見もの・読みもの日記

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2023年9月関西旅行:文人サークルへようこそ(大和文華館)

2023-09-21 22:03:27 | 行ったもの(美術館・見仏)

大和文華館 特別企画展『文人サークルへようこそ-淇園・鶴亭・蕪村たちがお出迎え-』(2023年8月18日~9月24日)

 中国の明・清時代に隆盛した文人文化の影響を受け、日本にも誕生した文人サークルを紹介し、交流が育んだ清新な絵画作品を展示する。はじめに元祖ともいうべき明清の文人画。陸治、徐枋、高其佩など。中国の文人とは、身分的には高級官僚であり、治国・修身のための幅広い知識を持ち、詩書画に優れることが理想とされた。彼らの作品は、第一に刊行された画譜によって、第二に黄檗宗の僧侶たちを介して、17~18世紀の日本に流入した。

 入口の単立の展示ケースには、安徽省太平府の地理書の景観図を抜粋した3つの「太平山水図」が並んでいた。清刊本(紙本墨刷)『太平山水図集』の細密な描写は、中国の版画もなかなかやると思わせる。これを模写して淡彩を加えた(絹本着彩)『太平山水図集模本』は、中国製か日本製か判別できないが、中国絵画の知識を持つ者の制作と考えられている。さらに(紙本墨画)『太平山水図集模本』は、円山応挙旧蔵の原本(清刊本)を木村兼葭堂のもとで谷文晁が模写したもので、椿椿山の蔵書印があるという。みんな、つながっているんだなあ。

 日本では、さまざまな身分の人々が文人文化に関心を持ち、中国の学問・教養を深く学び、詩書画の創作を楽しんだ。武士や町人、農民といった身分を越えた文雅な交流は日本の文人文化の特徴であるという。この指摘はちょっと誇らしい。本展では、具体的に「淇園・鶴亭サークル」「蕪村・呉春サークル」「半江・竹田サークル」を取り上げ、「最後の文人・鉄斎」にも触れる。

 私がいちばん見たかったのは鶴亭である。ちょっと若冲を思わせる、濃彩の花鳥画を多数残している画家だ。今回、個人蔵の特別出陳(初公開)が複数あると聞いて、いても立ってもいられなくて駆けつけた。だが鶴亭の『墨竹・墨蘭図』(墨竹5枚、墨蘭5枚)のセットは、なんというか、至極あっさりした墨画である。墨蘭図は、ひょろひょろした長い葉が不安定に揺れており、墨竹図は、枝についているのかいないのか、短い竹の葉が、線香花火のように中空に浮いている。淇園が賛を記した『墨竹図』も同様。『芋茎図』『雁来紅に小禽図』は、少ない色数の淡彩を控えめに施したもの。え~私の知っている鶴亭じゃない、と思ってしまった。もっとも私は、2016年、神戸市博の『我が名は鶴亭』展を見た感想に「墨画もおすすめ」と書いているのだが、あのときは、こんなひょろひょろした墨画ばかりではなかったと思う。

 なお、これら鶴亭の作品は、中西宗兵衛(茂賢)と大きな関わりがあるようだ。大阪府立中之島図書館が所蔵する、鶴亭から中西宗兵衛宛ての書簡も展示されていた。たぶん「中西文庫」の資料の一なのだろう。淇園・鶴亭サークルは兼葭堂を介して大雅や若冲にもつながる。

 蕪村・呉春サークルでは、もうひとり上田公長の作品も紹介。府中市美術館の江戸絵画まつりでは、けっこうおなじみの名前だ。この3人の作品は、とにかくゆるくて好き。こういう絵を描き続けてもいいことを、小学生の頃に教えてほしかった。半江・竹田サークルは、日根対山、山本梅逸など「いかにも文人画」の作品が多い。梅逸の『高士観瀑図』は、文人画の伝統的画題を写実的な遠近空間に落とし込んだところが新しくて、これもよいと思う。

 この日は、滋賀のMIHOミュージアム→奈良・学園前の大和文華館を見て、再び滋賀の大津に出て泊まった。大津に着いたのは日が落ちた後だったが、道に人影のない真っ暗な住宅街から、お囃子が聞こえてきて、心が躍った。10月の大津祭の練習が始まっていたのである。源氏山の会所からは、華やかでリズミカルなお囃子が流れ、孔明祈水山の会所からは、ゆったりとおごそかなお囃子が流れていた。大津祭は、このお囃子を聴き比べるのが楽しいのだ。今年は都合がつかないけど、またいつか来てみたい。

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