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見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。
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忠臣蔵大詰め/文楽・心中天網島と仮名手本忠臣蔵

2019-11-12 22:33:52 | 行ったもの2(講演・公演)

国立文楽劇場 開場35周年記念 令和元年11月文楽公演(11月2日、11:00~、16:00~)

・第1部:『心中天網島(しんじゅうてんのあみじま)』北新地河庄の段/天満紙屋内の段/大和屋の段/道行名残の橋づくし

 「網島」は9月の東京公演にも掛かっていたのだがチケットが取れなかったもの。やっぱり大阪のほうが取りやすい。今回は初日の券を取ってしまったので、土曜の朝に東京を発ち、大阪11:00の開演に間に合わせた。ちょっと慌ただしかった。「河庄」の中が織太夫、奥は呂勢太夫休演につき津駒太夫が代演。オペラ歌手みたいに美声の織太夫さんと、ねちっこい庶民派の語りの津駒さん。私はどちらも好きなので、聴き比べが楽しかった。「大和屋」で満を侍して咲太夫さん登場。最近、めっきりお年を召された雰囲気なので、毎回どきどきするのだが、お声を聴くと安心する。芸は健在。あとは演目に没入することができる。

 この作品、私は知識として「名作」と理解しているのだが、舞台を見た回数は少ない。過去の記録を探したら、2013年に見て以来だった。2013年は咲太夫さんが「天満紙屋内の段」と「大和屋の段」を通しで語っている。遊女小春も女房のおさんも人間離れしてできた女性なのに、紙屋治兵衛のお調子者で身勝手なダメっぷりがいかにも近松作品である。プログラムに劇団主宰者の木ノ下裕一さんが解説を書いていて、おさんの献身的な愛情の理由について、治兵衛とおさんが「いとこ同士」であることに注目しているのは面白いと思った。男女の間柄になる以前に、親類のような、兄妹のような親密さがあったことが、治兵衛への思い入れを生んだと考える。確かに、いくら封建社会の夫婦でも、単なる男女の仲だったら、あそこまで甘やかさないだろうと思う。

 「道行」は名文の誉れ高いが、最近、道行というと太夫も三味線もズラリ並んで賑やかに演ずるのはどうなんだろう、たまには静かな道行があってもいいのではないかと思っている。

・第2部:通し狂言『仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)』八段目 道行旅路の嫁入/九段目 雪転しの段・山科閑居の段/十段目 天河屋の段/十一段目 花水橋引揚より光明寺焼香の段

 国立文楽劇場の開場35周年を記念して、春・夏・秋の3公演にわたった「忠臣蔵」通し上演も大詰め。私はこの演目が好きではなくて、ずっと敬遠してきたのだが、夏と秋の公演を鑑賞して、面白さの一端に触れた気がしている。加古川本蔵の妻・戸無瀬は娘・小浪を連れて東海道を旅し、山科の大星邸を訪ねる。大星力弥と許嫁の小浪の祝言をあげてほしいと頼むが、力弥の母・お石は冷淡。絶望して自害しようとする戸無瀬と小浪。再び現れたお石は、祝言を許すかわりに加古川本蔵の首を要求する。主君・塩谷判官が師直に斬りかかったとき、判官を抱き止めた本蔵を許しがたいというのだ。進退きわまる母と娘の前に、虚無僧姿の本蔵が現れる。

 要するに「世を忍んで主君の仇を討つ」というのは、物語の主題ではなく一種の「設定」で、その設定の下、繰り広げられる人々の愛情や憎しみ、尊さや愚かさが見どころとなっているのだ。「天河屋」も、たまたま敵討ち一件に巻き込まれた町人・天河屋義平とおそのの夫婦関係が主題。最後の「光明寺焼香」では、師直を見つけた矢間十太郎の一番焼香に続き、敵討ちに参加することのできなかった早野勘平の形見の財布が二番焼香に捧げられる。そうか勘平は報われるんだ、よかったねえ、と夏の公演を思い出してしみじみした。

 人形は戸無瀬を吉田和生、大星由良助を吉田玉男、加古川本蔵を桐竹勘十郎、その他、登場人物が多いので必然的にオールスターキャストだった。山科閑居は前を千歳太夫と富助、後を藤太夫と藤蔵、どちらも好きな組合せ。

 第1部の幕間に、ロビーで咲太夫さんのDVD BOOK『心中天網島』の即売会をやっていて、著者のサイン(写真撮影可)欲しさに中身も確かめずに購入してしまった。2011年12月15日「豊竹咲太夫の会」での録音だという。8年前だが、現在の咲太夫さんと違いはあるだろうか(違いが分かるだろうか)、時間を見つけて聞いてみたい。

 この日は国立文楽劇場近くのビジネスホテル泊。終演後の夕食は、近くにできた蘭州ラーメンのお店に入ってみた。劇場の周りはすごい勢いで中華街化が進んでいるが、私はそんなに悪い気はしていない。

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大阪テイストの世話物/文楽・嬢景清八嶋日記と艶容女舞衣

2019-09-18 20:48:22 | 行ったもの2(講演・公演)

国立劇場 令和元年9月文楽公演 第2部(2019年9月15日、14:00~)

・『嬢景清八嶋日記(むすめかげきよやしまにっき)・花菱屋の段/日向嶋の段』

 9月文楽公演、第1部の『心中天網島』は気づいたときには国立劇場のサイトでチケット完売になっていた。最近、いろいろ別の探し方を覚えたので、チケットぴあや転売サイトを覗いてみると、まだ入手可能なことが分かったが、同じ演目のある11月の大阪公演に遠征することにして、今回は第2部だけにした。

 『嬢景清八嶋日記』は初見。悪七兵衛と呼ばれた平家の侍大将・景清は、壇ノ浦で平家が滅亡した後、大仏開眼供養の際に源頼朝の暗殺を企てて捕えられる。源氏全盛の世を見ることを潔しとせず、両目をえぐり取り、盲目となって日向国をさすらうことになった。上演の段はここから。駿河国の手越宿に暮らす景清の娘・糸滝は、幼い時に父と別れ、母も亡くして頼る者のない身の上だったが、自らの身を売って金をつくり、父に会いに行くことを決意する。糸滝の孝心に感じ入った遊女屋の人々に見送られ、佐治太夫に連れられて日向へ赴く。

 糸滝は日向の海岸で変わり果てた父と対面するが、現在の境遇を隠して、田地持ちの大百姓に嫁入りし、不自由なく暮らしていると告げる。なぜ百姓の女房になった、と怒りをあらわにする景清。悲しみながら立ち去る糸滝。糸滝が残した書置を村人に読んでもらった景清は、娘が自分に会うために身を売ったことを知る。己れの浅はかさを知って悲憤慷慨する景清。二人の里人(実は頼朝が遣わした隠し目付)が「なぜ頼朝に仕えぬか」と迫り、景清は源氏に仕えることを承諾する。この突然の展開、ポカンとしてしまった。

 あとですじがきを読んだら、心の広い頼朝は(笑)暗殺に失敗した景清に情けをかけ、自分の家来になれと勧めたのに、景清はそれをかたくなに拒んでいたのだった。しかし平家への忠義はどうなる。オカシイだろ?と思って、千歳太夫の熱演にもかかわらず、共感できなかった。平(藤原)景清って、伊藤(藤原)忠清の七男なのだな。後半、日向嶋の段の糸滝は蓑助さん。眼福だったが、嫋々と美しすぎて、父と娘のシーンであることを忘れてしまう。

・『艶容女舞衣(はですがたおんなまいぎぬ)・酒屋の段/道行霜夜の千日』

 この演目は一度見たことがあるはずだが、ブログを検索しても記録が出てこない。かなり前の観劇かもしれない。あまり好きな演目ではなく、今回も期待していなかったのだが、すごく気持ちが入ってしまった。芸者の三勝と深い馴染みになり、子どもまでなした茜屋の半七。その両親、名ばかりの妻であるお園とその兄、口では厳しいことを言いながら、互いの身の上を心配しあう温かい家族。その家族の輪の中から、そっと身を引いて死出の旅路に赴く半七と三勝。津駒太夫と藤蔵がとにかくよい! 津駒さんの語る世話物は、これぞ大阪の芸能、という感じがする。

 三味線の藤蔵さんには、私は大阪で当たることが多い気がしていたのだが、公演記録を調べたら、そんなことはなくて、東京でも大阪でも登場していらっしゃる(当たり前か)。でも、今回の津駒さんとの組み合わせは、格別に大阪っぽい感じがしてよかった。

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奈良大和四寺トークショー(みうらじゅん、いとうせいこう)

2019-09-16 23:33:27 | 行ったもの2(講演・公演)

東京国立博物館 『仏像大使 みうらじゅんさん・いとうせいこうさん トークショー』(2019年9月14日、18:30~)

 特別企画『奈良大和四寺のみほとけ』(2019年6月18日~9月23日)の連携企画。気になってはいたが、ぐずぐずしていたら370名(全席指定)のチケットが完売になってしまった。それが、数日前に友人から「チケットを取ったのに行けなくなってしまった」という連絡があり、定価で買い取らせてもらうことにした。

 私は『見仏記』を単行本第1巻の頃から読んでいるが、ビデオやテレビ放送は見たことがない。まして生でおふたりのトークを聴くのは初めてかもしれない。でも東博の『櫟野寺』展や『インドの仏』展の音声ガイドでおふたりのかけあい式解説を聴いたり、高知の竹林寺ご開帳ライブをネット配信で見たりしていたので、初めての感じがしなかった。

 ふたりとも、白い紙製のちゃんちゃんこ(袖なし羽織)を着て登場。「受けないなあ~」と苦笑していたが、後ろを向いたら、背中に四寺の御朱印が。奈良大和四寺巡礼のための特別な巡礼衣(おいづる)で、東博の特設ミュージアムショップで販売中の品だった。登場したときから、いとうさんはテンションが高く、みうらさんは自由。話題のおもむくまま、餃子の王将とかポケトークについて熱弁をふるう。このトークショーの直前に、東博の会場を見てきたそうで、その感想も折々はさんでくれた。

 おもむろにスライドショーが始まる。安倍文殊院、長谷寺、岡寺、室生寺の写真を見ながらのトーク。お寺の全景写真を見ながら「こっちに〇〇堂があって、このへんに〇〇仏がいて」と記憶で喋れるのはさすが。私はこの四寺では、安倍文殊院だけ行ったことがない。「ものすごく行きにくいお寺だが、ぜひ行った方がいい」とおふたり(特にいとうさん)が力説するのを聞いて、この秋、本気で参拝を考えている。なお、安倍文殊院は、東博に文殊菩薩像の像内納入品(文書)しか来ていなくて「これを見て、ぜひ現地に行こう!と思うかねえ」とツッ込んでいたのには笑った。

 スライドショーは、お寺の風景、仏像のほか、『見仏記』の関連イラストも投影されて「これは第1巻だよ~」とか、けっこう古いものが多かった。当時は校正が付いていなかったので、誤字も直されず、好きなことを書いていたとか。安倍文殊院は、文殊菩薩が獅子から下りたときをみうらさんが描いていた。

 長谷寺の難陀龍王と雨宝童子は、現地では暗くて見えないことを強調。そうだなあ、私も見た記憶がない。岡寺の寝釈迦(釈迦涅槃像)は「蓮の枕が来てないけど、どうなの?」という話が面白かった。巨大な本尊・如意輪観音の像内から発見された銅造菩薩半跏像の愛らしさ。トークショーの後、確かめに行ったが、高い台座に座っているのでスタイルがよく見える。

 室生寺については、2014年に仙台で開催された東日本大震災復興祈念特別展に、寺宝のほぼ全ての仏像を出陳したお寺の心意気を強くリスペクト。二人が室生寺を訪ねたときは、ちょうど搬出の準備中で、経費節約のため(特別な美術搬送ではなく)クロネコヤマトに搬送を頼み、クロネコの段ボール箱が並んでいたとか、お寺の方が仏像の埃を払って掃除していたとか、貴重な話を聞くことができた。東博に来ている地蔵菩薩の前のめり姿勢は、気づいていなかったので、これもあとで確認した。室生寺の金堂では、地蔵菩薩も十一面観音も、だいたい拝観者の視線と同じ位置に顔があるのだが、東博では位置が高いせいか、少し小さく感じたという。私もそう思った。

 ここで若干話題がズレて、みうらさんが小学生の頃、クリスマスに買ってもらったという日本の仏像の写真集がスライドに映った。書名をメモし忘れたが、複数の写真家が撮影を分担しているという話だったから、『日本の彫刻』(美術評論社、全6巻、合本版あり)ではないかと思う。その平安時代を土門拳が担当しており、有名な仏像の写真が多数ある中で「これよ」とみうらさんが見せたのは、いわゆる翻波式衣文のアップ。「これはどの仏像か?」というクイズ大会になって、答えた人はいたが当たらなかった。その他にも、仏像の全身像ではなく、気になる部分だけを切り取った土門拳の作品をいくつかと、その姿勢に影響を受けたみうら少年の作品も見せてもらった。土門拳の時代には、今では考えられないような仏像の写真の撮り方が許されていたという話も面白かった。なお、『奈良大和四寺のみほとけ』オリジナルグッズに、室生寺の釈迦如来坐像の横顔をみうらさんがスケッチした絵を表紙にしたノートがあるが、あれは土門拳の写真をスケッチしたものである由。

 最後に「あと10日くらいしか会期がないのに」と言いながら、テープカットセレモニーもしてくれた。楽しかった。

 

 なお、同じ日に立ち寄った東洋館8室(中国の絵画)『扇面画の魅力』(2019年8月6日~9月16日)が意外に魅力的だったことを記録しておく。全て明清もので、個人蔵多し。

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西遊記と明の挿絵本/東洋学への誘い(金沢文庫)

2019-09-15 23:51:51 | 行ったもの2(講演・公演)

神奈川県立金沢文庫 特別展『東京大学東洋文化研究所×金沢文庫 東洋学への誘い』(2019年7月20日~9月16日)+連続講座「東洋学への誘い」第5回「明代における『西遊記』の出版と流伝」(9月15日)

 東京大学東洋文化研究所(東文研)が所蔵する漢籍善本、敦煌遺書、キジル壁画、東方文化学院東京研究所旧蔵資料など約100点と、金沢文庫が保管する国宝『文選集注』や漢籍の利用を伝える鎌倉時代の古文書などをあわせて公開する。 7月から行こう行こうと思っていたのだが、結局、会期最後の週末になってしまった。

 展示の大半は漢籍(仏典を含む)だった。というか、仏典多いなあという印象を持った。宋版くらいでは驚かないが、南北朝以前(5世紀)の『大般涅槃経』には驚いた。字のかたちが唐の写経とは明らかに違った。いわゆる漢籍としては、論語の版本各種、『文選』(令和の元ネタである「帰田賦」の箇所を開けてあった)、宋刊本『咸淳臨安志』など。書籍の専門家がかかわっているだけあって、刊行者、伝来、旧蔵者、版面の見どころなど、展示キャプションが素晴らしく的確だった。分冊ものは、旧蔵者印のある巻頭と、刊行者情報のある巻末を開いて展示するなど、配慮が行き届いていた。

 また漢籍の通俗文学本も多数。有名な『西遊記』や『三国志』に混じって、知らないタイトルもあって、気になった。中国関係は、ほかに貨幣、瓦当、古写真など。『清朝東陵全図』は懐かしかった。キジル、ホータン、トルファンなど西域関係の壁画片や立体の人物像もあった。あとは西アジア関係の写本が少々で、現在の東文研の研究領域からすると、ちょっと展示品が偏っている気がしたが、やっぱり歴史的には中国学の比重が高いのだろうか。

 この日は展示を見たあと、連続講座の第5回(最終回)「明代における『西遊記』の出版と流伝」(東文研・上原究一先生)を聞いた。せっかくなので、私が聴き取ったことをメモしておく。『西遊記』は作者不詳の物語で、明代に百回本という形態が成立した。『西遊記』の明刊本は8版15本が現存する。(A)世徳堂本系:(1)世徳堂本(2)熊雲浜補修本(3)楊致和本?(簡本)(4)楊閩斎梓行。(B)李卓吾本系:(5)丙本(6)丁本(7)閩斎堂本(8)甲本。なお(9)番目として李卓吾乙本を含める説もあるが、講師は乙本は清初刊と考える。

 8版15本のうち7版13本までが、中国ではなく日本に伝来している。通俗文学の中でも、明刊本の中国伝来の比率がこれだけ低い作品は異例であるそうだ。明刊本なんて軽く見ていたが、ずいぶん大事な伝本もあるのだと再認識した。あと世徳本は南京(金陵)で刊行されたが、その後(2)(3)(4)は福建省の武夷山南麓にある建陽で出版されている。建陽は、南京・杭州と並ぶ明代の三大刊行中心だったのだそうだ。版木(木材)や水が豊富だったことが幸いしているという。今は全く面影はないのかしら。行ってみたい。

 それから通俗文学本の挿絵について。明初は双面連式(見開き2ページを連結)で力強く画面の黒っぽいものが多いが、万暦後半(1590年代後半~)の版面は白っぽく、卵型の顔で体形のスリムな人物が多くなる。鳥居清信から鈴木晴信みたいだなあと一人で納得していた。さらに天啓以降(1620年代~)になると、風景描写に力が入り、人物は小さく描くようになる。また手間のかからない短面式が増える。一方、上図下文方式は、元代から建陽の出版物に多い。なお、挿絵の芸術性は明末がピークで、清刊本の挿絵はショボいのだそうだ。

 また、王少淮など、名前の判明している画工もおり、上元王氏という出版の職人集団がいたらしい。講師は、上元王氏の中で、たとえば「馬に乗って逃げる」などの図像が共有され、異なる作品にも使いまわしされていることを指摘していたが、前近代の絵画職人としては当たり前のような気がする。しかし、中国絵画を見るといえば、やはり肉筆画が中心になるので、挿絵や版画の流行や技術革新についての知識も頭に入ると、面白いだろうと思う。

※参考:wikipedia「西遊記の成立史」

※東京大学人文社会科学研究科・文学部:博士論文データベース『「百回本『西遊記』の成立と展開 ―書坊間の関係を視野に―』(上原究一)

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明代禅宗寺院を想う/声明公演・萬福寺の梵唄(国立劇場)

2019-09-07 23:27:09 | 行ったもの2(講演・公演)

国立劇場 第56回声明公演『黄檗宗大本山 萬福寺の梵唄』(2019年9月7日14:00~)

 萬福寺(万福寺)の梵唄(ぼんばい)は何度か聴いたことがあるが、大好きなのでまた行ってしまった。ちなみに、これまでの私の「萬福寺の梵唄」体験は以下のとおり。

・2012年1月 日本橋高島屋『隠元禅師と黄檗文化の魅力』(会場内に梵唄の録音が流れていた)
・2011年3月 九州国立博物館『黄檗―OBAKU』(開館直後に僧侶が展示室内で「巡照朝課」を実演)
・2005年4月 国立劇場 声明公演『萬福寺の梵唄』
・1997年3月 国立劇場 声明公演『禅の声明 黄檗山萬福寺』

 2005年4月の公演の記事を書いたときは、それより前の記録が見つけられなかったのだが、最近、国立劇場が「データベース(公演記録を調べる)」を整備してくれたおかげで、1997年のプログラムの詳細まで確認できるようになった。大変ありがたい。では、今回の公演もプログラムに従って記録しておこう。

・解説

 幕が上がる前に、レモンイエローの法衣を着た痩身のお坊さんが舞台に立ち、黄檗宗と萬福寺の開創・隠元禅師について簡単に解説してくれた。「今日は萬福寺の若い者ばかりが大勢来ています、私を除いて」と笑いをとることも忘れない。

・朝課

 毎日行われている朝のおつとめ。2005年、1997年の声明公演でも演じられている。幕が上がると、無人の舞台中央には金色の釈迦三尊図の画幅(たぶん四天王もいた)。背景には緑絹を張り、左右に大きな対聯を掛ける。天井からは多数の赤い幡が垂れていた。ネットで画像を探してみると、萬福寺の本堂(大雄宝殿)の雰囲気をかなり忠実に再現しているようだ。そうすると釈迦の脇侍は阿難・迦葉だったかもしれない。なお舞台のしつらえを把握したのは第二幕以降で、第一幕「朝課」は舞台も客席も暗く、釈迦三尊図だけに照明が当たっていた。

 はじめにコーンと乾いた板の音が響く。魚のかたちをした開梛(かいぱん、魚梆)を叩いたのだろう。1階のロビーの高い位置に大きな開梛が吊られていたことを思い出し、あれを叩いたのかな?と訝る。公演終了後、ロビーの隅に、もうひとつ小さな開梛があるのを帰り際に見た。だいぶお腹が削られていて、こちらが「実用品」らしかった。

 またコツコツと板を叩く音がして、客席の後ろから黒っぽい法衣の僧侶が小走りに進み出て、舞台に上がる。上手、下手で巡照板を叩き、「謹白大衆(きんぺーだーちょん)」と諸衆を呼び集めると、さまざまな色の法衣の僧侶たちが上手、下手に10人くらいずつ登場し、おつとめが始まる。主に使われる楽器は太鼓。今回は、毎月一日と十五日に行われる「韋駄天」の法要を特別に挿入しており、韋駄天を称えるお経は特に素早く読むのだというが、全体を通してリズミカルで、みんな声がいいのでうっとりした。

・施餓鬼(施食)

 七月の中元行事、十月の普度勝会等で行われる法要。舞台中央に赤い布で覆った階段が登場する。2005年にも見ているのだが、全く記憶がなかった。ここでも20人ほどの僧侶が舞台に登場し、うち10人が階段の左右に集まる。赤い袈裟をまとって長い払子を持った導師(金剛上師)は最上段の席に着き、金襴の宝冠(布製)をかぶる。そして両手または片手(右手)でさまざまな印を結ぶ。変化の多い音楽と梵唄が途切れることなく続く。途中で階段の側にいた僧侶のひとりが、木魚の撥を変えてほしかったのか、後ろの列の僧侶に合図を送り、ひとりが舞台袖に取りに行ったように見えた。何があっても流れを中断させない熟練の技(スッと楽器の役割を変わったりする)が垣間見えて面白かった。

 クライマックスでは導師をはじめ、僧侶たちが餓鬼に施す食べもの(饅頭?)を紙に包んで客席に放り投げた。「五姓の孤魂、薜茘多(へいれいた=餓鬼)、さもあらばあれ平地に風波を起こさしむることなかれ」と(ここは日本語で)優しくしずめられる。いいなあ、私も亡魂になったら萬福寺の周辺にいたい、と思ってしまった。それから「金剛杵偈」というお経がとても気に入った。どこかで耳にしたことがある(中国のお寺?)ような気がした。

 「朝課」では使われなかった銅鑼、鐃鈸(にょうはち)など、多様な楽器が使われていたのも楽しめた。大引磬(おおいんきん)、小引磬(こいんきん)という柄のついた金属製の鳴り物も面白い。それぞれを担当する僧侶が、高音と低音を時間差で鳴らすことで、キンコーンという短いメロディが生まれる。これを叩いて、左右にお辞儀をするところが好き。

・大般若転読

 第3幕は、中央の導師席を挟んで2列ずつ、緑色の布で覆った長机がハの字型に並べられた。左右10人ずつ設けられた僧侶の席の前には大般若経(各3秩?)。いくつかのお経のあと、おもむろに「転読」が始まるのだが、まさかこれを国立劇場の舞台で見ようとは思っていなかったので、ちょっと笑ってしまった。私が初めてこの読経方式を実際に見たのは奈良の薬師寺だったが、いつ頃、どこで生まれたものなのかなあ。萬福寺では毎年大晦日から元旦にかけて行われるそうだ。最後に「和読み」で般若心経を唱え、呪、真言などで終わる。

 20年以上前、初めて萬福寺の梵唄を聞いたときは、日本のお寺の声明とのギャップが新鮮で、物珍しくて面白いと思った。最近は中国のドラマで、明代の禅宗寺院の雰囲気が少し分かるようになったので、これはもう、ほぼ中国だなあと思う。日本のお坊さんだから当然なのだが、足袋に草履をはいていることに違和感を感じてしまうくらい。萬福寺、2022年は宗祖・隠元禅師の350年大遠諱を迎えるそうだ。ぜひ何かイベントをやってほしいなあ。

 プログラムは桃のかたちの散華つき。散華の入った紙袋もかわいい。

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アイスショー"THE ICE 2019" 大阪公演2日目

2019-08-01 23:12:13 | 行ったもの2(講演・公演)

THE ICE(ザ・アイス)2019 大阪公演(2019年7月28日 12:00~)

 昨年初めて見に行った"THE ICE"愛知公演は、ボーヤン・ジン(金博洋)、ネイサン・チェン、宇野昌磨の現役男子三人組が素晴らしかったので、今年も期待していた。その期待を見透かされたように、公式サイトには早くから「三銃士」の写真があがっていて、これは今年も行かなければ!と心に決めた。しかし、名古屋公演の週末は出勤予定が入っていて、いろいろ調整に手間取った。結局、大阪公演に決めて、土曜に文楽公演を見たあと、日曜にアイスショーを見に行くという、遊び人の週末を過ごすことになった。

 会場は初めての丸善インテックアリーナ大阪(大阪市中央体育館)。箱が大きいので、チケットを探したのが直前だったにもかかわらず、まだアリーナ席が残っていた。最後列だったけど、やっぱりアリーナだと選手の目線に近いところで演技を見ることができていいなあ。

 今回は、ボーヤン、ネイサン、宇野くんにヴィンセント・ジョウとミハイル・コリヤダが加わり、「五銃士」と紹介されていた。ちょっと世代が上で大人の男性の色気を振りまいていたのはロマン・ポンサール。逆に若手は、2019年の世界ジュニア選手権金メダルを取ったばかりの米国籍の樋渡知樹(ひわたし ともき)くん。青いシャツにネクタイ、赤い背広でルパン三世みたいな衣装だなあと思ったら、ほんとにルパン三世のテーマで激しく跳びまわり動きまわるプロ。ちょっと織田信成くんを思わせるサービス精神で楽しかった。

 ボーヤンは新SP「First Light」。ゆったりと溜めの多い演技で、大きなジャンプが引き立つ。こんな大人っぽい演技ができるようになったんだなと感慨深かった。目標は北京オリンピックだろうなあ。本気で見に行きたい。ネイサンの「ラ・ボエーム」(シャンソン)もやや意外で、でも素敵だった。新しいことに挑戦する姿勢が好き。ネイサンは第1部の最後に、マライア・ベル、ロマン・ポンサールと自分の短いグループナンバーの振付も担当。これはまた、彼らしいアメリカらしい選曲。そういえば、昨年の"THE ICE”の第1部最後は、デニス・テンくんを追悼する群舞だったなあと切なく思い出す。

 女子は、紀平梨花はジャンプの調子がいまいち。逆にザギトワはファンタジーオンアイスのときよりずっとよかった。新SPは黒いドレスで妖艶なフラメンコ風。坂本花織はシンプルな黒衣装でクールな「マトリックス」。動きが細かく複雑でハラハラさせる。大トリの宇野くんは 「Great Spirit」。昨年のEXナンバーだが、私は初見で堪能した。宇野くんは古典音楽よりこういうカジュアルなダンスナンバーやロックで滑っているほうが好き。

 昨年同様、仮装でダンス選手権があったり、最後は観客も一緒にマサルダンスを踊ったり、楽しいアイスショーである。関東にも来てほしいけれど、来年は東京オリンピックだから難しいかなあ。それなら大阪でも名古屋でもまた行く。会場のロビーに貼られていた「三銃士」ポスターの写真を記念に。

 

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ひんやり夏狂言/文楽・仮名手本忠臣蔵と国言詢音頭

2019-07-28 23:03:48 | 行ったもの2(講演・公演)

国立文楽劇場 令和元年夏休み文楽特別公演(7月27日、14:00~、18:30~)

・第2部:通し狂言『仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)』五段目 山崎街道出会いの段/二つ玉の段/六段目 身売りの段/早野勘平腹切の段/七段目 祇園一力茶屋の段

 金曜日、京都で仕事だったので、そのまま関西に居残って文楽を見てくることにした。思い立ったときは、第2部のチケットは完売だったのだが、なんとチケット転売サイトで入手することができた(定価より安かったので違法にはならず)。あきらめずに探してみるものだ。

 今年は国立文楽劇場の開場35周年を記念し、4月・7-8月・11月の3公演を使って『仮名手本忠臣蔵』の通し狂言が試みられている。実は、私は忠臣蔵という話があまり好きでないので、これまでこの芝居を見たことがほとんどない。五段目だけは、ずいぶん昔に見た記憶がかすかにあった。六段目は同じときに見ているかもしれないが全く忘れていた。五、六段目は展開がめまぐるしくて面白いが、勘平がおかるの家に身を寄せている理由、定九郎が通りすがりの悪党ではなくて塩谷家にゆかりがあることなど、これ以前の経緯と人物関係がきちんと把握できていないと、面白さが分かりにくいと思う。人形は勘平を和生さん。床は身売りの段を咲太夫と燕三、早野勘平腹切の段を呂勢太夫と清治。

 七段目、祇園一力茶屋の段のあらすじは知っていたが見るのは初めて。10人以上の登場人物に全て太夫さんが割り当てられていて華やかだった。全員が一度に登場するのではなく、入れ代わり立ち代わり床に座る。おかるの兄、足軽の寺岡平右衛門が下手から登場したときは、下手の小さな仮設舞台に豊竹藤太夫さんが座って語りをつとめた。華やかで変化の多い音曲も楽しかったが、ちょっと演出過多で浄瑠璃として邪道じゃない?と思うところも。由良助を呂太夫、九太夫を三輪太夫など贅沢な布陣。ヒロインおかるを津駒太夫というのが面白かった(年増っぽい声なので)。

 人形は、おかるが二階に登場し、由良助にからかわれながら梯子を下りてくるところまでを蓑助さん。いやもう絶品だった。他の人が遣う人形とは格が違うとしか表現のしようがない。由良助は勘十郎さんで、前半、呆けて性根を失くしているところが、全くそのままで楽しかった。

 しかし、いま私は中国の古装劇『長安十二時辰』というドラマをネットで見ていて、これは唐の都・長安を爆破し、要人暗殺をたくらむテロリスト集団と、その一味の正体を追う人々の物語なのだけど、赤穂浪士って見方を変えればテロリストだなあとあらためて思った。本当は、彼らの敵討ち計画を阻止しようとする九太夫・伴内のほうが正義であってもおかしくないのに。

・第3部:サマーレイトショー『国言詢音頭(くにことばくどきおんど)』大川の段/五人伐の段

 この狂言は、文楽に興味を持った早い時期に見た記憶がある。曽根崎新地の遊女に馬鹿にされた薩摩の田舎侍が、茶屋に押し入り五人を斬り殺すという救いようのない筋で、古典芸能の闇の深さを知って、呆気にとられた作品である。遊女菊野には絵屋仁三郎という思い人がいるが、薩摩藩士の初右衛門に見初められ、いやいや相手をしていた。あるとき真実の気持ちを書いた菊野から仁三郎への手紙が、偶然、初右衛門の手に入ってしまう。鷹揚に二人を許して帰国すると見せかけた初右衛門は、深夜、茶屋に押し入り、菊野ほか、居合わせた人々を斬り捨て、雨の中を悠々と去ってゆく。

 妖刀や魔物の呪いではなく、嫉妬とか侮辱に対する怒りで人間はここまで残虐になれるというのを淡々と描いているのが怖い。殺戮シーンの前に、仁三郎の許嫁おみすが菊野を訪ねてきて、仁三郎の身持ちを案じていることを相談すると、菊野は身を引くことを約束し、自分の代わりにおみすを仁三郎の床へ案内する場面がある。これは曽根崎新地の遊女の「粋」なのかなあ。それに対する初右衛門の野暮。睦太夫・織太夫・千歳太夫のリレーで聞きやすく、情感たっぷり。

 初右衛門は玉男さん。こういう野暮で悪い役もいいねえ。月岡芳年描く悪人を思わせて、ぞくぞくした。最後は茶屋の外に出て、用水桶の水で返り血を洗い流し、番傘を差して雨の中を去ってゆく。このとき、舞台一面に本物の水で雨を表現。傾けた傘に雨が当たる。へええ、文楽で本水を使った演出は記憶になくて面白かった。

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アイスショー"Fantasy on Ice 2019 神戸"

2019-06-10 23:31:01 | 行ったもの2(講演・公演)

Fantasy on Ice 2019 in 神戸(2019年6月8日 14:00~)

 FaOI後半の2会場は神戸からスタート。前日、金曜日の公演を見た人たちから、オープニングが「残酷な天使のテーゼ」だった!というレポートが流れてきて、SNSでは大騒ぎになった。アニメ「新世紀エヴァンゲリオン」(1995年)の主題曲である。でも私は「エヴァ」は見ていなくて、知識としてしか知らないので、残念ながらあまり興奮を共有できなかった。 朝から新幹線で神戸入り。神戸ワールド記念ホールは2015年のFaOI以来である。リンクが近い感じがして、見やすい会場という記憶があった。しかし今回は、なんとか手を尽くして入手したチケットで「注釈付きA席」というもの。どこかと思ったら、ステージの上(裏側)だった。こんな視界は初めて。しかし最前列なので見晴らしはよかった。 

 ゲストアーティストは、Toshl(龍玄とし)さんとバイオリニストの末延麻裕子さんに加え、May J.さん。出演スケーターは、仙台から荒川静香、安藤美姫、ハビエル・フェルナンデス、カペラノがOUT。INはデニス・バシリエフス、キャンデロロ、坂本花織、三原舞依、鈴木明子、ペアのボロトラ(タチアナ・ボロソジャル/マキシム・トランコフ)がIN。

 オープニング衣装は、アンシンメトリーなデザインで片側が黒、片側に色違いのシフォンかちりめんみたいなふわふわした生地を貼り付けている。ステージ裏から見ていると、誰が出て行き、誰が戻ってくるのか、よく分かって面白かった。そしてToshlさん登場。白のキラキラ衣装だったか明るい緑色のジャケットだったか。「残酷な天使のテーゼ」は、基本群舞なのだが、途中で羽生結弦くんがぐいぐい集団の前(ショートサイド)に出ていき、ほぼソロパートの見せ場になる。キレッキレの動きは、後ろから見ているだけでも眼福だった。

 楽しみにしていた日本の仲良し女子コンビ、三原舞依ちゃんは赤い衣装の「Hero」、坂本花織ちゃんは忍者(くのいち)プロだった。コラボは、メドベージェワとMay J.の「Faith」もよかったが、Toshlさんと宮原知子の「ひこうき雲」が絶品。特にステージ裏から見ていたので、Toshlさんの歌声に押されるように遠ざかって小さくなっていく宮原知子の姿が、本当に天に昇っていくように見えて泣けた。

 ジョニーは前半が白衣装(片袖だけヒラヒラつき)で「ある愛の歌」、後半は幕張から持ち越しの「Fuego」。ランビエールは前半が持ち越しのシューベルト、後半は一転して都会的な、テンポの速いダンスミュージックで、客席にがんがんアピールするので、一部では「煽りプロ」とも呼ばれていたが「Down the road(C2C)」という曲だそうだ。幕張・仙台は2曲ともしっとり系だったので、このへんで弾けたかったのかも。しかし静も動も美しいスケーターである。

 トリの羽生くんは「クリスタル・メモリーズ」だった。幕張2日目は、え?マスカレイドじゃないの?という動揺が激しくて、この素晴らしいプロを集中して見られなかったのだが、今回はしっかり味わえた。Y字バランスはどんどんきれいになっていくし、気高さ、純粋さ、柔らかさなど、他の選手の追随を許さない、羽生くんらしいプロだということを再確認した。まあしかし、仙台で「マスカレイド」を見る機会があったので、こんなふうに冷静に見ることができたのだ。来年は必ず1会場2日連続で見る機会をつくることにしよう。

 フィナーレは「君の瞳に恋してる」。2人ずつペアになって中央に出ていくところ、プルシェンコとザギトワの年の差ペアが微笑ましかった。終了後のジャンプ大会では、羽生くん、4Lzを跳んで、体勢を崩しながらもこらえて着氷。仙台では駄目だったものね。総立ちのお客さんは大歓声だった。なお、次の日のSNSによれば、最終日はついに完璧に着氷したそうである。こういうストーリーを見ていくのもツアー観戦の面白さ。この日は、ザギトワが繰り返しジャンプを失敗してしまい、羽生くんが成功し、他のスケーターたちが退場したあと、座長の羽生くんに「もう1回」とねだって、ついに成功させるところを見た。昨年の紀平梨花ちゃんもあきらめない子だったなあ。

 付記。この日、ジョニー・ウィアーが、ある選手(メドベージェワだと言われている)のギフトボックスに入っていたという中傷の手紙の写真をSNSに上げたことが議論を呼んでいる。ジョニーの厳しくも品位ある忠告「あなたは全てのスケーターのファンである必要はないが、彼ら全てをリスペクトすべき」は本当にそう思っている。しかし、世の中はこんなに美しいものであふれているのに、憎悪を抱かざるを得ないひとは可哀想だなあ。

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アイスショー"Fantasy on Ice 2019 幕張&仙台"

2019-06-03 00:33:22 | 行ったもの2(講演・公演)
Fantasy on Ice 2019 in 幕張(2019年5月25日 14:00~)/仙台(6月2日 13:00~)

 今年も生活の優先順位のトップにアイスショー観戦を据える季節がやってきた。今年のFaOI(ファンタジー・オン・アイス)は、幕張、仙台、神戸、富山の4会場で3公演ずつ開催される。やっぱり前半・後半1公演ずつは行きたいと思って、まず幕張2日目と神戸2日目を確保した。幕張は、昨年の反省を思い出してショートサイドのS席を取った。

 記録のために書いておくと、ゲストアーティストはToshl(龍玄とし)さん、BENIさん、バイオリニストの末延麻裕子さん。出演スケーターは、羽生結弦、織田信成、荒川静香、安藤美姫、宮原知子、紀平梨花。海外から、プルシェンコ、ステファン・ランビエル、ジョニー・ウィア、ジェフリー・バトル、ハビエル・フェルナンデス、エラジ・バルデ、メドベージェワ、ザギトワ、トゥクタミシェワ、アイスダンスのカペラノ(アンナ・カッペリーニ/ルカ・ラノッテ)、いつものアクロバット。エアリアル(フライング)はメリー ・アゼベドとアルフォンソ・キャンパという新顔。

 オープニング衣装は、女子は赤と黒のマーブル模様のようなミニワンピ。男子は大きな花柄のTシャツの上に黒のメッシュの長袖ジャケット。羽生くんはショートサイド前できれいなジャンプ(4T)を決めてくれた。怪我の影響で今年のFaOIは欠場かも?と危ぶんでいたのがウソのようだった。続く群舞はToshlさんとのコラボ、ユーミンの「真夏の夜の夢」で盛り上がる。男女スケーターがわちゃわちゃと楽しそう。

 印象的だったのは宮原知子の「Tabla and Percussion Solo」。エスニックな楽曲で、衣装もへそ出しパンツスタイルが新鮮。ザギトワもレザーパンツで「トゥームレイダー」をカッコよく滑っていたし、紀平梨花も来季はパンツスタイルのようだ。生バイオリンで「インフィニティ」を滑ったリーザも色っぽくてクールだった。ロシア女子は2曲ずつで、メドベージェワは、ピンク衣装でコケティッシュな演技のあと、ロシア民謡をしっとり滑ってくれた。荒川静香さんは何年経っても動作のひとつひとつが雅びで美しい。カペラノの「月の光」は、輝く三日月のショールを持った女性と道化師の、物語を感じさせるプロ。素敵だった。

 男子組。ジョニーは相変わらずファッショナブルで、激しい「Fuego」と情感あふれる「赤いスイトピー」。一時期より身体を絞っていて、動きにキレがある。ランビエルはシューベルトのピアノ曲(90-4)と「I love you」(尾崎豊)。客席に静かな緊張と陶酔が広がっていくのが分かった。完璧。ピアノは生演奏とのコラボで見たかったなあ。ハビエル・フェルナンデスは、アントニオ・ナハロさんとフラメンコダンサーズ(スケーターズ)と共演。カンテ・フラメンコが生唄で聴けたのもよかった。幕張2日目は、第1部のトリ、プルシェンコの「アルビノーニのアダージョ」が始まりかけたところで大きな地震。演技を中止して休憩に入り、第2部の途中で再登場となった。大事にならなくて何より。

 さて幕張2日目は、誰が何を滑るかなど、初日の情報をひととおりチェックしていた。大トリの羽生くんはToshlさんとコラボで「マスカレイド」を滑るらしい、2014-2015シーズンの「オペラ座の怪人」を彷彿とさせるプロ、と聞いていたので、完全にそのつもりで身構えていた。そうしたら「曲は、クリスタル・メモリーズ」のアナウンス。え? 一瞬、会場に困惑プラスちょっと落胆の声が流れた。いや、これはこれで美の極みだったんだけどね。公演終わりのマイクパフォーマンスで羽生くんから「今日は(クリスタル・メモリーズの振付をした)デヴィッド・ウィルソンさんが客席にいらっしゃっています」という紹介があって、デヴィッドさんのためにみんなで「ハッピー・バースディ」を歌った。

 それで幕張は楽しかったんだけど、どうしても「マスカレイド」を見ずにはおけない。というわけで、急遽、仙台公演のチケットを取ることにした。土曜にするか日曜にするか迷ったのだが、千秋楽は「マスカレイド」だろうと読んで、今日、日帰りで仙台に行ってきた。予想が当たってよかった。そして仙台会場(セキスイハイムスーパーアリーナ)はとても気に入った。仙台駅からの交通の便が不安だったが、行きも帰りもシャトルバスをがんがん出してくれたし、外の広場には牛タン串とかコロッケの店が出ていて楽しかった。席はショートサイド寄りのロングサイドS席だったが、リンクが近くて見やすかった。

 仙台会場にはテサモエ(テッサ・バーチュー/スコット・モイヤー)も参加。ほか、アーティストとスケーターは変わらなかったけど、カペラノのモノクロ映画から抜け出してきたようなプロ、素敵だった。宮原知子ちゃんは今季フリーの「シンドラーのリスト」を披露。これもよい。

 そして羽生くんの「マスカレイド」を堪能。これは見るべきプロ。しかし力が入り過ぎてか、2回のジャンプを2回とも失敗してしまい、悔しそうだった。フィナーレのジャンプも失敗して、最後は氷の上で土下座。以前にもあったなあ、こういうの。私は神戸からアーティストが全て入れ替わるような気がしていたのだが、今年は後半もToshlさんが一緒なのだな。神戸も楽しみである。
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桜も見ごろ/杉浦非水(近美)、The 備前(同・工芸館)

2019-03-31 23:40:48 | 行ったもの2(講演・公演)

 3月最後の週末は、お別れする職場に休日出勤して最後の片づけ。竹橋の近くだったので、ようやく全て終わってから、近代美術館に寄った。

国立近代美術館 企画展『イメージコレクター・杉浦非水展』(2019年2月9日~5月26日)

 日本のグラフィックデザインの創成期に重要な役割を果たした図案家の杉浦非水(1876-1965)。遺族から寄贈されたポスター、原画、原画やスケッチなどの「非水コレクション」を19年ぶりに一堂に展示する。19年ぶりということは、2000年にも杉浦非水展を開催しているということか。残念ながら私の記憶にはない。

 本展の入口には、白黒写真(西洋人の姿が多い)をコラージュしたゲートができていて、え?ここが杉浦非水展の入口?と一瞬、戸惑った。実は、非水は海外の雑誌の切り抜きや写真絵葉書を多数コレクションしているのだ。人物だけでなく、珍しい動物なども。いわばこれがイメージの「インプット」の時代。スケッチブックもいくつか展示されていて、さすが精密で巧い。そして豊かな「アウトプット」の数々。

 有名な三越のポスター、そして雑誌『三越』の表紙は、どれも華やかで繊細で高級感がある。でも私はそれ以上に、建造物を大胆にデフォルメして描いたデザインが好き。「新宿三越落成」では建物を上から見下ろす構図、「京城三越(!)」は下から見上げる構図で、その高さ・大きさを強調する。地下鉄のホームに並んだ人々を強い遠近法で縦長の画面に収めたり、ホームに向かう人々を横長の断面図で見せる構図も面白い。

 いろいろ関連情報を漁っていたら、三越が2018年のお中元セールで「杉浦非水画限定ギフト」を売り出していることが分かった。いいなあ。どれも欲しくなる。全然、古びてないものなあ。

■同 所蔵作品展『MoMATコレクション』(2019年1月29日~5月26日)

 安田靫彦『黄瀬川陣』(3月19日~5月26日展示)を見ることができて、得をした気分。この時期に見ると、義経が新しい職場に配属が決まった新入社員、頼朝がそれを迎える先輩に見えてしまった。10室は春爛漫の花を描いた絵画を特集、川合玉堂『行く春』の青みの強い画面、船田玉樹『花の夕』の紅と白、そして加山又造の『春秋波濤』の黒と金と赤、どれもステキだった。いや贅沢、贅沢。

■同・工芸館 企画展『The 備前-土と炎から生まれる造形美-』(2019年2月22日~5月6日)

 実は工芸館は初訪問である。お花見に繰り出した人たちの流れに混じって出かけた。桃山時代の名品から、近現代の備前まで幅広く紹介。やっぱり冒頭に筒形の花入(桃山時代)が4点並んだところは圧巻だった。所蔵者表記がないということは、これらは近美のコレクションなのだろうか? 知らなかった。口は円形だが胴体部分がほぼ三角柱形に潰れた『三角花入』、とてもよい。耳付花入は変形の少ない「銘:深山桜」が、備前にしては軽やかな味わいで好き。

 現代作家では、隠埼隆一(1950-)の名前を知ることができてよかった。やっぱりやきものは土なんだなあ。しかし備前のようなやきものを前にして、感触を確かめることができないのはつらい。見ているうちに手がムズムズしてきた。

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