見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

闘う女性たち/中華ドラマ『摩天大楼』

2020-10-04 23:53:25 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇『摩天大楼』全16集(企鹅影視、聯播伝媒、2020)

 中国ドラマ、今年は犯罪ミステリーやサスペンス系のドラマが次々に話題をさらっている。本作も評判どおり、とても面白かった。ある晩、高層マンションで停電が発生し、20階の住人で、マンション併設カフェの若い女性店長である鍾美宝が自室で死んでいるのが発見された。鍾刑事(中年男性)と部下の楊警察官(若い女性)は、二人三脚で捜査を開始する。

 全16話は、事件の関係者への聴き取り(1人2話ずつ)で構成されている。1人目・謝保羅はマンションの保安員で、事件の第一発見者となった。鍾美宝に好意を持ち、何らかの秘密を共有していたと考えられる。2人目・16階に住む建築家の林大森は、世界的な大建築家の娘・李茉莉を妻に持つが、夫婦仲はよくない。幼なじみの鍾美宝にこのマンションで出会ってから、不倫の関係にあったことを告白する。3人目・マンションの管理人で12階の住人でもある林夢宇は、23階に住む丁小玲と愛人関係にあり、二人で他人の留守宅に忍び込み、変態プレイを愉しんでいた過去がある。最近は鍾美宝に心を奪われ、天井裏を伝って、換気口から鍾美宝の部屋に入り込んでいたことを告白する。林夢宇の妻の沈美琪は、夫が鍾美宝に惹かれていることには気づいていたが、犯人ではあり得ないと証言する。

 このへんまでは、マンションの住人たちの、嫉妬や虚栄、情痴や仮面夫婦ぶりなど、ドロドロした暗黒面が噴出し、中国も「都市化」したなあと感慨深く思った。しかしドラマの見どころは、前半に埋め込まれた「虚」と「実」が次第に明らかになっていく後半である。

 以下は【ネタバレ】あり。4人目は鍾美宝と同じ階に住む女性小説家の呉明月。彼女の作品『祥雲幻影録』の主人公・美玉公主は、弟の隽辰皇子を助けるため、残虐な魔君の后妃となり、隙を見て魔君を殺害する(この劇中劇はアニメで表現されている)。鍾美宝はこの結末をとても喜んだという。彼女にも父親の違う弟がいた。

 鍾刑事と楊警察官は、鍾美宝の家族を追って、5人目・彼女の阿姨(家政婦)だった葉美麗を訪ねる。葉美麗は幼児誘拐の罪で刑務所にいた。葉美麗は、かつて医師として働いていた頃に、美宝と弟の顔俊、母親の鍾潔と知り合った。母子三人は、凶悪で暴力的な父親・顔永原から逃げようとしていた。葉美麗はそれを手伝おうとして失敗し、顔俊だけを連れ出したのである。6人目の顔俊は葉美麗に育てられ、将来を嘱望される若手ピアニストに成長していた。しかし実父の顔永原は葉美麗を誘拐罪で訴えて遠ざけ、息子に金の無心を繰り返していた。

 7人目として顔永原が現れ、いかに自分が誤解を受けているかを縷々説明する。確かに法律を「正確」に適用すれば顔永原を罪に問うことはできない。それでは「正義」はどこにあるのか?と悩む楊警察官。感情に動かされるな、と諫める鍾刑事。楊警察官は、関係者の証言の中に小さな疑問を発見し、そこを糸口として、ついに事件の真相の「目撃者」がいたことを突き止める。

 8人目、最後の証言者となるのは鍾美宝自身。継父を避け、母親の親戚のもとに転がり込んだ美宝は寄宿制の女子校に入れられ、そこで初めて心を許せる女友だち二人と出会う。彼女たちは、卒業後も互いに助け合い続けた。停電の夜の真相とは、弟を守るため、悪魔のような父親・顔永原を監禁し、殺そうとした美宝が、逆に顔永原に殺されたのだった。美宝の「潔白」を守るため、二人の女友だち、李茉莉と丁小玲、その夫と情人である林大森と林夢宇、美宝に憧れていた謝保羅も、全て嘘の証言をしていたのである。

 最後は鍾美宝が店長をしていたカフェ(彼女の小さな写真が飾られている)の店番に立つ謝保羅、それを手伝う呉明月、そのほかマンションの住人たちの明るい表情で終わる。大都会の高層マンションを舞台にしながら、実は濃密な「友情」と熱い「互助」の精神がつくった事件というのが面白く、特に女性三人の絆の強さ、たとえ法律を犯しても仲間を守る鉄壁の「同志愛」が印象的だった。なお、原作小説は台湾の女性作家の作品である。

 くせ者の多いドラマの中で、楊子姗の演じた楊警察官のまっすぐな気性は一種の癒しだった。アンジェラ・ベイビーの鍾美宝は、はかなげで謎めいた雰囲気を漂わせていたが、子役の王聖迪(幼年時代)と張煜雯(少女時代)が持っていた、逆境に負けない強さが欠けていた点が残念。弟の顔俊を演じた曹恩斉は、実際にピアニストでもあるとのことで驚いた。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする