見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

イギリスの本・アジアの本/千葉市美術館

2006-07-24 23:56:50 | 行ったもの(美術館・見仏)
○千葉市美術館 『イギリスの美しい本』展

http://www.ccma-net.jp/index.html

 この春から、足利市立美術館、郡山市立美術館を回ってきた巡回展である。何人かの感想をネット上で読みながら、いちばん近い千葉に回ってきたら行こうと決めていた。

 会場に入ると、ほとんどモノトーンの、余白の多い大きな本が広げて飾られている。第1セクション「伝統」は、揺籃期(活字印刷の初期)から18世紀までの古書を集めたもので、静謐な空気が漂う。第2セクション「繁栄」に入ると、カラー印刷が現れ、華麗な挿絵本、贅をつくした革装丁が並ぶ。第3セクション「展開」は、再びモノトーンが主となり、19世紀末から20世紀初頭のウィリアム・モリスとプライベート・プレスの活動を紹介する。

 「美しい本」というタイトルを実感するのは、やはり第2セクション、19世紀(ビクトリア朝)だ。Walter Craneの Flora's Feast(花の女神の饗宴)は、むかし、チョコレートのおまけカードになっていた絵だ(森永ハイクラウン!)。繊細なグラディエーションは手彩色にしか見えないのに「多色刷石版」とある。石版って、すごい再現力だなあ。日本の浮世絵に学んだという London Typesもいい。ディエル(綴り不明)の『聖書ギャラリー』の、馥郁と香るオリエンタリズムにも、ぞくぞくさせられる。以上は挿絵本。

 それ以上に、私が目を奪われたのは革装丁の魅力である。ジェーン・オースティン『高慢と偏見』1894年版は、深緑の革表紙を、金箔で描かれた孔雀の羽根が、余すところなく覆っている。タイトル(内容)にぴったり! そのほか、赤、青、緑、茶などの各種の革装丁を並べた展示ケースがあって、私はその前に呆然と立ち尽くした。いずれも完全な新本ではなくて、持ち主に使われた形跡がある。そこがいいのだ。赤の革装が手擦れで黒くなった趣きは、あたかも根来塗の古物みたいである。

 それにしても、イギリスの(西洋の)本は堅牢にできている。特に揺籃期本は、厚い、重い、デカい。一度書見台に据えたら、簡単に動かせそうにない。私は、東アジアの本との差異を考えずにはいられなかった。むかし、雑誌『本とコンピュータ』誌上で、『東アジア共同出版―東アジアに新しい「本の道」をつくる』というプロジェクトの発足宣言を読んだ記憶がある。そこには、「かつて東アジアの人間は、漢字で書かれたテキストを柔らかい軽い紙に木版印刷した本を、国境をこえて共有していた」という一文があった。「柔らかい軽い紙」って、当たり前じゃないか、と思ったけど、こうして見ると、西洋の人々が「Book」に込める思いと、我々東アジアの人間が「本」に託す思いは、必ずしも同じではない、ということが分かる。

 なお、本展では、世界三大美書のひとつ、ケルムスコット・プレス印行の『チョーサー著作集』(ダウズ製本所による特装本)を見ることもできる。もしや関係者の方がお読みでしたら、初日の午後、「特装版」の解説プレートが平装本(厚紙装)のほうに間違って付いていたのを指摘したのは私です。特装本は48部だけ作られ、このうち3部がベラム(羊皮紙)刷だそうである。詳しくはこちら。ちなみに会場に出品されていたのは(株)モリサワの所蔵品(紙刷り・白豚革装丁)だった。
コメント
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