「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」 平成23(2011)年 9月29日(木曜日)通巻第3434号
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世界経済が回復する兆しは日々希薄となって
ギリシアの次はウォール街不況、そして中国のバブル破綻
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S&P(スタンダード&プアーズ)は中国の不動産開発業者の上場企業格付けを格下げする準備に入ったという。
向こう六ヶ月から一年以内に中国の不動産価格は10%下落するという見通しを基盤に、今後の経済予測をすれば、中国のデベロッパーの株価は、それ以上の下げに見舞われることは火を見るよりも明らかだ。
しかし果たして、たったの10%の下落で済む問題だろうか?
自慢の新幹線事故に続いて上海地下鉄事故は世界に衝撃を与えている。これは中国衰退の予兆ではないのか、と。
▲中国の住宅価格下落が問題ではない。深刻な問題は金融方面にある
専門家の見立てでも中国不動産価格は2012年までに、30%ていど下落すると予測されている。
だが「たとえ30%下落しても、それは2010年の価格と同じレベルでしかなく、住宅販売は依然として成長しつづけており、悲観論は禁物だ」とS&Pは「強気」の理由を言う(香港を除いて、どの都市でも不動産斡旋業の店先は閑古鳥という実態から乖離した分析である)。
問題は不動産価格や販売傾向の話ではない。問題は金融システムの脆弱性である。
銀行が、これら開発業者にいくら貸し込み、金利払いが行われなくなり、貸しはがしに転じるとき(昨今の中国の金融当局の引き締め政策を見ていれば、金融破綻こそが時間の問題である)、何が起きるかが懸念材料のトップにある。
推定される不良債権はすくなく見積もっても邦貨換算で170兆円、最悪で250兆円に及ぶだろう。
米国のサブプライム破綻(08年九月)は、すぐれて不動産価格の問題ではなく、金融、つまり信用収縮(クレジット・クランチ)による金融システムの包括的な破裂であり、米国の不動産価格暴落は、リーマン・ショック直後のファニーメーの破産からである。AAA世界最高水準の格付けを得ていたファニーがいきなり倒産したのだ。
中国に当てはめれば、開発公社の破綻は忽ちデベロッパーの破綻へ繋がり、銀行経営が極めて深刻な状況に陥ることになる。過剰流動性はすでに失われつつあり、こちらの方面を閑却した予測は、一方的で甘いと言わざるを得ないだろう。
サブプライムが表面化したとき、米国の空き家は一千万戸だった。中国はバブル破裂前の現段階で空き家は2000万戸以上(電力メーターで動いていない家屋は6500万戸という統計数字もある)。
つまり胡錦涛温家宝路線のかかげる「保八」(成長率8%死守)は、早晩実現不可能に陥る。
そのとき、何が起こるか? いま程度の暴動で社会騒擾が収まるとは考えにくい。
▲中国経済が転倒すると、世界経済の牽引車が不在となる
「世界の投資家は、ユーロ危機、米国経済陥没、日本沈没と騒いでいるが、リーマン・ショック直後から(4兆元の財政出動などにより)世界経済のバランスを欧米以外の経済圏でささえてきた中国経済の失速こそ、おそれるべき事態であり、中国の製造業指数は50%を割り込んできている。とはいえ、現在、欧州を悩ませているユーロ危機は、深刻な状態に陥る前に3000億ドル規模の救済措置を構築するという未曾有のこころみがある。リーマン・ショックの教訓が生かされており、危機回避できると考えている」(ジェイムズ・サフト、ロイターのコラムニスト。ヘラルドトリビューン紙、9月28日付けに転載)。
嘗て世界経済の牽引はドイツと日本だった。
米国経済がふらふらした期間、日独両国経済が強力にエンジンを吹かして、世界経済全体のバランスを保ち、さらに言えば日本が巨大な貢献をIMF・世銀になして破産寸前の幾多の国々を救ってきたうえ、米国の赤字国債をせっせと購入し続けた。
その日本の財布が空にちかくなった。
米国は息を吹き返し、元気になった国民の消費意欲がもどり、湾岸戦争、対テロ戦争という戦費の異様な支出をも経済活性化に利用した。
この間、米国の景気浮揚の基軸にあったのが住宅投資だった。個人消費最大のファクターは住宅部門であり、アメリカ人の夢は住宅を徐々に大きな邸宅へと買い換えていくところに人生の醍醐味と、人生の目標があった。
サブプライム危機の到来は、住宅による景気浮揚政策それ自体が、上からの人為的な経済活性化作戦の実践政策でもあり、FRBは金融緩和と低金利政策を続けてきた。
この構造的な危険性の存在に対して早くから警鐘を乱打してきたのはジョージ・ソロスらだが、みんなが夢を膨らませているときに風船に針を刺すような行為、そうした蛮勇をなす者は少数だった。
「みながダンスを踊っているときにパーティを抜け出せない」とウォール街の幹部が発言したことを思い出す。
金融機関は強気強気で、借りたカネを返すアテのない人たちの住宅投資に巨額を貸しこんだのだ。まさにこの数倍規模の貸し付けが中国で行われたのである。
▲バンク・オブ・アメリカは「ババ抜きのババ」を引いたのか?
さて最近、バンク・オブ・アメリカの大株主となったウォーレン・バフェットは、落ち目の銀行が再浮上するという確信に基づくのであろうが、いったい、どのような勝算に基づくのか。
バンカメは当時全米一位の証券会社だったメリル・リンチを吸収合併した。
リーマン・ショック直後の金融大編成のダイナミズムの嵐のなかで、野村證券がリーマンの欧州と中東部門を買収した。
そのときメリルには153億ドルの損失があることは計上されていなかった。バンカメは、この不良債権もろとも吸収合併を果たし、政府から200億ドルの救済資金(公的資金受け入れ)を得た。
市場はバフェットの「後ろ向き」なニュースに驚き、同時に失望し、以後弐週間でバンカメの株価は五割下がり、そのマーケット・バリュー(時価価格)は50%の下落を演じる結果となった。
バンカメのメリル買収は失敗であったと株主代表訴訟を起こされた。
この株主代表訴訟は米国金融史はじまって以来最大規模の裁判で、しかもその裁判の過程でつぎつぎと明らかとなったメリル・リンチの負債総額は153億ドルにも達していたのである。
結果的にバンカメは総額500億ドルの損失を抱え、時価総額の半分を失って、米国経済の深刻な陥没状況をしめるバロメーターともなった。
そのバンカメの救済に2012年九月、世界一の投資家ウォーレン・バフェットが、大株主として名乗り出たわけだから、再建の目処がたったと読んだに違いなく、よほどの勝算があるのだろう。
しかし、その後、自社株買いに走ったバフェットに対してウォール街は冷ややかな視線を浴びせている。
考えてみればバフェットにとって、経営するバークシャー・ハザウェイ社の投資規模は三兆円以上のモンスターに膨らんでおり、適切な投資先がなければ、投資のポートフォリオは現金で保有か、投資家への返金でおこなうしかなく(ソロスは当面の投資環境は真っ暗として、出資者にカネを返した)、バフェットは熟慮の末、当面は自社株(バークシャーハザウェイ社)の買い戻しに走ることにしたのだ。
通常、市場で自社株買いにでるときは買収防衛が第一の目的であり、経常利益がたっぷりとあって、儲かっている会社がおこなう。
バフェットはこれまでにもコカコーラの大株主であり、鉄道企業を買収し、経営して立ち直らせ、或いは工作機械の企業を抱えてきた。
しかし次の数年を展望すれば米国で、確実に儲かる企業はゼロに近い。だから自社株を買って、同社の株価下落(年初来17%下げていた)を防ぐ目的もある。
▲ ウォール街にまたまた寒風が吹きすさぶ。
年末のクリスマスには、失業者の群れに転じ、救世軍の炊き出しに並ばなければならない人が数万は出るだろう。
オバマ政権になって以来、米国経済の落ち込みは凄まじく、あのカリフォルニアですら失業率は13%、ホワイトカラーも大量に失業している。
業界一位、不況知らずといわれたゴールドマンサックスは、第三四半期の赤字が予想以上に悪く、向こう一年間に全体で5%の経費カット、合計1000名の社員解雇に踏み切る。ゴールドマンサックスは08年第四四半期に21億ドルの赤字を計上したが、2012年通しでの赤字は、それ以上という見方もある。
これは驚きではなく数字も控えめでさえある。
バンカメは社員の一割、世界で30000名の社員を解雇する。
JPモルガンチェースは3000名、クレディスイス銀行が2000名を解雇する。こうしてウォール街をリーマン・ショック以来の不況風が吹き荒れ、とどのつまり米国金融街が欧州のユーロ危機に全面協力ができる態勢にはない。
どうやら殺風景そのものの世界経済の俯瞰図。それなのに日本円が史上空前の高値にあってゴールド同様に投資資金が集まるのは何故か?
これが謎である。