前回からの続きです。
日常的にブログをやってると、後になって「しまった、あんなことを書かねばよかったのに」と、後悔することがしばしばである。たとえば1週間ほど前に登載した中に「空前絶後の音」なんて表現を使ってしまい、今となってみるとまさに赤面ものである。
部屋の大きさが限られている家庭オーディオで「空前絶後の音なんてあってたまるか」(笑)。
以前はいったん書いた原稿を一晩おいて翌朝、冷静な目で修正していたのだが、このところ、つい面倒くさくなって一発勝負になっているのでそのせいだろう。
まあ、プロの作家ではないんだし、時折りのオーバーな表現も愛嬌だと大目に見ていただくことにしよう。
今回(19日)の試聴会のお客さん「Yさん」は、お持ちのオーディオシステムもバッテリー電源などを駆使してご大層なものでたいへん熱心なマニアである。しかも実際にフルートの生演奏を楽しまれている方なので耳が鍛えられていて我が家の音のちょっとしたミスも許してもらえない。したがって、お迎えするたびにいつも戦々恐々としている(笑)。
そのYさんが我が家のシステムの中で一番気に入られているのがアンプでは「371シングル」とスピーカーではグッドマンの「AXIOM80」。Yさんに言わせると、「この組み合わせで聴くとホッとして何だか故郷に戻ったような気がします。」
さすが!自分もそう思います(笑)。
そのいつも聴き慣れている大好きな組み合わせのうち、アンプの整流管をカニンガムの「380」からSPARTONの「480」に差し替えて聴いてもらった。いろんな機器を聴き漁ってからの試聴会の終盤のことだった。
「これは・・・」と、思わず絶句された。
「透明感、一音一音のクリヤーさ、音の粒立ち。まったく言うことありませんね。たかが整流管如きでこんなに音が変わるもんですか。まるで中国製の300BからオリジナルのWE300Bに代えたときのような変化です。どうして現代ではこういう真空管を作れないんでしょう?」と、素朴な疑問を提起された。
このSPARTONの「480」は製造年代がはっきりしないがおそらく1930年前後だろうと推察している。良質の製品が生まれた原因としてどうしても当時の時代背景を考察する必要があるだろう。
まず1920年代のアメリカを覗いてみよう。ネットから引用させてもらうと、
「第一次世界大戦の特需にアメリカは大いに沸いた。アメリカ経済は空前の大繁栄をとげ、戦前の債務国から世界最大の債権国に発展した。世界経済の中心はロンドンからニューヨークのウォール街に移った。大衆の生活は大量生産・大量消費の生活様式が確立する。
一般には<黄金の20年代>と呼ばれ自家用車やラジオ、洗濯機、冷蔵庫等の家電製品が普及した。1920年には女性への参政権が与えられるようになった。ベーブルースによる野球人気やチャップリンの映画、黒人音楽のジャズなどのアメリカ的な文化が開花した。一方で1919年に制定された禁酒法によってアル・カポネなどのギャングが夜の帝王として街を支配するようになった。」と、ある。
1929年になるとあの有名な「大恐慌」が起きるので「うたかたの夢」だったろうが、アメリカにとっては現代のようにテロの不安もないし「1920年代」が一番良き時代だったのかもしれない。
ちなみに戦争特需の効果はとても大きいみたいで、日本だって朝鮮戦争の特需のおかげで経済が目覚ましい復興を遂げたのだから戦争には別の側面があることに気付かされる。
さて、当時の活況を呈した時代において家電製品のキーデバイスとなるのが真空管だった。したがって、その需要に応じて雨後の竹の子のように製造メーカーが乱立し、激しく覇を競った事は想像に難くない。良質の製品はこういう厳しい競争の中から生まれていく。
そしていい製品を作るメーカーほど、採算に合わなくなって廃業、統合に追い込まれていくのが古今東西のオーディオ業界の悲しい現実である。
なお、当時の真空管を作る材料は今ほど規制が厳しくなかったので、現代では使用禁止となる「放射性物質」などが含まれたものを拘りなく使用できたらしい。いい製品が出来た理由としてこれが大きいようだ。
真空管オーディオをやっていると、結局はどういう材料を使っているかに行きつく。代表的な例がトランスのコアがそうだし~。
以上、素人なりの憶測を交えてこれらの背景をかいつまんでYさんに話したことだった。
自分が「1920年代の真空管こそ本物」と愛用している理由が、これで少しはお分かりいただけただろうか(笑)。
とにかく、お客さんに「これまででベストの音」を聴いていただいて、たいへん満足のいく試聴会だった。
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