見もの・読みもの日記

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華麗で残酷な夢/中華ドラマ『長安十二時辰』

2019-08-20 23:45:26 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇『長安十二時辰』全48集(2019年、優酷、娯躍影業他)

 視聴途中でも一度記事を書いたが、6月27日の配信開始から8月12日の全編完結まで夢中で見た。予想外の展開に何度も驚かされた。以下は【ネタバレ】になるが、このドラマ、できれば一切の予備情報なく「ミステリー」として視聴するほうが味わいが深いと思う。

 大唐天保三歳の上元節(正月十五日)の朝、長安城の開門とともにドラマは始まる。長安の治安を守る靖安司では、西域のテロ集団「狼衛」の一味が城内に潜入しているとの情報を掴み、殲滅を謀るが失敗。靖安司の若き司丞・李必は、死刑囚の張小敬を出獄させ、捜査を命じる。張小敬は、かつて辺境で突厥と戦った安西鉄軍第八団の生き残りである。退役後は長安の不良帥("不良人"を統率して犯罪捜査にあたる役職)をしていたが、戦友・聞無忌の仇討ちで熊火幫のゴロツキ三十数人を殺害し、死刑囚となっていた。張小敬が、あと一歩で捉え損ねた狼衛の生き残りは「闕勒霍多(que lei huo duo)」という謎の言葉を残す。西域の言葉で火劫すなわち猛火。彼らは密かに大量の石油を運び込んでおり、無数の灯火が街を彩る上元節のこの日、長安城を焼き尽くす計画であるらしい。

 靖安司と張小敬は、数々の犠牲を払いながら、狼衛の攻撃部隊を撃破する。しかしその背後には、より深い陰謀が渦巻いていた。当時、宮廷で圧倒的な権力を掌握していたのは右相・林九郎。太子李璵と、その師匠であり靖安司の総責任者でもある何執正、相弟子の李必らは、林九郎に敵対する側にいた。何執正の養子・何孚は、かつて実父を林九郎に殺されており、復讐のため、狼衛と結託して林九郎を襲撃するが、失敗する。何孚を捕らえた林九郎は、これを利用して何執正と太子の罪をでっち上げようとし、靖安司を接収する。

 夜が訪れ、華やかな灯火が長安城を包む。張小敬は、影の首謀者と疑われる西域商人・龍波の足跡を追って、聖人(皇帝)の夜宴が開かれる興慶宮に建てられた大灯楼に至る。龍波は、工匠・毛順の力を借り、まさに聖人出御の瞬間に大灯楼が爆発し、炎上する仕掛けを作り上げていた。そして龍波の正体が、第八団の生き残り、旗手の蕭規であることを知る。蕭規は、塞外の地で死んでいった仲間の恨みを晴らすため、宮廷の腐敗の頂点に立つ聖人を屠ろうとし、「兵とは誰かを護るもの」を信条とする張小敬は、長安の民衆に災厄が及ぶことを恐れ、爆発前に大灯楼を破壊し、炎上を最小限に食い止める。

 蕭規は聖人を拉致し、張小敬と檀棋(李必に仕える女奴隷)とともに興慶宮から姿を消す。聖人の失踪を好機と考える腹黒い人々は、深夜、長安の下町に現れた張小敬らのもとに兵を差し向ける。争いに巻き込まれて命を落とす無辜の庶民たち。怒りを発する聖人。その聖人を助けようとして、矢を受ける蕭規。瀕死の蕭規は「これが長安だ。どこに護る価値があるのか」と嘲笑し、張小敬は憮然として「長安は我が家だ。捨てるわけにはいかない」と答える。この残酷な世界観がとてもよい。

 隙を見て逃げおおせた聖人を迎えたのは靖安司の主事・徐賓だった。靖安司に集まる情報をもとに「大案牘術」というデータ解析術を極めた彼は、この壮大な筋書きを仕組み、聖人に近づいて宰相になることを目論んだ。しかしその当ては外れ、徐賓は射殺されて一件落着する。結局、張小敬が追ってきた首謀者は「巨悪」でも「異邦人」でもなく、八品官の小役人だった。それどころか、張小敬のよき理解者であり友人でもあった。しかし徐賓は、卑賤な身分にもかかわらず、自分こそ大唐の政治腐敗を正し、宰相となるべき人材と自負していた。最後に秘めた野望を吐露するときの気弱な涙目が、恐ろしくも哀れでもあった。ただ、本当に徐賓の背後に誰もいなかったのかどうかは、中国のネット上で議論があるようだ。

 このドラマは『九州・海上牧雲記』と同じ曹盾監督の作品で、共通する出演者が多かった。しかし、徐賓役の趙魏、崔器役の蔡鷺、姚汝能役の蘆芳生、すべて圧倒的に本作の役柄のほうがよいと思う。主人公・張小敬役の雷佳音はそんなに若くないと思うのだが、アクションにキレがあって見事だった。李必役の易烊千璽(Jackson Yee)はTFBOYSというアイドルグループの一員で、撮影当時、まだ17歳だったというが、若き天才の役にうってつけで、所作もきれいだった。あと貧民窟の領袖・葛老役や景教僧・伊斯役で黒人や西洋人が活躍したり、阿倍仲麻呂の従者だったという刀匠(日本人?)が登場するのも、国際都市・長安らしくてよかった。

 設定の天保三歳は、史実の天宝三歳であり、人名もモデルを踏まえて少しずつ変えている。林九郎は李林甫であり、何執正は賀知章という具合。詩人の岑参をモデルにした程參は終盤で意外な活躍を見せる。ちなみに張小敬という人名は「開元天宝遺事 安禄山事蹟」(姚汝能撰)に、楊国忠を射殺する騎士として登場する。このことを知っていると、ドラマの最後、旅立つ張小敬の「長安に何かあればまた戻ってくるさ」というセリフに、さまざまな空想が広がる。檀棋のいう「長安の太陽」は、一夜の夢の終わりを告げる、きれいな終わり方だった。


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