見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

学者も庶民も/おらんだの楽しみ方(たばこと塩の博物館)

2009-01-22 23:17:57 | 行ったもの(美術館・見仏)
○たばこと塩の博物館 開館30周年記念特別展『おらんだの楽しみ方-江戸の舶来文物と蔫録(えんろく)』(2008年12月13日~2009年1月25日)

http://www.jti.co.jp/Culture/museum/WelcomeJ.html

 暮れから楽しみにしていた展覧会。江戸時代、オランダ貿易を通じて日本にもたらされたヨーロッパの文物、風習を紹介する。たとえば金唐革(きんからかわ)。なめし革に金泥や彩色で様々の模様を描いたものをいう(→古代の作品)。日本では、これを札入や煙草入れに用いた(→日本の袋物)。特に天使の姿が描かれたものは「人形手」と呼ばれて珍重された。『装剣奇賞』(天明元年=1781)という、根付や印籠について解説した本に載せられた、ある天使の姿は、何種類かの浮世絵に転用されている。東京日々新聞の天使たちみたいだ。

 金糸で文様を織り出した高級毛織物は、金華山織(きんかざんおり)と呼ばれて珍重され、これも煙草入れに使われた。おしゃれだな~。今では特に珍しくもないガラスの瓶や器も当時は貴重だった。付属の木箱に黒々と記された「蘭人持渡キリコ徳利」「長崎ニテ求之」などの墨書が、持ち主の興奮を今に伝えてくれる。

 面白かったのは、異国人の登場する江戸時代の絵入り小説本3点。全頁が写真パネルで詳しく紹介されている。『黄金山福蔵実記(こがねのやまふくぞうじっき)』(安永7年=1778)は、オランダ人の父と遊女の母を持つ福蔵が、透視鏡を用いて医者として成功する物語。『中華手本唐人蔵(からでほんとうじんぐら)』(寛政8年=1796)は、もちろん『仮名手本忠臣蔵』のパロディ。塩治判官の家臣たちが、出て行く城を名残惜しげに望遠鏡で眺めていたり、新しい城代の山名氏がメガホンで罵っていたりするのが秀逸(→早大図書館)。これは草双紙の中でも大人向けの「黄表紙」に分類されている。『和漢蘭雑語(わからんものがたり)』(享和3年=1803)は、オランダ人・中国人・日本人が入り乱れてのシュールな恋の鞘当て騒動。どれも人種差別的な偏見がないとは言えないが、あんまり馬鹿馬鹿しくて、笑ってしまう。

 書籍で忘れてならないのは、山東京伝作『箕間尺参人酩酊(みけんじゃくさんにんなまえい』(寛政6年=1794)。絵入り貼り題簽の四囲をアルファベット文字で飾る(→早大図書館)。アルファベット(らしきもの)を装飾に用いた浮世絵や挿絵は他にもあるが、さすが才人・京伝なのは、このアルファベットをオランダ風に読むと「いおはにほへり」「いやいやそばきりそおめんこ」と、どことなく日本語ふうに読めること。また徹底的に無意味なところがいい。

 最後のセクションでは、蘭学者・大槻玄沢(1757-1827)とその著書『蔫録(えんろく)』を紹介する。和漢蘭の文献を渉猟したタバコ博物大全というべきもの。玄沢は大の煙草好きだった。あんまり熱が入り過ぎて、同書は出版不許可となり(蘭学者所蔵の喫煙具を掲載したためとも)、結局、文化6年(1809)私家版として刊行された。調べてみたら、蘭学者ばかりでなく、国学者の本居宣長(1730-1801)も、儒学者の荻生徂徠(1666-1728)も、愛煙家だったそうだ。中国には四庫全書の総纂官・紀(暁嵐)先生(1724-1805)もいるし、学者といえばヘビースモーカーのイメージは、近年まで残存していたが、だんだん過去のものになっていくんだろうなあ。
コメント
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