「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成30年(2018年)9月7日(金曜日)弐 通巻第5820号
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「危機管理」の見本は、むしろ中国が示したのではないのか
台風21号。関空へ特別バスを仕立て、中国人旅行者を選別し輸送した
関空水没、北海道地震による大停電。日本の危機管理が試された。注目すべきはただちに自衛隊が4000人、救援活動と給水のために出動したこと。24時間以内に24000名の派遣態勢が組まれたことである。
しかし9月10日から予定されていた米海兵隊との共同訓練が中止となった。
国家防衛より、人命救助という日本の戦後のヒューマニズム重視は、時として国家安全保障の根幹に抵触する。戦後レジュームの宿痾だ。
メディアは相変わらず国民の安全保障の優先課題を「ライフラインの確保」(電気、水道、ガス)においた。メディアも交通アクセス、そして原発の被災状況報道を優先し、ついで「被災者」の訴え(当然、行政への不満となる)。自衛隊が真っ先に現場へ行って給水している様子や被災地での危険な任務に就いていることなどはあまり報じない。
定番はガソリンスタンド、スーパーに食料や電池、ガスボンベを買い求める長い列。物流がとまり、保冷庫も電気が来ないので腐食が始まる。
自然災害は日本が台風の通り道であり、火山列島である以上、避けることが出来ないが、日頃の危機管理が杜撰な実態がさらけ出された。
関空水没、北海道大停電を、もし「戦争」と仮定して考えてみると、本当の危機に遭遇したときに、何を一番優先してなさねばならないか、日本の対応はあべこべのケースが多いことを示した。
デジタル社会の到来では通信の確保、電源の確保が重要である。いみじくも、報道では電池切れによる充電器の設置とか、公衆電話の無料開放とかを大きく報じたが、充電設備と公衆電話が不足していることが分かった。
病院船をもたない日本には「移動する病院」という発想がない。また多くの病院には自家発電設備が脆弱であり、糖尿患者などは緊急措置が必要になる。
デジタル文明の下で重要課題は、光ファイバーケーブルの拠点の安全である。
日本の海底ケーブルは、一本の基幹ルートに依存し、補完ルートがない。ここを攻撃されると、ほぼ全ての日本の通信網が破壊される。
関空のケースでは避難ルートが神戸へ向かう高速船が三隻しかなかった。それも定員が110名。海上の人工島に建てた飛行場は三十年で沈没すると当初から予想されたのに、抜本的な代替プランはなく、鉄道などの沖合島へのアクセスは一本の橋梁に頼っていた。
滑走路が水没したとき、駐機していた飛行機は僅か三機、これは不幸中の幸いだった。東北大地震のおり、仙台空港では駐機していた十数機の自衛隊機が失われた。もし、空港がミサイル攻撃を受けたときに、短時間で修復工事ができないという、日本の対応力の弱さもやはり深刻な問題である。
北海道地震でも、おどろくなかれ全戸が停電した。電源を1箇所の発電所に依拠し、補完の選択肢がない。これは安全保障上の手抜かりだろう。また原発が停止中であることが問題にならなかった。原発が動いていれば全戸停電という事態は防げたのではないのか。これを通信に置き換えると、通信施設の源を襲撃されたら、ほぼ全ての日本の通信が途絶えるということである。
▲空港で夜を明かした旅客の過半が外国人だった
他方、関空には2000人のツーリストが残されていると最初、報じられたが、実際には7800名もいたのだ。
メディアは立ち往生した旅客の弁当とか水の配給の画面つくりをしていたが、被災人数の掌握でできていなかった。そればかりか、非常食のストックがあまりにも少なかった。
脱線だが、六年前に体験した筆者の個人的経験を書く。
北京から成田便に搭乗したところ、「関東方面が嵐のため」とかの理由で、いきなり関空へ着陸した、空港ロビィでの宿泊を余儀なくされた。後日判明したのは午後十一時前に成田に着けそうにもなく、途中の関空に着陸したのだった。その説明を中国の飛行機会社は説明しなかった。
配給されたのは寝袋と一万円の見舞金。そして翌朝の食事券。出発はなぜか昼過ぎになるという。ところが、百人近くいた中国人旅客は、早朝にいなくなっていた。中国人の喧しい抗議に対応できず、別の手だてを用意したらしかった。要するに「ゴネ得」なのだ。
今次、関空で何が起きていたか。
実は700名の中国人ツーリスト、250名の台湾からのツーリスト、そして70名の香港人(それぞれパスポートが異なる)。千名以上の旅客は、中国系だったのである。
▲中国の大阪領事館は迅速に対応した
中国の大阪領事館はただちに行動を取った。バスをチャーターして関空へ派遣し、中国人ツーリスト選別し、交通アクセスの地点へと運んだのだ。しかも台湾客には「あなたが中国人であることを認めたら乗せてやる」と差別した。
これは台湾で問題となって台湾のメディアが騒いだ。
在日台湾機関はこうした措置をとらなかった。このため中国系の台湾メディアが、中国側の差別待遇を攻撃するのでなく、駐日大使の謝長挺が無能だと、『中国時報』などは、このときとばかりに攻撃した。
幾つか思い出すことがある。
東日本大震災のとき、中国は新潟空港などにチャーター機を飛ばし、十万人とも言われた在日中国人を中国各地へ手際よく運んだ。在日大使館に司令塔があるのだ。
リビアでは、カダフィ暗殺、政府壊滅の時に、飛行機、フェリー、バスなどありとあらゆる交通手段をチャーターして、じつに3万6000名いた中国人を救出した。
中央アジアの小国キルギスで暴動が発生したおりには、奥地のオシェというキルギス第二の都市に四機のチャーター機を飛ばして、500名いたとされる中国人を救出した。
これが可能となるのは、逆に言えば外国にいる中国人の動向さえ、出先の外交機関が把握していること、携帯電話の連絡網があること、つまり防犯カメラを全土に張り巡らせて、携帯電話の会話さえも防諜している国だからこそ可能なのだが、基本的に中国人の多くが軍事訓練をうけていて、危機にいかに対応できるかを、中国では日頃から実践しているからではないのだろうか?
デジタル社会、次世代通信機器や半導体開発で、もはや日本の優位はあとかたもないという実態が露呈したのである。