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見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

国民・議員・公務員/あした選挙へ行く前に(池上彰)

2008-12-08 23:19:20 | 読んだもの(書籍)
○池上彰『あした選挙へ行く前に』(14歳の世渡り術) 河出書房新社 2008.11

 図書館などで、中学生・高校生を「ヤングアダルト」と呼ぶ言葉が使われ出したのは1980年代くらいだろうか。むかしは、主に文学のサブカテゴリーとして使われていたように思うが、最近は、さまざまな社会問題を、斬新な切り口で論じた本が増えてきた。いいことだと思う。

 本書は「選挙」について考える本。選挙はなぜ必要か。次の選挙で「落ちる不安」があるからこそ、政治家は一生懸命に市民の声を聞き、仕事をする。経済学者のアマルティア・センは「民主主義の国では国民が飢え死にするようなことは起きない」と言ったという(この点、いまの派遣労働者をめぐる状況は、日本が本当に民主主義の国かどうかを問われている気もする…)。

 われわれが選挙で選ぶのは「われわれの税金を使う人」であるべきだ(最初の有権者は納税者だけだった)。けれども、われわれは公務員を選ぶことができない。つまり「私たちの税金で雇っている公務員が、ちゃんとした人たちかどうか分かりません(略)そこで私たちが政治家を選び、その政治家が公務員の仕事を監督し、公務員に仕事を命じたりするのです」。いや、これには目からウロコだった。国民-議員-公務員の三者関係って、本来、そうあるべきものだったのか! もしかしたら、中学や高校の社会科で習ったのかもしれないが、いまの現実が、あまりにも理想から遠く隔たっているので、すっかり忘れていた。

 選挙の投票に行かないのは「私の納めた税金は、何に使ってもいいですよ」と言っているようなものだ、と本書はいう。なんだか身もフタもない言い方だが、「権利」とか「義務」とか、抽象的な言葉で説明されるよりも、かえって胸にこたえる重みがある。

 さらに選挙制度について。私が小学生の頃に比べれば、日本の選挙制度は、ずいぶん変わった。制度の影響は、すぐには現れないので、政治家の身勝手で制度をいじっているだけじゃないか、と思ったりもしたが、変化の兆候は、少しずつ見えてきたように思う。もしかしたら、日本にも、選挙による政権交代をともなう、二大政党の時代が、ついに訪れるかもしれない。

 そのほか、国会議員の特権や、アメリカ大統領選挙の仕組みなど、一見、常識にあわない不思議なシステムにも、「なるほど」と思える理由があることが分かる。オバマ氏が、自分の意思でアメリカにやってきたエリート黒人の子孫であり、アメリカのいわゆる「正統な黒人」ではない、という点も、あまり日本の報道では強調されていないことで、興味深かった。
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