239)がん治療に役立つ食材(15):柑橘類

図:みかんなどの柑橘類を丸ごと利用すると、作用メカニズムが異なる様々ながん予防成分を摂取することができ、それぞれの相乗効果によってがん予防効果が高まる。果皮を利用することが大切。


239)がん治療に役立つ食材(15):柑橘類


【がん予防効果をもつ果物のトップを占める柑橘類】
1990年代に米国立がん研究所が中心となって「がん予防に重要な野菜や果物や香辛料」がまとめられました。そのトップはニンニクで、キャベツ、大豆、生姜、タマネギ、お茶などが上位にランクされています。果物のトップは柑橘類(オレンジ、レモン、グレープフルーツ)で、お茶や玄米やアブラナ科野菜(ブロッコリー、カリフラワー、芽キャベツ)と同じランクになっています。
柑橘類はみかんの仲間です。つまり、ミカン科の常緑樹の果実で、世界中に数百種類もあります。温州みかん、オレンジ、レモン、グレープフルーツ、八朔、など様々な柑橘類が販売されています。
動物発がん実験を用いて柑橘類に含まれるがん予防成分を研究した結果、モノテルペン類のリモネン(limonene)、フラボノイドのヘスペリジン(hesperidine)、カロテノイドのベータ・クリプトキサンチン(β-cryptoxanthin)、クマリンのオーラプテン(auraptene)、ポリメトキシフラボノイドのノビレチン(nobiletin)、水様性食物繊維のペクチン類などの多彩な成分にがん予防効果が報告されています。
がん予防の作用メカニズムはそれぞれの成分によって異なっています。果皮に多く含まれているリモネンはがん細胞の増殖を抑制しアポトーシスという細胞死を誘導することが、カロテノイド類やフラボノイド類やオーラプテンには抗酸化作用や抗炎症作用などが報告されています。水様性食物繊維のペクチン類や低分子のオリゴ糖には、ビフィズス菌や乳酸菌などの善玉菌を増やして、腸内環境を改善し免疫機能を高めて抗腫瘍効果を示すことも報告されています。
異なる作用メカニズムを持つがん予防物質を組み合わせて用いると、相乗効果によってがん予防効果が高まります。
食品とがん予防の関連を検討した疫学研究の多くが、柑橘類の摂取ががん予防に有効であると結論づけています。例えば、胃がんの発生率と柑橘類の摂取との関係を検討した14の論文を統計的にまとめた研究によると、柑橘類を多く摂取すると胃がんの発生率が28%減少するという推定が報告されています。(Gastric Cancer 11: 23-32, 2008)
膵臓がんの発生率と柑橘類の摂取の関連を調べた複数の研究論文をまとめて統計的に解析した研究では、柑橘類の摂取が多いほど膵臓がんの発生率が低下することが示されており、柑橘類を多く摂取すると膵臓がんの発生リスクが0.83(95%信頼区間;0.70-0.98)に低下するというデータが報告されています。(Pancreas 38:168-174, 2009)
約13000人のがん患者と、その時期に同じ病院でがんとは別の急性疾患で治療を受けた患者を対照にして、柑橘類とがんの発生率の関連を検討する検討がイタリアとスイスの共同研究で行われています。この研究では、柑橘類をほとんど食べない人に比べて、柑橘類を多く摂取している人のがん発生リスクは、口腔・咽頭がんでは0.47(95%信頼区間:0.36-0.61)、食道がんでは0.42(95%信頼区間:0.25-0.70)、胃がんでは0.69(95%信頼区間:0.52-0.92)、大腸がんでは0.82(95%信頼区間:0.72-0.93)、喉頭がんでは0.55(95%信頼区間:0.37-0.83)でした。乳がん、子宮内膜がん、卵巣がん、前立腺がん、腎臓がんにおいては、柑橘類とがん発生率との間には相関は認めれれませんでした。つまり、この研究では、柑橘類の摂取は消化器系や上部気道系の腫瘍の発生を予防する効果が示唆されています。(Cancer Causes Control 21: 237-42.2010)
宮城県大崎市の住民基本台帳に登録されている40~79歳の住民(42470人)を対象に、あらゆるがんの発生を追跡(1995から2003年)している「
大崎コホート」研究でも。柑橘類の消費とがん発生率の関連が調べられています。その結果、柑橘類の1日摂取量が多いほどあらゆるがんの発生率が低下することが示されています。柑橘類を多く摂取することによって全てのがんの発生リスクは、男性が0.86(95% CI = 0.76-0.98)、女性が0.93(95% CI = 0.79-1.09)、男女総合で0.89 (95% CI = 0.80-0.98)でした。特に、膵臓がん(RR = 0.62, 95% CI = 0.38-1.00)と前立腺がん((RR = 0.63, 95% CI = 0.41-0.97)の発生率の低下が著明でした。また、柑橘類の摂取と同時にたくさんの緑茶を飲用していた人は、がん発生率がさらに低下することが示されています。(Int J Cancer 127(8):1913-1922, 2010)

【果皮に含まれる精油の主成分リモネンの抗がん作用】
柑橘類の果皮の独特の香りは精油(エッセンシャルオイル)によるもので、その主成分はモノテルペン類のリモネンです。柑橘類の果皮の精油成分の中でリモネンが90%以上を占めています。
リモネンにはラットの乳腺、皮膚、肝臓、肺、胃など多くの臓器における発がん実験で予防効果が報告されており、ラットの乳がんや膵臓がんなどでがんを小さくする抗腫瘍効果も報告されています。
リモネンには、フェースII解毒酵素の合成を増やして発がん物質を解毒する力を増強して発がんのイニシエーションを抑制する作用、がん細胞の増殖を抑制しアポトーシスという細胞死を引き起こしてがんの発育を抑制する抗プロモーション作用など、多彩なメカニズムで相乗的にがん予防効果をしめし、予防だけでなく、転移や再発の予防、がん治療にも効果が期待されています。果皮には様々なフラボノイドも含まれていて、抗酸化作用や抗炎症作用などによりがん予防効果を助けています。
アリゾナ大学医学部のハーキン博士らは、アリゾナ州の住民を対象に、柑橘類の摂取状況と皮膚がんの発生状況を疫学的に検討しました。柑橘類の摂取と皮膚がんの発生率との間に明らかな相関は認めれれませんでしたが、皮も利用している人が住民全体の約35%いて、その人たちは皮を摂取していない人たちに比べて皮膚がんが約66%に減ったと報告されています。そして、
柑橘類の果皮を食事に多く取り入れている人ほど皮膚がんの発生が少ないということでした。果皮に含まれるリモネンやフラボノイド類やオーラプテンなどの総合的な効果が予想されます。
柑橘類が乳がんの予防に効果があることも報告されています。
リモネンなどの精油成分は、唾液や胃液の分泌を高めて消化吸収を促進し、食欲を高めます。副作用もほとんどないので、食事の中で柑橘類の皮を使うことはがんの発生や再発の予防に有効です。ミカンの皮を千切りにして食べたり、皮ごとフレッシュジュースとすると、蒸発しやすい精油のがん予防効果を活用することができます。

【温州みかんに多く含まれるベータ-クリプトキサンチンは強いがん抑制効果がある】
温州みかんの学名はCitrus unshiu Marc.、英名は原産地の鹿児島(薩摩)をとって、Satsuma Mandarin、Satsuma Orange、Unshiu Orangeなどと呼ばれています。中国から伝わった柑橘の中から突然変異によって生まれたとされています。中国の有名なみかん産地である温州地方にあやかって「温州みかん」と呼ばれていますが、日本独自の果物です。「熊本みかん」「愛媛みかん」「有田みかん」「静岡みかん」など、日本各地にさまざまなみかんがありますが、これらはみな温州みかんです。
この温州みかんの果肉にはベータ-クリプトキサンチンが他のどの果物よりも圧倒的に多く含まれているのが特徴です。
ベータ-クリプトキサンチンは柑橘類のオレンジ色のもとになる色素(カロテノイド)の一種であり、ニンジンに含まれるカロテノイドのベータカロテンの数倍の強さのがん予防効果を持っている事が、動物発がんの実験で示されています。ベータ-クリプトキサンチンは温州ミカンの果肉に特に多く含まれていて、果実1個に1~2mg含まれています。温州みかんを1日一個食べればがん予防に有効な量のベータ-クリプトキサンチンを摂取できると言われています。
温州みかんなどの柑橘類を、果肉と果皮を一緒に食べる工夫をすれば、異なるメカニズムを持つがん予防物質を同時に摂取することができることになります。ただし、医薬品を服用中の場合は、グレープフルーツは医薬品の代謝は効き目に影響を及ぼすことがあるので、薬を服用しているときはグレープフルーツは避けた方が無難です。温州みかんであれば問題ありません。(医薬品との相互作用が問題なのはグレープフルーツに含まれるフラノクマリン類で、この物質は温州みかんにはほとんど含まれていません。また、柑橘類でも皮には含まれていません)

【柑橘類由来の生薬を使った漢方薬】
柑橘類は古くから薬用利用が盛んな植物素材の一種であり、陳皮(成熟した温州みかんの乾燥果皮)や、青皮(黄色に熟する前の温州みかんの果皮)や枳実・枳穀(カラタチやダイダイやナツミカンの果実を乾燥したもの)など生薬の原料としても頻用されていることも、柑橘類が多彩な薬効をもっていることを示しています。
陳皮(ちんぴ)はミカン科ウンシュウミカンの果皮です。胃液分泌や腸管運動を促進し、食欲を増進し吐き気を止め、いわゆる芳香性苦味健胃薬として知られています。抗炎症・抗アレルギー・血行改善の効果もあります。リモネンやテルピンを成分とする精油、フラボノイド配糖体のヘスペリジン、ナリンギンなどが含まれます。
青皮(セイヒ)は黄色に熟していない温州みかんの果皮です。陳皮より強い理気作用を持っています。
枳実(キジツ)/枳穀(キコク)はミカン科のカラタチの果実です。日本ではミカン科のダイダイ(Citrus aurantium)やナツミカン(Citrus natsudaidai)の果実を用います。未成熟果実を枳実、成熟果実を枳穀と言います。芳香性のリモネンを主成分とする精油やフラボノイドのヘスペリジンやナリンギンなどが含まれています。胃腸の非生理的な収縮を抑制し、腸蠕動を強めてリズムと整える。抗炎症作用や抗アレルギー作用があります。芳香性健胃薬として、消化不良や腹部膨満感や食欲不振に用います。
このように、柑橘類由来の生薬も、がん予防や治療において役立つ成分の宝庫です。
また、前述のように
、緑茶と柑橘類の摂取ががん予防において相乗効果が示唆されています。漢方薬には緑茶に含まれるカテキンを多く含む生薬もあります。したがって、柑橘系生薬とカテキンの多い生薬の組み合わせは、抗がん作用が期待できそうです。
ただし、柑橘系の生薬は気の巡りを良くする理気の効能を持つので、気が消耗しすぎない(気虚)ように補気薬を組み合わせることが大切です。
煎じ薬をインスタントーコーヒーのようにスプレードライ法で粉末にする過程では、水と一緒に精油成分も揮発して無くなります。煎じ薬に比べてエキス顆粒製剤の効き目が弱いのは、大事な薬効成分の精油成分が無くなるからです。特にがんの予防や治療として漢方薬を服用する場合は、煎じ薬を服用することが大切です。





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