大映宣伝部・番外編の番外 (29) 野添ひとみ さん

　　　　　　　

　　　　　　　　　　　　

　　　　　前回この欄で川口浩のことを書きましたが、そうなるとどうしても書かなけれ
　　　　　ばならないのが愛妻・野添ひとみさんです。

　　　　　川口浩が大映に入ったのが昭和31年(1956)ですから、野添ひとみはその頃
　　　　　すでに松竹でブレイクしていて、川口浩は彼女の大ファンだったそうです。
　　　　　きっかけはよく判りませんが二人は知り合って付き合うようになり、川口が大
　　　　　映に入社したころに、お父さんの川口松太郎の口利きで彼女も松竹から大映
　　　　　へと移ってきました。
　　　　　このように移籍がスムースに行くことなど珍しいのですが、お父さんが作家と
　　　　　して映画界・演劇界に大きな功績を残されてきた方であり、松太郎氏も可愛い
　　　　　息子のためにひと肌脱いだのだろうと推測されます。

　　　　　野添ひとみはSKD(松竹歌劇団)の出身で、昭和34年(1952)に松竹「うず潮」で
　　　　　デビュー、約40本の松竹映画に出演し、とんとん拍子でスター街道を歩んでい
　　　　　たのです。
　　　　　大映での第一作は昭和32年(1957)川口浩と共演で「くちづけ」でした。
　　　　　昭和35年(1959)に二人は結婚。川口浩が実業家転身のため大映を退社した
　　　　　昭和37年(1962)とほぼ同時に、彼女も大映を退社してフリーになっています。
　　　　　彼女の大映での出演本数も約４０本で、ユニークな娘役として活躍しました。
　　　　　余談ですが、彼女には双子の姉がいますが、お姉さんも同時に大映テレビに
　　　　　入り、プロデュサーとして活躍しました。

　　　　　私も撮影所で何度か会いましたが、最大の思い出は二人が共演した作品の
　　　　　中で「有楽町で逢いましょう」(1958)です。
　　　　　この作品には京さん、菅原さん、北原さん、叶さんらも出ていますが、川口・
　　　　　野添の若い恋人コンビを盛り上げるものでした。
　　　　　映画化の前年に百貨店・有楽町そごうがオープン、その話題を盛り上げるた
　　　　　めのプランの一つが結果大ヒットになったフランク永井の同名曲でした。

　　　　　映画化はそれから一年遅れだし、九州は東京とは違い、ぼやぼやすると蚊帳
　　　　　の外になる恐れがあり、九州ではビクターと大々的代々にタイアップし、マスコ
　　　　　ミに押し込んだ記憶がよみがえります。

　　　　　また九州では当時の池広利夫支社長以下全員が申し合せて、あらゆるところ
　　　　　で歌う機会があった際には、必ず「有楽町で逢いましょう」を歌うことにしていま
　　　　　した。九州も興行的に成功、ほっとしたのも思い出ですが、そのおかげで私は
　　　　　今でもこの歌をちゃんと歌えます。

　　　　　川口・野添夫妻には二人の娘さんに恵まれましたが、17歳になっていた次女を
　　　　　亡くし、昭和62年(1987)には最愛の旦那を癌で失っています。前回も書きました
　　　　　が、川口家には不運が続き、平成７年(1995)には58歳になっていた彼女も甲状
　　　　　腺癌で亡くなりました。