クラシックのCDを購入するときに欲しいという意欲を刺激するのは、曲目、演奏者、そして録音(音質)といったところ。
そして、聴いてみた結果は自分の場合およそ次のような色分けになる。
1 録音(音質)はいまひとつだが非常にお気に入りの演奏
2 あまりいい演奏とは思わないが録音はいい
もちろん、なかには「いい演奏」と「いい録音」が両立しているCDもあることはあるが極めて珍しいし、むしろ「ダメ演奏」「ダメ録音」のダブルパンチの方が多い。
このうち今でもよく聴いているCDといえば1に偏っていて、2を聴くのはたまにオーディオのテスト用として使用するときぐらい。
つまり「録音は少々悪くても演奏に価値が見出せればそれでいい」というのが自分のポリシーだが、人によっては所有しているCDはすべて「いい演奏」であり「いい録音」ばかりと感じている人があっても、ちっとも不思議ではなく、そういう人は本当にうらやましい。
振り返ってみると1980年からCDの時代となりデジタル録音が始まったが、自分が聴き慣れ、親しんだ指揮者、演奏家といえばそれ以前のアナログ録音時代に集中している。
指揮者でいえばフルトヴェングラー、トスカニーニ、イッセルシュテット、クリュイタンス、クレンペラー、そして演奏家でいえばヴァイオリニストのジネット・ヌヴー、グリュミオー、オイストラフ、ピアニストではリパッティ、バックハウス、ルービンシュタインといったところなので懐古趣味といわれても仕方がないが当時の録音だからそもそも優秀なものはまずないといっていい。しかし、蛇足だが1940年代~1950年代がクラシック音楽の黄金時代として指揮者、演奏者の宝庫になっているのは間違いない。
自分のレパートリーに現代の奏者が入れば優秀な録音が間違いなく保証されるのでこの上なくハッピーだが今のところ「内田光子」さんぐらいしか思い浮かばない。
とりわけ、現代はヴァイオリニストがやや枯渇気味なので是非飛びっきりの存在が出現してほしい。先日NHKの深夜のBS2で「北京ヴァイオリン」を放映していたがヴァイオリンという楽器の音色の魅力に改めて惚れ惚れした。
さて女流ヴァイオリニスト「ジネット・ヌヴー」はこれまでのブログでも再三再四取り上げているが「演奏はいいが録音が悪い」の典型で、なにぶんにも1940年代と随分昔の演奏なので食わず嫌いの人が結構いるのではあるまいか。
試しにその認知度を計ろうとネットを検索してみたところ、やっぱり知る人ぞ知る、ホームページやブログで絶賛また絶賛。
たとえば無断で引用させてもらうが次のとおり。(主として「サロン・ド・ソークラテース」さんから引用。因みにこの個人のサイトは極めてレベルが高くヌヴーファンには必見です~。ほかにも、リパッティやカペー弦楽四重奏団など古典音楽家たちがズラリと記載)
☆ヌヴーが30歳で事故死(飛行機墜落)していなかったら1950年代から1970年代にかけてのヴァイオリニストの序列はおろか、ヴァイオリン音楽のあり方も大きく変わっていたかもしれない。
☆ヴァイオリンには女性奏者が多いがハイフェッツやオイストラフに伍する巨星は輩出されていない。ヴァニャフスキ国際コンクールで大差でヌヴー(優勝)に完敗を喫したオイストラフ(第二位)は「悪魔のような才能」と妻宛の手紙に書いた。ヌヴーこそ男勝りの気性で彼らを凌ぐことが出来た筈の唯一のヴァイオリニストだった。
以上のとおりで因みに、五味康祐氏の名著「西方の音」(1969年刊)の中の記述(248頁)に「ヌヴーの急逝以来、僕らは第一級のヴァイオリニストを持たない」とある。当然オイストラフ、ハイフェッツなどが著名だった頃の話で、今でこそ両者は巨匠の名をほしいままにしているが、当時はそれほどの位置づけではなかったことが推察される。
いずれにしても、「ジネット・ヌヴー」は単に録音が悪いといって捨て去るのは実に惜しいヴァイオリニストと思うのでくどいようだが、まだ聴いてない方は機会があれば是非一聴されることをお薦めしたい。