見もの・読みもの日記

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ローカル妖怪大集合!/大妖怪展(江戸東京博物館)

2016-08-05 22:45:54 | 行ったもの(美術館・見仏)
江戸東京博物館 特別展『大妖怪展 土偶から妖怪ウォッチまで』(2016年7月5日~8月28日)

 「妖怪」「幽霊」が大好きなので、始まってすぐの週末に行ってきた。噂どおり混雑していたが、熱心な観客に囲まれて、むしろテンションが上がってしまった。「Oh! Yoshitoshi(月岡芳年のこと)」と嬉しそうに連れに説明をしているガイジンさんもいた。展示は「江戸の妖怪」→「中世の妖怪」→「妖怪の源流(平安・鎌倉の地獄図)」→さらに古代の「土偶」にさかのぼる構成である。

 いちばんバラエティに富み、充実しているのは「江戸の妖怪」。冒頭から北斎や若冲(付喪神図)など有名絵師の作品が並ぶ。平台ケースに入った絵巻や冊子本は見にくいのだが、人混みを掻き分けて何とか近づく。『稲生物怪録絵巻』を確認。このへんまでは、まだ知っている作品が多かった。

 「妖怪大図鑑」のセクションへ。『針聞書(はりききがき)』は、以前から九博が、グッズなどを作って「推し」ている資料だが、本物を見るのは初めてかもしれない。さまざまな病気の原因が、奇妙な虫の姿で描かれている。『姫国山海録』(東北大学附属図書館)は、とぼけた妖怪(幻獣?虫?)のスケッチに、出現地や特徴の説明が漢文が添えられている。「筑前国」や「松前の海岸」など全国規模で採集されているが、「鎌倉、建長寺」とか「松平徳三郎の宅地」とか、妙に地域限定的なヤツもいる。特徴は「舐められると腹痛になる」「豆腐が好き」「人に会うと風のような猛スピードで走る」など、人をおちょくったような不条理さ。みんなハートをわしづかみにされていた。

 『百怪図巻』(福岡市美術館)は赤い着物の猫またのお嬢ちゃんがラブリー。『怪奇談絵詞』(福岡市美術館)は幕末~明治の作品で、インパクトの強い表現だけを見ていたが、図録で全体を見ると、ヲロシアの人魂など、海外の妖怪も登場する。妙に端正な『百妖図』(大屋書房)、画面いっぱいにギラギラした極彩色の妖怪が踊る『大石兵六物語絵巻』(国立歴史民俗博物館)もすごい。私の妖怪のスタンダードは、鳥山石燕→水木しげるだったのだが、この国には、もっと豊かに、さまざまなローカル妖怪がいることを初めて認識した。

 次のセクションは薄暗い中に浮かび上がる「幽霊画の世界」。おお~大妖怪展で幽霊画が見られるとは思わなかった。以前、東京芸大で公開された全生庵コレクションに加え、福島県南相馬市・金性寺のコレクションが多数出ていた。WEBページで2010年8月幽霊掛軸ご開帳の様子を見ることができる。

金室山金性寺(仮寺務所:福島県南相馬市原町区大甕)
金室山金性寺(福島県南相馬市小高区仲町、更新は2010年まで)

 「錦絵の妖怪」は、北斎の「百物語」、国芳の「讃岐院」「相馬の古内裏」など定番の名品多数。明治の芳年、暁斎も。「版本の妖怪」ではスタンダードの鳥山石燕もちゃんと紹介。十返舎一九、山東京伝などの戯画化された妖怪が面白い。

 そして「中世」。『百鬼夜行絵巻』は、真珠庵本(16世紀、室町時代)が後期(8/2-)登場のため、大屋書房所蔵の模本(17世紀、江戸時代)展示だった。ものの形を丁寧に真似ているが、色が淡彩で、原本より上品な趣きがある。これはこれで面白かった。別の『付喪神絵巻』(岐阜・崇福寺)の古道具はかわいかったなあ。前期の見もののひとつ『土蜘蛛草紙絵巻』(東博)は気持ち悪い。前から思っていたけど、妖怪・土蜘蛛はなぜ化け猫のような顔をしているんだろう。

 竜宮の玉取り説話を描いた『大職冠図屏風』(個人蔵)は珍しいもので、初見。江戸の作品だが、物語の源流が中世にあるので、ここで扱われている。酒吞童子関係も同じ。さらに、平安~鎌倉時代といわれる『辟邪絵』から「神虫」登場。『沙門地獄草紙断簡』は奈良博と五島とMIHO MUSEUMから入れ替わりなのか。並べて見たかったなあ。これを江戸時代に模写したと思われる『地獄草紙』(国立歴史民俗博物館)は、フラットな墨画に血と炎の赤だけを足したところがよい。最後に土偶が4件と「妖怪ウォッチ」の関連資料。意図は分からなくないけど、ちょっと付けたりな感じ。「妖怪ウォッチ」は、各キャラ設定で没になった案が公開されていて、子どもより若者のほうが関心を示していた。

 グッズ売り場はめちゃくちゃ楽しい。いやー『姫国山海録』の関連商品をあれだけ作ってくれるなんて、分かってるね!! 近年、首都圏で行われた「妖怪」展はかかさず見ているが、今回の企画と資料の選択は素晴らしいと思う。
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