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ヒーロー登場/京劇・孫悟空大鬧天宮(北京京劇院)

2012-06-10 02:22:03 | 行ったもの2(講演・公演)
○日経ホール 日中国交正常化40周年記念事業 京劇西遊記『孫悟空大鬧天宮(だいとうてんきゅう)』(2012年6月9日、12:00~)

 2009年と2010年に中国の京劇劇団の来日公演を見て、だんだんハマりつつあった。2011年は、おなじみ西遊記に題材を取った『孫悟空大鬧天宮』が予定されていて、楽しみにしていたのだが、東日本大震災の影響で中止になってしまった。2年越しでようやく実現した公演である。

 いや、さすがに面白かった。私は、子どもの頃に読んだ西遊記(小学館版『少年少女世界の名作文学』)でも、孫悟空が三蔵法師に出会って取経の旅に出る前の、天界の神々を敵にまわして大暴れする物語が大好きだった。誰かを憎んで大暴れするわけではない、食べたいものを食べ、遊びたいように遊びまわる結果が神々(大人たち)を右往左往させる孫悟空の姿は、子どものヒーローそのままだったのだ。

 今回の会場は大手町の日経ホール。2009年と2010年に京劇を見た池袋の東京芸術劇場(改修前)は、やや場末感があって、そこが庶民に愛された芸能・京劇に合っている気もしていたので、最新設備のゴージャスな会場に少し戸惑う。ギリギリ直前にチケットを取ったので、かなり後列の右端の席だったが、舞台はよく見えた。ただ、舞台上手の楽隊席が、幕の影になって、ほとんど見えなかったのが残念だった。

 第1場:花果山→第2場:御馬監(天界の厩)→第3場:紫宸宮。花果山で小猿たちの錬兵を楽しむ悟空のもとに、太白金星(別名・李長庚。ずいぶん人間臭い別名を持っているんだな)が使者として現れ、悟空を天界に招聘する。金銀玉石、奇貨珍宝に彩られた天界の様子を聞いても心の動かなかった悟空だが「千万の駿馬に乗り放題」と聞くと、矢も盾もたまらなくなって、飛んでいく。悟空はそんなに馬好きだったのか。まあ馬って、男子にとってはスポーツカーやバイクみたいなものだったからな。サルが馬の守護神と考えられた(厩で一緒に飼われた)ことも反映しているのだろう。

 第1場だけは、ストーリーを分かりやすくするため、具象的な山奥の背景が舞台装置に取り入れてあり、え、ずっとこれでいくのかな、と思ったが、第2場からは、京劇本来の簡素な舞台になった。第2場は、小役人「弼馬温(ひっぱおん)」となった悟空の二人の部下、小心者の寅翁・堂翁のチャリ場から始まる。無邪気に役人ごっこを楽しむ悟空。御馬監で最も気性の荒い悍馬を引き出させ、乗りこなしてみせる。もちろん京劇の「お約束」に従い、舞台上に馬は現れない。房飾りをつけた馬鞭一本、あとは機敏な身体の所作で、悍馬の姿を想像させる演技力が見どころ。すごい、すごい。この芝居の孫悟空は、単に大立ち回りのできる運動神経だけでは通用しない難役だと思った。

 そのあと、弼馬温の上司だという馬王(これも小役人の内)が現れ、横柄な態度で、悟空を激怒させる。中国の民衆が(役人になりたがると同時に)いかに役人嫌いだったか、よく分かる芝居である。

 ここで休憩。後半は、第4場:蟠桃会→第5場:偸桃盗丹→第6場:站山(出陣)。冒頭の蟠桃会(桃苑)では、桃林を描いた背景幕がめぐらせてある。おじいちゃんの土地神も中国らしい役どころだな。孫悟空役は、李丹(Li Dan)さんから磊(Zhan Lei)さんに替わる。扮装や隈取で「役」を指定する要素が大きいから、途中で中の人が替わることに、それほど違和感はない。偸桃盗丹は、やんちゃで愛らしい、そしてサルらしい豊かな表情と所作が見もの。オペラグラスを持ってきてよかった。

 最後は、天界の武神たちが勢ぞろいして(女神も含む)悟空討伐に出立する。脚本は「必ずや打ち負かせ」「得たり」の応酬で終わっていて、そのあとは台詞なし、京劇らしい身体パフォーマンスのみ。音楽にあわせて、悟空と花果山の小猿たち(よく見ると一人ひとり隈取が違う)と、武神の連合軍が、激しい立ち回りを繰り広げる。団体戦あり、個人戦あり。強くて美しい女神にデレる悟空とか、お笑い担当の羅睺(らごう)とか、図体ばかりで頭の弱い巨霊神とか、変化があって面白かった。

 パンフレットの解説によれば、古い京劇・西遊記(安天会)では、神犬に咬まれて悟空が捕まる結末だったものを、中華人民共和国成立後、反封建を強調する意図もあって、悟空の大勝利に書き換えられ、定着したそうだ。政治的改編も、たまにはいいことをするものだと思った。

 公演パンフレットには、二階堂善弘先生が「『大鬧天宮』に登場する神々」を寄稿。あと無署名記事「京劇と西遊記」が、「西遊記」を題材とする戯曲の変遷と活躍した俳優について、手際のいい解説になっていて、役立つ。むかしの名優たちの白黒写真も興味深い。

※今公演のチラシ:京劇の古くさいイメージを壊していて、けっこう好きだ。

「オレ様、神様、悟空様!」

有限会社 楽戯舎

2009年京劇公演『安天会~孫悟空 天界大暴れ~』
これは見られなかった公演。隈取は『大鬧天宮』とだいたい同じ。

少年少女世界の名作文学
さまざまな文学作品について、今なお私にとっての「決定版」的な影響をもっている。

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