見もの・読みもの日記

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全部載せの美学/変わり兜(橋本麻里)

2013-12-17 23:47:45 | 読んだもの(書籍)
○橋本麻里『変わり兜:戦後のCOOL DESIGN』(とんぼの本) 新潮社 2013.9

 「変わり兜」を中心に、鎧、陣羽織など戦国武士のファッション約65点(数えてみた)を紹介。写真中心で、解説や読み物ページは最低限に抑えている。写真の背景も白かグレーの単色とし、徹底して「モノ」に視線を集中した構成がすがすがしい。

 私が「変わり兜」の存在を知ったのは、たぶん橋本治氏の『ひらがな日本美術史』が最初ではないかと思う。いま検索したら、安土桃山時代を扱う第3巻に「変わり兜」の章があるらしい。1999年刊行だから、私はもう30代も終わりの頃だ。それまで、こんな斬新で珍妙な造形が日本の美術史(ファッション史)に存在するなんて、考えたこともなく40年近くを生きて来たので、はっきり言って、度肝を抜かれた。日本美術は「わび」「さび」「いき」だけではないぞ、と思い始めたのは、この頃だ。本書の著者の言葉を借りれば、「日本の美の『B面』」の発見ということになるだろう。

 以来、気をつけていると、東博の常設展とか名古屋の徳川美術館とか、細川家ゆかりの永青文庫などで、ときどき「変わり兜」に出会うようになった。本書にも、それらは収録されている。でも、見たことのない兜の写真がずいぶんあった。やっぱり大名家→地方の博物館に所蔵されているものが多いんだな。林原美術館(岡山)とか、秋田市立佐竹史料館とか、彦根城博物館とか。神社や寺の所有となっているものも多い。

 「戦後時代」や「戦国武士」については、2~4ページほどの4つの読み物が用意されている。洛中洛外図や合戦図屏風などのビジュアル作品をもとに語っているので、歴史が苦手でも大丈夫。途中に『後三年合戦絵詞』の、馬に乗った大鎧姿の武士の後ろ姿をアップにした挿絵があり、しばし見入ってしまった。私は、ぶっ飛んだ変わり兜も好きだが、大鎧の優美でスタイリッシュな造形も好きなのである。

 本題に戻ろう。私好みの変わり兜を挙げるなら、カッコイイと思うのは、戦国流行の「双角」デザイン。黒田長政所用『黒漆塗桃形水牛脇立兜』。大河ドラマ『風林火山』で山本勘助が被っていたのも双角兜だった。しかし伝・天海所用『麒麟前立付兜』になると、違う世界に行っちゃっている気がする…。黄金のムカデをつけた『鉄一枚張南蛮鎖兜』や蝶をつけた『鉄六枚張桃形前付臥蝶兜』も好き。どちらも民博所蔵。

 色はやっぱり黒が決まる。モノトーンという「引き算の美学」と造形の冒険が激しくぶつかりあっているところがよい。池田光政の『黒漆塗雁金形兜』『黒漆塗鯖尾形兜』は、どちらも「マジンガー系」。この用語の自由さも、本書の楽しみ。「丸ごとウサギ載せ」とか「黄金のサザエでございまーす」というキャッチコピー、実物を見てみたいでしょ?

 じわじわ笑えたのは、黒田如水(官兵衛)所用の『銀白檀塗合子形兜』という、要するに「お椀を伏せて、そのまま頭にかぶっているように」見える兜。来年の大河ドラマ『軍師官兵衛』のタイトルバックにも使われているが、主演の岡田准一に似合うのだろうか。

 陣羽織は3点だけだったが、これはこれで面白いはず。もっと見たい。
コメント
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