見もの・読みもの日記

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美と信仰の贅沢/春日神霊の旅(金沢文庫)

2022-03-03 00:04:49 | 行ったもの(美術館・見仏)

神奈川県立金沢文庫 特別展『春日神霊の旅-杉本博司 常陸から大和へ』(2022年1月29日~3月21日)

 金沢文庫が、現代美術作家・杉本博司氏の文化活動を広く紹介する小田原文化財団と共催し、春日信仰を紹介する展覧会。春日大社やゆかりの社寺の宝物に加え、称名寺・金沢文庫に伝わる、春日大社・興福寺に関する仏教書・文書、杉本氏によって収集された春日信仰を中心とする神道美術作品等を展示する。

 なるべく事前情報は遮断して見に行ったのだが、だいたい予想どおりで、期待どおりの質の高さを楽しめた。展示室の入口には、丸に三角文を描いた白い幕。小田原文化財団のホームページを見ると、同財団の門幕と同じものだ(北条氏の一つ鱗文がモチーフかな)。

 「暗いのでご注意ください」の札が出ており、なるほど、展示室内はいつもより暗い。入ってすぐの展示ケースのガラス面には「杉本博司『華厳滝』と『那智滝』」の文字。素木(黒っぽい)の角高坏の上に胴造の小さな男神像が鎮座している。束帯姿、片足踏み下げのポーズで、長い刀を差している。背後には黒地に白い滝の軸。絵画かと思ったが、華厳の滝を撮影してリトグラフィ(印刷)したものだそうだ。男神像も日光・輪王寺に関係があるらしい。

 薄暗がりの中、手探りするように進むと、階段下の、いつも称名寺の弥勒菩薩立像(模刻)が置かれている壇上には、闇を懲り固めたような、怪しいオーラを放つ木造十一面観音(平安時代)が立っていた。十一面の頭部には、大きな棘のような黒い塊が点々と付いているだけ。ひねりのないまっすぐな体躯。左手は肘から先を前に上げ、右手は、なぜか後ろに反るようなポーズをしている。前田青邨、白洲正子旧蔵とのこと。そして、ぽつりぽつりと置かれたガラスの小さな五輪塔が、壇を囲んでいた。

 左手、壁際の展示ケースにも平安時代の木像仏(菩薩立像、十一面)が2躯。福知山の威徳寺観音堂のものだという。調べたら、無住のお寺で、周辺から集められた100躯以上の古仏が保存されているようだ。また別のケースには、獅子狛犬と阿弥陀如来坐像に添えて、滝の軸が掛けてあった。那智の滝の写真プリントだが、流れ下り方がまっすぐすぎて、違う滝かと思った。

 2階へ。まあとにかく見どころが多くて切りがない。小田原文化財団や個人蔵の作品のほか、陽明文庫の美麗な『春日鹿曼荼羅』(鎌倉時代)あり、興福寺の『春日曼荼羅図』(色っぽい如意輪観音が描かれている。眉間寺旧蔵、鎌倉時代)あり、三の丸尚蔵館の国宝『春日権現記絵』巻16も来ていた。あと細見美術館の『末法』展で有名になった弥勒菩薩立像にも、久々にお会いした。これ、興福寺伝来で井上馨旧蔵なのだな。

 神鹿像や獅子像など、立体作品が多いのも楽しい。そして立体作品には、杉本氏が「補作」を加えた「作品」もあるのが、解説がないと判別は難しい。楽しい、美しいと思って見ればよいのだと思う。補作ほど大胆な試みではないが、取り合わせの妙も楽しめる。いつもの展示ケースには畳が敷かれており、その上に小さな神像や、水瓶、油注などの工芸品を置き、背景の曼荼羅等の画軸と併せて楽しむ趣向である。さらに、実は神像や工芸品が置かれている古板材(!)の数々も興味深いのだが、これは展示品ではないので、何も説明がついていなかった。

 春日大社から、平安時代や南北朝時代の八稜鏡と並んで唐代の海獣葡萄鏡が出陳されていたのには、歴史を感じて感激した。福岡市美術館(松永耳庵コレクション)から、十一面観音鏡像(平安時代)や明恵上人の『夢記切』が出ていたのも貴重だった。

 それにしても、いつも物堅いイメージの金沢文庫が、どうして小田原文化財団とコラボすることになったのだろうと思ったが、2018年の特別展『顕われた神々-中世の霊場と唱導-』という前例があるのだそうだ。あ~忘れていた。展示作品は必ずしも重なっていないが、白洲正子旧蔵の木造十一面観音立像は、このとき見ているのだな。

 前期を見逃したのと、展示品の由来や所蔵者を復習するのに図録購入は必須と思ったのだが、販売していなかった。まだできていないそうで、後ろ半分が白紙の見本が受付に置いてあった。


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