見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

週末・東京の美術館めぐり/日本の名蹟(五島美術館)

2013-08-01 22:40:07 | 行ったもの(美術館・見仏)
ここから、7月27-28日の東京レポートである。26日(金)21:25発の便で新千歳空港(札幌)を発つ。早い時間の便は、悪天候の影響を受けて、遅延や欠航が相次いでいたようだが、私が予約した便は、ラッキーにも順調な運航で羽田着。翌日は、気合いを入れて、東京美術館めぐりに出発。

五島美術館 春敬記念書道文庫創立30周年記念特別展『日本の名蹟-和様の書の変遷』(2013年6月22日~7月28日)

 札幌に引っ越して「東京の美術館」を思い出すとき、なぜかいつも最初に私の脳裡に浮かぶのが、この五島美術館である。本展は、書家・古筆研究者の飯島春敬氏(1906-1996)のコレクション「春敬記念書道文庫」から日本の書蹟の名品約100点を選んで展観する。春敬記念書道文庫は1983年、社団法人書芸文化院内に設けられた。そうか、今回の展示品は五島美術館の所蔵品ではないのか。というのは、実は、さっき気付いたことで、会場では、おお~五島美術館、こんな作品も持っていたのか!すごい!と、感心しまくりながら見ていた。

 冒頭には、宇治橋断碑や仏足石歌碑の拓本が数点。これらの金石文資料を「書体」の観点から眺めるのは、初めての体験である。軸装された正倉院文書は、表裏両面が見えるようになっており、日常的なメモと清書した公文書の書体の差を比べることができる。

 美しい!と声をあげそうになったのは、空海筆『金剛般若経開題断簡』。大らかで品のある四行の漢文だが、よく見ると真ん中に切り継ぎがある。二行ずつ別伝来した(前半は手鑑『翰墨城』に貼ってあった)ものを益田鈍翁が合わせたそうだ。ええ~大胆。伝・藤原行成筆の仮名消息は、中央が丸く擦り切れて裏が浮き出ている具合が、モダンアートみたいだった。釈文は「こひすればわがみぞかげとなりにける さりとて人にそはぬものゆゑ」で、私の好きな古今集の歌だ。ただし「連れ」と見られる断簡には後撰集の歌もあって、今では知られない歌集の可能性もあるという。面白いな。同じく伝・行成筆の『関戸本古今和歌集』も、たっぷりした墨色に品格を感じる。

 展示品は、基本的に展示ケースの壁に掛けてあったが、前方に台をつくって、見やすいように配慮されていたのが『高野切』。第一種、二種、三種を、比較しやすいように並べるというサービスぶり。おおお!大興奮してしまった。この断簡で見ると、第一種の美しさが抜きん出ていることに納得する。特に「み」が好きだ。このあと、少なくとも会場内では、「あ、これは高野切第二種系統の仮名」とか「第三種に似ている」というのが分かって、嬉しかった。『伊予切』(これも伝・行成筆、和漢朗詠集)が掛け並べてあったのも、くらくらするほど美しかった。これも書風に第一種、二種、三種がある。

 『元暦校本万葉集切(有栖川切)』は「それまでの仮名のイメージを変える新書風」なのか。確かに11世紀から12世紀に入るあたりで、書風に変化がある。書風だけでなくて、社会や文化が大きく動いた時代でもある。『銀切箔唐紙切』の個性的な書風も好き。伝承筆者は源俊頼だが、定実の筆と推定されている。『石山切・貫之集下』にも見入った。こちらは、定実の長男・定信。多数の作品を残しているが、何というか、琴線に触れる繊細さがある。

 展示室2に移り、藤原教長の筆と推定される『今城切』あり。息の長い「連綿」ではなく、数字ずつ切れる感じが、のちの嵯峨本の活字みたいだとちょっと思った。鎌倉以降の古筆には、今様を記した『田歌切』(朱点がついている)や、ただの手紙なのに余白のバランスが美術品みたいに絶妙な、本阿弥光悦の書状とか、面白いものがあった。最後の『西行物語絵巻断簡』には、宗達絵のおまけつき。

 書を眺め、書かれた和歌を味わい、さらに料紙や表具を愛でる。解説に学ぶことも多くて、何重にも楽しめる贅沢な展覧会だった。名残りを惜しみながら、次へ移動(以下、続く)。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする