5月6日から始めた 「光テレビ」(NTT)による「クラシカ・ジャパン」(クラシック音楽専門チャンネル)の無料試聴期間(16日間)が終了したものの、うまく引継ぎが出来て現在は「スカパー」(CS専用アンテナ+チューナー)による無料試聴期間の続行中。
そして、手当たり次第に録画した中から、シャハム兄妹の「ヴァイオリン・ソナタ(モーツァルト)」に続いて二度目の大当たりとなったのが「ポートレート~エディタ・グルベローヴァ」(1時間半)である。彼女の生い立ちから歌手デヴュー、そして今や世界屈指の歌手となった現在に至るまでを克明に追った番組。
実を言うと「エディタ・グルベローヴァ」(ソプラノ)という名前を聞いただけで背筋がゾクッ、ゾクッとくるほどの大ファンなのである。
まず、話を展開する前に基礎知識として「女声の種類」をチェックしておこう。
☆ ソプラノ(女声の歌う高い方の声域)
コロラトゥーラ → もっとも高いソプラノ(夜の女王役「魔笛」)
スーブレット → もっとも軽いソプラノ
リリック・ソプラノ → その次に軽いソプラノ(王女役「魔笛」)
リリコ・スピント → その次に軽いソプラノ
ドラマティック・ソプラノ → もっとも重量級のソプラノ
ただし、スーブレット以下の区分は、音色と声質の差であり音域はあまり関係ない
☆ メゾ・ソプラノ(女声の中間声域、ソプラノより暗く低い音域)
☆ アルト(女声の最低音域)
グルベローヴァは最も高い声域が要求されるコロラトゥーラ歌手であり、そのコロラトゥ-ラの出番といえば何といっても最高のはまり役が「夜の女王」(モーツァルトのオペラ「魔笛」)。
最も難度が高いと言われる「夜の女王」役をこれまで無難に歌いこなせた歌手は手元の「魔笛」(44セット)を聴いた中でも数名程度である。最高音の”ハイF(ファ)”のときにどうしても声が続かなかったり、不安定になったりしてあえなく敗退の憂き目にあった歌手は数知れず。
「魔笛」(全二幕)は誰憚ることなくモーツァルトの最高傑作だと自信を持って言えるが(ちなみに、ベートーヴェンもゲーテもそう言っている!)、この「夜の女王」役と「ザラストロ」役(バス:男性の最低音域)に適任者を得ないと、オペラそのもののスケールが”こじんまり”となってしまうから恐ろしい。
そういう重要な役柄の中で、今もって「これは最高だ!」と鮮明に記憶に残っているのが「クリスティーナ・ドイテコム」(ショルティ盤)と「エディタ・グルベローヴァ」のご両人である。
ドイテコムは残念なことに歌手人生が短くてあっという間に居なくなったが、グルベローヴァはDVDではサバリッシュ盤、CDではハイティンク盤、アーノンクール盤に出演しており、夜の女王役以外にも多彩な活躍をしていて極めて息の長い歌手生命を保っている。
さあ、折角なので久しぶりに改めて両者を比べてみようかと、ハイティンク盤(1981年)、アーノンクール盤(1987年)のグルベローヴァと、ショルティ盤(1969年)のドイテコムを聴いてみた。
意外にもドイテコムはこれまで持っていた印象と異なって”ちょっと落ちる”と思った。オーディオ装置が変わったせいもあるが、如何せん、1969年のアナログ録音が古すぎて音質がイマイチでお気の毒~。レコード再生ならいい線を行くかもしれない。
グルベローヴァについては「アーノンクール」盤よりも「ハイティンク」盤の方が断然いい。声量と勢いが違う。同じ歌手でもこういうことがあるから油断できない。しかし、やはり並みの歌手と比べて歌唱のレベルが抜きんでていて史上最高の「夜の女王」の感を一層深くした。
それにしてもハイティンク盤の「魔笛」は素晴らしい。録音も奥行き感に秀でて聴き出すと途中で止められなくなって最後まで聴き惚れてしまった。
さて、録画した「ポートレート~エディタ・グルベローヴァ」では興味深いエピソードが満載だった。
☆ チェコのひなびた農村出身の彼女が地元の唱歌隊で神父や指揮者から才能を見込まれ「オペラ歌手になりなさい」と熱心に進められたのが歌手デヴューのきっかけ
☆ ウィーン国立歌劇場でのテストを受けたとき、試験官の芸術監督は奥の窓際に立って外ばかり見ていたが、テスト曲の「夜の女王」役の”ハイF”音を歌い上げたときに初めて振り向いて彼女を見つめた。同時に周囲にいた者たちが寄り集まってきて、そのまま事務局に連れて行かれて、即契約!
☆ 音楽評論家のヨハヒム・カイザー教授によると、「マリア・カラス、サザーランド、リタ・シュトライヒなどこれまで数知れぬコロラトゥーラの名歌手たちを聴いてきたが彼女は同等か、それ以上の存在であり、スラブ的な真面目さがあって農民出身らしく浮ついたところがない」とのこと。
☆ グルべローヴァによると、「歌手は経験を積んで来たら絶対にモーツァルトを歌わないといけない。その音楽には宇宙的な広がりがある」。
ところで、今回の「スカパー」で録画した中にムター女史の「ヴァイオリン協奏曲3番」(モーツァルト)があったが、これは2007年にNHKのBSハイで録画したものと同一の演奏だった。
先般、記載したとおりムター女史の「ヴァイオリン協奏曲第2番」では「光テレビ」と「BSハイ」では、明らかに音質に差があって「BSハイ」に軍配が上がったが、今回の第3番は「スカパー」と「BSハイ」との勝負。
どちらも専用のアンテナとチューナーで録画したもので違いといえばチューナーの差だけだが、はたして「スカパー」と「BSハイ」のどちらが音質がいいのか、判定やいかに~。
この辺になるともう好き好きの範疇だろうが、やはり違っていた。明らかに「スカパー」の方が繊細で、自然な響きの印象を受けた。ヴァイオリン特有の「かすれた弱音」が出るときのニュアンスがよく伝わってくる。我が家のオーディオシステムとは明らかに相性がいいようで、2TBのハードディスク(4台接続可能!)がいよいよ頼もしくなってきた。