木金と休みを取ってシルバーウィークを9連休とした方もいよいよ今日で終わり。連休中は比較的好天に恵まれる日が多かったように思いますが、みなさまいかがお過ごしになられましたでしょうか。私はそのうちの1日を使い、断続的に続けている中山道歩きに出ました。京都からはじめて数年がかりでしたが、桶川から板橋まで歩き、残りはいよいよ日本橋までのひと宿となりました。
かつての幹線道路たる旧街道を歩いていると、しばしば変わった歴史をもつ見どころに出会います。そのなかでも、23区内という都会の宿場板橋で、とりわけ目を引くスポットを発見したのでご紹介したいと思います。
旧板橋宿は、都営地下鉄三田線の板橋区役所駅から板橋本町駅にかけての1本東側の通りにあたり、今も活気ある商店街として残っています。その商店街の北の外れ近くに「縁切榎前」という交差点があり、その脇にカウンターしかないショットバーくらいの広さの小さな神社があります。
その前に立つ説明板によれば、江戸時代に縁切榎と呼ばれる榎の木があり、嫁入りの際にその下をくぐってしまうと、死別などで縁が短くなるという言い伝えがあったそうです。「縁が短くなる」という言い回しは、当時女性の方から離婚することは珍しかったということなのでしょう。
この写真では分かりにくいのですが、鳥居と祠の間の左側に絵馬の掛け場があって、そこには神社の大きさとは明らかに不釣り合いな大量の絵馬が掛かっています。
縁切榎というくらいですから、たぶん酒やたばこを止めたいとか、悪縁続きの恋愛運を何とかしてくれとか、切実なものでもせいぜい離婚がスムーズに成立しますようにというあたりの願掛けが並んでいるのだろうと、直感的に思っていました。
ところがどっこい、その内容の生々しさに思わず息をのみました。あらかじめ断っておきますが、絵馬に手を触れるなどということは一切しておりません。幾重にも折り重なってひしめき合っている絵馬のうち、目立つものにさっと目を通しただけです。いわく、「職場の○○と××が一刻も早く会社を辞めてくれますように(いずれも実名明記)」とか、「孫娘が男友達と早く別れますように」とか、「私を見捨てた男が一生孤独を味わいますように」とか…。
印象深かったのは、職場系の願掛けが交際系のそれと同じくらい多かったことです。現代日本のお悩み事情を反映しているようにも感じられます。ただ、職場から2人以上追い出すよりは、願主が去った方が早いような気がするのはタブーなつっこみでしょうか^^;
前述の通りとにかく小さなお社ですので、絵馬の売り子がいる訳ではありません。掛け場の反対側に、野菜の無人直売所のような代金箱があり、併設のスペースで書くようになっているようです。私が訪れたとき、そこにはすでに女性がひとり熱心に何か書いており、参拝を終えてひととおり絵馬を眺めて立ち去るまで、その方はその場所から動くことはありませんでした。
これだけの生々しくも切実な願掛けが集っているわけですから、その効能はいかほどかと推し測らずにはいられません。茶化すわけではありませんが、負のエナジーに満ち溢れた、ある意味パワースポットといえるのではないでしょうか。これらの絵馬をかき分けて禁煙や断酒を掲げるというのは、逆に気が引けてしまいそうにも感じます。
そんな縁切榎はバッチリ首都圏に位置していますので、お近くをお通りの際には、ちょっとした興味本位ででも覗いてみてはいかがでしょうか。商店街自体、いろいろな層に面白いお店が並んでいますので、都会の散歩としてオススメです。
ちなみに、ここの榎(現在のものは3代目だそうです)がなぜ縁切りと呼ばれるようになったのか、その肝心な由来については現地の説明板ではさっぱりわかりませんでした。