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見もの・読みもの日記

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構築進む、アジアの電子図書館

2008-12-07 00:52:22 | 行ったもの2(講演・公演)
○東京大学東洋文化研究所 アジア貴重古籍の電子図書館建設と保全事業シンポジウム『アジア古籍電子図書館からアジア知識庫へ-法華経と古典知の冒険-』

http://www.ioc.u-tokyo.ac.jp/

 午前の第1部は、どう考えても仏教哲学とは縁のなさそうな政治学者、経済学者を交えて「法華経と現代」を語る、異種格闘技のようなセッション。面白そうだったが、間に合うように早起きできなかった。ごめんない。

 午後の第2部は「アジア古籍電子図書館-アジア知識庫の構築に向けて」と題して、日本・中国・台湾で行われている各種の電子図書館とデジタル・アーカイブの試みを紹介する。

 冒頭、橋本秀美氏(東文研准教授)から、中国・台湾・日本における古籍電子図書館構築の沿革・現況・展望と、それぞれの特徴について、研究者の視点からのレビューがあった。最も早く中文古籍目録のデータベース化に着手したのは日本であり、台湾・中国が追随した。次に日本は全文画像データベースの構築に進んだ。これは書籍の代用とまではいかないが(PC上で通読するのは疲れる)、対照・参考用としては十分実用的な価値を持っている。一方、中国・台湾は全文テキスト化に進んだ。台湾では中央研究院の主導によって、非常に精密なデータベースを作り上げたが、中国では、民間の個人が、てんでバラバラに入力した成果がネット上に公開され、結果的に膨大なテキストデータベースが出現した。

 古籍にとどまらず、「中国ではほとんどあらゆる出版物がスキャンされてネットで流通している」という、とんでもない話も聞いた。もちろん違法行為である。しかし、書籍の流通がよくない中国の場合、たとえば中華書局の『二十四史』のような基本文献であっても、地方都市では「買いたくても買えない」ことが多いため、これは大助かりなのだそうだ。『續修四庫全書』(1,800冊?)も全てPDFファイルで手に入るという。うーん、蛇の道はヘビというか、なんというか。個人がスキャンして公開しているものもあれば、どこかの図書館の内部用に作成されたデータが流出したと思われるものもあるそうだ。

 まあ、文明国とは思われない話であるが、この「野蛮な活力」を放置したほうが、大局的には国益に添う、と中国の指導者は判断しているのではないかと思う。実際、日本やヨーロッパが大騒ぎしているGoogleブック図書館プロジェクトなんて、メリットでもなければ脅威でもないだろうなあ、中国にとっては。

 中国の国家的な電子図書館プロジェクトで最も画期的だったのは、四庫全書が全文テキスト化され、検索可能になったことだ。そもそも四庫全書が「清朝以前の古典世界を再構築する」目的で編纂された叢書であったことが、データベースにも特権的な特徴を与えているという。なるほどねえ。日本には、個性的な文庫は数々あるが、こういう叢書はないと思う。『群書類従』もちょっと違うし…。

 そのあと、中国・台湾・日本の図書館・博物館から、実際のデータベースやデジタルアーカイブの紹介があった。中国国家図書館のサイトを見るのは久しぶりだが、いつの間にか、ものすごくデジタルコンテンツが増えていた。「中國古籍善本目録」が実装している”相関性分析”という考え方が、なかなか面白い。たとえばA氏の著作は、どこで出版されたものが多いとか、誰が跋を書いたものが多いとかが、一目で分かる仕組みである。

 台湾の故宮博物院・図書文献館は割愛して、日本については、奈良国立博物館の写真デジタルアーカイブの紹介があった。現在も「所蔵写真検索システム」というかたちで一部公開されていることは知っていたが、来年2月には、これを進化させた(?)デジタルアーカイブを公開するらしい。楽しみである。ただし、ネット上に公開できるのは所蔵品の画像のみである。それ以外(各地での調査成果や寄託品など)の写真は、仏教美術資料研究センターで閲覧できるそうだ。門外不出の秘仏の写真もあったりするのかしら。要チェックである。
コメント
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