見もの・読みもの日記

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太子信仰とともに/天王寺舞楽(国立劇場)

2021-09-21 22:58:31 | 行ったもの2(講演・公演)

国立劇場 第88回雅楽公演・国立劇場開場55周年記念・聖徳太子千四百年御聖忌『天王寺舞楽』(2021年9月18日、14:00~)

 久しぶりに舞楽を見てきた。調べたら、2017年2月に国立劇場で行われた宮内庁式部職楽部の公演以来、4年半ぶりである。今回は、本年が聖徳太子千四百年御聖忌に当たることから、大阪・四天王寺に伝わる「天王寺舞楽」の上演である。第2部の冒頭で、天王寺楽所雅亮会副理事長の小野真龍氏からお話があったが、天王寺楽所は、太子が側近の秦河勝の子孫を中心に設置したものと伝えられている。第1部では「秦姓の舞」すなわち天王寺舞楽らしい2曲を披露する。

・第1部:秦姓の舞

・蘇莫者(そまくしゃ)

 舞楽を見るには2階席がいいと思っているので、今回も2階の最前列の席を取った。幕が上がると、中央に舞台。左右に楽人の席。下手(左)に羯鼓・太鼓・鉦鼓の3人、上手(右)に管楽器が12人の配置だったが、プログラムによると全て左方の楽人らしい。太鼓は巨大な鼉太鼓ではなく小型の釣太鼓だったので、楽人の動作がよく見えて面白かった。背景には赤と紫の縦縞に有職文の華やかな幔幕。四隅には赤・黄・緑・紫の幡が垂れ、2台の篝火(電灯)が灯されている。

 上手からオレンジ色の袍をまとった貴人が現れ、舞台の脇で横笛を吹き始める。派手な衣装だと思ったが、東宮の着る黄櫨染御袍(こうろぜんのごほう)のつもりなのだろうか。これは聖徳太子の役である。やがて下手の幕の間から、モコモコした衣装、三角頭巾、長い白髪を垂らし、黒いお面に金のどんぐり眼の怪人が現れる。太子の笛に感応して現れた山神だという。あまり背の高くない舞人でもあり、括り袴で、ぴょこぴょこ飛び跳ねる姿が、リアルなポケモンみたいで可愛い。片手に持った鉄アレイみたいなものは桴(ばち)で、モコモコしたカラフルな衣装は蓑を表すようだ。打楽器の軽快なリズムが耳に残った。

・採桑老(さいそうろう)

 舞人は白い衣装に白っぽい頭巾、遠目には顔を覆う面もほぼ白に見えた。死を目前にした老翁で、手には長寿の印の鳩杖を持つ。老翁は若者(懸人)の肩に手を置き、実際に歩行を誘導される老人のように舞台に上がる。小さく膝を抱えてうずくまった老翁を残して若者は去る。パイプオルガンのような笙の音色に促され、ゆっくりと舞い始める老翁。しかし足は床からほとんど上げず、床を滑るように踏み出しては腰を落とす。老人の舞姿を表現しているのだ。終盤には少し動きが早くなり、足を上げる様子も見せるが、最後は再びうずくまって動かなくなり、迎えに来た若者とともに去っていく。

 解説には「死を目前にした老翁が、長寿の妙薬といわれる桑葉を求めて、山野をさまよい歩く姿」だとあったが、全て夢の中のできごとのようにも見えた。あと、ネットで検索すると、この曲には「舞うと舞人が数年以内に死ぬ」という言い伝えがあるそうだ。そのくらいの神秘性を感じさせる楽曲ではあった。

・第2部:聖霊会の舞楽

 冒頭、前述の小野真龍氏が幕前に出て、天王寺舞楽について解説。雅楽は仏教法会、特に浄土教との結びつきが強く、極楽の音楽と言われてきた。四天王寺の聖霊会の舞楽は、亀の池に架かる石舞台で演じられる。通常の舞台(3.5間×3.5間)より広く(6間×4.5間)、池を取り巻く観衆との距離も遠いので、大きく分かりやすい所作が求められるという。天王寺舞楽は『徒然草』に「都に恥ぢず」と評され、鳥羽院が熊野詣の途中で立ち寄って鑑賞したとか、平清盛が厳島神社に移植した(都にも大内楽所があったのに天王寺楽所を選んで!)という歴史も面白かった。

・行道~一曲(ぎょうどう~いっきょく)

 第2部はほんの少し舞台デザインが変化。天井近くに曼殊沙華を表す巨大な赤い玉飾りが登場した。左右に分かれた楽人たちが演奏しながら入場する。足元は沓でなく、白足袋に草履。最後に、左右の楽頭に褒美の白い布が授けられる(左肩に掛ける)。

・蘇利古(そりこ)

 雑面(ぞうめん)を付けた5人の舞人による。大きな雑面の頭にちんまり乗った垂纓の冠、袍(?)を腰のあたりに巻きつけて着ぶくれした上に袴を括っているので、丸々したバランスがかわいい。聖霊会では、この舞の後に法要の本尊にあたる太子の楊枝御影を収めた厨子の帳を上げることから「太子御目覚めの舞」と言われるそうだ。「楊枝御影」は『聖徳太子 日出づる処の天子』展(大阪市立美術館→サントリー美術館)で公開される。忘れないようにしなくちゃ。

・陪臚(ばいろ)

 「陪臚破陣楽」ともいう。赤系統の装束に鳥兜の4人が、鉾と盾を持って登場。2人ずつペアになって左右から盾を立てかけあい、鉾も床に置いて、剣を抜いて舞い、剣と盾を持って舞い、また鉾を持って舞う。変化が多くて面白い。勇壮だが、動きはそんなに早くなく、大きく手足を動かす所作が多いので、準備体操を見ているみたいでもある。

・長慶子(ちょうげいし)

 舞楽・雅楽の終わりにお決まりの曲で幕。

 「蘇利古」「陪臚」は、あれ?私これ見たことある、と気づいたが、「蘇莫者」はすっかり忘れていて、初見のつもりで見ていた。実は、2012年9月にも国立劇場に『四天王寺の聖霊会 舞楽四箇法要』を見に来て「蘇利古」「蘇莫者」を見ており、そのときもぴょんぴょん跳ねる舞人に戸惑っていた。「陪臚」は、2012年2014年に宮内庁楽部の公演を見ている。まあどれも10年近く前の話なので。

 それより、聖霊会を大阪・四天王寺で見たいという長年の夢はなかなか実現しない。2022年4月22日は、千四百年御聖忌を記念して、特別な大法要になるというお話だったが…行けるだろうか。カレンダーを見ると金曜日である。


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