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駅に歴史あり/地図と鉄道省文書で読む私鉄の歩み 関東2:京王・西武・東武(今尾恵介)

2015-09-25 21:38:06 | 読んだもの(書籍)
○今尾恵介『地図と鉄道省文書で読む私鉄の歩み 関東2:京王・西武・東武』 白水社 2015.2

 鉄道省は、戦前の日本で鉄道や運輸行政を管轄した国家行政機関の一つ。大正9年(1920)に設置され、昭和18年(1943)に運輸通信省に改組された。その前身が明治41年(1908)に設置された鉄道院である。鉄道省と鉄道院がかかわった行政(鉄道会社の設立、鉄道・軌道の敷設認可など)に関する公文書は、今も国立公文書館に収蔵されている。著者はこれらを丹念にひもとき、黎明期から現在に至る日本の鉄道会社(私鉄)の歩みを記述している。

 西武といえば堤康次郎とか、東武といえば根津嘉一郎とか、エグゼクティブな経営者の話はほとんど出てこない。公文書からうかがえるのは、鉄道会社のふつうの職員たち、その許認可を担当したふつうの公務員たちの姿である。彼らの地味な作業の積み重ねによって線路は建設され、日々の電車の進行は無事に行われ、世界に冠たる「鉄道王国」が築き上げられた。そして、鉄道の敷設、停車場の新設は、具体的な「場所」を必要とすることから、本書には多数の地図が挿入されている。大雑把に「戦前」などと言ってしまいがちだが、鉄道を中心に、10年や20年ごとに風景が一変していく様子がよく分かる。

 鉄道会社ごとに、興味深かった点をあげていこう。京王電気鉄道は、大正2年(1913)から5年の間に新宿~府中間に敷設された。新宿起点から3キロメートルほどの幡ヶ谷の手前までは、専用軌道と併用軌道(路面電車)が混在していた。大正初期の初台付近の地図が載っていて、甲州街道北側の井伊邸(旧彦根藩主)が今のNTT東日本ビルになったとか、南側には山内邸(旧土佐藩主)があったとか、初耳だった。私は10年以上、隣りの幡ヶ谷に住んでいたのに。烏山の寺町が意外と新しい、というのは聞いたことがあったが、京王電鉄が「沿線繁昌策」として、東京の寺院を誘致すべく敷地を確保したところに、関東大震災後、被災した寺院が移ってきたというのも驚いた。

 渋谷~吉祥寺を結ぶ現在の京王井の頭線は、帝都電鉄によって、昭和8年(1933)から9年につくられた。当初、鉄道敷設の認可を受けたのは別の会社だったそうだ。帝都電鉄は、昭和7年(1932)東京市が周辺5郡82町村を合併したことにより、路線の大半が渋谷、目黒、世田谷、杉並という新区を走ることになったことを受けて、社名に「帝都」を取り入れた。その後、戦時中は小田急電鉄の「帝都線」となったが、戦後は京王と一緒になって「京王帝都電鉄」が生まれた。そうだったのか~。平成10年(1998)以降は、ただの「京王電鉄」になっていたのか。沿線住民だったのに気づいてなかった。「京王帝都」の語感、好きだったのに。

 いまの西武鉄道の路線で、最も早く開通したのは、明治27年(1894)の国分寺~東村山区間で、まもなく川越まで延伸した。どうしてそんな中途半端なところに?と目を疑ったが、川越は武蔵国西部の物資の集散地であり、明治に入ってもなお有力都市だったのである。しかし、川越と東京市を結ぶという宿望はなかなか果たせない。ライバル武蔵野鉄道の池袋~飯能間(今の西武池袋線)に遅れて、昭和2年(1927)に東村山~高田馬場(仮)駅が開業する。現在の西武高田馬場駅が、JR山手線の高田馬場駅にぴったり寄り添っていないのは、さらに都心に連絡させる目論見があったためというのが面白い。

 東武鉄道では、最近「とうきょうスカイツリー駅」に名称変更した「業平橋駅」が、かつては「浅草駅」を名乗っており、さらに以前は「吾妻橋駅」を名乗っていたというのにびっくりした。古い小説などを読むときは駅名に注意しないといけないな。東武鉄道は明治32年(1899)北千住~久喜間が最初の開業である。私は、以前、東武東上線の沿線に住んでいたが、茨城県つくば市に住むようになってから、北千住の利用が多い。そんなに歴史のある駅だとは初めて知った。東武鉄道は足利を目指して北上したが、利根川架橋が最難関だった。渡良瀬川はついに渡っていない。川を渡るとか山を越えるとか、今では何でもないことのように思う鉄道の延伸が、当時の技術(特に私鉄の資金力)では大変な難事業だったことはよく分かった。

 最後に造本についてひとこと。カラフルな観光地図の写真を載せた太めのオビがついているが、よく見たら「京王が走る!」「西武が走る!」「東武が走る!」と、それぞれキャッチコピーも異なる3枚が重なっている。気がつくと嬉しいけど、非常に分かりにくいプチ贅沢。

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