見もの・読みもの日記

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美を身近に/季節をめぐり、自然と遊ぶ(大倉集古館)

2022-02-28 17:32:43 | 行ったもの(美術館・見仏)

大倉集古館 企画展『季節をめぐり、自然と遊ぶ~花鳥・山水の世界~』(2022年1月18日~3月27日)

 花鳥や山水など自然の姿を写した和漢の絵画・書跡・工芸品を取り上げる展覧会。そう聞いても、具体的にどんな作品が出ているのかイメージが湧かなくて、あまり期待せずに見に行った。そうしたら、意外と面白かった。

 はじめに日本の絵画・工芸を、春と秋に分けて紹介する。春の部に出ていた『桜に杉図屏風』(桃山時代・16世紀)と、秋の部に出ていた『網代に葡萄図屏風』(江戸時代・17世紀)が、とても個性的で目を惹いた。どちらも六曲一双。前者は、金地にモコモコと黒っぽい杉と白い桜を描く。樹高を屏風の縦の長さに揃え、桜の樹形が杉とそっくりの円錐形なのは、繰り返しのデザイン的効果をねらった構図である。桜と葉桜、金の霞や土堤が、適度な変化を添えているのもよい。後者は、深緑色の夕闇を背景に、金色の網代垣と霞、そして蔓葡萄の枝。葡萄の実は白っぽい水色。元来の色は違ったのかもしれないが、抽象画のようで収まりがよい。図様のひとつひとつが大きいので、屏風自体が大きく感じられた。日本間ではなく中国の大邸宅に映えそうな感じ。

 大倉集古館、しばらく休館もあって来ていなかったので、こんな美品を持っていることをすっかり忘れていた。自分のブログを検索したら、『桜に杉図屏風』は2006年の『館蔵日本美術による Gold』で見ている。そうか、大倉喜八郎、金(Gold)の工芸品が好きそうだものなあ。『網代に葡萄図屏風』は2015年に東博の常設展で見ていた。

 『吉野山蒔絵五重硯箱』(江戸~明治時代)や『秋草蒔絵文台』(明治時代)は、やっぱり感覚的に新しいのだろうか。文化財としての美しさというより、叶うことなら自分の手元に置きたいと思った。蒔絵や彩色画の描かれた乱箱にも心が動いた。いま私は、浅い段ボール箱の蓋を切り取ったものを手回り品の整理に使っているのだが、これって乱箱だな、と思った。

 春の部に出ていた『四季若草図巻』(江戸時代)は、豊かな色彩で四季の行事や農作業の様子を描いたもの。草花や畑の作物がことさら目立つように描かれていて、絵本のようでかわいい。武士と農民という異なる身分の絵が交互に描かれている点が珍しいのだそうだ。

 後半は、中国・朝鮮絵画と日本の漢画・水墨画に描かれた花鳥山水を紹介。『清朝名人便面集珍』は扇面画16面のコレクションで、本展では4面を展示。これがとてもいい! いずれも金地に濃彩で花鳥を描く。写実的な筆致だが、扇面にどう収めるか、構図の妙も意識されている。中国の扇面は、日本のものより横長である気がした。中骨の部分が長いのだろうか? 伝・王冕筆『墨梅図』は、横長の画面に太い枝が横たわり、あまり人工的でなり、自然な枝ぶりが気に入った。

 水墨山水画は、夏景と冬景を対比させることが多いという。水墨という技法と冬の雪景色の相性がよいためではないかと思う。中国・明時代の『夏景・雪景山水図』(朝鮮絵画の可能性もあるとか)、 朝鮮時代の『残雪山水図』、江戸時代・菅井梅関の『寒光雪峰図』が並んでいて、どれもよかった。あと、狩野探幽とか谷文晁は確かに巧いが、私は『夏景山水図』(室町時代)が気に入った。大きな屋敷に隣り合う、柳の植わった土手道を農夫が歩いていく。こういう、なんでもない風景を描いた水墨画って、かえって珍しいのではないかと思う。

 最後に粟生屋窯の『山水図硯箱』(江戸時代)も魅力的だった。粟生屋窯(あおやがま?)だから、加賀の九谷でいいのかな? 白地の四角い硯箱にカラフルな釉薬で夢のような山水が描かれている。蓋の上は、たぶん西湖の風景。四方の側面にもどこかの山水が描かれる。これも欲しい。文化財としての評価とは別に、とにかく心を掴まれる作品の多い展覧会だった。


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