このところ早朝からオーディオルームの窓を開け放しているが、「モーツァルト専門チャンネル」をBGMにしてブログを作っていると、家内の朝の散歩仲間が「今日も音楽が鳴っている!」と別れ際に呟いていくそうだ。
「よくもまあ毎日飽きもせずに」ということなんだろう(笑)。
それが飽きないんですよねえ!
作曲したジャンルが実に多彩というのもたしかにある。たとえば、
オペラ、シンフォニー、ピアノソナタ、声楽、ミサ、弦楽四重奏、ピアノ協奏曲、ヴァイオリン協奏曲、ヴァイオリンソナタ、クラリネット協奏曲、同四重奏曲、フルート協奏曲、ファゴット協奏曲、ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲、フルートとハープのための協奏曲、ディヴェルティメント・・。ざっと思いつくだけでもこれだけある。
さて、モーツァルトは35歳の短い生涯を閉じるまでにこれら600曲以上もの夥しい曲目を作曲しているが、そのうち「ベスト1」とされる曲は一体何だろうかと改めて考えてみた。
わずか5歳のときにピアノの小曲を、8歳のときに最初の交響曲を、11歳のときに最初のオペラを書いたという早熟の天才にとって文字と音符(♪)は同じことなので、スイスイと手紙を書くみたいに作曲したとか、全体の構想が奔流のように一気にアタマの中に流れ出てきて、後は鼻歌でも歌いながら脳髄から引っ張り出してきて五線紙に書き写すだけだった(小林秀雄著「モーツァルト」)なんて話もあるところ。
そして、おおかたの衆目の傾向を知ることが出来るのが「モーツァルトを聴く~私のベスト1~」(リテレール誌別冊)だ。
文学界、音楽家、コラムニスト、学界など幅広い分野の方々52名を対象に「ベスト1と位置づけているモーツァルトの作品とそれにまつわる感想、意見など」を収録した本である。
多い順に挙げてみると次のとおり。
1 ピアノ協奏曲第20番ニ短調(6名)
2 オペラ「魔笛」(4名)
3 交響曲第40番ト短調(3名)
4 ピアノソナタ第8番イ短調(2名)
〃 第14番ハ短調(〃)
オペラ「フィガロの結婚」(〃)
オペラ「ドンジョバンニ」(〃)
クラリネット協奏曲イ長調(〃)
レクイエムニ短調(〃)
以上、ズラリと挙がった曲目を見るとやっぱりというべきか定評ある作品ばかり。いずれも小差で紙一重といったところだが、1位のニ短調はたしかに名曲には違いないがこれを(1位に)択ぶ人とはモーツァルをともに語ろうとは思わない(笑)。
自分の一押しである「魔笛」はとっつきにくいのにもかかわらず第2位と善戦していてうれしくなるが、たいへんシンプルなピアノ・ソナタを挙げる人にも大いに共感を覚える。
とりわけ共感を覚えたのは、コラムニスト「石堂淑朗」氏である。~以下引用~
『一生の間、間断なく固執して作曲したジャンルに作曲家の本質が顕現している。ベートーヴェンは九つの交響曲、三十二のピアノ・ソナタ、十五の弦楽カルテットに生涯の足跡を刻み込んだ。モーツァルトの真髄はオペラとピアノ協奏曲にありで、同じく生涯に亘って作曲されたピアノ・ソナタはいくつかの佳曲を含みながらも弟子の訓練用に作られたことから、やや軽いといううらみを残す』
こういう前置きのもとに、石堂氏がベスト1として挙げられたのがピアノ・ソナタ第14番ハ短調K.457。
「湧き出る欲求の赴くままに、報酬の当てもなく作られた故か、不思議な光芒を放って深夜の空に浮かんでいる」。
ウ~ム!
実を言うと、この「ハ短調ソナタK.457」は「魔笛」を越えぬまでもほとんど肩を並べるぐらい大好きな曲である。
「魔笛」(全二幕)は演奏時間が2時間30分、主役クラスの歌手が5名、登場人物が多数に及ぶ大曲なのに対して、このハ短調ソナタはピアニストがたった一人で鍵盤に向かってひそやかに音を紡ぎ出すわずか21分かそこらの小曲。
まったくの好対照の両者だが好きという面では十分比肩するのが不思議な気がする。
しかも、近年、加齢とともに長時間の曲を一気に聴ける根気がなくなってきているので20分前後の曲は本当にありがたい。
モーツァルトには自分にとってまだ未知の名曲がきっと残されているに違いないので、発掘するという意味で「モーツァルト専門チャンネル」の意義は実に大きい。
おそらくモーツァルト三昧のまま「音楽&オーディオ人生」を終えるんだろうなあ(笑)。