見もの・読みもの日記

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2012秋@関西見仏の旅:鶴林寺

2012-11-25 23:58:27 | 行ったもの(美術館・見仏)
刀田山鶴林寺(加古川市加古川町) 国宝太子堂再建900年記念『鶴林寺新宝物館開館記念特別展』(2012年10月6日~11月25日)

 私は関東の人間だが、鶴林寺の名前を知ったのはずいぶん前だ。新潮社「とんぼの本」シリーズに『国宝』(1993年刊、改訂増補2005年)という1冊がある。同書の原型は、雑誌「芸術新潮」1990年1月号で、 栗田勇氏が「国宝わが心の旅-加古川あたり-」という文章を寄稿している。たぶん90年代半ばにこの文章を読んで、加古川、行きたい、と思ったのに、あれからもう20年近くがむなしく過ぎてしまった。

 この秋、加古川の鶴林寺では、新宝物館の開館にあわせて、60年に一度しかご開帳されない本堂秘仏を特別開帳するという。直前まで、抱えている仕事が気になるとか、いろいろ迷ったけど、ご縁を信じて、出かけることにした。

 三連休の初日。朝、東京を出て、昼頃、加古川の鶴林寺に着いた。住宅の続く市街地の中だが、周囲の緑地は公園として整備されている。小雨に濡れた紅葉が鮮やか。広い境内には、桧皮葺や瓦葺の堂宇が立ち並ぶ。

 

 まず本堂へ。内陣に入り、秘仏の本尊薬師如来、日光菩薩、月光菩薩、持国天、多聞天を拝観。金箔のまぶしいご本尊は、額が狭く、頬が丸々とふくらんで健康そうな面差し(チラシに小さな写真あり)。日光・月光も、顔が大きくずんぐりした体形。ここでご朱印をいただき、特設の渡り廊下を渡って、隣りの太子堂へ。二方向の蔀戸(?)を開けて、内陣がよく見えるようにしてあった。釈迦三尊像は模造で、本物は宝物館に安置されている。壁や柱に壁画が見つかっているらしいので、目を凝らしてみたが「肉眼では見えませんよー」と案内のおじさん。宝物館に行くと、壁画を復元した太子堂須弥壇に、本物の釈迦三尊像が展示されている。

 新築の美術館は、境内の伽藍とマッチしていて感じがよかった。いろいろ面白かったが、いちばん好きなのは「あいたた観音」と呼ばれる銅造聖観音立像(奈良時代)。私は、一乗寺(加西市)の金銅仏も好きなのだが、この一帯、古い半島文化とのつながりが深いんじゃないかと思う。復元された須弥壇板絵にも、人物の服装など、半島文化との近さが感じられた。同寺は、聖徳太子が高麗僧・恵便(えべん)のために建立したという伝承にも納得できるものがある。

 しかし、そもそもこの美術館が作られたのは、2002年に同寺の高麗仏画「阿弥陀三尊像」が盗難にあったことがきっかけであり、いま美術館に展示されている複製写真の箇所に詳しい事情は掲載していなかった(同寺のホームページも同じ)けれど、韓国人窃盗犯によって国外に持ち出されたらしい、と聞くと胸が痛む。参考に、比較的、中立な報道かなと思われる「東亜日報」の記事を貼っておく。→日本(に?)奪われた高麗仏画の「数奇な帰郷」韓国で窃盗男起訴(2004/10/13)

 詳細な説明があって、楽しませてもらった「絹本著色聖徳太子絵伝」8幅のうち6幅も、2002年に盗まれ、2003年に発見されて、修復されたものだという。困ったものだ。しかし、こうやって美術館ができると、保管収蔵の効能以上に、社会的に存在が認知されることによって、盗まれにくくなるんじゃないかしら。そうあってほしい。

 なお、境内の反対側の新薬師堂には、大きな薬師三尊像と十二神将像を安置。これは本堂の薬師如来が秘仏であるため、江戸時代の医師・津田三碩が建立したもの。そう思って見ると、確かに秘仏三尊によく似ている。鶴林寺美術館のページに載っている「薬師三尊像」は、新薬師堂の三尊の写真である。

(11/26追記) 高麗仏画の帰趨について、「東亜日報」は「正常な品物と思って古書画取引業者から適切な価格で購入した場合、民法上『善意の取得』に該当し、所有権が保護される」と結んでいる。その通りだ。これに関連して思い出されるのは、以前、MIHOミュージアムの菩薩立像が、中国で盗まれたものと判明した一件である。同館はこれを中国に「譲渡」することとし(「善意の取得」だから「返還」ではない)、そのかわり、中国側が同館に多くの仏像を貸し出して「山東省の仏教美術にかかわる展覧会」を共同で開催することに同意した。こういう平和的な解決ができないものかなあ…。

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