○池上永一『テンペスト』1~4(角川文庫) 角川書店 2010.8-11
時は19世紀、琉球は第二尚氏王朝第18代尚育王の御世。首里の孫家にひとりの女子が生まれおちる。母親は難産に耐え切れず世を去り、男子を待ち望んでいた父親は、名前をつけることも忘れ、娘の養育を放置してしまった。しかし、少女は自ら「真鶴」と称し、兄よりも聡明に育つ。やがて父が用意した「孫寧温」という男性名を選び取り、清国生まれの宦官と偽って、王宮の若きエリート官僚となる。
孫寧温のよきライバル、同僚の喜舎場朝薫。真鶴の女心を騒がせる薩摩士族の浅倉雅博。王宮の「外」=男たちの政治と外交の世界は、次第に押し寄せる近代化の波に揺れ、王宮の「内」=女たちの世界では、他愛ない、しかし壮絶な意地悪合戦が繰り広げられる。
全4冊。好みの問題だと思うが、私は2冊目までは、あまり面白いと思わなかった。王妃と聞得大君(きこえのおおきみ、国王のオナリ神)の暗闘、清国から来た淫蕩な宦官・徐丁垓と寧温の死闘など、ファンタジー要素が濃厚で、辟易した。女の真鶴が男(宦官)孫寧温になり切って、疑いの目を挟ませないという設定も、受け入れにくい。
3冊目、徐丁垓殺害の嫌疑で八重山に流罪となった真鶴は、しばし女に立ち戻る。そして、ひょんなことから、第19代尚泰王の側室(あごむしられ)として王宮に復帰し、昼は官僚・孫寧温、夜は側室・真鶴として二重生活を送ることになる。後半の二重生活の描かれ方のほうが、コメディタッチで面白かった。真鶴の親友となるお嬢様・真美那の造型も、ほっと和んで愛らしい。
そして、後半は、ペリー艦隊の寄港、明治維新、維新政府による台湾出兵、琉球処分など、歴史イベントが随所に織り込まれて、登場人物たちの歴史的な立ち位置がようやく明確になる。やっぱり私は、雰囲気だけを歴史上のある時期に借りた「時代小説」よりも、重要な歴史イベントに絡む「歴史小説」のほうが好きなのだ。また、前半で退場したと思った人々が、善玉悪玉問わず、忘れた頃にしぶとく戻ってくるのもよかった。
男の人生を生きようとした女性の物語といえば、私の年代には「ベルサイユのばら」である。オスカルは、ひととき女性の幸せを夢見るが、最後は男として、武人として、革命の中に死を選ぶ。真鶴は、なんと母となって、息子を育て上げ、「国は滅びても民は残る」ことを学び取る。かつての同僚・朝薫が、国家の解体に殉じたのとは対照的だ。最後はかなりアクロバティックなハッピーエンドだが、厭味はない。
なお、そもそもこの小説を読もうと思ったのは、今年7月からNHK BSプレミアム(見られないorz)で放映が始まると聞いたためである。脚本は『風林火山』『TAROの塔』の大森寿美男氏ということで、大いに期待している。期待しすぎて怖いくらいだが、まあ、そこそこいい作品になってほしい。
※NHK BS時代劇「テンペスト」公式サイト
まだ情報は少ない。
※角川書店:トロイメライ&テンペスト(池上永一)

孫寧温のよきライバル、同僚の喜舎場朝薫。真鶴の女心を騒がせる薩摩士族の浅倉雅博。王宮の「外」=男たちの政治と外交の世界は、次第に押し寄せる近代化の波に揺れ、王宮の「内」=女たちの世界では、他愛ない、しかし壮絶な意地悪合戦が繰り広げられる。
全4冊。好みの問題だと思うが、私は2冊目までは、あまり面白いと思わなかった。王妃と聞得大君(きこえのおおきみ、国王のオナリ神)の暗闘、清国から来た淫蕩な宦官・徐丁垓と寧温の死闘など、ファンタジー要素が濃厚で、辟易した。女の真鶴が男(宦官)孫寧温になり切って、疑いの目を挟ませないという設定も、受け入れにくい。
3冊目、徐丁垓殺害の嫌疑で八重山に流罪となった真鶴は、しばし女に立ち戻る。そして、ひょんなことから、第19代尚泰王の側室(あごむしられ)として王宮に復帰し、昼は官僚・孫寧温、夜は側室・真鶴として二重生活を送ることになる。後半の二重生活の描かれ方のほうが、コメディタッチで面白かった。真鶴の親友となるお嬢様・真美那の造型も、ほっと和んで愛らしい。
そして、後半は、ペリー艦隊の寄港、明治維新、維新政府による台湾出兵、琉球処分など、歴史イベントが随所に織り込まれて、登場人物たちの歴史的な立ち位置がようやく明確になる。やっぱり私は、雰囲気だけを歴史上のある時期に借りた「時代小説」よりも、重要な歴史イベントに絡む「歴史小説」のほうが好きなのだ。また、前半で退場したと思った人々が、善玉悪玉問わず、忘れた頃にしぶとく戻ってくるのもよかった。
男の人生を生きようとした女性の物語といえば、私の年代には「ベルサイユのばら」である。オスカルは、ひととき女性の幸せを夢見るが、最後は男として、武人として、革命の中に死を選ぶ。真鶴は、なんと母となって、息子を育て上げ、「国は滅びても民は残る」ことを学び取る。かつての同僚・朝薫が、国家の解体に殉じたのとは対照的だ。最後はかなりアクロバティックなハッピーエンドだが、厭味はない。
なお、そもそもこの小説を読もうと思ったのは、今年7月からNHK BSプレミアム(見られないorz)で放映が始まると聞いたためである。脚本は『風林火山』『TAROの塔』の大森寿美男氏ということで、大いに期待している。期待しすぎて怖いくらいだが、まあ、そこそこいい作品になってほしい。
※NHK BS時代劇「テンペスト」公式サイト
まだ情報は少ない。
※角川書店:トロイメライ&テンペスト(池上永一)