見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

平成17年度新収品/東京国立博物館

2006-07-02 14:07:19 | 行ったもの(美術館・見仏)
○東京国立博物館 特集陳列『平成17年度新収品』

http://www.tnm.jp/

 これは先週末に見てきたもの。最近は古筆にハマっているので、公任筆『石山切』や藤原伊房筆『十五番歌合断簡』にすぐに目がいく。『吉備由利願経』は天平の写経だそうだ。墨つきのたっぷりした文字は、見ている者を大様な気持ちにしてくれる。

 南宋~元時代の団扇画が3点。『雪中花鳥図』は墨一色に加えて白絵具(胡粉)で雪を描き加えている。『榴花小禽図』は斑入りの白椿に雀を配した明るい画面で、可憐な印象。『秋塘郭索図』は蟹に蓮という、ちょっとグロテスクな画材である。「たらしこみ」を使っているように思った。

 今回、いちばん見たかったのは、上記のサイトに写真が上がっている絵画『ダマヤンティー姫の婿選びへ行く神々』。19世紀インドの作品だそうだ。写真では大きさの想像がつかなかったが、B4くらいの小品だった。透明感のある色彩は、水彩なのかしら。雲に乗ったり、船や馬車に乗った神々が、天空の王宮から、思い思いに出立するところ。絵本のようで楽しい。

 第2室、江戸時代の服飾にも興奮した。『夜着・紺綸子地鳳凰唐草模様』は、背中を巨大な鳳凰が覆っている。すごい。中国の皇帝の龍袍も顔負け。明るいブルーの地に、燃えるようなオレンジの鶏冠が映える。神々しいまでの圧倒的な存在感は、若冲のニワトリみたいだ。

 さて、”これを見にきてよかった!”と思ったのは『長恨歌図屏風』に尽きる。中央に築山(山水)を置き、これを取り囲むように長恨歌の物語が展開する。発色のいい、厚塗りの金地がゴージャス。金の上に「長生殿」「温泉宮」などの地名・個人名が型押しされている。江戸初期、17世紀の作品で、筆者は不詳だというが、山水も建物も上手い。四色の瓦が交互に並んだ屋根、雲龍文で埋め尽くされた壁・柱など、派手でマニエリスティックで、見てきたように「中国」っぽい。

 しどけない恰好で寄り添う玄宗皇帝と楊貴妃は、あだっぽいし、馬嵬坡(ばかいは)で殺されると定まった楊貴妃の悲嘆の表情もいい。兵馬の図は、どこか『平治物語絵詞』などの絵巻物に似ている。それから、官人の冠のしっぽがむやみに跳ね上がっているのを見ると『吉備大臣入唐絵巻』を思い出す。イメージをひとつひとつ検討していくと面白いのではないかと思った。

 私は、日本の絵画に「長恨歌図」というジャンルがあることを知らなかったが、折りしも、東大出版会の雑誌『UP』6月号に板倉聖哲氏が「狩野山雪が描いた『長恨歌図』――異端から古典へ」と題したエッセイを書いている。この作品のことかと思ったら、全く別種の「長恨歌図」の話だった。そんなに数があるのか。これから、ちょっと気をつけてみよう。
コメント
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