見もの・読みもの日記

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10人の学者たち/座右の名文(高島俊男)

2008-11-24 22:33:41 | 読んだもの(書籍)
○高島俊男『座右の名文:ぼくの好きな十人の文章家』(文春新書) 文藝春秋 2007.5

 2003年に『本の雑誌』が企画した「私のオールタイムベストテン」を敷衍して、「私の好きな著作家ベストテン」について各々1章を設けて語ったもの。取り上げられているのは、新井白石、本居宣長、森鴎外、内藤湖南、夏目漱石、幸田露伴、津田左右吉、柳田國男、寺田寅彦、斎藤茂吉(生年順)である。

 語り方はさまざまで、つまみぐい的にさまざまな著作を紹介しているものもあれば、1作品論に終始したものもある。いずれも有名人だが、初めて聞く話も多くて面白かった。新井白石は、吉宗に遠ざけられた晩年、自分が如何に優秀だったかを切々と友に訴える手紙を残しているらしい。目の前にいたら、ただの嫌なやつだが、数百年の歴史のフィルターを通して見ると、可笑しみも感じられる。

 津田左右吉もヘンな学者である。戦前、記紀に書かれていることは歴史的事実ではないと述べたことで、右翼から攻撃を受け、裁判にかけられる。戦後は逆に左翼にもちあげられるが、自分は心から皇室をうやまっていた、と言い続け、次第に反動学者と呼ばれることになる。「処世のへたな人だった」ということになるのだろう。こういう学者が、私も著者と同じで、嫌いではない。白鳥庫吉のゴーストライターをやっていて「著書も論文もたいがい津田左右吉に書かせたらしい」というのは初耳。これが本当なら、全10巻の『白鳥庫吉全集』って…?

 津田左右吉は独学の人だという。というか、上記の顔ぶれは、だいたい独力で万巻の書物を読んで、学問の核を形成した人々である(そうでなければ、名文なんて書けるわけがない)。そういう、今では少なくなった大学者の代表が、内藤湖南と幸田露伴。私はどちらも好きで憧れているが、「博学多識」の際立つ露伴と、独自に体型づけた「学識」の湖南という対比には、なるほど、と思った。湖南の「清朝衰亡論」(講演)、読んでみたい。1911年、辛亥革命が起きて、まさに滅びつつあった清朝を同時代史として論じたものだという。

 森鴎外については、子どもたちの書いた回想録のエピソードを用いて、理想的な父親であった鴎外の姿が活写されている。生涯、周囲の期待どおりに生きた鴎外が「一生懸命無理になまけて」みた結果が、文学なのではないか、という著者の言には、少しほろ苦いものがある。

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