾つかの受容体(カンナビノイド受容体)の存在が1990年代に明らかになったからです。
しかし、この医学の常識を知らない医師は日本には多くいます。
体内にはこれらのカンナビノイド受容体に作用する内因性のカンナビノイドが存在し、この内因性アンナビノイド・システムが、記憶・認知、運動制御、食欲調節、報酬系の制御、鎮痛、免疫機能や炎症の制御、エネルギーの貯蔵や消費など、様々な生理機能に関与しています。
したがって、様々な病気の治療薬のターゲットとしてこの内因性カンナビノイド・システムが注目されており、大麻の薬効もこのシステムへの作用という観点から検討され、理解されています。
米国で最初に医療大麻の使用が許可されたのはカリフォルニア州です。1996年11月5日、カルフォルニア州では住民投票で医療大麻の使用が認められました。この時の住民投票の結果は賛成55.6% で反対44.4%でした。もう20年も前です。
2015年現在、アメリカ合衆国では23州と首都のワシントンD.C.(コロンビア特別区)で医療大麻が合法化されています
大麻の品種ごとに含まれるカンナビノイドの成分比率やカンナビノイド以外の成分の量が異なり、得られる薬効に違いがあるため、疾患ごとに適した大麻製剤を使用することが可能になっています。
通常、医療大麻の使用には処方箋が必要で、乾燥大麻として処方され、パイプにつめてから燃焼させて成分を吸引します。州によって販売(配給)の方法が異なります。
合法化の程度は州によって異なり、適応疾患が限られている州もあれば、「医師が大麻が効果があると診断したすべての疾患」という州もあります。
  
例えば、コロラド州では「悪液質、がん、慢性疼痛、慢性神経系疾患、てんかん、緑内障、HIV感染症/エイズ、多発性硬化症、吐き気」に使用が許可され、ヴァーモント州では「悪液質あるいは消耗症候群、がん、HIV感染症/エイズ、多発性硬化症、けいれん発作、他の方法でコントロールできない疼痛や吐き気」に対して使用が許可されています。
一方、ワシントンD.C.ではコロンビア特別区のライセンスを持つ医師が必要と認めた全ての疾患で使用が許可されています。カリフォルニア州でも医師が必要と認めた疾患で使用が許可されています。
これらの州では州政府公認の医療大麻販売所(ディスペンサリー)があり、患者はそこで良質な大麻を、安全に安価に安定的に入手できます。

このように、州によって合法化の程度は異なりますが、多くの州で使用が許可されている疾患は、医療大麻の効果が期待できる疾患と言えます。
このような疾患して、悪液質、がん、HIV感染症やエイズ、緑内障、吐き気、慢性疼痛、多発性硬化症、てんかん、けいれん発作、クローン病やその他の炎症性腸疾患、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、C型肝炎、心的外傷後ストレス障害(PTSD)などがあります。
その他にも、多数の難病性疾患に対して、効果が報告されています。

【医療大麻への期待が増している】
アメリカ合衆国の50州のうち、医療大麻もカンナビジオール(CBD)も使用が許可されていない州は現時点で16州ありますが、これらの州の多くもいずれは使用許可されるようになると予測されています。
ランセット(Lancet)に以下のような記事が載っていました。ランセットは臨床系学術雑誌としてはトップレベルの学術雑誌です。全文を和訳しています。

Momentum grows for medical use of cannabis.(大麻の医療使用へ向けた勢いが増している)Lancet. 2015 Oct 24;386(10004):1615-6.

医療大麻を使用すると命を救える可能性がある一人の米国の少女が、長い間の懸案になっている大麻由来製剤の使用に関する議論を活発にしている。(Chris McCallの報告)

シャーロット・フィジー(Charlotte Figi)は、小学校に通い始めたばかりの7歳の女の子だが、現在では国際的に有名になっている。米国のコロラド州のコロラド・スプリングスに住むシャーロットは遺伝性疾患のドラベ症候群(Dravet syndrome)の患者であり、2011年に母親がシャーロットを大麻を使った治療を開始したとき、長くは生きられないと言われていた。

「1時間に2回、1日に50回くらいのけいれん発作が起こっていた。彼女は歩くことも飲み込むこともできなかった」とシャーロットの母親のペイジ・フィジー(Paige Figi)はランセットに語った。
「治療法を探し求めました。小さな赤ちゃんが死ぬのをただ見ているだけしかできません。このかわいそうな子供にできることを探そうと考えました。」

母親のペイジが、大麻の特殊な株に由来する大麻抽出オイルをシャーロットの舌下に投与する治療を開始して以来、症状の顕著な改善が見られた。

この症例について広く知られるようになると、医療用大麻を合法化するための米国の州の動きが活発になった。シャーロットは通常の生活を送ることはできないが、彼女はコンピュータの助けを借りて話すことができ、もはや栄養チューブを必要としなくなった。

フィジーの家族の話は、同じような病気の子供を持つ多くの親に影響を与え、医療大麻の規制を世界中で緩和するための新たな圧力になっている。
しかし、医療大麻の合法化と娯楽用大麻の合法化の推進は、同じ人が関わっている。

フィジーの家族が住んでいるコロラド州は、昨年、娯楽用の大麻使用を合法化した最初の米国の州になった。来年には、少なくとも4つの州で娯楽用大麻が合法化される。先週、オーストラリアは、医療や科学的な目的のために大麻を栽培することを許可するために、法律を改正すると発表した。

厄介な問題点:

現在、カナダとイスラエルではそれぞれ2万人以上の医療大麻の使用者がいて、さらに世界中で医療大麻の使用者は増えている状況において、医療大麻はその存在が確かなものになって来ている。
しかし、医師や薬理学者やその他の科学者は、法律上の矛盾以上に厄介な問題があると言っている。それは、有効性や安全性に関する確固としたエビデンス(証拠)の欠如、薬の品質、喫煙することができる唯一の医薬品であるという事実などである。

おそらく最も厄介な、しかし最も熱心に議論されている問題は、特に若いユーザーにおいて、大麻使用と統合失調症との間に関連がある可能性だ。医学的証拠については議論の最中であるが、娯楽目的での大麻の使用者の中には、精神疾患を発症するリスクが高くなることは間違いないと考えられている。

大麻(Cannabis sativa)はアジア原産で世界中に広がり、その強靭で柔軟で腐りにくい繊維は帆船のロープとして利用された。
さらに、歴史的に様々な疾患の治療に用いられて来た。
大麻は雌雄異株植物で、雄と雌の花は別々の株に咲く。カンナビノイドとして知られる薬効成分を多く含むのは雌株の花穂であり、強力な精神作用を有する。
自然界においては、これらの成分はある種の昆虫から花を守る働きをしていると考えられている。
カンナビノイドは大麻にしか見つかっていない。

19世紀にケシから見つかったモルヒネと同様に、カンアンビノイドは哺乳動物の神経系の受容体と相互作用する。この点に関しては、科学的に確立しており議論の余地はない。

「しかし、大麻の違法状態は研究を妨げてきた」と、大麻の遺伝子を解読したカナダのブリティッシュコロンビア大学の植物学者のジョナサン・ページ(Jonathan Page)は言っている。
「大麻について研究すべきことは依然として多く存在します。しかし、大学の研究室に大麻の研究材料を得ること自体が、まだ非常に困難です」と彼は言っている。

最もよく知られているカンナビノイドはテトラヒドロカンナビノール(THC)で、これは大麻喫煙者が求めている「ハイ」な気分にする原因物質である。
何十年にも渡って、大麻の栽培者はTHCの含量が高い株を改良し育ててきた。最近の大麻の株は、元になった以前の株よりもより多くのTHCを含有している。
純粋なTHCは透明な油であり、ヒトの体内に存在する受容体の部分アゴニストである。

2番目に多いカンナビノイドであるカンナビジオールはまだ十分に解明されていない。カンナビジオールはCBDと略され、精神作用は無い。純粋なものは白色の粉末状で、カンナビノイド受容体に対してはアンタゴニスト(阻害薬)として作用し、THCの働きを抑制する作用がある。

内因性のカンナビノイド・システムは、神経細胞の間のシナプス伝達や神経活動に作用することによって神経系の働きを調節している。
この作用が様々な薬効を引き起こし、多くの疾患の治療に役立つ理由となっている。

てんかん発作を抑制する以外に、大麻には抗炎症作用があるのでクローン病やその他の炎症性腸疾患の治療に有効で、さらに、緩和ケアにおける慢性疼痛の軽減、臓器移植における移植片対宿主病の予防、精神疾患の治療などにも使われている。

シャーロット・フィジーの治療では、CBDの含有量が多く、THCの含有量が少ない大麻の株がてんかん発作の抑制の目的で使用されている。
彼女の母親のペイジは、医学部進学過程(pre-med course)を一度受けたことはあるが、医師としてのトレーニングを受けたことは無い。彼女は18世紀にてんかんの治療に大麻が使われていることを知り、コロラド州の地元の大麻栽培者の助けを借りて、娘の治療に大麻をどのように使ったら良いかを検討した。興味深いことに、THCの高い大麻ではシャーロットのてんかん発作は悪化した。

臨床試験:

1964年にTHC(テトラヒドロカンナビノール)を発見したイスラエルの化学者ラファエル・メコーラム(Raphael Mechoulam)は「大麻由来製剤に対する関心はもっと早くから起こるべきであった」と言っている。

てんかん発作に対するCBD(カンナビジオール)の有効性の証拠は何十年も前に得られている。
「あまりに時間がかかりすぎている。大麻に含まれるカンナビノイドや、その後発見された脳内に存在する内因性カンナビノイドが非常に重要であることは疑う余地がない」と、緩和ケアにおける難治性疼痛に対するカンナビノイドの使用例を引用しながら、メコーラム博士は言っている。

「痛みというのは感情と似ている。痛みの都合の悪い部分を減らすことはできる。」人は私に時々次のように言う。「まだ痛みは感じるが、痛みが気にはならない」。

メコーラム博士自身、過去の研究において法的な制約によって障害を受けた。
例えば、警察はレバノンで押収された大麻を研究のために供給してくれたが、臨床試験はサンパウロの研究者によって南米で実施しなければならなかった。難治性小児てんかんや、抗がん剤による悪心や嘔吐、終末期患者における症状の緩和における臨床試験が今年からオーストラリアで開始された。

コロラド州では、15年以上に及ぶの医療大麻の販売によって得られた900万ドルの収益が、炎症性腸疾患や外傷後ストレス障害や睡眠障害などの研究に割り当てられている。

英国の製薬会社のGWファーマシューティカル社(GW Pharmaceuticals)は、糖尿病や統合失調症における大麻製剤の臨床試験を行っている。

有り合わせの食事(Pot luck)

ある症状にどのような種類の大麻を使うのが良いか判断するにはどうしたら良いか。その安全性をどのように知ることができるのか。

米国のメリーランド州のジョンズ・ホプキンス大学の行動薬理学者のライアン・ヴァンドレイ(Ryan Vandrey)医師は、その答えを得るためには、大規模な臨床試験を行う必要があり、そのような研究には何十億ドルもかかると言っている。

現時点では、有効性や安全性のエビデンス(証拠)が不十分であるため、医療大麻の使用者はかなりのリスクを負っている。

「大麻の効き目は個人差があるので、大麻を使用している人にとって、それが良いのか悪いのかを予測することは困難」「副作用は用量依存的であり、その医学的使用を支持する医学的根拠も無い」「これを明らかにするには何十年もかかるかもしれない」とライアン・ヴァンドレイ医師は言っている。

その結果、大麻由来製剤は、特許の存在する期間は非常に高価になる可能性がある。つまり、多くの人が大麻について思っている「非常に安価で万能薬」では無くなる可能性がある。

しかしながら、最終的には、医師や薬剤師は、これらの薬物がどのように作用するのか、自信を持って言うことができるようになる。

そのような医薬品は、多発性硬化症の痙性を軽減するために、いくつかの国で販売されているサティベックス(ナビキシモルス)のように既に市販されている。サティベックスはTHCとCBDを含むマウススプレーとして開発された。

コロラド州の公衆衛生部門を率いる小児科医のラリー・ウォーク(Larry Wolk)は、「調査結果によると、マリファナ吸引に関連する救急入院の若干の増加と、食用マリファナが関連したと思われる死亡が1例認められたが、娯楽用の大麻の合法化による負の影響は、懸念されたほどひどくはないことを示している」と述べている。

コロラド州における娯楽用マリファナの合法化には、まだいくつかの制限がある。
例えば、広告は許可されていない。医療目的では若年者でも使用可能だが、娯楽用の大麻使用が許可されるのは21歳以上の人だけである。
しかし、医療用大麻も娯楽用マリファナも供給される物は同じである。「医療目的であれば左に行ってもらい、娯楽目的であれば右に行ってもらう」という違いだけであるとラリー・ウォーク医師は言っている。

米国ミネソタ州のメイヨークリニックの精神科医マイケル・ボストウィック(Michael Bostwick)は医療大麻について懐疑的であり、米国で大麻を処方するための現在の方法は、いくつかの問題点があると言っている。

米国医師免許は連邦ライセンスであり、連邦政府は依然として大麻とその主要成分を「何の医学的用途を持っていないと定義されているスケジュール1薬」として分類している。

既に幾つかの州が大麻の医療使用を合法化しているが、連邦法は変更されていない。
実際に、米国における大麻の処方は、医師によって直接的に発行されていないことも多い。大麻を処方することは個人的な大きなリスクを負う可能性があるからだ。「彼らは連邦政府のライセンスを失うリスクがある」とボストウィックが言っている。

【大麻はスケジュールI薬に分類されている】
米国では1930年代まで、医薬品として医師が普通に大麻製剤を処方していたのですが、1937年にマリファナ課税法(実質的にはマリファナ禁止法)の施行によって、米国では大麻の医療応用や研究は制限されるようになります。
このマリファナ課税法は税金を払って連邦政府のスタンプをもらわないとマリファナを栽培したり販売できないという法律ですが、連邦政府のスタンプをもらうプロセスが存在しないため、だれもマリファナを合法的に扱えなくなったというわけです。
1970年に米国で制定された規制物質法(Controlled Substances Act)では大麻(マリファナ)はヘロインやLSDと同じスケジュールIに分類されています。
この法律では、規制薬物はその取り扱いのレベルでスケジュールIからVの5段階に分類されており、スケジュールIは医学的用途が無く、濫用の危険があり、安全性の証拠が無いとされるもので、スケジュールI物質は処方箋に書かれることは無いのが原則です。
スケジュールIIは濫用の危険はあるが医学的用途が認められる薬物となるので、医療応用が合法になります。モルヒネなどのオピオイドはスケジュールIIに分類されているので、依存や中毒や濫用の危険はありますが、処方薬として使用が許可されています。
1976年のフォード政権時には「薬物乱用に関する全米学会」(NIDA)とアメリカ麻薬取締局(DEA)が、大学機関や連邦保健機関が大麻草を研究することを事実上禁止し、医薬品として天然の大麻草由来の抽出液の類いを研究することも禁じました。

しかし1988年、アメリカ麻薬取締局の行政法判事であったフランシス・ヤングが大麻の医療効果を認めました。数年間の法的な論争の後、麻薬取締局は、大麻をスケジュールIIの分類に変更することに関して広範囲な調査を行いました。
その結果、ヤングは「「調査で得られた証拠に基づいて考えると、病気で苦しむ人が大麻の効能を利用することを麻薬取締局が阻害することは、不合理で、独断的で、必要のないものである」という結論に達し、「マリファナは人間の知る限り、最も安全にして治療に有効な物質である」と述べています。

それにもかかわらず、麻薬取締局(DEA)は大麻をスケジュールIIに変更すべきだというその判事の命令を無視し、1992年には大麻のスケジュールIIへの変更に関する全ての要求を拒否する最終結論を発表しました。連邦法では大麻の所持や使用は今でも禁止になっており、麻薬取締局は大麻草がスケジュールIの麻薬指定であることを理由に医療応用の禁止を継続しています。
しかし、1990年代に入って、大麻成分のカンナビノイドが結合する受容体や、内因性カンナビノイド・システムの存在が明らかになり、大麻の医療用途が証明され、効果の高い医薬品として再認識されるようになりました。
研究が進むと、医療効果があるという事実の他に、毒性が低く、麻薬作用もそれほど強くないという研究結果も出てきました。それにより、欧米では大麻の医療利用を合法化する国が増えてきました。

日本では、大麻取締法の第四条によって、医師も患者も医療目的であっても、使用すれば処罰されます。しかし、がんを含めて多くの疾患に治療効果があることは多くの研究で証明されています。大麻取締法の第四条による医療大麻の規制は明らかに間違い(憲法違反)と言えます。日本でも、欧米と同様の医療大麻の使用を要求する権利を主張すべき時期にきていると思います。

【告知】

カナビス・ユナイトVol.2 『医療大麻ゼミナール』

日時:2015年12月26日 土曜日 開場;16:00
第一部16:30~18:00
第二部18:15~22:00

会場:渋谷アップリンク
料金:前売り3000円 当日3500円

プログラム(敬称略):

第一部オーストラリア医療大麻最前線

スピーカー:磯貝久(ネット出演) 聞き手:中山康直・長吉秀夫

第二部国内外における医療大麻の真実

①国内外における医療大麻の現状と問題点(仮題)

前田耕一(NPO法人医療大麻を考える会 理事長)

②医療大麻の真実を巡って(仮題)

福田一典(医学博士・『医療大麻の真実』著者)

詳しくはこちらへ

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